2017年06月29日
自衛隊に関するよくある間違い――「自衛隊は捕虜にならない」はウソ
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<文・自民党政務調査会審議役・田村重信>
自衛隊の国際法上の位置づけ
前回、「安倍首相の改憲発言を議論する前に押さえておきたい憲法と自衛隊の基礎知識」で、「自衛隊は憲法上、軍隊ではない」と申し上げました。
では、「自衛隊の国際法上の位置づけ」はどうなっているのでしょうか。
自衛隊は、憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。〈中山太郎外務大臣答弁・衆議院本会議・平成2(1990)年10月18日〉
この答弁にあるように国際法上は、自衛隊は軍隊として取り扱われているわけです。つまり、自衛隊は国際法上、軍隊として扱われる一方で、日本国内では、軍隊ではなく、「自衛隊」と呼称するというように、二重の扱いがなされているのです。
だから、この自衛隊の位置付けは、憲法と安全保障政策上の問題として、憲法改正をめぐる議論のポイントになっているのです。
国際法上、自衛隊は捕虜になれない?
この点をみなさん、よく誤解しています。例えば、月刊『文藝春秋』(2015年11月号)の「保守は『SEALDs』に完敗です」という対談で、元SEALDsの奥田愛基氏が、「現状、自衛隊は軍隊ではありませんから、自衛官は、万が一拘束された時に国際法上の捕虜にもなれません」と発言しました。
ジュネーブ諸条約の一つである「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーブ条約(第3条約)」には、第4条Aで次のように書かれています。
この条約において捕虜とは、次の部類の(1)に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。
(1)紛争当事国の軍隊の構成員及びその軍隊の一部をなす民兵隊又は義勇隊の構成員
自衛官は国際法上は軍隊として扱われますから、戦争で捕まれば捕虜になります。これについては次のような政府見解があります。
「自衛隊は、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、自衛権行使の要件が満たされる場合には武力を行使して我が国を防衛する組織であることから、一般にはジュネーブ諸条約上の軍隊に該当すると解される」
以上のことから、自衛官が捕虜になった場合は、ジュネーブ諸条約上の捕虜として扱われるという結論になるわけです。
自衛隊は「捕虜になれない」という誤解はなぜ起ったのか
ではなぜ、奥田氏は「捕虜になれない」などと発言したのでしょうか。それはきっと、平和安全法制が国会で議論されている際に、PKOの時に自衛隊が捕まった場合にはどうなるのかとの質問に対し、外務大臣が「捕虜になりません」と答えたのを文字通り受け取ってしまったからでしょう。
しかし、これはそもそも前提が全く違います。自衛隊は、戦争でPKOに行くわけではないので、ほとんどそのようなことは想定されておらず、捕虜にならないのは当然です。だから、外務大臣はそう言ったわけです。
もっと詳しく言えばこういうことです。重要影響事態法及び国際平和支援法によって自衛隊が他国軍隊に対して後方支援を行う場合、我が国がそのこと自体によって紛争当事国になることはないことから、そのような場合に自衛隊員が国際人道法上の捕虜となることはない。ただしその場合であっても、国際法上、適正な活動を行っている自衛隊員の身柄が少なくとも普遍的に認められている人権に関する基準並びに国際人道法上の原則及び精神に則って取り扱われるべきことは当然である、というわけです。
マスコミは憲法と自衛隊の関係を正しく理解して報道すべき
このような初歩的な誤りに気付かず掲載してしまうマスコミ編集者にも問題があります。どうしてこうした誤りが生まれるのでしょうか。それは、奥田氏も編集者も、憲法と自衛隊に関する政府の公式な見解をキチンと踏まえていないからです。憲法と自衛隊の関係についての基本中の基本がみんなわかっていません。
日本は憲法9条の建前から言えば戦力は持てない。だから日本には通常の観念で考えられる軍隊がないということになる。では日本の独立はどうやって守るのだ。自衛隊である。自衛隊は必要最小限度の実力組織だからよしとなる。
では国際法上の評価は? 国際法上は自衛隊は軍隊として扱われる。それはすなわち捕虜としても扱われるということ。ただし、外国に行ったら軍隊だから外国の軍隊と同じように活動し、武器の使用ができるかというと、これはまた違う。「武力行使と一体化しない」というようにする等、日本国憲法の制約の中で法律を作っていくから非常に厄介な仕組みになっている。
日本の安全保障法制を論じる場合、このような基礎知識をキチンと理解していない誤った議論が非常に多いのです。マスコミ関係者も、必要最小限度の安保法制を正しく理解しないと読者をミスリードすることになります。
しかし、一番の問題は、当のマスコミ関係者や憲法学者などがこうした安全保障法制に関して、正しい政府見解を理解しようとすらしないことなのです。
【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)
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<文・自民党政務調査会審議役・田村重信>
自衛隊の国際法上の位置づけ
前回、「安倍首相の改憲発言を議論する前に押さえておきたい憲法と自衛隊の基礎知識」で、「自衛隊は憲法上、軍隊ではない」と申し上げました。
では、「自衛隊の国際法上の位置づけ」はどうなっているのでしょうか。
自衛隊は、憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。〈中山太郎外務大臣答弁・衆議院本会議・平成2(1990)年10月18日〉
この答弁にあるように国際法上は、自衛隊は軍隊として取り扱われているわけです。つまり、自衛隊は国際法上、軍隊として扱われる一方で、日本国内では、軍隊ではなく、「自衛隊」と呼称するというように、二重の扱いがなされているのです。
だから、この自衛隊の位置付けは、憲法と安全保障政策上の問題として、憲法改正をめぐる議論のポイントになっているのです。
国際法上、自衛隊は捕虜になれない?
この点をみなさん、よく誤解しています。例えば、月刊『文藝春秋』(2015年11月号)の「保守は『SEALDs』に完敗です」という対談で、元SEALDsの奥田愛基氏が、「現状、自衛隊は軍隊ではありませんから、自衛官は、万が一拘束された時に国際法上の捕虜にもなれません」と発言しました。
ジュネーブ諸条約の一つである「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーブ条約(第3条約)」には、第4条Aで次のように書かれています。
この条約において捕虜とは、次の部類の(1)に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。
(1)紛争当事国の軍隊の構成員及びその軍隊の一部をなす民兵隊又は義勇隊の構成員
自衛官は国際法上は軍隊として扱われますから、戦争で捕まれば捕虜になります。これについては次のような政府見解があります。
「自衛隊は、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、自衛権行使の要件が満たされる場合には武力を行使して我が国を防衛する組織であることから、一般にはジュネーブ諸条約上の軍隊に該当すると解される」
以上のことから、自衛官が捕虜になった場合は、ジュネーブ諸条約上の捕虜として扱われるという結論になるわけです。
自衛隊は「捕虜になれない」という誤解はなぜ起ったのか
ではなぜ、奥田氏は「捕虜になれない」などと発言したのでしょうか。それはきっと、平和安全法制が国会で議論されている際に、PKOの時に自衛隊が捕まった場合にはどうなるのかとの質問に対し、外務大臣が「捕虜になりません」と答えたのを文字通り受け取ってしまったからでしょう。
しかし、これはそもそも前提が全く違います。自衛隊は、戦争でPKOに行くわけではないので、ほとんどそのようなことは想定されておらず、捕虜にならないのは当然です。だから、外務大臣はそう言ったわけです。
もっと詳しく言えばこういうことです。重要影響事態法及び国際平和支援法によって自衛隊が他国軍隊に対して後方支援を行う場合、我が国がそのこと自体によって紛争当事国になることはないことから、そのような場合に自衛隊員が国際人道法上の捕虜となることはない。ただしその場合であっても、国際法上、適正な活動を行っている自衛隊員の身柄が少なくとも普遍的に認められている人権に関する基準並びに国際人道法上の原則及び精神に則って取り扱われるべきことは当然である、というわけです。
マスコミは憲法と自衛隊の関係を正しく理解して報道すべき
このような初歩的な誤りに気付かず掲載してしまうマスコミ編集者にも問題があります。どうしてこうした誤りが生まれるのでしょうか。それは、奥田氏も編集者も、憲法と自衛隊に関する政府の公式な見解をキチンと踏まえていないからです。憲法と自衛隊の関係についての基本中の基本がみんなわかっていません。
日本は憲法9条の建前から言えば戦力は持てない。だから日本には通常の観念で考えられる軍隊がないということになる。では日本の独立はどうやって守るのだ。自衛隊である。自衛隊は必要最小限度の実力組織だからよしとなる。
では国際法上の評価は? 国際法上は自衛隊は軍隊として扱われる。それはすなわち捕虜としても扱われるということ。ただし、外国に行ったら軍隊だから外国の軍隊と同じように活動し、武器の使用ができるかというと、これはまた違う。「武力行使と一体化しない」というようにする等、日本国憲法の制約の中で法律を作っていくから非常に厄介な仕組みになっている。
日本の安全保障法制を論じる場合、このような基礎知識をキチンと理解していない誤った議論が非常に多いのです。マスコミ関係者も、必要最小限度の安保法制を正しく理解しないと読者をミスリードすることになります。
しかし、一番の問題は、当のマスコミ関係者や憲法学者などがこうした安全保障法制に関して、正しい政府見解を理解しようとすらしないことなのです。
【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)