2012年08月27日
【書評】「日本の防衛政策」田村重信編著、内外出版
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【書評】「日本の防衛政策」田村重信編著、内外出版
岡崎研究所特別研究員 高峰康修
近年の我が国を取り巻く安全保障環境の緊迫化は、日本国民の国防・安全保障に関する関心を高めている。その結果、以前のような「軍事はタブー」という異常な認識は打破されつつあり、軍事や国家安全保障についてもオープンに議論されるようになってきたのは結構なことである。
しかし、基本的な知識を欠いた安全保障議論は、単なる「安全保障談義」にとどまるものであり、有害無益となる虞なしとしない。それゆえ、高等教育における使用に堪え得ると同時に、広く国民一般にも読まれ理解される、羅針盤となるべき優れたテキストの存在が不可欠である。我が国では、戦後何十年にもわたって続いた軍事忌避のせいで、そうしたテキストには恵まれていないが、必読の書を1冊挙げよと言われれば、迷わず、本書「日本の防衛政策」に指を屈したい。
本書は、長年にわたって自民党における、というよりも、我が国における、安全保障政策の「総元締め」とでもいうべき役割を果たしている、自民党政務調査会調査役の田村重信氏の編著による、我が国の防衛政策の全体にわたって俯瞰した、極めて信頼に足るテキストである。
その内容は、自衛隊発足の経緯からはじまって、我が国の防衛政策の基本原理、防衛法制、サイバー攻撃や生物兵器などの「新しい脅威」への対応、日米安保体制、といった具合に、日本の防衛政策全体にわたる。本書のどの部分からも、我が国の防衛政策についての重要な知識を得ることができよう。
評者が特に関心を持った点を敢えてあげるならば、まず、51大綱(1976年)で示された「基盤的防衛力構想」がどのような経過を経て22大綱(2010年)にいう「動的防衛力構想」という概念に変化して行ったかについて詳述している箇所である。基盤的防衛力構想は、「我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」という受け身的なものであったが、16大綱(2004年)に至って、脅威が及ぶことの防止・脅威の排除、国際安全保障環境の改善、そのための、自助努力、同盟国との協力、国際社会との協力、というように、能動的なものに脱皮した。そして、22大綱では「我が国を取り巻く安全保障課題や不安定要因に起因する様々な事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行ない得る動的な」防衛力を整備すべしという、動的防衛力構想となったのである。意外にもというべきか、我が国の防衛政策の目指す方向性自体は、かなり適切であることが理解できる。しかし、その方針通りに順調に進んでいるかどうかとなれば話は別である。その最大の原因は、いうまでもなく憲法第9条であろう。
もう一点、本書の興味深い点を挙げると、自衛隊の「出自」についての詳述である。占領軍の政策転換によって、陸自が警察予備隊から発展し、海自が海保の中の海上警備隊から発足した経緯、そして、軍隊としての地位が時の日本政府により曖昧にされた経緯が分かりやすく描かれている。自衛隊が「軍隊ではない」のは、直接的には憲法第9条(の解釈)のゆえだが、その政治的背景は、「軍隊でない軍隊」という選択を、外部から押し付けられたのではなく、自ら選択したのだということを明らかにしているように思う。本書は、防衛政策のテキストであるばかりでなく、安全保障というプリズムを通した現代政治史でもあると言えよう。
最後に、本書の前書きから、極めて印象に残る一節をご紹介したい。すなわち、国の旧字は國であるが、この國という字の中にある小さな口は国民・人民、その下の一は土地、戈は武力・軍事力で、外の口は国境をさしており、国にとって武力は古来より不可欠と考えられてきた。他方「武」とは、戈を止めると書く。このように「武力=軍事力」は国の安全保障を確保し戦争を防止するためのものである。この一節は、安全保障のエッセンスを言い表して余すところがない。本書は、こういう問題意識に立って書かれたものである。この一点だけからも本書の価値が窺い知れる。
是非、本書が幅広く読まれ、日本国民の安全保障についての理解が深まることを、強く期待したい。なお、我が国の防衛法制についてさらに詳しい知識を得たい読者には、姉妹書ともいうべき「日本の防衛法制」の併読をお薦めする。北朝鮮問題や中国の政治的・軍事的圧力の高まりを前にして、我が国の防衛政策はさらに能動的なものとなっていく必要があり、そうなっていくであろうが、本書は、そのための議論の出発点を正確に示してくれている。(了)
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【書評】「日本の防衛法制(第2版)」田村重信他・編著
本書『日本の防衛法制(第2版)』田村重信・高橋憲一・島田和久編著(内外出版)は、我が国の防衛法制のほぼ全分野にわたる詳細なコメンタールである。編集の総責任者である田村重信氏(自由民主党政務調査会調査役、慶応大大学院講師)は、自由民主党を、というよりも、我が国を代表する、防衛政策の第一人者の一人である。そして、実際に執筆に当たっているのは、防衛省で実務の最前線にいる若手官僚である。こういう成り立ちであってみれば、本書が現時点で最も信頼できる、我が国の防衛法制についての解説書となったのは、当然のことであろう。
本書が画期的であるのは、全て、政府による国会答弁、すなわち政府の公式解釈に基づいて厳格な解説がなされている点である。憲法9条の解釈から始まって、各論にいたるまで、一切例外はない。いうまでもなく、我が国は法治国家であるから、防衛政策は防衛法制に則って遂行されている。それゆえ、防衛政策の現状を正確に理解するためにも、あるべき防衛政策について論じるにも、好むと好まざるとにかかわらず、防衛法制に関する政府の公式解釈が出発点とならなければならない。
昨今、防衛への関心が高まりつつあるのは結構なことである反面、あまりにも我が国の防衛法制の実態を無視した、地に足のつかない議論が散見される。本書の前書きにも「日本の安全保障・防衛政策を議論する際に、日本のユニークな防衛法制の実態をキチンと踏まえない議論は極めて有害である」とあるが、全くその通りであると思う。それは、決して現状追認ということではない。出発点を適切にとらなければならないということである。本書は、その要求にいささかの不足もなく応えてくれる。
本書は、我が国の官僚の優秀さも改めて教えてくれる。それは、本書を読んでいると、あの奇妙な憲法9条の解釈から、何とか我が国の防衛政策が有効なものになるよう、アクロバティックともいえる工夫が幾重にも重ねられていることがひしひしと伝わってくるという点である。これには驚嘆せざるを得ないと同時に、苦労がしのばれる。そこから、「もういい加減に憲法を改正してくれ」という悲鳴を読み取るのは、深読みに過ぎるだろうか。
本書は、我が国の安全保障に関心を持つ者にとって必携の書である。広く読まれ、適切な防衛論議がなされることを期待したい。
最後に、私事で恐縮だが、防衛法制に関する文章を書く時には、本書の第1版に大いにお世話になった。海賊対処法、貨物検査特措法を踏まえて改訂された第2版にも、お世話になることと思う。(了)
(なお、これは高峰康修の世直しブログに載っています。)