2008年11月25日

日米同盟の静かなる危機(ケント・E・カルダー著、渡辺将人訳、ウェッジ)

ケント『日米同盟の静かなる危機』(ケント・E・カルダー著、渡辺将人訳、ウェッジ)

 ケント・E・カルダー氏は、数年前に学生と一緒に僕を訪ねて自民党本部に来られ、政治、安全保障・憲法について議論をしたことがあった。
 日本のことをよく知っているアメリカ人だ。その、カルダー氏が、『日米同盟の静かなる危機』を出版した。
 早速購入し、一気に読んだ。感想は、「大変勉強になった。とても良い本。」ということだ。これは、安全保障・外交に関係する学者・役人・自衛官等にとって、必読書といっていいだろう。
 僕が困ったのは、この本は紹介したい箇所が多すぎるということだった。

 興味深かったのは、アーミテージレポートには、「日米関係は米英関係を参考に」が、カルダー氏は、「日米関係は米独関係を参考に」とある。なるほどと思った。

 今回は、「第9章(最終章) 将来への処方箋」から「強固で尊敬される同盟に向けて」を以下掲載します。

 これまで過去に存在したすべての持続性のある安全保障パートナーシップと同じように、日米同盟は三本の柱に依拠している。つまり、軍事力、経済相互依存、そして文化、政治コミュニケーションである。この三本の柱のうちどれか一つでもしっかりとしていないと、太平洋同盟は足の長さの違う三本足の腰掛けのように不安定になり、崩れやすくなってしまうだろう。軍事力は重要ではあるのだがそれだけでは現代の同盟を引っ張っていけない。

 9・11テロの前後からここ10年の間に、日米同盟の軍事的な構造や日本の海外派遣には大きな進展があった。インド洋派遣など、なかには2007年秋に逆向きに一時的にくつがえった部分もあるが、長期の安全保障の進化を考えればきわめて大きな進展があった。2007年11月に日本の海上自衛隊がマラッカ海峡以西から撤退したが、七年間に及んで現地で、船舶の給油、航空兵站業務、イージス艦、地上部隊など貴重な運用経験を積んだ。この実地の経験は必ずや日本の自衛隊の将来そのものには良い効果をもたらすだろう。

 基地の構造、指揮系統をめぐっても同盟に重大な変化が訪れた。テロ対策のみならずミサイル防衛の技術的な要請にともない、陸軍と海軍の指揮系統はそれぞれキャンプ座間と横田基地において日米で着実に統合されつつある。コミュニケーション技術の進展により、在日米軍基地の能力を世界の他の地域に統合する可能性も大きくなっている。

 今後ますます重要になっていく課題は、日米が軍事的領域で着実に行っている緊密な協力体制を経済、政治、文化の領域でも広げるべく緊密な協調をしていくことである。2007年秋のインド洋派遣をめぐる論争、そしてその6ケ月後の在日米軍駐留経費負担の議論が明確に示しているように、これはそうたやすい仕事ではない。問題の核心にあるのは、日本の政治において、なにが「安全保障」を意味するのか、そして日本国民の底流にある需要とは何なのかということをめぐる明確な答えが出ていないことだ。

 日米の両国民はこれまで過去60年にわたって、安全保障の運用的側面については耳をふさいだままで対話をしてきた。地に足の着いたはっきりとした共通の定義もなしに、過去について語り合ってきた。こうした途方もない太平洋間のコミュニケーションの空白は、アメリカの主要な安全保障パートナーシップ関係では珍しいことなのだが、日米両国の場合は、戦争で一緒に仲間として戦ったことがないことを考えれば驚くには値しない。一般の日本人にとって安全保障とは「食料と資源」であり、より一般のアメリカ人にとってはテロリストやアメリカの国際的な優位への地政学的な挑戦に対する軍事的対応の問題を意味する。

 その結果起きたのが、トーマス・シーファー駐日大使が民主党の小沢一郎代表と2007年8月初旬におこなったあいまいな議論である。シーファーは日米で共有している「対テロ戦争」への支援を求めた。小沢はアメリカのアフガニスタン介入は国連の公式な制裁なく行われたものであり、世界貿易センターへの攻撃があるにしても、日本は支持できないと伝えた。この手続き論的な論理に従い、シーファー大使の強い要請も受け入れないまま、野党は日本のインド洋での6年間に及ぶ役割を認めない姿勢をとり、2007年11月に自衛隊に一時帰国を余儀なくさせた。

 同盟関係と冠する日米関係の長期的利益のために、両国は国家防衛をめぐる共通の概念、少なくとも、共通の戦略的課題にある程度合意できるような、基盤となる概念を作り上げなければならない。本書では、エネルギーやその他資源安全保障や環境保護も共通の概念の中核にあることを示唆してきた。横浜とペルシャ湾を結ぶ、エネルギーのシーレーンが結局のところ日本の原油供給には死活的なのであり、近年ではより真実味を帯びているが、共同の努力によってこれは死守されなければならない。エネルギーのシーレーン防衛は、日米両国内で長期的に一般からの支援を得られる取り組みであるはずだ。海外で行う太平洋防衛の協力をめぐる軍事的側面は、両国で受け入れられる土台の上になされなければならない。

 「アメリカと日本は世界最大の大洋を隔ててお互い向き合っている」とエドウィン・0・ライシャワーは指摘した。日本とアメリカは、異なる文化、信条、そして歴史をもちながら、太平洋という巨大な水と誤解を隔ててどうにか共存している制度的つながりをたくさんもっている。しかし、まったく異なる両国が直面している協力という課題は、世界のすべてにとって重大な意味を持つ。
日本とアメリカはともに同盟の概念に新たな意義を込めている。その営みを損ねてはならない。

shige_tamura at 15:25│Comments(1)TrackBack(0)clip!本の紹介 

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この記事へのコメント

1. Posted by 香川黎一   2008年11月30日 20:28
田村さんのブログ、特に本の紹介、書評が大好きです。
私は懐事情が厳しいのですが、本と嗜好品のお酒は大好きで買ってしまいます。
書評、本の紹介で初めて知る本があり、大変助かります。
今、小生の住むところは、戦前から創業していた書店は閉店してしまうなど、本屋が無くなっていて、新しい本は、田村さんの書評や新聞で見て、買っています。

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