2019年05月17日
日本ブランドをつくった男・渋沢栄一(その5、終わり)
渋沢栄一の業績
渋沢さんの偉大さというのは、
一つ目は、日本の近代資本主義を見事に創った。
二つ目は、社会福祉事業です。東京府養育院、貧しい人たちのための施設ですね。それから障害者施設、全国社会福祉協議会の前身である中央慈善協議会の会長も務められました。
これはお母さんの栄さん、非常に慈悲に富んだ、嗜みの深い方だったそうですが、このお母さんの影響を受けていますね。人に物を施すことが好きで、残り物をいつも取っておいて、困った人が来ると渡していたそうです。
それから有名な話ですが、近所にハンセン病の娘さんがいたんですね。
誰からも、相手にされない。
渋沢さんのお母さんは、その娘さんと一緒にお風呂に入って、背中を流していたそうです。
そういう素晴らしいお母さんの影響を受けているわけです。
三つ目は教育への貢献ですよ。
明治時代になって、東京帝国大学なんかができるわけですが、商業者の地位が低かった。
商業は二流だと思われていたんです。
これに渋沢さんは不満を感じ、激怒するわけです。
そこで実業教育・商業学校が必要だと言うことで、今の一橋大学なんかを創ることに力を注ぐわけです。
大倉高等商業学校、高千穂商業学校、岩倉鉄道学校なんかもそうですね。
あと女性のための学校、東京女学館や日本女子大学校ですね。
いずれも校長を務めました。
東京帝国大学、早稲田大学とか他の学校にも援助をしています。
それから道徳教育、「論語が大事だ」ということですね。儒教の発展に貢献したり、あと神社の改築にも援助したり、仏教団体、キリスト教団体にも援助をした。それと民間外交ですね。これにもいろいろと尽力をされたわけです。
「己の欲せざる所人に施すことなかれ」
最後になりますが、私は今日、冒頭に「己の欲せざる所人に施すことなかれ」のことを話しました。これに関するエピソードをご紹介して終わりたいと思います。
一九三七年(昭和十二年)三月に、中国国民政府行政院長の蒋介石が、中国を訪問した財界使節団に対し、次のような挨拶をしました。
「今日は日本経済考察団の歓迎であるが、自分にとってそんな形式的なものでなく、日本における自分の大先輩で、昔からの知己のある皆さんにお会いでき心から嬉しく思う。ちょうど十年前、私は日本を訪問し、張群と共に渋沢さんにお目に掛かった。
その時、渋沢さんは自分に『論語』を渡され、『この本を勉強されるように』と言われ、論語の中の『己の欲せざる所人に施すことなかれ』の一節を開いて、『これは、友人の間のみでなく、広く国際間にも適切なる金言であるから、日支両国関係もこの金言を基礎として結合していかなければならぬ。我々も常にこの金言を大事にしたい。この論語の言葉によって両国の調和を図るようにしてほしい』と言われた。
自分は今でもこの時の渋沢さんから頂戴した論語の本を書斎に置いて、その言葉に背かないよう願っているけれども、この日支両国にとって、大事な存在だった渋沢さんは今はもういない」と。
そして、皆で起立をして黙祷を捧げたというんです。
だから論語というのはすごいですよね。
中国の専売特許じゃなくて、もう渋沢さんの頃になれば日本においても十分浸透して、蒋介石さんに渋沢さんが論語の本をあげて、そして「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』という言葉をお互いに大事にしていきましょう」と言った。
蒋介石さんと渋沢さんの二人が会談した時に、しばしば論語が話題となった。
渋沢さんは特に「恕」の意味を解説した。
そして「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』というのが両国の平和を保障するものである」と述べたそうです。これに対し、蒋介石は「ただいまの論語の話は深く肝に銘じて忘れません」と言ったそうです。
今、日中関係が、いろいろと、ゴタゴタしていますが、今月号の『月刊現代』(講談社)で、中国の駐日大使の王毅さんが論文を書かれていて、やっぱりこの言葉が出てきました。「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』という使命は今も中国人の心に根差しています」と。
だからこれから中国とは、「中国語」とか「日本語」というのじゃなくて「論語」という共通語を持ってお互いに話し合いをしていくというのが、いい日中関係を築けるのかなぁと思います。
シンガポールと「儒教教育」
そして今、シンガポールが大きく発展していますが、その秘密というのは実は「儒教教育」の徹底にあるんです。
モラルを向上させるために「儒教教育」をやったんですけど、ところがそれに比例して経済も良くなった。
どうして経済と儒教が関係あるのかということを今、シンガポールでは、分析しているそうなんですけど、その答えは、まさに渋沢栄一にあるんです。
つまり信用さえきちんと保たれていれば、経済もどんどん良くなるんです。
一回、でも誤魔化したり、詐欺をしたりして、相手にわかっちゃったら、同じ人に商品売れないでしょ。
「あの人は詐欺師なんだよ、あの人は信用ないんだよ」と言われれば、商売ができなくなるわけですよ。
その意味でも経済を良くするためには道徳が必要なのです。
それから渋沢さんは政治についても同じだと言っております。
論語でも、「政は正なり」といい、政治の要諦は正しいことを行うこととあります。
「道徳を持たなければ、人は付いて来ないし、良い政治はできない」というわけです。
ちょうど時間が参りましたので、これで終わりたいと思います。
どうも有難うございました。
渋沢さんの偉大さというのは、
一つ目は、日本の近代資本主義を見事に創った。
二つ目は、社会福祉事業です。東京府養育院、貧しい人たちのための施設ですね。それから障害者施設、全国社会福祉協議会の前身である中央慈善協議会の会長も務められました。
これはお母さんの栄さん、非常に慈悲に富んだ、嗜みの深い方だったそうですが、このお母さんの影響を受けていますね。人に物を施すことが好きで、残り物をいつも取っておいて、困った人が来ると渡していたそうです。
それから有名な話ですが、近所にハンセン病の娘さんがいたんですね。
誰からも、相手にされない。
渋沢さんのお母さんは、その娘さんと一緒にお風呂に入って、背中を流していたそうです。
そういう素晴らしいお母さんの影響を受けているわけです。
三つ目は教育への貢献ですよ。
明治時代になって、東京帝国大学なんかができるわけですが、商業者の地位が低かった。
商業は二流だと思われていたんです。
これに渋沢さんは不満を感じ、激怒するわけです。
そこで実業教育・商業学校が必要だと言うことで、今の一橋大学なんかを創ることに力を注ぐわけです。
大倉高等商業学校、高千穂商業学校、岩倉鉄道学校なんかもそうですね。
あと女性のための学校、東京女学館や日本女子大学校ですね。
いずれも校長を務めました。
東京帝国大学、早稲田大学とか他の学校にも援助をしています。
それから道徳教育、「論語が大事だ」ということですね。儒教の発展に貢献したり、あと神社の改築にも援助したり、仏教団体、キリスト教団体にも援助をした。それと民間外交ですね。これにもいろいろと尽力をされたわけです。
「己の欲せざる所人に施すことなかれ」
最後になりますが、私は今日、冒頭に「己の欲せざる所人に施すことなかれ」のことを話しました。これに関するエピソードをご紹介して終わりたいと思います。
一九三七年(昭和十二年)三月に、中国国民政府行政院長の蒋介石が、中国を訪問した財界使節団に対し、次のような挨拶をしました。
「今日は日本経済考察団の歓迎であるが、自分にとってそんな形式的なものでなく、日本における自分の大先輩で、昔からの知己のある皆さんにお会いでき心から嬉しく思う。ちょうど十年前、私は日本を訪問し、張群と共に渋沢さんにお目に掛かった。
その時、渋沢さんは自分に『論語』を渡され、『この本を勉強されるように』と言われ、論語の中の『己の欲せざる所人に施すことなかれ』の一節を開いて、『これは、友人の間のみでなく、広く国際間にも適切なる金言であるから、日支両国関係もこの金言を基礎として結合していかなければならぬ。我々も常にこの金言を大事にしたい。この論語の言葉によって両国の調和を図るようにしてほしい』と言われた。
自分は今でもこの時の渋沢さんから頂戴した論語の本を書斎に置いて、その言葉に背かないよう願っているけれども、この日支両国にとって、大事な存在だった渋沢さんは今はもういない」と。
そして、皆で起立をして黙祷を捧げたというんです。
だから論語というのはすごいですよね。
中国の専売特許じゃなくて、もう渋沢さんの頃になれば日本においても十分浸透して、蒋介石さんに渋沢さんが論語の本をあげて、そして「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』という言葉をお互いに大事にしていきましょう」と言った。
蒋介石さんと渋沢さんの二人が会談した時に、しばしば論語が話題となった。
渋沢さんは特に「恕」の意味を解説した。
そして「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』というのが両国の平和を保障するものである」と述べたそうです。これに対し、蒋介石は「ただいまの論語の話は深く肝に銘じて忘れません」と言ったそうです。
今、日中関係が、いろいろと、ゴタゴタしていますが、今月号の『月刊現代』(講談社)で、中国の駐日大使の王毅さんが論文を書かれていて、やっぱりこの言葉が出てきました。「『己の欲せざる所人に施すことなかれ』という使命は今も中国人の心に根差しています」と。
だからこれから中国とは、「中国語」とか「日本語」というのじゃなくて「論語」という共通語を持ってお互いに話し合いをしていくというのが、いい日中関係を築けるのかなぁと思います。
シンガポールと「儒教教育」
そして今、シンガポールが大きく発展していますが、その秘密というのは実は「儒教教育」の徹底にあるんです。
モラルを向上させるために「儒教教育」をやったんですけど、ところがそれに比例して経済も良くなった。
どうして経済と儒教が関係あるのかということを今、シンガポールでは、分析しているそうなんですけど、その答えは、まさに渋沢栄一にあるんです。
つまり信用さえきちんと保たれていれば、経済もどんどん良くなるんです。
一回、でも誤魔化したり、詐欺をしたりして、相手にわかっちゃったら、同じ人に商品売れないでしょ。
「あの人は詐欺師なんだよ、あの人は信用ないんだよ」と言われれば、商売ができなくなるわけですよ。
その意味でも経済を良くするためには道徳が必要なのです。
それから渋沢さんは政治についても同じだと言っております。
論語でも、「政は正なり」といい、政治の要諦は正しいことを行うこととあります。
「道徳を持たなければ、人は付いて来ないし、良い政治はできない」というわけです。
ちょうど時間が参りましたので、これで終わりたいと思います。
どうも有難うございました。