2008年11月20日
偽りのホワイトハウス(スコット・マクミラン著、水野孝明監訳、朝日新聞社)

米国の大統領報道官は、ホワイトハウスで毎日、記者会見に立つ。その一言ひとことがメディアを通じて世界を駆けめぐる米国の顔である。スコット・マクレラン氏はブッシュ政権の発足とともに副報道官となり、2003年7月に35歳の若さで大統領報道官に就任した。以来、イラクの大量破壊兵器問題やブッシュ大統領の再選などの波乱に満ちた3年近く、メディアに対する政権の防波堤となってきた。
本書はまた、ホワイトハウスが戦争の宣伝のためにメディアを利用し、情報操作をしてきた当事者による克明な記録でもある。「パーマネント・キャンペーン(常時選挙戦)」と呼ばれる政権を挙げての巨大なプロパガンダで、やり手の「スピン・ドクター(情報操作専門家)」だったのが著者である。
目新しい「ニュース」をたえず口を開けて待っているメディアと、そこにエサをまくように、政権に都合の良い情報を「クライアント」と呼ばれる御用メディアに投げ与えていく実態が描かれている。
イラク戦争をめぐる大がかりな情報操作の一端が明るみに出たのが、CIA秘密工作員の身元漏洩事件だ。マタレラン氏は記者会見で、スクーター・リビー副大統領首席補佐官やローヴ顧問の関与を明確に否定してみせた。だが、その後、意図的に「嘘」をつかされたことがわかり、追及する記者団との板挟みになってしまう。後になって、「ああ、確かにしたよ」という一言で、国家機密をこっそり解除することを認めていたのが大統領本人だったことを知り、愕然とする。政権ぐるみの情報操作が刑事事件に発展していく経緯を、著者が怒りを込めて記述しているのが、この本のハイライトである。
イラク戦争の理由とされた大量破壊兵器疑惑の一つ、フセイン政権のウラン購入説を、現地のニジェールに行って調査に当たった元外交官が「でっち上げ」と批判した。政権のキャンペーンに反対した元外交官を中傷するため、ホワイトハウス高官たちが、彼の妻がCIAの秘密工作員だったことを一部のメディアに組織的にリークした。これがヴァレリー・プレイム氏の身元漏洩事件だ。
問題は、ブッシュ政権が政治的な狙いで、国家機密をリークしたと思われることだ。プレイム氏がスパイだったということが明るみに出たことで、米国の情報収集が打撃を受ける。いったいホワイトハウスのだれが、なぜ、こうしたリークをしたのか。・・・・
といった内容がリアルに書かれています。
是非、ご一読ください。