2013年05月31日

新「防衛計画の大綱」策定に係る提言(全文、その2)自民党国防部会・安保調査会

4.日米安全保障体制
(1)日米安全保障体制の強化
わが国の防衛は、自らの手で行うことは当然であるが、わが国周辺の現下の厳しい安全保障環境を踏まえれば、日米安全保障体制の抑止力を一層向上させる必要がある。それと同時に、「日米安全保障体制」をアジア太平洋地域及びグローバルな平和と安全を確保するための「公共財」と位置づけ、幅広い分野での連携・協力を推進する。

(2)日米防衛協力強化のためのガイドラインの見直し
現行ガイドラインについては、前回の改定時から既に15年が経過していることから、今日の安全保障環境に適応したものに改める必要がある。その際、現在及び将来のアジア太平洋地域の安全保障環境を踏まえた戦略的な議論を行い、日米間の役割・任務・能力の分担を包括的に再検討した上で、わが国の役割・任務を拡大する。また、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」等における議論の成果を踏まえ、「集団的自衛権」に関する検討を加速させる。

(3)日米の適切な役割分担の下での策源地攻撃能力の保有
現在、打撃力については米国に依存している状態にあるが、このような役割分担については、現在の安全保障環境に照らしてその適否を再検討し、ガイドライン協議等を通じ整理する必要がある。
とりわけ「ミサイルの脅威」に対する抑止力を強化する観点から、わが国独自の打撃力(策源地攻撃能力)の保持について検討を開始し、速やかに結論を得る。

(4)平素から緊急事態に至るまでの隙間のない協力の更なる強化
事態の発生を抑止し、かつ事態発生後に迅速かつシームレスに対応するため、日米間において平素からの協力を強化することとし、共同警戒監視、共同訓練、基地の共同使用、指揮統制機能の連携強化を推進する。このため、グアム等における日米共同訓練場の整備を検討する。また、米国との更なる円滑な情報共有の観点から、十分な情報保全体制の確立に努める。

(5)在沖縄米軍基地に関する抑止力の維持と地元負担軽減
在日米軍の駐留は、わが国における抑止力の重要な一翼を担うものである一方、沖縄を始めとする基地周辺地域に大きな負担が生じていることも事実である。
在日米軍再編事業については、抑止力の維持と地元負担の軽減を両立させる観点から、普天間飛行場移設を「日米合意」に基づいて着実に前進させ、その危険性を一刻も早く除去するとともに、既に合意された在日米軍基地の返還計画を含む在日米軍再編を着実に進展させる。

5.国際及び日本周辺の環境安定化活動の強化
(1)豪、韓、印、ASEAN諸国等との戦略的安保協力、国際協力活動の推進等
アジア太平洋地域の安定化を図るため、戦略的利益を共有する豪、韓、印、ASEAN諸国、との防衛協力を更に推進する。具体的には、「2プラス2」などの首脳間協議の定期開催やACSA(物品役務相互提供協定)、GSOMIA(情報保護協定)の締結、定期的な共同訓練の実施等を推進する。

(2)中国、ロシアとの安全保障関係の推進
地域の安全保障に強い影響力を持ち、隣国である中国との防衛交流については、「戦略的互恵関係」構築の一環として安全保障の面からも建設的な協力関係を構築して信頼醸成を図ることが重要である。
また、中国の軍事や安全保障に関する不透明性については、大局的観点から、防衛交流を積極的に推進することで、中国に透明性の向上を働きかけるとともに、防衛当局の相互理解と信頼醸成を強化していくことが必要である。この一環として、近年の中国の東シナ海における活動の活発化を踏まえ、不測の事態を回避する観点から、日中防衛当局間の「海上連絡メカニズム」の構築を推進する。
ロシアは、アジア太平洋地域の安全保障に大きな影響力を持ち、かつ、わが国の隣国でもあることから、日露の防衛交流を深め、信頼・協力関係を増進させることが重要である。先の日露首脳会談で合意された外務・防衛閣僚による「2+2」会合の立ち上げを含め、積極的に各種レベルでの防衛交流を推進する。 

(3)国際平和協力のための一般法の制定
派遣先での宿営地の共同防衛や緊急時の文民保護といった、これまでの活動の経験から得られた現場が抱える課題を解決するため、PKO法の改正を速やかに実現する。その上で、自衛隊の海外派遣をより迅速かつ効果的に行うことを可能とするため、自衛隊の派遣に応じて、その都度、特別措置法を制定するのではなく、一般法としての「国際平和協力法」を制定する。
 
(4)国際平和協力活動の取組の強化
国際社会における相互依存関係が一層進展していることから、自衛隊が国際社会の平和と安定のために積極的に貢献することの意義はますます増しており、わが国は引き続き積極的に国際平和協力活動に参画していく。
今後は、国際平和協力活動への取組の更なる強化の一環として、PKO派遣司令部の上級ポストへの自衛官の派遣や国際連合のPKO局などの企画立案部門への要員派遣を推進する。また、PKO法の改正に際し、武器使用権限の拡充を検討し、必要な措置をとる。

(5)多様化する国際平和協力任務に対応できる人材育成、能力構築支援
PKO派遣司令部や国連PKO局への派遣も含め多様化する国際平和協力任務に的確に対応するためには、これらを適切に担い得る人材の確保・育成が極めて重要であり、語学はもとより、地域の再構築支援に必要な各種の能力を備えた人材の育成を中長期的な視点で推進する。
また、アジア太平洋地域の途上国に対し、人道支援・災害救援等の非伝統的安全保障分野における人材育成や技術支援などの能力構築支援(キャパシティー・ビルディング)に積極的に取り組む。
このため、これまでの派遣実績と経験をもとに派遣要員の教育と訓練を行う機関としての「国際平和協力センター」を拡充し、自衛官その他の要員の育成を促進する。

(6)戦略的対応の強化
わが国による国際平和協力等の効果を最大化し、もってわが国の国益に資するためには、ODAを始めとする外交活動等の自衛隊以外が主体となる取組も含め、わが国の有する各種の政策手段を戦略的に組み合わせて効果的に対応する仕組みを確立する。

(7)国際平和協力活動の展開基盤の強化
中東・湾岸・北アフリカ地域はわが国のエネルギー供給源としてだけではなく、今後、経済連携の進展が望める重要な地域であり、これら地域における安定と平和の確保はわが国の繁栄と安全保障にとっても必要不可欠である。
このため、現在、自衛隊がジブチに有する拠点を海賊対処活動のみならず、当該地域の国際平和協力活動等の拠点として今後とも引き続き活用することを検討する。

6.大幅な防衛力の拡充
(1)自衛隊の人員・装備・予算の大幅な拡充
厳しさを増す安全保障環境に対応し得る防衛力の量的、質的増強を図るため、自衛隊の人員(充足率の向上を含む)・装備・予算を継続的に大幅に拡充する。
持続的かつ安定的な自衛隊の活動を可能とするため、常備自衛官と予備自衛官の果たす役割を十分に勘案し、海上及び航空自衛隊における予備自衛官の制度の見直しを含め、実効性のある「予備自衛官制度」を実現する。

(2)中長期的な財源確保 
防衛は国家存立の基盤であることから、「大綱」に定める防衛力整備を着実に実現するため、諸外国並の必要な防衛関係費を確保する。また、米軍再編経費など本来、政府全体でまかなうべき経費については、防衛関係費の枠外とすることにより、安定的な防衛力整備を実現する。

 (3)統合運用ニーズを踏まえた中長期的視点にたった防衛力整備
今日の国内外の状況を踏まえた防衛力整備を行うにあたっては、統合運用を基本とする防衛力を重視する。そのために各種の統合オペレーションの結果を精密に分析評価し、不断に統合運用体制の改善を図り、より実効的な防衛力整備を実現する。

7.防衛力の充実のための基盤の強化
 (1)多様な任務に対応できる人材の確保・育成
自衛隊員の階級・年齢構成等の在り方については、陸海空自衛隊の各部隊の特性を踏まえて検討すべきものであり、かかる観点から、階級制度や隊員募集のあり方、早期退職募集制度等の各種人事施策を再検討し、精強性を確保するための制度改革を推進する。
また、優れた人材を継続的に確保する観点から、女性自衛官の更なる活用を図る。加えて、募集広報におけるインターネットや雑誌等の活用を進めるとともに、魅力ある自衛隊のブランドイメージを確立する。
任務の多様化、国際化をうけ、各種の任務を適切に遂行していくためには、各部隊等がそれぞれ実施する任務について、法的な枠組みを理解し、任務の位置づけや手続き等に精通する必要がある。このため、各自衛隊において、防衛法制の専門家の育成を含む各種の専門的な教育訓練プログラムを策定し実行する。

(2)人的資源の効果的な活用
制度上早期に退職しなければならない自衛官の再就職については、自治体の危機管理担当分野を含め、公的部門において退職自衛官を積極的に活用するなど、国としての支援体制を確立する。
また、民間就職支援会社の活用などを含む再就職支援の強化、受入企業に対する税制優遇等の施策を検討し、必要な措置をとる。例えば、第一線を退いた航空機操縦士等の高度な技能・知見を、航空会社等の民間企業において計画的に活用する方策を講じる。

(3)衛生機能の拡充
各種事態において、自衛隊が継続して戦闘能力を維持するためには、真に機能する衛生、医療態勢を確立する必要がある。このため、医官など衛生職種の人材確保をはじめ自衛隊における衛生機能を充実させるための必要な施策をとる。

(4)自衛官に対する地位と名誉の付与
わが国の独立と平和を守り、国の安全を保つことを主任務とする自衛隊における隊務の最高の専門的助言者である幕僚長の職務の重要性に鑑み、特命全権大使、検事総長等の他のいわゆる認証官との関係を整理し、統合及び陸海空各幕僚長の認証官化について検討し、速やかに結論を得る。また、自衛官の叙勲の対象者の拡大を図る。

(5)自衛隊員の処遇改善
隊舎・宿舎の整備や老朽化した施設の建て替えなど、自衛隊員の職場環境の改善を推進する。また、国内外で厳しい任務を遂行している自衛隊員と家族の絆の維持を支援するため、留守家族支援等を含めた自衛隊員の処遇の一層の改善を図る。
さらに、即応態勢を求められる自衛隊員の職務の特性に鑑み、宿舎料については格別の配慮を行うとともに、自衛隊員が退職した後の給付の拡充等の検討を推進し、各種任務に対する献身的な働きに報いる。

(6)防衛生産・技術基盤の維持・強化
国内の防衛産業基盤はわが国の防衛力の一環を成すものであるが、これまでの間の防衛予算の減少や装備品の調達数量の減少により、その基盤が揺らぎつつある。防衛生産・技術基盤の維持・強化については、「国家安全保障基本法」に示される防衛産業の維持育成の指針に基づいて、戦略を策定し、産学官の連携を図り、防衛装備品技術のスピンオンとオフ、民間転用の積極的な推進、そのための税制優遇等の各種施策を実施する。

(7)国際平和とわが国の安全保障強化に資する輸出管理政策の構築
装備品の開発・生産コストの高騰に対応すると同時に技術水準の維持向上のため、強みを有する技術分野を生かしつつ、諸外国との共同開発・生産を積極的に進める。また、武器及び関連技術の輸出に関しては、わが国及び国際社会の平和と安全の確保に資するため、一定の制限の下に個別に輸出の可否を判断する新たな仕組みを構築するなど、改定された武器輸出三原則等に更に検討を加えつつ、近年の安全保障環境と戦略環境に適合する輸出管理政策を策定する。

(8)効率的・効果的かつ、厳正な調達制度の確立
装備品の高性能化・複雑化に伴う単価の上昇や整備維持経費の増加といった現下の装備品調達環境を踏まえつつ、厳しい国家財政事情を勘案し、装備品のライフサイクル管理の強化、維持・整備方法の見直し、調達プロセスの更なる透明化、契約制度の適正化など効率的・効果的かつ、厳正な調達制度の確立を図る。

(9)中長期的な視点に立った最先端の防衛装備品の研究開発の推進
次世代戦闘機の開発など将来を見据え、無人機・ロボット技術やサイバー・宇宙関連技術などの最先端のわが国独自技術の研究開発を戦略的に推進するとともに、そのために必要な体制及び予算を拡充する。
    
(10)地域の安全・安心の確保
自衛隊が安定的に活動するためには、部隊が所在する地域の自治体や住民の理解及び支援が必要不可欠である。
災害出動などを通じて地域の安心安全に貢献している自衛隊の役割に着目し、地域コミュニティにおける自衛隊の役割についての重要性に十分配慮する。また、地元企業からの調達等を含め、地域社会経済の活性化に資する基地運営に努め、地方自治体や地域社会との連携を一層強化する。
さらに、駐屯地・基地等に関する地元対策機能を拡充する観点から、広報体制を充実させるとともに、専従組織の在り方を再検討し、体制の強化を図る。

(11)広報等の情報発信機能の充実強化等
安全保障政策に対する国際社会や国民の広範な理解と支持を得る観点から、ソフトパワーの重要性を認識し、各種ツールを活用して積極的に情報発信を行う。特に、「グレーゾーン」の紛争が増加する今日においては、自国の行為を諸外国に丁寧に説明し、国際社会の理解と支持を得ることが重要である。
また、国民の安全保障、危機管理に対する知識の普及促進のため、安全保障に関する大学講座、社会講座を設置するなどの施策を推進する。

四 おわりに

  以上、記してきたようにわが国を取り巻く安全保障環境には依然として厳しいものがあり、加えて、国際的なパワーバランスにも重大な変化が生じつつあり、テロ・サイバー攻撃などの新たな脅威も依然として継続している。わが国はかかる環境の下、国民の生命・財産、領土・領海・領空を断固として守り抜き、さらに国際社会の平和と安定の構築へ向けてわが国にふさわしい役割を果たしていかねばならない。
  政府はこれら安全保障上の諸課題を決して先送りすることなく、防衛力整備の達成目標とそのスケジュールを明確にした上で、着実に実行に移していかなければならない。
  政府に対し、本提言を参考にして、わが国国防の礎となる新たな「防衛大綱」ならびに「中期防」を策定することを強く要望するものである。

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