2017年06月

2017年06月29日

自衛隊に関するよくある間違い――「自衛隊は捕虜にならない」はウソ

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<文・自民党政務調査会審議役・田村重信>

 自衛隊の国際法上の位置づけ

 前回、「安倍首相の改憲発言を議論する前に押さえておきたい憲法と自衛隊の基礎知識」で、「自衛隊は憲法上、軍隊ではない」と申し上げました。

 では、「自衛隊の国際法上の位置づけ」はどうなっているのでしょうか。

 自衛隊は、憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。〈中山太郎外務大臣答弁・衆議院本会議・平成2(1990)年10月18日〉

 この答弁にあるように国際法上は、自衛隊は軍隊として取り扱われているわけです。つまり、自衛隊は国際法上、軍隊として扱われる一方で、日本国内では、軍隊ではなく、「自衛隊」と呼称するというように、二重の扱いがなされているのです。

 だから、この自衛隊の位置付けは、憲法と安全保障政策上の問題として、憲法改正をめぐる議論のポイントになっているのです。


 国際法上、自衛隊は捕虜になれない?

 この点をみなさん、よく誤解しています。例えば、月刊『文藝春秋』(2015年11月号)の「保守は『SEALDs』に完敗です」という対談で、元SEALDsの奥田愛基氏が、「現状、自衛隊は軍隊ではありませんから、自衛官は、万が一拘束された時に国際法上の捕虜にもなれません」と発言しました。

 ジュネーブ諸条約の一つである「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーブ条約(第3条約)」には、第4条Aで次のように書かれています。

 この条約において捕虜とは、次の部類の(1)に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。
(1)紛争当事国の軍隊の構成員及びその軍隊の一部をなす民兵隊又は義勇隊の構成員

 自衛官は国際法上は軍隊として扱われますから、戦争で捕まれば捕虜になります。これについては次のような政府見解があります。

「自衛隊は、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、自衛権行使の要件が満たされる場合には武力を行使して我が国を防衛する組織であることから、一般にはジュネーブ諸条約上の軍隊に該当すると解される」

 以上のことから、自衛官が捕虜になった場合は、ジュネーブ諸条約上の捕虜として扱われるという結論になるわけです。


 自衛隊は「捕虜になれない」という誤解はなぜ起ったのか

 ではなぜ、奥田氏は「捕虜になれない」などと発言したのでしょうか。それはきっと、平和安全法制が国会で議論されている際に、PKOの時に自衛隊が捕まった場合にはどうなるのかとの質問に対し、外務大臣が「捕虜になりません」と答えたのを文字通り受け取ってしまったからでしょう。

 しかし、これはそもそも前提が全く違います。自衛隊は、戦争でPKOに行くわけではないので、ほとんどそのようなことは想定されておらず、捕虜にならないのは当然です。だから、外務大臣はそう言ったわけです。

 もっと詳しく言えばこういうことです。重要影響事態法及び国際平和支援法によって自衛隊が他国軍隊に対して後方支援を行う場合、我が国がそのこと自体によって紛争当事国になることはないことから、そのような場合に自衛隊員が国際人道法上の捕虜となることはない。ただしその場合であっても、国際法上、適正な活動を行っている自衛隊員の身柄が少なくとも普遍的に認められている人権に関する基準並びに国際人道法上の原則及び精神に則って取り扱われるべきことは当然である、というわけです。


 マスコミは憲法と自衛隊の関係を正しく理解して報道すべき

 このような初歩的な誤りに気付かず掲載してしまうマスコミ編集者にも問題があります。どうしてこうした誤りが生まれるのでしょうか。それは、奥田氏も編集者も、憲法と自衛隊に関する政府の公式な見解をキチンと踏まえていないからです。憲法と自衛隊の関係についての基本中の基本がみんなわかっていません。

 日本は憲法9条の建前から言えば戦力は持てない。だから日本には通常の観念で考えられる軍隊がないということになる。では日本の独立はどうやって守るのだ。自衛隊である。自衛隊は必要最小限度の実力組織だからよしとなる。

 では国際法上の評価は? 国際法上は自衛隊は軍隊として扱われる。それはすなわち捕虜としても扱われるということ。ただし、外国に行ったら軍隊だから外国の軍隊と同じように活動し、武器の使用ができるかというと、これはまた違う。「武力行使と一体化しない」というようにする等、日本国憲法の制約の中で法律を作っていくから非常に厄介な仕組みになっている。

 日本の安全保障法制を論じる場合、このような基礎知識をキチンと理解していない誤った議論が非常に多いのです。マスコミ関係者も、必要最小限度の安保法制を正しく理解しないと読者をミスリードすることになります。
 
 しかし、一番の問題は、当のマスコミ関係者や憲法学者などがこうした安全保障法制に関して、正しい政府見解を理解しようとすらしないことなのです。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)

安倍首相の改憲発言について議論する前に押さえておきたい「憲法と自衛隊」の基礎知識

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<文・自由民主党政務調査会審議役・田村重信>

 自衛隊と憲法について論じる時の大事なポイント

 憲法改正について、安倍首相が9条1、2項を維持して「自衛隊を明記」する案について発言後、改憲議論が加速しています。これについて、与野党の政治家や憲法学者、評論家、マスコミが賛否を述べています。議論することは悪いことではありません。安倍首相はいい問題提起をされたと思います。

 私は、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わってきましたが、自衛隊と憲法の関係について議論する上で大事なポイントがあります。私は慶應義塾大学大学院法学研究科で安全保障講座の講師も15年間務め、日本の大学院生だけでなく、中国・韓国などからの留学生にも教えていました。そこでは、最初にそのポイントを学生たちに伝えていました。

「主義信条や考え方の違いはあるだろうが、好き嫌いを別にして政府の公式な考え方、解釈がどういうものなのかをきちんと押さえることが大事だ。それを勉強しないで、俺はこう思うと言ったって、それは学問ではない。まずそれぞれの事実関係と経緯を押さえておくことが必要だ」

 特に憲法と自衛隊の関係については、歴史的経緯も含め、まず政府の考え方をきちんと押さえた上で、多方面からの議論をしましょうと心がけておりました。

 中国や韓国からの留学生らも、「自分の本国で聞いている話と、田村先生がおっしゃっている話、違うよ。でも、田村先生のお話が正しいね」という具合に、だんだんと理解してくれるようになりました。事実を正しく伝えることがいかに大事なことなのか、私も教えられました。


 自衛隊は軍隊か?

 まずは自衛隊の位置付けですが、これすら国民に正しく理解されていません。日本の大学には安全保障の講座がほとんどなく、良質な専門書も少ない。だから政治家や新聞記者、テレビのコメンテーターなどもよく間違えています。

 自衛隊は軍隊かどうかという疑問を投げかけると、回答者の半数くらいは「軍隊」と答えます。しかしこれは間違いです。自衛隊は軍隊ではありません。

 憲法と自衛権の関係について考える基本は、憲法第9条がいかに解釈されているかを理解することです。日本国憲法は第9条に、「戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定」を置いている。つまり、憲法第9条第2項によれば、我が国は「陸海空軍その他の戦力」を持つことができないとされているわけです。

 政府も、「自衛隊が軍隊であるか否かは、軍隊の定義如何の問題」としながらも、「自衛隊は、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課されており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものであって、憲法第9条第2項で保持することが禁止されている『陸海空軍その他の戦力』には当たらない」としています。


 自衛隊は「必要最小限度の実力組織」

 では、自衛隊は一体何なのか。何に基づいて存在する組織なのか。このことに関する政府解釈は以下になります。

 憲法第9条第1項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められているところであると解している。
〈森清議員提出質問主意書に対する答弁書、昭和55(1980)年12月5日〉

 第9条はもとより、「我が国が独立国である以上、この規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではない」というのが政府の見解です。そして、「我が国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上禁止されているものではない」としています。

 したがって、自衛のためには、「必要最小限度の武力を行使することは認められている」ということになります。


 独立国には自衛権がある

 そうした議論の前提として、そもそも日本は独立国である――サンフランシスコ講和条約の発効によって、1952年に独立を回復した――という厳然たる事実があるわけです。

【 サンフランシスコ講和条約第5条】
連合国としては、日本国が主権国として国際連合憲章第51条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有すること及び日本国が集団的安全保障取極を自発的に締結することができることを承認する。

 この事実を踏まえると、日本は独立国で固有の自衛権を持っている、つまり自分の国を守るという権利はあるのだという理路に行き着きます。だから、自分の国を守るための必要最小限度の実力組織を持つことは、憲法に何ら反してはいない、その組織が自衛隊です、というのが先の政府解釈です。


 キーワードは「必要最小限度」

 重要なのは「必要最小限度」という言葉です。これがキーワードと言っていいでしょう。先述の森清議員提出質問主意書に対する政府の答弁書では憲法第9条第2項について、

「憲法第9条第2項は、『戦力』の保持を禁止しているが、このことは、自衛のための必要最小限度の実力を保持することまで禁止する趣旨のものではなく、これを超える実力を保持することを禁止する趣旨のものであると解している。」

 としており、これは「必要最小限度」以下の実力であれば保有が認められ、それを超えると憲法違反となるということを意味しているのです。

 つまり、自衛隊は我が国を防衛するための「必要最小限度」の実力組織であるから、憲法に違反しないというロジックなのですね。ただし、必要最小限度という範囲を超えると、憲法第9条第2項で禁止する戦力になってしまいます。

「政府は従来から、自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、憲法第9条第2項によって禁じられていないと解しているが、性能上専ら他国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられる兵器については、これを保持することが許されないと考えており、たとえば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母みたいなものは保有することは許されない」と解されています。


 現実を学び、それを踏まえて活発な議論を

 その他にも、自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力行使を超える行為はことごとく禁じられており、その中には「いわゆる海外派兵(武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること)の禁止」などがあります。

 ですから、政府解釈も自衛隊が通常の観念で考えられる「軍隊になる」ことを当然ながら認めてはいません。

 この議論は古くから行われてきたものですが、佐藤栄作首相が昭和42(1967)年3月31日に「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁して以来、定着してきたものと言えます。

 なんかややこしいですけれど、これが政府の解釈なのです。

 でも、決して詭弁などではない。いうなれば、「必要最小限度」という言葉によって、時の政府はいわく言い難い「生の現実」を、何とか表現しようとしたのではないでしょうか。

 私に言わせれば、自分の国と自国民の命と財産を守るという議論において、観念論は不要です。あくまで現実に即し、現実に立脚した考え方で国と国民の安全を確保しなければなりません。その意味で政府解釈は、自国にとって常に有形無形の脅威が存在するという、リアルな現実を反映したものになっている。そう評価していいでしょう。

 誤解しないでもらいたいのですが、私は理想を語ることを否定しているわけではありません。ただ、現前の風景を直視することなく、単に「俺はこう思う」と言ってもしょうがないでしょう。現実を学び、そのことをきちんと踏まえて議論する必要があるということです。

【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)

2017年06月28日

小学校で教えられていなかった「自衛隊の本当の役割」

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  ヤフーニュースに僕の記事が出ました。好評です。

小学校で教えられていなかった「自衛隊の本当の役割」――永田町の安全保障のエキスパートが解説


 6月20日、平成32年度以降に導入される小中学校の学習指導要領解説書の全容が判明したが、自衛隊の本来の任務について、小学校では今まで教えられていなかったという事実が明らかになった。

 解説書とは指導要領の内容を具体的に説明するもので、教科書会社の編集方針や教師が授業を行う際の手引きになる。

 実は、今まで小学校の学習指導要領と解説書には、役割どころか「自衛隊」という言葉自体どこにも出てこなかった。それでも教科書では、例えば6年生の社会科の教科書には自衛隊が登場しているが、自衛隊の任務については災害派遣やPKO活動だけしか取り上げられていなかった。

 今度の指導要領の改定で、「自衛隊」については、小学校4年生の社会で登場することになったが、災害派遣の活動にしか触れられていない。そのため解説書で、自衛隊について「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と本来の活動について明記することになったのである。

 この自衛隊の任務について、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案などに関わった、永田町きっての安全保障のエキスパートである自民党政務調査会審議役の田村重信氏に話をうかがった。

◆自衛隊の「主たる任務」とは

 私はかつて慶應義塾大学大学院の安全保障講座で教えていましたが、PKOの講義をする時に、大学院生に、「君たち、PKOって分かるか?」と質問したら、誰も分かりませんでした。事実です。法学部政治学科の学生でも習っていないのは恐るべき話です。

 また、東日本大震災が起こったとき、「自衛隊は災害派遣で一生懸命やってくれて、非常に素晴らしいと思うし、感謝もしています。だけれどこれからは憲法を改正して、戦争できるようになるんですか? そのことについては反対です」という人がいました。

 しかし、災害派遣は自衛隊の「主たる任務」ではありません。では、自衛隊の主たる任務とは何か? 自衛隊の任務は、自衛隊法第3条に明記されています。

<自衛隊法 第3条第1項>

 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

 自衛隊の主たる任務は「我が国を防衛すること」です。その下に、「防衛出動」(第76条)、「防御施設構築の措置」(第77条の2)、「防衛出動下令前の行動関連措置」(第77条の3)等の規定が置かれています。これらの内容は、まさに国を守る措置ということにほかなりません。

 つまり、自衛隊の一番大事な任務はまさに国を守ること、端的にいえば武力の行使(いわゆる国家・国民のために戦うこと)なのです。

 きれいごとや言葉での脚色を抜きにして語れば、武力を行使して我が国を守ることこそ自衛隊の一番大事な任務だということを忘れてはなりません。

 もちろん戦争が起こらなければ一番いいわけですけれども、他の国から明らかな侵略行為を受けた場合は、自国を守るために武力によって対抗しなければなりません。その武力を行使することが、自衛隊の一番大事な任務なのだということです。

◆災害派遣は「従たる任務」

 その後に書かれている「必要に応じ、公共の秩序維持に当たる」ことは「従たる任務」です。その中に「災害派遣」「国民保護等派遣」「治安出動」「治安出動下令前に行う情報収集」「警護出動」「海上における警備行動」「海賊対処行動」「弾道ミサイル等に対する破壊措置」「地震防災派遣」「原子力災害派遣」「領空侵犯に対する措置」「機雷等の除去」「在外邦人等の保護措置」等があります。

 次に同条第2項です。

<自衛隊法 第3条第2項>

 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。

1 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動。

2 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動。

 第2項で示される「従たる任務」についてですが、これは「主たる任務の遂行に支障を生じない限度」で、「別の法律の定めるところにより自衛隊が実施することとされるもの」です。その中には「後方地域支援等」「国際緊急援助活動等」「国際平和協力業務等」があります。「後方地域支援」というのが、「重要影響事態安全確保法」に関わるものです。そして、「国際平和協力活動」が国連のPKO活動などです。

 その他にも、自衛隊にはさまざまな役割が課せられています。たとえば「土木工事等の受託」「教育訓練の受託」「運動競技会に対する協力」「南極地域観測に対する協力」「国賓等の輸送」といった付随的業務は、自衛隊法第8章(雑則)で規定され、また、「不発弾等の処理」については、自衛隊法の附則に規定されています。

 自衛隊について教育現場では、今まで冷静かつ客観的な立場から教えられてきたとは残念ながらいえません。これは戦後教育の弊害でした。今回の指導要領と解説書の改定によって、自衛隊の「主たる任務」「従たる任務」について、小学校から適切に教えられるようになればよいと思います。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】

自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)


2017年06月27日

加速する憲法改正論議――党本部重鎮が語る自民党の青写真

憲法施行70年の節目を迎えた5月に、安倍首相が憲法改正について「2020年の改正憲法の施行」「自衛隊の憲法明記」を発言したことで、今、にわかに憲法改正論議が加速している。

 自民党憲法改正推進本部は6月6日に会合を開き、改憲項目として「自衛隊の明記」「教育の無償化」「緊急事態条項(大災害時を念頭に衆院議員の任期を延長する緊急事態条項の創設)」「参議院選挙区の合区解消」の4つを例示した。自民党は9月にも憲法改正案をまとめ、公明党などと調整の上、最終案を決定し、来年1月の通常国会で憲法審査会に提案するという。

 今後の改正論議をリードしていくと思われる自民党の真意と改正スケジュールについて、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案などに関わった永田町きっての安全保障のエキスパートである自民党政務調査会審議役の田村重信氏に話をうかがった。


 まったく進まなかった憲法改正論議

 安倍首相はその発言の2日前、5月1日に開催された超党派の議員たちの会合でも、憲法改正について、「機は熟した。今求められているのは具体的な提案だ。理想の憲法の具体的な姿を、自信を持って国民に示すときで、しっかりと結果を出さなければならない」と述べ、「憲法改正を党是に掲げてきた自民党の歴史的な使命ではないか」と訴えています。

 今まで国会の憲法審査会では、野党の意見も聴きながら進めようとしてきましたが、まったく議論が進みませんでした。特に憲法9条の改正については、各政党の間ではどうしても賛否が分かれてしまいます。そこで、9条についてはいったん横に置いて、多くの議員の賛同を得やすいと思われる緊急事態条項などから議論していこうとしていました。

 しかし、よく考えてみれば、民進党はいまだ独自の憲法改正草案を提案できていません。また、日本国憲法の制定当時は天皇条項と9条に反対していた、かつての改憲政党の共産党は、今では憲法を一言一句変えてはいけないという姿勢であり、これではお話になりません。最初から野党の意見を聞いていたら無理です。

 「自衛隊は違憲」議論が生まれる余地をなくすべきだ

 平和安全法制が成立しましたが、最近の北朝鮮のミサイル問題や中国の動向なども考えると、「自衛隊は違憲」などと言っている場合ではなくなるでしょう。自衛隊は国内では軍隊ではありませんが、海外へ出れば国際法上、軍隊とみなされます。また、海外でPKO活動を行い、国内外で災害が起きれば活動する自衛隊を、国民の多くが評価しています。それにもかかわらず、多くの憲法学者や政党の中には、「自衛隊は違憲」とする議論が今なお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任に思います。

 安倍首相は、特に憲法9条に関して、「『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と述べています。国家と国民のために時には命がけで活動する自衛隊に応え、憲法に「自衛隊を明記すること」は、政治の責任ではないでしょうか。憲法改正で一番大事なのは「自衛隊を明記すること」であることを明確にしたかったから、安倍首相はこの発言をされたのでしょう。


 9条2項改正ではなく自衛隊を憲法に「明記」する意味

 憲法改正は国民投票で過半数の賛成を得なければできませんが、その前にまず衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成がないと発議できません。そうすると、もちろん自民党単独では発議できず、連立与党の公明党、そして憲法改正に熱心な日本維新の会にも憲法改正論議に乗ってもらいたい。そういうことを政治的に考えれば、安倍首相のあのような発言は「アリ」だと思います。

 なぜか。それは今回の安倍首相の発言内容は、「加憲」を主張する公明党の考え方とやや似ているからです。また、安倍首相は5月3日のメッセージでもう一つ、「高等教育についてもすべての国民に真に開かれたものとしなければならない」と述べ、日本維新の会などが提案している教育無償化を盛り込むことにも前向きな考えを示しました。まずは、国会で憲法改正に賛成する勢力をきちんと固めることが大事だと考えたのではないでしょうか。

 そもそも自由民主党は昭和30(1955)年11月15日の結党以来、「憲法の自主的改正」を「党の使命」に掲げてきた政党です。しかし、今までは自民党の中でも、憲法改正を進める勢力は大きくありませんでした。その中で、第一次安倍政権下で憲法改正のための詳細なルールを定めた国民投票法が成立しました。そして、再び自民党総裁に返り咲いた安倍首相は、旗印の一つに憲法改正を掲げています。自民党は党の使命を果たすために、安倍首相が中心になって憲法改正を進めていくことになるでしょう。

 安倍首相は、自民党が2012年に公表した憲法改正草案について、「そのまま憲法審査会に提案するつもりはない。柔軟性を持って現実的な議論を行う必要がある」と述べています。今までは「9条2項改正」だったので、今回の安倍首相の「9条1項、2項を残して、自衛隊を明記する」という改正案は、自民党内からも異論が出ています。でも、別に変えてもいいのです。それについて議論すればいいのですから、安倍首相はいい問題提起をされたと思います。憲法改正を進める上で、自民党の中でまず議論し、公明党、維新の会とでコンセンサスを得るというのは、当然のことでしょう。

 憲法改正に向けて議論をはじめよ

 野党は平成2016年7月10日の第24回参議院議員通常選挙で、改憲勢力が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を取ることを阻止する方針を掲げました。しかし結果は、非改選も含め、改憲に前向きな自民党、維新の会、日本のこころを大切にする党の3党と無所属、「加憲」を掲げる公明党の合計議席が、憲法改正発議に必要な3分の2に達しました。

 私は湾岸戦争以来、すべての安保法制に関わってきましたが、安保法制はすべて公明党との協力で成立してきました。政治とはさまざまな意見をまとめることですから、それぞれの政党が妥協しなければなりません。にもかかわらず、憲法審査会はなかなか開かれませんでした。今回の安倍首相の発言は、憲法改正に向けた議論をしなければならないというメッセージにもなったのです。


 今後の憲法改正のタイムスケジュール

 憲法改正には政局の安定が必要です。現在、「安倍1強」と言われていますが、これはある意味、政局が安定しているということです。政治家は学者や評論家と違います。現実に政治を考えて、結果を出さなければなりません。

 今後の憲法改正のタイムスケジュールですが、以下が考えられます。

<2017年>
◎年内に改憲項目を絞り込み。
<2018年>
◎通常国会で憲法改正原案できる。衆参両院でそれぞれ3分の2以上の賛成で発議。
◎国民投票は発議後60〜180日の実施が規定。
◎9月、自民党総裁選。
◎12月、衆議院議員任期満了。
<2019年>
◎国民投票が行われる可能性。
<2020年>
◎改正憲法施行。

 2018年9月に自民党総裁選がありますので、安倍総裁が再選されれば、内閣改造をするでしょう。12月に衆議院議員の任期満了ですから、その前に安倍総理が解散すれば、憲法の国民投票と衆議院総選挙が同時に行われる可能性が考えられます。憲法改正と総選挙を同時に行うことで、争点が明確になり、憲法改正の可能性が一気に高まると思われます。もちろん政治は生き物ですから、あくまでも現時点での私の予測です。

 国民投票は否決されたらそう簡単にやり直せませんが、それはルールだから仕方ありません。ですから、国民の多くが納得できる案を提案していく必要があるのです。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)


2017年06月13日

『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(田村重信著、育鵬社)がアマゾンで予約できます。

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この本は、学校で教わらなかった憲法と自衛隊の関係が分かりやすく解説してあります。
これから、憲法に自衛隊が明記されるなど防衛政策、憲法改正が話題となります。
これさえ読んでおけば大丈夫です。
この本は、憲法・防衛関連(共著も含め)で、27冊目、僕の集大成です。
推薦は、櫻井よしこさんです!
是非とも、注文をお願いします。

『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』
著者:田村重信
判型:四六判並製216ページ
定価:本体1500円+税
発行:
育鵬社 発売:扶桑社
発売日:平成29年7月4日

【本の内容】
櫻井よしこ氏推薦!
安全保障のエキスパートが緊急提言!

<北朝鮮のミサイルが東京、大阪、横浜、名古屋、京都に打ち込まれても、日本は反撃できない!>
◎北朝鮮は日本の5大都市を攻撃対象に名指し。
◎日本は敵基地に反撃することが憲法上可能だが、自衛隊には反撃の装備がない。
◎排他的経済水域内にいる船舶へ向かうミサイルを打ち落とす装備はあるが、違法。

【国民は自分の命と憲法9条のどちらを守るか決断を迫られている!!】

第1章 法律でがんじがらめの自衛隊

○憲法と自衛権に関する一般常識Q&A
Q 自衛隊は軍隊か?
Q 日本は集団的自衛権を行使できる?
Q 自衛隊は海外へ派兵できる?
Q 他国から弾道ミサイルが飛んできた場合、敵のミサイル基地を攻撃できる?
Q 日本は核武装できる? 等

第2章 日本政府は国民を守れるのか

○北朝鮮の脅威にどう備えるか
○中国の脅威にどう備えるか
○政府は国民をどのように守るのか 等

第3章 国民を国防ギライにしたマスコミ・学者・政治家

○マスコミ・学者・政治家の15の無知・誤解・ウソを暴く
×解釈変更は立憲主義に反する
×防衛費は「人を殺す予算」
×自衛隊員は自殺者が多い
×日本が米国の戦争に巻き込まれる 等

第4章 さらなる防衛政策の整備が急務

○国益とは何か
○平和を叫ぶだけでは平和は訪れない
○日本国憲法には有事に対する規定がない
○自衛隊を憲法に「明記」する意味 等


shige_tamura at 10:31|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!
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