2011年10月31日
谷垣禎一自民党総裁の代表質問(その2)
四、TPP
過去2代にわたる民主党政権によってわが国の外交の基盤は大きく揺らぎ、今やその失地回復にのみ汲々とせざるをえないのが現状です。普天間基地移設問題についても、その迷走によって米国との信頼関係を大きく損ねたために、政府・与党はそのツケをなりふり構わず返そうとしているかのように見受けられます。TPP交渉への参加をめぐっても同様です。
そもそも、日米関係において日々の情報交換や意見調整等が円滑になされていれば、このような切迫した事態に陥ってはいなかったはずです。また、国益に関わる重要事項にも関わらず、政府が情報を提供しないため、参加の可否を判断するための国民的議論が全く熟しておりません。それに加え、藤村官房長官や前原政調会長は、交渉途中の離脱の可能性を明言されていますが、入口から逃げ腰の国を相手に、他の参加予定国が真剣に向き合うことはありえません。
これまでの経緯から昨今の騒動まで、極めて稚拙な取り運びとなっていることについて、民主党ならびに野田政権の責任は極めて重いものと考えますが、その点について総理の見解を伺います。
いずれにせよ、わが国は世界にモノを売って自国で賄いきれないエネルギーを買って成り立っている以上、自由貿易体制を志向せざるをえず、その中で国内産業にも十分な目配りをする。
その際、不断の外交努力で自らの国益を主張し、他国の譲歩を可能な限り引き出すとともに、国内産業に対しては、不安と弊害を払拭すべく、財源に裏付けられた対策を適切に講じていくことが、わが国の基本戦略ではないでしょうか。前者は先ほど指摘しましたが、後者についてもその対策が不十分なものと考えます。
民主党政権は農家の戸別所得補償制度を推進していますが、これは基本的には価格差補填の仕組みです。従って、関税障壁が除かれて市場価格が払底しても、これより高い生産価格との価格差を補填することでTPPへの一定の対応策にはなります。しかし、価格差が拡大していけば、それを埋めていくための巨額の財源を要します。
TPPで輸出企業に、戸別所得補償で農家にもいい顔をし、その結果財源はないとなれば、まさにあの詐欺マニフェストと同じことです。そもそも、財源が限られた中では、頑張って競争力を発揮できる農家には担い手として支援するとともに、農業の多面的機能の観点からも直接支払いを中心として支えていくといった政策目的に応じた農業政策こそが求められるものと考えます。その見極めもないままばらまくのみでは、財源は枯渇して結局は農業を守ることもできず、民主党が50%とまで掲げた食料自給率はみるみる低下し、農村は荒廃し過疎化が進む一方となります。
政府においては積極的に情報を開示し、今後の確たる展望を示すことで国民の議論に供するよう強く求めます。APECも差し迫っていますが、TPPがもたらすメリット、デメリットは具体的に何か、TPP交渉に参加するのか否か、野田総理の明確な答弁を求めます。
五、国家公務員給与特例法案
野田総理が早期成立の意欲を示している国家公務員給与特例法案について伺います。わが党は、国家公務員の給与引下げ自体に反対しているわけではありません。協約締結権とセットであることを問題視するとともに、人事院勧告を実施したうえで、さらに深掘りすべきと考えています。これによって地方公務員等を含め、より大きな削減が実現できるわけです。
さて、本法律案は、その策定過程で自治労、日教組が大宗を占める職員団体と交渉を行った結果まとまったものと承知しており、官が身を切るという一見改革的でありながら組合配慮ありきの法律案であるとすれば、働きアリの税金に白アリがたかる構図が総理の足元で始まっているということとなりかねません。
その点に関してまずは協約締結権の付与を行う国家公務員制度改革関連4法案との関係を確認します。給与特例法案が仮に協約締結権の付与と交換条件になっているとしたら、本法案は組合天国への誘い水であるということになり、論外です。連合などはホームページで10月11日の政府とのトップ会談における「国家公務員制度改革関連法案と国家公務員給与特例法案を同時期に成立をめざすという基本姿勢は変わっていない。」という関係閣僚の答弁を成果として喧伝していますが、これは事実でしょうか。
4法案とのセットを組合と取引しているとすれば、復興財源捻出を装いながら、実際は協約締結権の取得対価としての手垢にまみれた引下げ法案であることになり、われわれとしては審議にも値しないということになります。この答弁をした閣僚を明らかにしていただくとともに、事実であるとすれば撤回を求めます。事実でないとすれば、この答弁を否定し、4法案の処理とは完全に切り離す旨をこの場で明言してください。
重ねてお尋ねします。政府は、閣議決定において国家公務員給与特例法案は人事院勧告の趣旨を内包しているとして人事院勧告不実施を決めましたが、人勧の趣旨は労働基本権の制約の代償に尽きるといっても過言ではありません。給与特例法案は、人勧どおりの▲0.23%ではなく▲7.8%にまで労働者の給与を一段と大幅に引き下げるわけですが、これのどこがどうしてその趣旨を含むことになるのでしょうか。含んでいないとすれば虚偽の閣議決定であったということになりますし、人勧無視の憲法違反ということになります。含んでいることになれば、それこそ4法案とは連動しないものであることが明らかになるので、4法案の棚上げを求めます。この点の確認をお願いします。
なお、内包しているという閣議決定がそのとおりであれば、独立行政法人、義務教育国庫負担金を始め、国家公務員給与の改定に伴う公的部門の人件費に関する扱いは、人勧の際とまったく同様でなければ閣議決定が偽りとなることを申し添えます。
いずれにしても、内包云々という苦しい説明をしていますが、政府には、人勧を実施したうえで給与特例法案も成立させる選択肢もあったのに、わざわざダイレクトに人勧を不実施にする理由がどこにあったのでしょう、是非ご教示ください。人勧不実施を高らかに謳う背景に、よもや人勧制度の廃止、協約締結権の付与に向けて、人勧不実施の実績を作りたいという何らかの政治的思惑はなかったのか、あわせて伺います。
国民の皆様には、各種の組合が政府に対して人勧不実施を申し入れているという事実を申し添え、組合依存という民主党の実態をよく見極めていただくとともに、保守政治家を自認する野田総理におかれては、是非、組合との取引によって国政が壟断されることがないよう衷心からご忠告申し上げます。何かおっしゃりたいことがあれば反論していただいて結構です。
六、選挙制度改革・1票の格差是正
次に、選挙制度改革と1票の格差是正について伺います。
先般、衆議院の選挙制度について各党の協議会がスタートしました。わが党も具体的な提案を行い、積極的に参画してまいります。私は、既に衆議院議員の任期が2年を切っており、まずは当面の対応として、衆議院の小選挙区における1票の格差が憲法違反と判断されている状態を一刻も早く解消すべきと考えます。そのためには、現在、最高裁判決を受けてストップしているいわゆる「区割審」の審議を早急に再開することが、不可欠の第一歩となります。今国会でその前提となる条件をクリアする必要があると考えますが、野田総理は、どのような条件が整えば審議を再開できると理解しているのか伺います。
また、区割審が直ちに調査審議を進めたとしても、来年2月25日の期限までに審議を終えて勧告を行うことが困難な場合、勧告期限の延長期間は必要最小限のものとすべきです。早期の解散を避ける意図を持って、わざと長く延長しているといった疑念を国民に抱かれるようなことがあってはなりません。延長は最小限の期間とし、勧告が出たら速やかに区割を改定する法律を成立させる。かつ、その公布から施行までの間、すなわち周知期間は10年前と同様の1ヶ月とすべきであると考えます。この点についての野田総理の見解を確認します。
1票の格差是正のための区割の改定は、先ほど述べた手順で行けば、次期通常国会のうちに実現し、憲法に違反しない制度で国民に信を問うことが可能となります。なお、それまでの間においても、今の民主党政権の状態では、即刻解散総選挙を行う以外に日本を救う道がないという状況を迎えることも十分考えられます。その場合には、私は、現行制度の下での解散総選挙も必要だと考えています。区割審の審議や法改正の途上である場合でも、解散権は常に制約されないと理解しておりますが、この解散権の解釈について、野田総理の見解をここで明確にお示しください。
なお、最高裁判決から1年を経過しても国会が法改正の道筋をつけられないことは、国会の権威にかかわる重大問題であると重ねて申し上げておきます。
七、政治資金問題
本日は多々政策課題について伺いましたが、政策を実現するにあたっては何よりその主体となる為政者の資質が問われます。「クリーンな政治」を標榜する民主党において、野田総理をはじめ鳩山元総理、菅前総理、小沢元代表、前原政調会長などの幹部が、相次いで政治資金問題を引き起こしているまま、その説明責任も十分に果たされてきていないことは、その資質の欠如の表れと言えます。われわれはこの問題を徒に復旧・復興の議論の妨げとするつもりはありませんが、政党間の信頼関係を構築し、議論を円滑に進めるための環境整備に意を砕くことは与党の務めです。これに関して二つ伺います。
まず、野田総理ご自身の外国人及び脱税関係企業からの献金問題について、今国会において説明責任を必ず果たしていただくよう求めます。9月3日に「調査する。結果が出たら報告する。」と述べてから途中経過の報告も公表のメドも示さないままに2ヶ月が経ちます。また、小沢元代表に対し、国民から選ばれた公人として証人喚問に応じ、国会においてその説明責任を果たすよう民主党代表として指導力を発揮するのかどうか、総理は誠実かつ明確にお答えください。
八、おわりに
先の臨時国会において私は野田総理に対し保守政治家としての理念を問い、民主党の理念のあらわれである綱領の有無について伺いましたが、いずれも明確な回答を得られませんでした。政権発足後しばらくは野田三原則、「余計なことは言わない・やらない、派手なことをしない、突出しない」との安全運転等のおかげか、大きな混乱はもたらされませんでした。しかし、これは何の政策も進められなかったわけであり、言わば停滞です。
結局は、理念なき総理、綱領なき政党において、大局的な政策判断のものさしを欠く以上、内政・外交にわたる重要課題を乗り越えていくことはできません。
それに加え何より、マニフェストの破綻とかつて自らが批判した信を受けないままの総理たらい回しによって、この政権には、主権者たる国民に対して正統性を欠いていることは明らかです。被災地で延期されていた地方選挙も11月20日には全て実施されるとともに、復旧・復興の補正予算も3次を数えるに至りました。
にもかかわらず、復興を理由に被災地を含む全国民との契約違反の状態は、放置されたままにあります。国民との契約違反の十字架を背負い、国民からの信という権威の裏付けもないがゆえに、確たる政策体系は構築できず、その場を取り繕うことのみが、野田政権の許容範囲に過ぎません。
従って、今後一気に押し寄せるであろう政治的かつ政策的な矛盾によって、これまで同様もしくはそれ以上の政治的混乱がもたらされることは不可避であり、早晩行き詰ることは必至です。
この混乱を回避し、国政の停滞を打開するためには、解散総選挙によって国民との再契約を行って信を受け、大事にあたるための政権の基礎体力を回復することが求められます。それを欠いたままで、マニフェスト違反の消費税や普天間問題、TPPや選挙制度改革といった重要課題を全て乗り越えられるとお考えでしょうか。これらの課題を総合的に組み立て、実現していくためには、「政治の力」を要するわけであり、各省が行政の発想で描く絵のとおりには決して事は進みません。
何を為すこともなかった2代にわたる「亡国の宰相」の轍を踏まない為にも、賢明なる回答を野田総理に心から期待し、私の質問を終わります。
(以上)
過去2代にわたる民主党政権によってわが国の外交の基盤は大きく揺らぎ、今やその失地回復にのみ汲々とせざるをえないのが現状です。普天間基地移設問題についても、その迷走によって米国との信頼関係を大きく損ねたために、政府・与党はそのツケをなりふり構わず返そうとしているかのように見受けられます。TPP交渉への参加をめぐっても同様です。
そもそも、日米関係において日々の情報交換や意見調整等が円滑になされていれば、このような切迫した事態に陥ってはいなかったはずです。また、国益に関わる重要事項にも関わらず、政府が情報を提供しないため、参加の可否を判断するための国民的議論が全く熟しておりません。それに加え、藤村官房長官や前原政調会長は、交渉途中の離脱の可能性を明言されていますが、入口から逃げ腰の国を相手に、他の参加予定国が真剣に向き合うことはありえません。
これまでの経緯から昨今の騒動まで、極めて稚拙な取り運びとなっていることについて、民主党ならびに野田政権の責任は極めて重いものと考えますが、その点について総理の見解を伺います。
いずれにせよ、わが国は世界にモノを売って自国で賄いきれないエネルギーを買って成り立っている以上、自由貿易体制を志向せざるをえず、その中で国内産業にも十分な目配りをする。
その際、不断の外交努力で自らの国益を主張し、他国の譲歩を可能な限り引き出すとともに、国内産業に対しては、不安と弊害を払拭すべく、財源に裏付けられた対策を適切に講じていくことが、わが国の基本戦略ではないでしょうか。前者は先ほど指摘しましたが、後者についてもその対策が不十分なものと考えます。
民主党政権は農家の戸別所得補償制度を推進していますが、これは基本的には価格差補填の仕組みです。従って、関税障壁が除かれて市場価格が払底しても、これより高い生産価格との価格差を補填することでTPPへの一定の対応策にはなります。しかし、価格差が拡大していけば、それを埋めていくための巨額の財源を要します。
TPPで輸出企業に、戸別所得補償で農家にもいい顔をし、その結果財源はないとなれば、まさにあの詐欺マニフェストと同じことです。そもそも、財源が限られた中では、頑張って競争力を発揮できる農家には担い手として支援するとともに、農業の多面的機能の観点からも直接支払いを中心として支えていくといった政策目的に応じた農業政策こそが求められるものと考えます。その見極めもないままばらまくのみでは、財源は枯渇して結局は農業を守ることもできず、民主党が50%とまで掲げた食料自給率はみるみる低下し、農村は荒廃し過疎化が進む一方となります。
政府においては積極的に情報を開示し、今後の確たる展望を示すことで国民の議論に供するよう強く求めます。APECも差し迫っていますが、TPPがもたらすメリット、デメリットは具体的に何か、TPP交渉に参加するのか否か、野田総理の明確な答弁を求めます。
五、国家公務員給与特例法案
野田総理が早期成立の意欲を示している国家公務員給与特例法案について伺います。わが党は、国家公務員の給与引下げ自体に反対しているわけではありません。協約締結権とセットであることを問題視するとともに、人事院勧告を実施したうえで、さらに深掘りすべきと考えています。これによって地方公務員等を含め、より大きな削減が実現できるわけです。
さて、本法律案は、その策定過程で自治労、日教組が大宗を占める職員団体と交渉を行った結果まとまったものと承知しており、官が身を切るという一見改革的でありながら組合配慮ありきの法律案であるとすれば、働きアリの税金に白アリがたかる構図が総理の足元で始まっているということとなりかねません。
その点に関してまずは協約締結権の付与を行う国家公務員制度改革関連4法案との関係を確認します。給与特例法案が仮に協約締結権の付与と交換条件になっているとしたら、本法案は組合天国への誘い水であるということになり、論外です。連合などはホームページで10月11日の政府とのトップ会談における「国家公務員制度改革関連法案と国家公務員給与特例法案を同時期に成立をめざすという基本姿勢は変わっていない。」という関係閣僚の答弁を成果として喧伝していますが、これは事実でしょうか。
4法案とのセットを組合と取引しているとすれば、復興財源捻出を装いながら、実際は協約締結権の取得対価としての手垢にまみれた引下げ法案であることになり、われわれとしては審議にも値しないということになります。この答弁をした閣僚を明らかにしていただくとともに、事実であるとすれば撤回を求めます。事実でないとすれば、この答弁を否定し、4法案の処理とは完全に切り離す旨をこの場で明言してください。
重ねてお尋ねします。政府は、閣議決定において国家公務員給与特例法案は人事院勧告の趣旨を内包しているとして人事院勧告不実施を決めましたが、人勧の趣旨は労働基本権の制約の代償に尽きるといっても過言ではありません。給与特例法案は、人勧どおりの▲0.23%ではなく▲7.8%にまで労働者の給与を一段と大幅に引き下げるわけですが、これのどこがどうしてその趣旨を含むことになるのでしょうか。含んでいないとすれば虚偽の閣議決定であったということになりますし、人勧無視の憲法違反ということになります。含んでいることになれば、それこそ4法案とは連動しないものであることが明らかになるので、4法案の棚上げを求めます。この点の確認をお願いします。
なお、内包しているという閣議決定がそのとおりであれば、独立行政法人、義務教育国庫負担金を始め、国家公務員給与の改定に伴う公的部門の人件費に関する扱いは、人勧の際とまったく同様でなければ閣議決定が偽りとなることを申し添えます。
いずれにしても、内包云々という苦しい説明をしていますが、政府には、人勧を実施したうえで給与特例法案も成立させる選択肢もあったのに、わざわざダイレクトに人勧を不実施にする理由がどこにあったのでしょう、是非ご教示ください。人勧不実施を高らかに謳う背景に、よもや人勧制度の廃止、協約締結権の付与に向けて、人勧不実施の実績を作りたいという何らかの政治的思惑はなかったのか、あわせて伺います。
国民の皆様には、各種の組合が政府に対して人勧不実施を申し入れているという事実を申し添え、組合依存という民主党の実態をよく見極めていただくとともに、保守政治家を自認する野田総理におかれては、是非、組合との取引によって国政が壟断されることがないよう衷心からご忠告申し上げます。何かおっしゃりたいことがあれば反論していただいて結構です。
六、選挙制度改革・1票の格差是正
次に、選挙制度改革と1票の格差是正について伺います。
先般、衆議院の選挙制度について各党の協議会がスタートしました。わが党も具体的な提案を行い、積極的に参画してまいります。私は、既に衆議院議員の任期が2年を切っており、まずは当面の対応として、衆議院の小選挙区における1票の格差が憲法違反と判断されている状態を一刻も早く解消すべきと考えます。そのためには、現在、最高裁判決を受けてストップしているいわゆる「区割審」の審議を早急に再開することが、不可欠の第一歩となります。今国会でその前提となる条件をクリアする必要があると考えますが、野田総理は、どのような条件が整えば審議を再開できると理解しているのか伺います。
また、区割審が直ちに調査審議を進めたとしても、来年2月25日の期限までに審議を終えて勧告を行うことが困難な場合、勧告期限の延長期間は必要最小限のものとすべきです。早期の解散を避ける意図を持って、わざと長く延長しているといった疑念を国民に抱かれるようなことがあってはなりません。延長は最小限の期間とし、勧告が出たら速やかに区割を改定する法律を成立させる。かつ、その公布から施行までの間、すなわち周知期間は10年前と同様の1ヶ月とすべきであると考えます。この点についての野田総理の見解を確認します。
1票の格差是正のための区割の改定は、先ほど述べた手順で行けば、次期通常国会のうちに実現し、憲法に違反しない制度で国民に信を問うことが可能となります。なお、それまでの間においても、今の民主党政権の状態では、即刻解散総選挙を行う以外に日本を救う道がないという状況を迎えることも十分考えられます。その場合には、私は、現行制度の下での解散総選挙も必要だと考えています。区割審の審議や法改正の途上である場合でも、解散権は常に制約されないと理解しておりますが、この解散権の解釈について、野田総理の見解をここで明確にお示しください。
なお、最高裁判決から1年を経過しても国会が法改正の道筋をつけられないことは、国会の権威にかかわる重大問題であると重ねて申し上げておきます。
七、政治資金問題
本日は多々政策課題について伺いましたが、政策を実現するにあたっては何よりその主体となる為政者の資質が問われます。「クリーンな政治」を標榜する民主党において、野田総理をはじめ鳩山元総理、菅前総理、小沢元代表、前原政調会長などの幹部が、相次いで政治資金問題を引き起こしているまま、その説明責任も十分に果たされてきていないことは、その資質の欠如の表れと言えます。われわれはこの問題を徒に復旧・復興の議論の妨げとするつもりはありませんが、政党間の信頼関係を構築し、議論を円滑に進めるための環境整備に意を砕くことは与党の務めです。これに関して二つ伺います。
まず、野田総理ご自身の外国人及び脱税関係企業からの献金問題について、今国会において説明責任を必ず果たしていただくよう求めます。9月3日に「調査する。結果が出たら報告する。」と述べてから途中経過の報告も公表のメドも示さないままに2ヶ月が経ちます。また、小沢元代表に対し、国民から選ばれた公人として証人喚問に応じ、国会においてその説明責任を果たすよう民主党代表として指導力を発揮するのかどうか、総理は誠実かつ明確にお答えください。
八、おわりに
先の臨時国会において私は野田総理に対し保守政治家としての理念を問い、民主党の理念のあらわれである綱領の有無について伺いましたが、いずれも明確な回答を得られませんでした。政権発足後しばらくは野田三原則、「余計なことは言わない・やらない、派手なことをしない、突出しない」との安全運転等のおかげか、大きな混乱はもたらされませんでした。しかし、これは何の政策も進められなかったわけであり、言わば停滞です。
結局は、理念なき総理、綱領なき政党において、大局的な政策判断のものさしを欠く以上、内政・外交にわたる重要課題を乗り越えていくことはできません。
それに加え何より、マニフェストの破綻とかつて自らが批判した信を受けないままの総理たらい回しによって、この政権には、主権者たる国民に対して正統性を欠いていることは明らかです。被災地で延期されていた地方選挙も11月20日には全て実施されるとともに、復旧・復興の補正予算も3次を数えるに至りました。
にもかかわらず、復興を理由に被災地を含む全国民との契約違反の状態は、放置されたままにあります。国民との契約違反の十字架を背負い、国民からの信という権威の裏付けもないがゆえに、確たる政策体系は構築できず、その場を取り繕うことのみが、野田政権の許容範囲に過ぎません。
従って、今後一気に押し寄せるであろう政治的かつ政策的な矛盾によって、これまで同様もしくはそれ以上の政治的混乱がもたらされることは不可避であり、早晩行き詰ることは必至です。
この混乱を回避し、国政の停滞を打開するためには、解散総選挙によって国民との再契約を行って信を受け、大事にあたるための政権の基礎体力を回復することが求められます。それを欠いたままで、マニフェスト違反の消費税や普天間問題、TPPや選挙制度改革といった重要課題を全て乗り越えられるとお考えでしょうか。これらの課題を総合的に組み立て、実現していくためには、「政治の力」を要するわけであり、各省が行政の発想で描く絵のとおりには決して事は進みません。
何を為すこともなかった2代にわたる「亡国の宰相」の轍を踏まない為にも、賢明なる回答を野田総理に心から期待し、私の質問を終わります。
(以上)