2019年05月10日

日本ブランドをつくった男・渋沢栄一(その1)

 今度の新札の一万円に渋沢栄一が決まりました。

 僕は、第三回日本論語研究会(平成十七年三月二十日、慶應義塾大学)で
 演題 「論語とそろばんー論語を実践した渋沢栄一」で講演しました。

 そのときの講演録を数回に分けて掲載します。


 「己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ」

 日本論語研究会の代表世話人を務めております田村でございます。
 最初に、恒例でございますが、お配りした資料の中にある、論語の一つを皆さんと一緒に詠んでみたいと思います。

 子貢問いて曰く、「一言にして以て終身之を行うべきもの有りや。」と。
 子曰く、「其れ恕か。己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ。」と。

 これは子貢、孔子の十人の弟子の一人です。
 孔子よりも三十一歳若い方でございます。
 子貢が孔子に「たった一言で、生涯を通じて実践すべきことはありますか」と尋ねました。
 これに対して、孔子は「それは『恕』だ。恕とは『思いやり』だ。
 自分が他人からやって欲しくないことは、自分も他人にやってはいけない」と答えました。

 人を思いやるということは、言い換えれば、「他人のことでも自分のことのように考える」ということです。
 これは、孔子が、人間の最高の徳と考えている『仁』に通ずるものがございます。
 「人間の行動は、それが仁と言えるか、常に考え、又、仁を身に付けるために一生かけて努力すべきである」という孔子の考えであるわけでございます。

 これからお話をする渋沢栄一さんも、「『恕』は、思いやりであって、『恕』の観念なき者は、やがて冷血、軽薄、もしくは利己主義などと冷評され、その結果、社会から自然に排斥されるであろう」と述べております。

 実は、これと似たような言葉がございます。それはイエス・キリストの言葉です。「己の欲するところを人に施せ」。「自分のしてほしいことを他人にもしてあげなさい」ということです。


 「渋沢栄一を知るには?」

 さて、本題に入ります。
 渋沢栄一さんのことは、良くご存知の方もおられるでしょうし、初めて聞かれる方もおられると思います。
 その意味では、両方の方に百パーセント満足して頂けるかどうかわかりませんけれども、少しでもご理解頂けたらと思います。

 実は本日(2005年3月26日)、夜九時からNHKの番組「NHKスペシャル」がございます。
 新聞のテレビ欄を見ますと、「明治、大きな転換点に直面した日本は劇的な変化を遂げる」、「銀座れんが街、日本海海戦、渋沢栄一と人材活用」というタイトルがあります。

 それから渋沢栄一さんのことを深く知りたい方は、北区の王子駅の近くに「渋沢史料館」というのがございます。こちらに行かれれば、渋沢さんの九十一年に亘る生涯を詳しく知ることができます。
 あと青森県三沢市に「古牧温泉渋沢公園」というのがございまして、ここに港区三田の渋沢邸が、移築されております。
 なぜ、古牧温泉にあるのかと申しますと、この公園の経営者である杉本行雄さん、実は、渋沢さんの書生だったんです。
 それで、いろんな思いがありまして、温泉を造られて、自分が最も尊敬する渋沢さんの屋敷を移築したというわけです。

 この杉本さんという方も大変立派な方でして、「挑戦―五十五歳からの出発、古牧温泉、杉本行雄物語」(実業之日本社、平成四年)という本まで出ております。これは五万部以上のベストセラーとなりました。

 それから最近、作家の津本陽さんが『小説―渋沢栄一』(NHK出版、平成十六年)という本を書かれております。
(以下、続く)

shige_tamura at 14:14│Comments(0)clip!日本論語研究会 

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