2013年12月06日

戦略はモデルを使って考る!(ワシントン報告、横江公美氏)

田村 日経















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 ヘリテージ財団、アジア研究センター(2013年12月5日)

 今週もヘリテージ財団では、国際関係部門の全研究員を対象にした、「ランチ授業」が行われた。講師は、国防大学でシステム・マネジメントを教える Geoffrey Seaver教授であり、テーマは「Systems Thinking」であった。

 この授業には、国際部門を総括するジム・カラファノから国際部長スティーブ・ブッチ、自由経済部長のテリー・ミラーそして上級研究員のビーター・ブルックス、ブルース・クリンガー、リサ・カーチス、そしてリサーチ・アシスタント面々と、国際部に所属するほぼ全員が出席した。

 Seaver教授は、軍事政策のモデルを紹介したが、連邦政府のすべての省庁は、こういったモデルを使って、業務の達成についての評価を行っているという。つまり、モデルの理解を持っていたほうが、どんな分野においても、アメリカ人専門家と話をする時、議論しやすいということになる。

 といわけで、今週は、この授業について紹介しましょう。

 Seaver教授は、「温度」を使って、授業を始めた。
「どうして、部屋の温度を設定するのか」と教授は尋ねた。
「快適にする」と答えた人に、教授は「政策」と書いた札を渡す。

 次に「設定温度は?」と質問した。それぞれが口々に「70度」「75度」「68度」と発言する。なんとなく70度に落ち着いたところで、70度発言者に「コントロール」と書いた札を渡す。

 次に教授は「70度+−5度はOKの範囲としましょう。それ以上、以下になったらどうしますか」

「温度を下げる」「温度を上げる」「エアコンのスイッチを入れる」と発言がでたところで「プロセス・オペレーション」と書いた札を取り出した。

 つまり、目標が「政策」であり、目標のターゲットについての意見をまとめることが「コントロール」であり、そして目標ターゲットを実現するのが「オペレーション」ということになる。この3つが、基本モデルである。

 だが、これでモデルは完結しない。もう2つの要素が加わり完全モデルとなる。

 1つは、部屋の温度にあたる「状況」である。ここには、その部屋の自然温度だけではなく、部屋にいる人の数、何をしているか、そしてオペレーションにいくら使えるのかという予算なども入ってくる。この状況をかんがみてオペレーションを行うが、確実に目標温度を維持できるわけではない。オペレーション後の温度の変化を「アウトプット」と呼ぶ、と説明した。アウトプットは、政策、コントロールにフィードバックされている。

 さらに、ビジネス・モデルもこれに当てはまるという。「状況」の変化に対応できない産業は、生き残れないという。早急な時代の変化について行けなかったDell、Streaming VideoについていけなかったBlockbusterが例にあがった。

 軍事政策については、これほど簡単にはいかない。軍事力を測ることは難しいからだ。

「軍事力は図ることはなぜ難しいのか」との質問に対し「敵による」「予算」「どんな人が働いているか」「訓練」「軍事施設」「武器」「軍事機器」らさまざまな変数があり、そしてそれらの能力も簡単には図れない、とみんなの意見が集約した。

 そこで、教授は、どんな政策、そしてモデルを考えるにしろ、すべての機能を満遍なく取り入れて考えることが目標達成にもっとも必要なことになる、として授業は終わった。


 キャピトルの丘

 感謝祭の休みを使ってアナポリスの海軍兵学校を、ゆっくりとくまなく訪問した。 授業と訓練の内容を聞くほどに、ここの学生たちは命がかかっているだけに、もっとも必死に勉強する学生たちだろうということを思い知らされた。

 案内をしてくれた教官は、「授業中、寝ている学生は見たことない」と言っていた。ちなみにここの学生の身分は軍人で、午後3時で授業は終わるが、その後、すべての学生はクラブ活動に参加する。ここからオリンピックの選手が出ているなど、クラブ活動といっても、体育会なみかそれ以上の訓練が繰り広げられている。

 しかも、この大学は最も入学することが難しい大学だ。地元国会議員の推薦が必要で、州ごとにその選抜過程もきちんとできあがっている。州全体が知的にも体力的にも人格的にも認めた学生のみが受験する資格を持つ。入学が許されたからと言って、ここでの学ぶことが許されるわけではない。最初に海上演習が行われ、「ついていけない」と自覚する学生はここでふるい落とされる。

 海軍兵学校訪問で得た知識を下地に、システム・シンキングの授業を聞くと、とりわけ軍隊に関わる政策は、きちんとモデル化して説明が付かないと、上部組織から下部組織までいきわたらない。説明しやすさを理解しやすさは必要になる。

 モデルや表をよく使う経営学の基礎は軍事作戦であることはよく知られているが、こういった授業を聞くと、命にかかわるだけに、確かにどんな学問以上に、システム化、モデル化が重要になっていることがよくわかる。

 モデル化は、まず議論の基礎ということになる。
 授業の最後に、私にとっての事件が起きた。

 今回の授業は、Ph.Dを持つ部長が「モデル化は結局、意味がないと思う」と発言したのである。この分野に素人の私は、勉強になると思ってありがたく授業を聞いていたので、非常に驚いた。

 だが、これは知っている上での否定である。知らないで否定するとただの無知であるし、議論にもならない。この部長は軍隊出身の作戦についてのPh.Dを持つ。つまり、今までモデル化とシステム化をさんざんしてきただけに、そのマイナス面をついたのである。

まさにシンクタンクの内部研究会の議論は奥が深い。


 横江 公美、客員上級研究員、アジア研究センター Ph.D(政策)
  松下政経塾15期生、プリンストン客員研究員などを経て2011年7月からヘリテージ財団の客員上級研究員。著書に、「第五の権力 アメリカのシンクタンク(文芸春秋)」「判断力はどうすれば身につくのか(PHP)」「キャリアウーマンルールズ(K.Kベストセラーズ)」「日本にオバマは生まれるか(PHP)」などがある。


shige_tamura at 09:26│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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