2009年05月22日

新しい資本主義(原 丈人著、PHP新書)

原 サブタイトルが、「希望の大国・日本の可能性」という、極めて内容があり、元気の出る本だ。ご一読をおすすめします。
 以下、著者の(あとがき)を掲載します。

 希望とは何だろうか。そして幸せとは何だろうか。
 いま、このことについて、どれだけ真剣に考えられているだろうか。
 本文でもふれたとおり、経済学は数字で表せないものをすべて捨て去ってしまい、「幸せ」という考え方さえ、数値化し、尺度に頼るような風潮を撒き散らしてきた。そのためもあって、「お金をもっていることこそが幸せ」、あるいは「幸せになるためにはお金儲けをしなければならない」などという考えが大いに広まってしまった。

 たしかに、お金をもっているかもっていないかの尺度で測れば、どんな愚か者でもくらべてみることができるだろう。だが、ほんとうにそれが正しいのか。

 私はベンチャーキャピタリストとして、富豪を五〇〇人以上は生み出してきたが、見ているとみな、その後ろくな人生を送っていない。
 いちばんお金持ちになったのは、ネットバブルのときに私が出資した会社の社長だった。
 スイス人の貧しい青年だったが、三十歳くらいで、いきなりキャッシュで五〇〇億円を手にしたのである。貧しかった反動で大きな家に住みたいと思ったのか、彼はお城を買った。かつての大富豪ならば、子どものときから召使いにかしずかれることに慣れていただろうが、子どものころ親子だけで慎ましく生きてきたような人間が、急に使用人という「他人」といっしょに生活したら、それだけでも精神的に不安定になってしまうものだ。

 あるいは、お金をもつと、みずからのステータスを満足させるために、プライベートジェットに乗りたいなどと思う人が多いようだが、プライベートジェットは空港でのプライオリティが低いために、わざわざ主要空港から遠い空港に駐機させられて、結局、そこまでの移動に時間がかかってしまう。

 ステータスを満足させれば幸せになると思い込み、さまざまなことにお金を注ぎ込んではみるものの、実際にはお金がかかりすぎるわりに便利さは得られず、また、値段が高いからといって特段においしいものが食べられる保証もない。うわべのカッコよさなど、現実の幸福とは何の関係もないのである。

 そもそも、お金というものは、「幸せになりたい」という夢をかなえるための道具にすぎない。しかも、これまで数多くのお金持ちたちを見てきた経験からすれば、必要以上のお金を手にすると、かえって真の目的はかなえられなくなるものである。目的は、必要な金額よりちょっと少ないくらいのお金をもっているときにこそかなえられるものであって、お金がありすぎたら、目的は絶対にかなわない。そういうものなのである。

 日本は、「残りものには福がある」という言葉が「生きた言葉」として残っている、めずらしい国である。アングロサクソンの社会では、力の強い者、権力のある者、お金をもっている者がいちばんいいものを手にできると人びとは信じている。だからとにかく、そのような存在になりたがる。最後に余ったものなど、ろくなものではない、というのが彼らの常識なのである。

 しかし、みんながいちばんいいと思ったものは、じつは「いいものではなかった」ということが多いのだ。なぜなら「いいもの」とは、人間が頭の中で計算して判断した結果の価値観だが、所詮、人間が計算できることなど、どんなに頭がよくても限られているからである。計算方法がたいしたものでない以上、それで判断した「いいもの」だって、じつはたいしたものではないのである。

 人生もそうだ。
 私はアメリカのビジネススクールの後輩たちに、よくこう話す。
「君たちは頭がいいから、人生の最短コースを突っ走ってキャリアをつくりあげて、若いうちに有力なポジションに就こうと思って生きているんだろう。しかし、人生はそんなものではない。君ら程度で考える最短コースなど、じつは最短ではないんだよ」

 いちばん重要なのは、目の前に与えられたことを一生懸命、誠心誠意コツコツとやっていくことなのだ。それはつまらないことかもしれない。嫌なことかもしれない。しかし、どのようなことであれ、自分で経験したことは必ず一生のうちで無駄にはならない。その基本的な姿勢を忘れてはいけないと思う。

 第五章の最後に書いたように、日本は、長い歴史のなかで独自の倫理と資本主義の精神を培い、高い技術力を磨き、ものづくりを中心に実業をコツコツと積み上げてきた。「そんなことを続けていたら時代から取り残されてしまう」と、こうした日本のあり方を馬鹿にするような議論もさまざまになされてきたが、それでも日本の現場では、そのよう努力が営々と続けられてきた。

 その積み重ねが、いまの日本の底力をつくりあげている。日本人としてまず、このことに大きな自信と誇りをもつべきなのだ。
 アメリカ発の金融危機によって、これまで「幸せへの最短コース」だと表の人間たちが固く信じていた金融資本主義がもろくも崩れた。今後、世界がどのような局面に向かうか、議論も百出している。

 だが、日本人はこんなときにこそ肝に銘ずるべきなのだ。幸せへの最短コースとは、目の前にあるこの道を誠実に歩むことなのだ、と。基本に忠実に、正しいと思うことを「急がばまわれ」の精神でやりとげていくことなのだ、と。

 本書が、そのような道を歩もうとする人びとにとっての「一つの道しるべ」になれば、著者として大きな喜びである。

shige_tamura at 13:40│Comments(0)TrackBack(0)clip!本の紹介 

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