2009年04月22日

北の核ミサイルは「政治兵器」・中国軍事専門家・平松茂雄

 北朝鮮のミサイル発射を冷静に考える上で参考になる産経新聞【正論】中国軍事専門家・平松茂雄氏の「北の核ミサイルは「政治兵器」」(4.20)は大いに参考になりました。
 僕と平松茂雄氏とは某研究会のメンバーです。以下、掲載します。


 ≪弾頭も衛星も同ロケット≫

 筆者は核兵器やミサイルの専門家でないが、今回の北朝鮮のミサイル発射実験に関するわが国のマスコミの報道や解説を読んでいて、腑(ふ)に落ちないところがいくつかある。
 一つは、核ミサイル開発と宇宙開発、具体的には、核弾頭と衛星の関係やロケットとミサイルの関係について、ミサイル開発は軍事目的だから危険だが、衛星は平和利用だから問題ないとの見方である。筆者の理解では、同じロケットに核弾頭を搭載すれば弾道ミサイルになるが、衛星を打ち上げるのも同じロケットである。

 中国は同じロケットで核弾頭と衛星を打ち上げている。例えば1970年、初めて人工衛星を打ち上げたロケット「長征1号」は中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射するロケットである。これにより日本はじめ中国周辺諸国はその射程内に入った。蛇足ながら、当時も今も日本にはそのような認識はほとんどない。

 それから10年後の1980年に、中国は南太平洋のフィジー諸島近海に大陸間弾道ミサイルを発射した。この時は核弾頭ではなく、実験機材を装備したカプセルを搭載した。80年代以降中国の宇宙開発は本格化するが、衛星を打ち上げるのは、長征1号を衛星の目的に合わせて改良した十数種類のロケットである。

 90年代に入ると、中国の宇宙開発は宇宙ステーション=宇宙軍事基地の設置に向けて進展し、今世紀に入って有人宇宙船を3回打ち上げた。この有人宇宙船を打ち上げたロケット「長征2F号」は米国に届く大陸間弾道ミサイルを発射するロケットである。大きくて重い有人宇宙船を打ち上げて、自在に軌道を修正したばかりか、予定の場所に帰還させた。核弾頭は小さくて軽いから、中国の大陸間弾道ミサイルの精度は相当の水準に達しているとみられる。

 北朝鮮の核ミサイル開発は中国の後を追いかけている。今回の実験の目的が衛星かミサイルか、成功か失敗かは筆者には分からない。だが、予定の海域に到達したというから、核弾頭搭載を目的としたミサイル発射実験としては成功したといえよう。

 ≪数千万人の餓死者も容認≫

 もう一つは、核ミサイル開発は金正日政権の存続をかけて、人民の生活を犠牲にして強行され、数百万人の人民が餓死ないしそれに近い状態にあるという報道や見方である。中国でも、核ミサイル開発を断行した時期は、それに劣らない大変な国内事情であった。

 中国では核開発を断行した1950年代末から60年代にかけて2000万人の餓死者が出たといわれた。数年前わが国でも翻訳されたユン・チアン『マオ』では、6000万人という驚くべき数字が出ている。当時の中国の人口は6億5000万人とみられるから、10人に1人が餓死ないしそれに近い状態であったことになる。

 筆者はこの数字に疑問を感じているが、今から50年前に毛沢東は「一皿のスープを皆で啜(すす)りあっても、ズボンを履(は)かなくても」との決意で核ミサイル兵器を開発した。悪評の高い大躍進・人民公社はそのために採用した政策である。そういう認識が中国研究、中国認識に欠落している。人民の満ち足りた生活を考慮しては、核ミサイル開発はできなかった。

 限られた財源、資源、技術を核ミサイル開発に集中する。人民大衆は「自力」で生活するのが「大躍進」であり、米国や旧ソ連の核攻撃を受けた場合は、農村に「星をちりばめた」ように作った「人民公社」で生き延びるのだ。

 ≪開発環境恵まれた金政権≫

 その中国と現在の北朝鮮の国際環境はまったく異なる。中国は建国以来米国の核兵器にさんざん威嚇されて、核ミサイル開発を決断する。それが原因となって旧ソ連との同盟関係は一転して対立関係となった。核ミサイル威嚇だけでなく、長大な国境線を越えて「100万の大軍」がいつ侵入してくるかもしれない状況の中で、中国の核ミサイル開発は遂行された。

 それに比べ、北朝鮮の核ミサイル開発の国際環境は大変恵まれている。米国や韓国、日本から、軽水炉や原油、食糧を供給するから核ミサイル開発をやめなさいといわれるが、各国の対応は好意的ですらある。北の核ミサイルに中国の立場は微妙だが、中国によって庇護(ひご)されている面もある。このように恵まれた環境のなかで北朝鮮の核ミサイル開発は進展しているのである。

 核ミサイル開発を達成した中国を世界はもはや放っておけなくなった。国連加盟、米中接近をへて今日、中国は「世界の大国」に成長した。その最大要因はトウ小平の改革開放ではなく、毛沢東の核ミサイル開発である。核ミサイルの開発がなければ改革開放はなく、中国は今でも発展途上国、小国として相手にされていないだろう。

 北朝鮮は中国が来た道を辿(たど)ろうとしている。実際には使えない兵器であるにしても、核ミサイルは「政治兵器」であることを、日本はいまこそ明確に認識する必要がある。

shige_tamura at 11:48│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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