2013年12月02日
<遠藤誉が斬る>習近平政権は軍を掌握しているのか?――中国の防空識別圏設定に関する一考察

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<遠藤誉が斬る>習近平政権は軍を掌握しているのか?――中国の防空識別圏設定に関する一考察
中国が国際常識をわきまえず一方的に防空識別圏設定を宣告した。これに関して一部、習近平が軍部を掌握していないのではないか、軍の独走ではないかといった論調が見られる。本稿では軍と党の関係という視点から見た、防空識別圏設定の論考を試みたい。今般、中国が国際常識をわきまえず一方的に防空識別圏設定を宣告した。
これに関して一部、習近平が軍部を掌握していないのではないか、軍の独走ではないかといった論調が見られる。本稿では軍と党の関係という視点から見た、防空識別圏設定の論考を試みたい。
◆中共中央政治局に、3人も軍事委員会トップが
中国人民解放軍を管轄しているのは図にある中共中央軍事委員会であり、この軍事委員会を管轄しているのは中国共産党中央(中共中央)委員会である。つまり「軍は党の軍」なのである。
中共中央委員会は党大会の前後以外は年に一回しか開催されないが、その上には中共中央政治局というトップ組織がある。構成メンバーは25人で、その中から7人の常務委員が選ばれて、さらなる上部の「チャイナ・セブン」を形成している。
政治局会議と常務委員会会議は必要に応じて随時開催する。その政治局委員には2人の中共中央軍事委員会副主席が入っている。一人は範長龍(陸軍)で、もう一人は許其亮(空軍)だ。
これまでは軍事委員会の副主席になるのは陸軍だったが、昨年の第18回党大会直前に軍事委員会会議を緊急開催し、胡錦濤と習近平が連携して「空軍」である許其亮(元人民解放軍・空軍参謀長、同空軍司令員)を軍事委員会副主席に推挙。本来なら2人いる国家副主席を、一時期4人にまで増やす前代未聞の強引な手法を取った。そうしてでも「空軍」を軍事委員会副主席に持って行き、中共中央政治局委員に据えたかったのである。
つまり習近平の意思を組む2人が中共中央軍事委員会におり、習近平(中共中央軍事委員会主席)自身を入れると、中共中央意思決定機関の中心である中共中央政治局に軍事委員会関係者が3人も入っていることになる。
中共中央政治局は習近平政権そのものだから、この構築から、軍は党そのものということができ、党が軍を掌握していないという事態は生じ得ない。
◆国家安全委員会と軍との関係
では三中全会で新しく設立されることになった「国家安全委員会」と軍との関係はどうだろうか。第10回の同コラムでも書いたように、国家安全委員会の構成メンバーは「国家公安部、中国人民武装警察部隊(武警)、国家安全部(スパイなどを偵察)、中国人民解放軍総参謀部第二部(総参・情報部)と第三部(総参・技術偵察部)、中国人民解放軍総政治部の聯絡部、国家外交部、中共中央対外宣伝弁公室(外宣弁)」などである。
つまり中国人民解放軍の総参謀部が二部局も入っている。しかも最も肝心な総参謀部だ。
中国人民解放軍には「総参謀部、総政治部、総后勤部(後方活動)、総装備部」という4つの総部機構がある。中でも総参謀部は最も権限があり、「作戦、情報、通信、軍事訓練、軍務、動員、装備、機密、(陸空海の)測量製図、外交、管理」などを統括する。その総参謀部の「情報、技術偵察」に関する二大部局が国家安全委員会に入っているので、国家安全委員会が中共中央軍事委員会の指示の下で、国防識別圏に関しても関わっていくだろう。
ただし国家安全委員会の頭には「国家」という文字があるのを見逃してはならない。
頭に「中央」が付いていると、これは「中共中央」のことで共産党系列の会議で議決するだけで運用されるが、「国家」が付いている場合は、「国務院(中国政府)」側に設置される組織となる。
そのため2014年3月に開催されるであろう全人代(日本の国会に、一応、相当)で決議されてからでないと正式には動き始めない。それが「三中全会」という中国共産党の会議で提起されたのは「党が政府の上にある(党が政府を指導している)」からである。
◆中国の防空識別圏への対応は天下分け目の分岐点
昨年の第18回党大会により発足した習近平政権は、政権スローガンとして「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」そして「海洋強国」を宣言した。「海洋強国」を唱えながら軍事委員会副主席に、陸軍ではなく初めて「空軍」出身者を指名したのは、「海空」を制覇して本気でアジア覇権に乗り出すことを示している。これは軍のクーデターとか強硬派の勝利とか、そういった類のものでなく、中国の国家としての意思決定なのだ。
今年6月の米中首脳会談で、習近平は「太平洋には中米両大国を受け容れる十分な空間がある」とオバマ大統領に言った。これは拙著『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』で詳述したように、G2構想(中国流に言えば新型大国関係)を念頭に置いての発言である。
国内に多くの矛盾を抱え窮地に追い込まれている習近平は、G2だけでなく「G1」を狙っている。「G1」になるのが先か、人民の不満により内部崩壊するのが先か、そのせめぎ合いの中にある。先に「G1」になれば、さすがに政府に不満を持つ人民も中国共産党の統治の正当性を納得するだろうという戦法だ。
そこに「米民間航空機のフライトプランに関する中国への事前通知」という事態を受けて、中国の国営テレビCCTVは、まるで勝利宣言のような加熱した報道で燃えている。
米国政府としては「中国にフライトプランを提出せよと積極的に民間航空会社に指示を出したわけではないが、しかし航空会社の提出は黙認する」というスタンスのようだ。しかし中国の要求に従うか否かは、天下を分ける分岐点である。
こういう時にこそ日米同盟の強さを見せてほしいという肝心の分かれ目で、アメリカが中国の指示に従うなどということは、あってほしくない。
本日(12月2日)、バイデン・米副大統領が来日する。
日本政府はこの機を逃さず、何としても日米の足並みを揃えるよう強く要望してほしい。バイデンは2012年2月14日の習近平(当時国家副主席)の訪米を担当した人物。習近平には実に低姿勢だ。今般の訪日後に訪中するバイデン副大統領の習近平に対する態度如何(いかん)で、防空識別圏設定のアジアに及ぼす影響が決まる。
いや、米中の力関係も決まるだろう。
日本政府には何としても現状維持を貫き、日米協力の下で頑張ってほしいと望む。そうでないと、日本国民の安全に多大な影響をもたらすことになる。
(<遠藤誉が斬る>第12回)
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。
(レコードチャイナより転載)