2016年05月

2016年05月18日

蔡英文新総統はどう出るか?――米中の圧力と台湾の民意(遠藤誉氏)

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5月20日には蔡英文氏が総統就任演説をする。一つの中国を謳う九二コンセンサスを認めるかが注目されている。中国大陸からの凄まじい圧力だけでなく米国からの警告も受けた。民意に従うとする蔡英文氏。では台湾民意は?

◆中国大陸からの圧力

「一つの中国」論を絶対に譲らない中国(中国大陸)は、1992年に合意された「九二共識(コンセンサス)」を台湾政権に激しく要求している。民進党の蔡英文は独立傾向が強く、もしも新政権が台湾独立を叫べば、中国政府はただちに反国家分裂法が火を噴くという構えだ。

そのため、台湾を訪問する大陸旅客数を制限したり、ガンビアと国交を結ぶなど、徐々に蔡英文氏を追い詰めている。

観光客数と貿易額で相手国を落していくのは、中国の常套手段だ。

香港が1997年に中国に返還された際、「一国二制度」を誓ったにもかかわらず、「一国」を重視して「二制度」を付け足し程度に持って行こうとする中国大陸に対して香港市民は激しく抵抗し、民主化を叫んで何度もデモを起こしてきた。その香港の富裕層を一気に大陸側に引き寄せたのは「観光客戦略」だった。2003年のことだ。

その結果、2014年データでは、700万人強の香港市民数に対して、大陸から年間4700万人の観光客がやってくるようになり、香港経済をほぼ独占してしまう。爆買いの対象の中には住宅もあって住宅価格が高騰し、ついに2014年の雨傘革命を招くに至ったくらいである。

台湾に行く大陸の観光客は418万人だと大陸側は発表しており香港ほどではないが、それでも経済的痛手はあるだろう。

一方、ガンビアは1974年に中国と国交を結んでいたが、1995年には台湾とも「中華民国」として外交関係を結んだため、中国はガンビアとの国交を断絶していた。しかし中国大陸との貿易額の急増により、2013年11月にガンビアは台湾と国交を断絶。そして2016年3月17日、遂に中国と国交を回復したのである。もちろん「一つの中国」を大前提としたものだ。これが5月20日に誕生する蔡英文新政権に対する圧力であることは、誰の目にも明らかだろう。

その証拠に3月19日の「環球時報」(中国共産党機関紙「人民日報」姉妹紙)は、「蔡英文――外交孤児時代来たる」というタイトルの記事を報じている。台湾は現在のところ、グアテマラ、パナマ、ニカラグアなど22カ国と国交を結んでいるが、それもやがて一つ一つ離脱していくだろうと警告している。

なぜなら、これらの国は「台湾政権が大陸政権と仲良くしているからこそ、台湾との国交を保っていられるのであって、もし台湾新政権が独立を主張し中国大陸政府と対立するようなことがあったら、ただちに大陸政権を選び、台湾とは断交するだろうから」というのが環球時報、すなわち中国政府の見解なのだ。

また、今年5月初旬、WHO(世界保健機関)のWHA(年次総会)への台湾参加に関しても、中国大陸国務院台湾事務弁公室(国台弁)の報道官が、「これはあくまでも『一つの中国』原則のもとでの中国大陸の取り計らいである」と述べた。

それに対して台湾の行政院大陸委員会は抗議し、5月7日、「我々は2009年以来、7年連続で円滑にオブザーバーとしてWHAに参加してきた」とした上で、「九二コンセンサスは『1つの中国』を各自表明することを基本としており、我が政府が主張する『1つの中国』は中華民国のみを指すのであり、我が方は、大陸側が主張する『1つの中国原則』についてもこれまで認めたことはない」という趣旨の声明を出した。

馬英九政権最後のメッセージとしては、すさまじい、おそらく初めての強烈な抵抗であったと言えよう。馬英九政権は、5月20日の蔡英文新政権への譲渡のために、5月12日に内閣総辞職をしている。

中国の中央テレビ局CCTVは5月17日、台湾は2009年12月に「中国」という肩書で「全球気候変動大会」(国連気候変動枠組み条約のことか?)に参加できたことを挙げ、「それは誰のお蔭だったのか」と解説し、「一つの中国」、「九二コンセンサス」を認めてこそ、そういった恩恵を大陸側は台湾に与えるのだ、と報じた。

◆アメリカが台湾へ「一つの中国」を警告

蔡英文氏の総統就任演説を目前にした5月15日(アメリカ時間)、アメリカの国防総省が「2016年中国大陸軍力報告書」を発行し、その中で「一つの中国政策」と「台湾独立を支持しない」ことを表明したという。台湾の『中央日報』が5月16日に報じた。

これは2007年に表明して以来9年ぶりのことで、明らかに蔡英文新総統に対する警告と言える。2007年の警告は、2008年に馬英九が総統に当選するときの総統選挙に当たって発した警告であった。

もし台湾が独立を主張して大陸との間に戦争でも起これば、アメリカは立場上、非常に困る。台湾側を支援したいが、中国との間には「一つの中国」を前提とした国交があるし、米中が戦争になることなどは絶対に避けたい。それは中国も同じだろう。

したがって環球網(環球時報の電子版)が4月25日に上海社会科学院と共同で「台湾新政権の台独問題に関するアンケート」(23問)を行なったことに対して、中国政府は一部削除することにより世論が過熱するのを抑えたくらいだ。なぜなら結果はすぐに出て、「台湾が独立するなら、すぐに武力を使って台湾を統一せよ(大陸に併合せよ)」という意見が圧倒的多数を占めたからだ。

◆さあ、どう出る、蔡英文新総統?

米中双方から挟み撃ちされている蔡英文氏は、世界中が見守る中、5月20日の総統就任演説で何を言うのか?

中国の脅迫にしたがって「九二コンセンサス」を認め、「一つの中国」という言葉を発するだろうか?

そのようなことをしたら、彼女が選挙中に呼びかけた言葉を否定することになり、彼女を選んだ選挙民たちを裏切ることになる。だから、それは絶対にしないだろう。民進党の党規約にも違反する。

そこで考えられる唯一の選択は、「九二会談があったことは認める」ということと、「現状維持」を主張することだろうと思われる。それ以外に道はない。この話題に全く触れないという選択もあろうが、それではパンチがない。

追い詰められた蔡英文氏は「私は台湾の民意によって選ばれた。だから私は民意に従う」と表明した。

賢明だ!

実に彼女らしい。

◆台湾の民意調査

では台湾の民意はどうなっているだろうか?

今年、5月13日に発表された「台湾民心動態調査(TMBS、Taiwan Mood Barometer Survey)」の調査結果を見てみよう。調査を行なったのは5月10日〜11日である。

その問いの中に「中共政府は蔡英文が520(5月20日)総統就任演説で、必ず九二コンセンサスと両岸は一つの中国に属することを言えと要求している。あなたは、蔡英文新総統がこの要求を受け入れるべきだと思いますか?」という、実にストレートな問いがある。

まずはその回答を見てみよう。

1. 受け入れるべきだ:6.5%

2. まあ、受け入れてもいい:17.2%

3. あまり受け入れるべきではない:20.1%

4. 絶対に受け入れるべきではない:31.6%

5. わからない&未回答:24.6%

となっている。「1+2」を大きく分けて「受け入れるべき」とすれば、「受け入れるべき:23.7%」となり、「3+4」を「受け入れるべきではない」と分類すれば、「受け入れるべきではない:51.7%」となる。

これにより蔡英文新総統の演説内容は決まるだろう。

これはまさに、彼女の望むところでもあるはずだ。

ところで同調査によれば、「馬総統は信頼できる:28.9%」で「馬総統は信頼できない:53.7%」となっており、それぞれ4月の調査よりも「0.2%増」と「2.0%減」になっている。

この原因は明らかに日本の沖ノ鳥島への干渉事件と、5月7日のWHA参加に関する中国大陸報道への強烈な抗議にあったと見ていいだろう。

日本では沖の鳥島事件を、中国の圧力による反日行動とみなす分析が多いが、そのような単純なものではない。

実は2013年4月に馬英九政権は日本との間で「日台漁業取り決め」を結んだ。尖閣諸島周辺海域における日本と台湾の漁業権について定めた二国間の取り決めだ。これに対して台湾漁民からは「売国締結」として激しい抗議が上がっていた。なぜなら台湾の漁船が乗り入れていい水域は北緯27度より南側と定められているために、尖閣諸島の日本領海はこの取り決めの漁業域に含まれていないからだ。

台湾漁業界からの反発はこんにちまで続いていたため、馬英九氏としては政権最後の段階で、このTMBS民意調査における支持率を、わずかでも高めたいという気持ちがあっただろう。

実際、4月よりも0.2%ではあっても支持率が上がったのは確かで、これを以てピリオドを打ち、5月20日に総統の座を去る。

5月20日夕刻に開催される新総統就任祝賀会には参加しないそうだ。

蔡英文新総統の就任挨拶が楽しみだ。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2016年05月10日

金正恩氏が党委員長に――中国、ほとんど無視(遠藤誉氏)

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 5月9日、日本時間午後7時のNHKニュースの最後の方で金正恩氏が党委員長に選出されたと速報で伝えていたとき、中国のCCTVはロシアの戦勝記念日閲兵式を報道していた。8時(中国時間7時)のCCTVニュースでは?

◆北朝鮮に関する日本の報道と中国の報道の扱いの違い

 北朝鮮の朝鮮労働党第7回党大会の報道に関して、あまりに中国での扱いが小さいものだから、いっそのこと同時比較をしようと思って、中国の中央テレビ局CCTVと日本のNHKのニュースとを比較してみた。

 すると5月9日午後7時のNHKニュースでは、冒頭に北朝鮮のニュースを報道し、7時半に終わるニュースの最後に近づいたころに速報で「朝鮮労働党大会で、キム・ジョンウン(金正恩)第1書記が、新たに設けられたポストの党委員長に選出されました」という趣旨の内容を伝えた(録音していたわけではないので、微妙な表現の違いがあったらお許しいただきたい)。

 同時間に、実はCCTVを観ていたのだが、そのとき(中国時間の6時半近く)CCTVではロシアにおける戦勝71周年記念の報道をしていて、動画付きで華々しく閲兵式を映し出していた。その後、北朝鮮に関して少し触れたので、ハッとして注意してみたところ、なんとイギリスのBBCの記者が「報道内容が不適切だ」という理由で拘束されたというニュースを一瞬だけして、ニュースは終わった。

 BBCの記者のニュースはNHKの7時のニュースの冒頭部分でもしていたが、「報道内容が不適切だという理由で記者が拘束された」ことを、中国共産党宣伝部の検閲が入っているCCTVが報道するのかと、やや唖然としながらCCTVを観た。

 いよいよ8時になり、CCTVの(中国時間)7時の全国ニュースである「新聞聯播」が始まったので、一秒たりとも見逃すまじと食い入るように観たのだが、なんと報道しないではないか。そう思っていたところ、ニュースが終わる3分ほど前に「映像ナシで!」、金正恩が党委員長になったことと政治局常務委員5名(うち一人は金正恩)の名前が低いモノトーンの声で告げられた。その間、わずか40秒間ほど。そのすぐ後に2分間以上を使ってモスクワにおける閲兵式の動画が華やかな音楽とともに流れ、アナウンサーの声も「やや高らかに」はずんでいた。

「ここまでやるのか」というほどの徹底ぶりだ!

「核保有国」を宣言した北朝鮮の存在など、消してしまいたいと言わんばかりの無視のしようではないか――。

 それに比べて北朝鮮に関する日本の報道は実に熱い。

 NHKの9時のニュースでは、冒頭10分間ほどかけて、専門家まで呼んで解説し、中国との対比が印象的だった。(日本のテレビのスイッチを入れるのが少し遅かったので、もし冒頭からでなかったら、これもまたお許しいただきたい。)

◆ネットでは?

 一方、中国大陸のネットでは新華網(中国政府の通信社である新華社の電子版)が、9日の18:26:17に、これ以上短くはできないというほど短い速報を発信した。そこに書いてあるのは「朝鮮は9日、金正恩が朝鮮労働党委員長に当選したことを宣布した」だけである。中国語で21文字の短文だ。

 CCTVはいつも、重要ニュースがあると、すぐに速報で携帯にニュースを発信する機能を持っている。いつもニュースが入り過ぎてうるさいほどだが、そこにも「金正恩が党委員長になった」という情報は入ってこなかった。

 ただネットでは新華網が速報を出しただけでなく、その21文字の速報に対してコメント記入が許されたようだ。たとえば「捜狐(Sohu)」のページには多くのネットユーザーのコメントが書き込まれていた。悪口ばかりだ。

たとえば、

●どんなに変わったって、肩書が一つ増えれば、笑い者にされることが、また一つ増えるだけだよ。

●当選だって? 自分で自分に肩書を与えただけだろ? 宇宙長にだってなろうと思えばなれるわけだし。自分が決めれば、それでいいんだから。

●人類の主、物質の祖、っていう呼称はどうだい?

●いやいや、これは「(国連安保理)制裁」の効果じゃないの?

などなど……。あまりにひどいのもあるので、さすがに翻訳は控えよう。

 中国政府、特に習近平氏の悪口など書こうものなら、削除ではすまず、拘束されるくらいの中国なのだが、金正恩氏のコメントを好き放題書かせているのは、中国政府としては言えないことをネットユーザーが代わって書いてくれるのを待っているからだろうか。いや、政府のためにコメントを書く「五毛党」のしわざかもしれない。

 いずれにしても、中国がいかに北朝鮮の動きを不快に思っているかの表れだと解釈していいだろう。

「日本、中国、韓国、北朝鮮」の四カ国の中で、ただの一度も首脳会談を行っていないのは北朝鮮だけだが、その中に「中朝」があることを肝に銘じておこう。

 習近平氏は日本の首相とは会談しても、金正恩氏とだけは、ただの一度も会ってないのである。


追記:なお、その後の情報で、習近平総書記は慣例にならい、金正恩党委員長に「党」として祝電を送っていることが分かった。それは昨日(5月9日)のコラムに書いたように朝鮮労働党大会開催に当たり、慣例通り祝電を送ったのと同じだ。それはこれまでの慣例に従っているだけで、現在における「扱い」がこれまでと全く異なることをご紹介した。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2016年05月09日

北朝鮮党大会を中国はどう見ているか?(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
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僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 36年ぶりに開かれた朝鮮労働党の第7回党大会を中国はどう見ているのか。
 第6回党大会における中国の対応や、昨年、習近平総書記の名義で金正恩第一書記に出した祝電との比較などを通して中朝の現状を考察する。

◆第6回党大会(1890年)では華国鋒が長文の祝電

 朝鮮労働党の第6回党大会が開かれたのは1980年10月で、そのときには中国共産党の代表団が参加している。さらに当時の中国の最高指導者であった華国鋒が中国共産党中央委員会主席(現在の中共中央総書記)の肩書で長文の祝電を送っている。

 その文字数は1300文字におよび、中朝関係の緊密さと重要性を絶賛している。

たとえば、

●中朝両党と中朝人民は反帝国主義の戦の中で手を携え、血で固めた偉大なる友誼を形成してきた。

●社会主義革命と建設の中で互いに助け合い非常に緊密で友好的な協力関係を築いてきた。

●中国共産党は偉大なる中朝友誼を比類なく重視し、その継続と発展に、いかなる努力をも惜しまない。

●今後も世界にどのような波風が立とうとも、中国共産党と中国人民の、朝鮮労働党と朝鮮人民に対する支持と団結は永久に変わらない。

などである。

◆第7回党大会に対する中国の祝電

 それに比べて、5月6日から開催された朝鮮労働党第7回全国代表大会(第7回党大会)に対して中国が送った祝電の文字数は254文字と非常に短い。しかも「中国共産党中央委員会(中共中央)」名義で送っているだけで、中共中央総書記である「習近平」の個人名はない。

 内容も「大会の成功を祈る」が中心で、中朝両国の友誼に関しては、「かつての指導者たちが育ててきたものだ」とし、「地域の安定と世界平和のために貢献することを祈る」としている。

 1980年の時のような熱気はなく、むしろ「地域の平和を乱すなよ」という内心の言葉を読み取ることができる。

 もちろん代表団は送っていない。

 もっとも国連安保理による経済制裁中でもあるので、出席を拒否される可能性を恐れたのか、北朝鮮側からも招聘状を出していないようだ。1980年の時は118ヶ国の代表が第6回党大会に参加している。

◆習近平総書記が昨年出した祝電とのギャップ

 2015年10月10日は朝鮮労働党建党70周年記念であった。それに先立ち、10月9日に習近平総書記が、個人名を銘記して金正恩第一書記に祝電を送っている。

 それだけではなく、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の党内序列ナンバー5の劉雲山・中共中央書記処書記を祝賀式典に派遣したほどだ。

 それというのも、なんとか朝鮮半島の非核化を目指す六カ国会談に北朝鮮を誘い込み、北朝鮮にミサイルや核開発を断念させることが中国の切なる望みだったからである。

 この年は在北京の北朝鮮大使館で催された祝賀会には李源朝・国家副主席が参加するなど、なんとか北朝鮮を説得しようと、習近平政権は、まだ必死の努力を重ねていた。

 だというのに今年に入ると、水爆実験と称する核実験だけでなくミサイル発射など、北朝鮮はやりたい放題の暴走を中国に見せつけた。10月10日の祝賀閲兵式に参加していた楼閣の上で金正恩とともに手を振っていた劉雲山の姿を、すべての写真や動画から「削除」してしまったほどだ。

 堪忍袋の緒を切らした習近平は、国連安保理の北朝鮮制裁決議に賛同している。

 こんな状態でもなお、たとえ250文字とはいえ、せめて「祝電」を送ったことは、まだ断絶状態にまでは至っていないことの表れと解釈していいかもしれない。

◆核を以て核を制する北朝鮮の論理

 中国が怖れていたのは、北朝鮮が「核保有国」を名乗ってしまうことだった。

 しかし、その最悪の事態が第7回党大会で現実のものとなってしまった。既存の核保有国なみに、北朝鮮も核保有国として核不拡散に協力すると宣言したのである。

 朝鮮半島の非核化を目指して六ヵ国協議を主導してきた中国としては、成すすべを失っていると言っても過言ではないだろう。まるで北朝鮮に「押し切られた」形だ。

 日本では北朝鮮の第7回党大会を大々的に報道しているが、中国のメディアにおけるウェイトは日本より遥かに低く、むしろ報道を控えているといった印象を抱く。

 中国としては、顔に泥を塗られた程度の範疇を越えているからだろう。

◆経済五カ年計画

 そのような中、国民経済発展五カ年計画に関しては中国メディアでも分析が行われている。

 朝鮮労働党の党大会は、「1945年、1948年、1956年、1961年、1970年、1980年」と、過去6回開催されているが、1956年では五カ年計画(1957年~1961年)が、1961年では七カ年計画(1961年~1967年)が、そして1970年では六カ年計画(1971年至1976年)が出されたようだ。

 1980年では経済計画は出されず、金日成(キンイルソン)が「高麗民主連邦共和国」を提唱して朝鮮半島の統一を計画したと、中国政府の新華社は分析している。

 今年の第7回党大会では2016年から2020年までの五カ年計画が発表された。電力供給に重きを置いているようだ。

 改革開放をして経済発展に重きを置けと北朝鮮に対して主張してきた中国としては、なんとも複雑な気持ちだろう。

 さて、今後中国がどう出るのか。

 新たな段階のジレンマに入っていった中国の動向が注目される。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

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