2015年08月31日
中国新華網が「天皇謝罪要求」――安倍首相不参加への報復か?(遠藤誉氏)
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8月25日、中国政府の新華網は、日中戦争における昭和天皇の責任を問い日本を批難した。安倍談話に対しては安倍首相が抗日戦勝行事に参加する可能性があることから控えた中国だが、不参加となった今、なり振り構わない。
◆正常とは思えぬ新華網の「天皇謝罪要求」
8月25日、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は「日本の侵略戦争の犯罪行為を謝罪すべきは誰か」というタイトルで評論を載せた。
その要旨は以下のようなものである。
1.日本軍国主義が発動した侵略戦争は、軍国主義の天皇や政府、軍隊、財閥などの主要な勢力が作り上げたもので、(中略)多くの犯罪を犯し、侵略戦争に対して逃れない罪を負っている。
2.裕仁天皇(昭和天皇:筆者注)は、日本が侵略した被害国と人民に、死ぬまで謝罪の意を表したことがない。その後継者(現在の明仁天皇:筆者注)は、(中略)謝罪を以て氷解を得、懺悔を以て信頼を得、誠実を以て調和を得るべきだ。
とても尋常な感覚を持っているとは思えない評論だ。
天皇の戦争責任に関しては、1946年から1948年にかけて行なわれた極東国際軍事裁判(東京裁判)において「戦争犯罪人としての起訴から日本国天皇を免除する」ことが合意され、天皇を訴追しないことが決定された。
この問題は「国際的に」すでに解決済みなのである。
東京裁判においては、各国検事をメンバーとした執行委員会が設立されており、その中に「中華民国」の代表もいる。
中国はつねに「一つの中国」を主張して、「中華民国の功績」は「中華人民共和国の功績」として、今まさに「中華民国」による「抗日戦争勝利」を受け継いで(横取りして?)、盛大に戦勝70周年記念を祝賀しようと燃え上がっているのではないのか?
抗日戦争勝利は自分(現在の中国)のものだが、中華民国の代表が入っていた東京裁判は「中華人民共和国が参画していなかったから、別途、天皇の戦争責任を追及してもいい」とでも言うつもりだろうか?
常軌を逸している。
おまけに1992年、昭和天皇の「継承者」である明仁天応は、江沢民の強引な招聘により中国を訪問して、きちんと「謝罪」を表明した。これは歴史的な出来事であった。
このとき江沢民は、1989年6月4日に起きた天安門事件において民主化を叫んだ若者を武力鎮圧したことに対する西側諸国の経済封鎖を、何とか日本の天皇陛下の訪中によって切り崩していこうともくろんでいた。
その政治利用が懸念されながらも、明仁天皇は訪中して中国人民に頭を下げ、謝罪している。そのお蔭で西側諸国は経済封鎖を徐々に解いていき、中国はこんにちの経済繁栄を手にしたのではなかったのか――。
その恩を忘れて、このような主張を載せる新華網には、良心もモラルもない。
それなら中国は、なぜここまで常軌を逸脱した行動を取るに及んだのか。
至近の時系列を見てみよう。
◆安倍首相の不参加表明との関連
8月24日、安倍首相は参院予算委員会で9月3日に北京で開催される抗日戦争勝利式典には参加しないと明言した。同日、菅官房長官も記者会見で「9月上旬に検討していた中国訪問を見送ることにした」と表明した。
新華網が実質上の「天皇謝罪要求」を載せたのは、その翌日の8月25日である。
8月14日に安倍談話が発表されたとき、中国は激しい安倍批判を避け、ただ「自分自身の判断を回避している」という批判をしただけだった。
もちろん、8月12日に天津の爆発事故があり、人民の関心は専ら爆発事故に集中し、ネットには「抗日戦勝行事に燃えている間に、天津が燃えた。自分の足元を見ろ!」という書き込みさえ現れていた。
習近平政権にとっては安倍談話どころではなかったという側面もあったろうが、それ以上に、「もしかしたら安倍首相は、9月3日の式典に参加するかもしれない」という甘い期待があり、酷評を避けたと見るべきだろう。
中国はすでに公けの場で正式に、安倍首相を招聘していると表明していた。中国は実は、水面下の交渉で来ないかもしれないと判断された国に関しては「招聘した」とは公表していない。だというのに、安倍首相は最終的には「参加しない」と決定したのだ。
習近平国家主席が、どれほどメンツを潰されたと思っているか、想像に難くない。
その結果が、このなりふり構わぬ論評となったのではないだろうか。
中国のネットには、「天皇謝罪要求に対する日本の抗議は不当である」という情報が充満している。
◆中国を増長させるアメリカの二面性
中国をここまで増長させる背景には、アメリカの二面性がある。
オバマ大統領自身は参加を見送っておきながら、アメリカ国務省のカービー報道官は、25日の記者会見で駐中国のアメリカのボーカス大使が「オバマ大統領の代理人として」、9月3日の抗日戦勝70周年記念に参加すると発表したのだ。
カービー報道官はさらに「記念式典において、ボーカス大使は米大統領が選んだ代表だ」と述べている。
中国はこれを以て、アメリカは大統領級の代表が参加するとして、大々的に報道した。
アメリカの二面性は、これに留まらなかった。
8月28日、アメリカのライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が訪中し、人民大会堂で習近平国家主席と会談したのである。
ライス大統領補佐官は訪中の目的を、形の上では「今年9月の習近平国家主席訪米の準備のため」としているが、実際は違う。なぜなら彼女は、習近平国家主席に、つぎのように述べているのだ。
――中国が第二次世界大戦勝利70周年記念を盛大に祝賀しているこの年に当たり、オバマ大統領とアメリカ側は、あの戦争における中国人民の多大な貢献と、米中両国があのとき結んだ深い友情を高く評価する。
あのときアメリカが友情を結んだ相手は「中華民国」主席、蒋介石だったはずだ。
習近平国家主席は、「アメリカと友情を結んだ蒋介石」の国民党軍を倒した中国共産党軍が誕生させた「中華人民共和国」の主席である。
あの戦争における主戦場で戦った「中国人民」は、現在の共産党政権が倒した国民党軍だ。
アメリカまでが歴史を歪曲しようとするのだろうか。
そもそも日本が安保法案などを急いで成立させようとしている原因の一つは、アメリカが尖閣諸島の領有権に関して「紛争関係者(中国&日本&台湾)」のどちらの側にも立たないと宣言しているからだ。それを良いことに中国は尖閣周辺で強気に出ている。そのため日本は中国の脅威をより強く感じ、それが安保法案を正当化しようとする試みに貢献している。とんでもないサイクルだ。
オバマ大統領がこのたびライス補佐官に言わせた言葉は、「経済を重んじ、自国の利益のみを重んじて、勝者が歴史を書き換えていく」典型のようなものである。
来年の米大統領選に立候補している共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、オバマ政権の「領有権中立論」に対して「尖閣諸島は日本の領土」と明言し、対中強硬論を主張している。さて、中国におもねることなく、経済を発展させていくことができるのか。オバマ政権のように、二面性を持ったり、歴史を書き換えたりしないのだろうか。
少なくとも日本は、こんな米中に利用される存在になってはならない。
敗者でも、正しい論理は、毅然と貫くべきだ。
それによって先の大戦の責任から逃れようとするものでなく、もちろん正当化しようというものでもないことは言を俟(ま)たない。
(追記:なお日本は駐中国の日本国大使をはじめ大使館関係者全員が不参加を表明。その選択が賢明なのか否かは検討の余地がある。村山元首相は参加する。)
遠藤誉
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
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◆正常とは思えぬ新華網の「天皇謝罪要求」
8月25日、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は「日本の侵略戦争の犯罪行為を謝罪すべきは誰か」というタイトルで評論を載せた。
その要旨は以下のようなものである。
1.日本軍国主義が発動した侵略戦争は、軍国主義の天皇や政府、軍隊、財閥などの主要な勢力が作り上げたもので、(中略)多くの犯罪を犯し、侵略戦争に対して逃れない罪を負っている。
2.裕仁天皇(昭和天皇:筆者注)は、日本が侵略した被害国と人民に、死ぬまで謝罪の意を表したことがない。その後継者(現在の明仁天皇:筆者注)は、(中略)謝罪を以て氷解を得、懺悔を以て信頼を得、誠実を以て調和を得るべきだ。
とても尋常な感覚を持っているとは思えない評論だ。
天皇の戦争責任に関しては、1946年から1948年にかけて行なわれた極東国際軍事裁判(東京裁判)において「戦争犯罪人としての起訴から日本国天皇を免除する」ことが合意され、天皇を訴追しないことが決定された。
この問題は「国際的に」すでに解決済みなのである。
東京裁判においては、各国検事をメンバーとした執行委員会が設立されており、その中に「中華民国」の代表もいる。
中国はつねに「一つの中国」を主張して、「中華民国の功績」は「中華人民共和国の功績」として、今まさに「中華民国」による「抗日戦争勝利」を受け継いで(横取りして?)、盛大に戦勝70周年記念を祝賀しようと燃え上がっているのではないのか?
抗日戦争勝利は自分(現在の中国)のものだが、中華民国の代表が入っていた東京裁判は「中華人民共和国が参画していなかったから、別途、天皇の戦争責任を追及してもいい」とでも言うつもりだろうか?
常軌を逸している。
おまけに1992年、昭和天皇の「継承者」である明仁天応は、江沢民の強引な招聘により中国を訪問して、きちんと「謝罪」を表明した。これは歴史的な出来事であった。
このとき江沢民は、1989年6月4日に起きた天安門事件において民主化を叫んだ若者を武力鎮圧したことに対する西側諸国の経済封鎖を、何とか日本の天皇陛下の訪中によって切り崩していこうともくろんでいた。
その政治利用が懸念されながらも、明仁天皇は訪中して中国人民に頭を下げ、謝罪している。そのお蔭で西側諸国は経済封鎖を徐々に解いていき、中国はこんにちの経済繁栄を手にしたのではなかったのか――。
その恩を忘れて、このような主張を載せる新華網には、良心もモラルもない。
それなら中国は、なぜここまで常軌を逸脱した行動を取るに及んだのか。
至近の時系列を見てみよう。
◆安倍首相の不参加表明との関連
8月24日、安倍首相は参院予算委員会で9月3日に北京で開催される抗日戦争勝利式典には参加しないと明言した。同日、菅官房長官も記者会見で「9月上旬に検討していた中国訪問を見送ることにした」と表明した。
新華網が実質上の「天皇謝罪要求」を載せたのは、その翌日の8月25日である。
8月14日に安倍談話が発表されたとき、中国は激しい安倍批判を避け、ただ「自分自身の判断を回避している」という批判をしただけだった。
もちろん、8月12日に天津の爆発事故があり、人民の関心は専ら爆発事故に集中し、ネットには「抗日戦勝行事に燃えている間に、天津が燃えた。自分の足元を見ろ!」という書き込みさえ現れていた。
習近平政権にとっては安倍談話どころではなかったという側面もあったろうが、それ以上に、「もしかしたら安倍首相は、9月3日の式典に参加するかもしれない」という甘い期待があり、酷評を避けたと見るべきだろう。
中国はすでに公けの場で正式に、安倍首相を招聘していると表明していた。中国は実は、水面下の交渉で来ないかもしれないと判断された国に関しては「招聘した」とは公表していない。だというのに、安倍首相は最終的には「参加しない」と決定したのだ。
習近平国家主席が、どれほどメンツを潰されたと思っているか、想像に難くない。
その結果が、このなりふり構わぬ論評となったのではないだろうか。
中国のネットには、「天皇謝罪要求に対する日本の抗議は不当である」という情報が充満している。
◆中国を増長させるアメリカの二面性
中国をここまで増長させる背景には、アメリカの二面性がある。
オバマ大統領自身は参加を見送っておきながら、アメリカ国務省のカービー報道官は、25日の記者会見で駐中国のアメリカのボーカス大使が「オバマ大統領の代理人として」、9月3日の抗日戦勝70周年記念に参加すると発表したのだ。
カービー報道官はさらに「記念式典において、ボーカス大使は米大統領が選んだ代表だ」と述べている。
中国はこれを以て、アメリカは大統領級の代表が参加するとして、大々的に報道した。
アメリカの二面性は、これに留まらなかった。
8月28日、アメリカのライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が訪中し、人民大会堂で習近平国家主席と会談したのである。
ライス大統領補佐官は訪中の目的を、形の上では「今年9月の習近平国家主席訪米の準備のため」としているが、実際は違う。なぜなら彼女は、習近平国家主席に、つぎのように述べているのだ。
――中国が第二次世界大戦勝利70周年記念を盛大に祝賀しているこの年に当たり、オバマ大統領とアメリカ側は、あの戦争における中国人民の多大な貢献と、米中両国があのとき結んだ深い友情を高く評価する。
あのときアメリカが友情を結んだ相手は「中華民国」主席、蒋介石だったはずだ。
習近平国家主席は、「アメリカと友情を結んだ蒋介石」の国民党軍を倒した中国共産党軍が誕生させた「中華人民共和国」の主席である。
あの戦争における主戦場で戦った「中国人民」は、現在の共産党政権が倒した国民党軍だ。
アメリカまでが歴史を歪曲しようとするのだろうか。
そもそも日本が安保法案などを急いで成立させようとしている原因の一つは、アメリカが尖閣諸島の領有権に関して「紛争関係者(中国&日本&台湾)」のどちらの側にも立たないと宣言しているからだ。それを良いことに中国は尖閣周辺で強気に出ている。そのため日本は中国の脅威をより強く感じ、それが安保法案を正当化しようとする試みに貢献している。とんでもないサイクルだ。
オバマ大統領がこのたびライス補佐官に言わせた言葉は、「経済を重んじ、自国の利益のみを重んじて、勝者が歴史を書き換えていく」典型のようなものである。
来年の米大統領選に立候補している共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、オバマ政権の「領有権中立論」に対して「尖閣諸島は日本の領土」と明言し、対中強硬論を主張している。さて、中国におもねることなく、経済を発展させていくことができるのか。オバマ政権のように、二面性を持ったり、歴史を書き換えたりしないのだろうか。
少なくとも日本は、こんな米中に利用される存在になってはならない。
敗者でも、正しい論理は、毅然と貫くべきだ。
それによって先の大戦の責任から逃れようとするものでなく、もちろん正当化しようというものでもないことは言を俟(ま)たない。
(追記:なお日本は駐中国の日本国大使をはじめ大使館関係者全員が不参加を表明。その選択が賢明なのか否かは検討の余地がある。村山元首相は参加する。)
遠藤誉
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士