2015年10月

2015年10月19日

習近平主席訪英の思惑 ― 「一帯一路」の終(遠藤誉氏)

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 習近平国家主席が10月19日からイギリスを公式訪問する。中国の主たる狙いはTPPに対するAIIBと一帯一路の強化や人民元国際化ではあるものの、それ以外にイギリスを一帯一路の終点と位置づける思惑がある。

◆CCTV、キャメロン首相の単独取材を繰り返し報道

 中国の中央テレビ局CCTVは、イギリスのキャメロン首相を単独取材して、繰り返し報道している。

 キャメロン首相はつぎのように語っている。

●今回の習近平国家主席の訪英は、英中関係が最も良い時期に当たっている。私はこれを英中関係の「黄金時代」と呼んでいる。

●イギリスは世界各国に市場を開放しているが、中国が投資する先としては、EUのどの国よりもイギリスが最も適している。

●中国の経済は転換点に来ているが、しかし今後も成長を続けるであろうことを私は信じている。イギリスの対中貿易は過去10年の4倍になった。

●ロンドンでは、世界に先駆けて2014年10月から人民元建ての債券を発行するようになったが、イギリスは金融街として全世界を牽引していくことだろう。

●AIIB(アジアインフラ投資銀行)加盟にEUで最初に手を挙げたのはイギリスで、その後に他のEU諸国が続いた。

●これは決してアメリカとの衝突を意味しない。イギリスがAIIBに加盟したことは正しい選択であり、今後は経済貿易のみならず、文化や人的交流に関してももっと力を入れたい。現在イギリスにいる中国人留学生はすでに13万5千人を越えている。

●中国の対英インフラ投資は、より多くのイギリス人の雇用を生んでおり、英中双方がメリットを互いに享受している。これからはチャンスの時代。より多くのチャンスが待っている。

CCTVはさらに、習近平国家主席の訪英中に、150件ほどの大型プロジェクトをイギリスと約束しているなどと報道した。

◆習近平の思惑――イギリスを「一帯一路」の終点に

 習近平がAIIBに関して「イギリスを落せる」と計算したのは、チベット仏教のダライ・ラマ14世に関わる裏事情があったことは今年3月2日の本コラム「ウィリアム王子訪中――中国の思惑は?」で触れた。一種の「脅迫」にも似た形でイギリスが加盟したあと、日米などを除くG7の切り崩しに成功している。

 中国にとってAIIBと一帯一路(陸と海の新シルクロード)構想は、グローバル経済の中における中国の砦(とりで)のようなものだ。

 AIIBは人民元の国際化を狙ってはいいるが、一帯一路構想により、アメリカがアジア回帰して対中包囲網を形成することと、世界に「民主」を輸出するアメリカの価値観外交による対中包囲網形成を阻止することにある。

 10月7日付の本コラム<TPPに「実需」戦略で対抗する中国>に書いたように、習近平政権としてはアジアの「実需」に重点を置きながら、一方では一帯一路の終点を「西の果て」のイギリスに置いて、アメリカと区切っているのである。

 同コラムに書いたように、中国は「普遍的価値観」などを共有(強要?)するファクターのある経済連合体には加盟しない。二国間の自由貿易協定(FTA)に近い形ならば、喜んで提携する。

 イギリスはたしかに「人権の尊重」を求めて中国を批難した過去があるし、特にチャールズ皇太子はダライ・ラマ14世と会うことを批難する中国を、心の中では嫌っているにちがいない。そのために、今般の習近平訪英では、自宅に招きはするものの、エリザベス女王がバッキンガム宮殿で主宰する晩餐会には出ないという。「せめてもの抵抗」を示しているのだろう。

 そのチャールズ皇太子とて、「王室として法王に共鳴している」という要素はあっても、アメリカのように「民主主義を輸出して、普遍的価値観で中国を包囲する」といったようなことは要求しない。現にキャメロン首相はCCTVのために、あれだけ中国をほめちぎっているし、エリザベス女王も、「やむを得ず」であるかもしれないが、最高級の国賓待遇を習近平国家主席に与えている。王室と異なる動きを政権がすることもあれば、王室の一部が抵抗しても女王の名義が冠に着いていれば国家間として動ける。

 キャメロン首相がCCTVの取材で「アメリカと衝突を起こしはしない」とわざわざ言ったのも、ある意味の米英間の「微妙な亀裂」が懸念されているからだろう。中国にとって、束になって「普遍的価値観」という価値観外交で中国を取り囲もうとするアメリカよりも、イギリスの方がずっとありがたいのである。

 だからこそイギリスを一帯一路の終点として、フォーカスを絞ったのだ。

 こうすれば、中国は西へ向けた地球儀の半分以上は制覇できる。

 今年9月9日にはイギリスの海運業界の「ロンドン海事サービス協会」は中国の関係企業と協定を結んだ。同協会の責任者は「海のシルクロードは、海運の国であったイギリスにとっては非常に重要な構想だ」と「一帯一路」を高く評価している。

 今年4月22日には北京で「華龍一号」(中国が開発した原子力発電第三代ブランド)がイギリスにおいて着工される運びとなった祝賀会が開催されたが、そのときに中国側は「海のシルクロードの始点は福建で、終点はイギリスだ」と述べている。

 インドネシアの高速鉄道を手に入れただけでなく、中国は原発を始めてEUに輸出する国となり、AIIBと一帯一路により「実需」で地球儀の半分を固めていくことになる。

 日本には「中国を普遍的価値観を共有するTPPに誘い込む」といった夢を語る人もいるが、中国は経済連携では壮大な戦略を描いても、決して普遍的価値観を論じるような世界には入らない。

 日本に対して歴史カードを高く掲げ、歴史認識問題を国際社会の共通認識にしようとしている「思想闘争」も、実はこの訪英と無関係ではない。日米関係が緊密である日本をターゲットにしてアメリカを困らせTPP構想を切り崩すのと同じように、普遍的価値観を要求してこないイギリスに対して、AIIBや一帯一路で広大な経済連携体を構成して、TPPに対抗しようとしているのである。

 金融センターには透明性や民主がなければならないが、しかしイギリスの金融街シティを仲介しながら人民元の国際化を図るという戦略がいま進みつつある。

 これはキャメロン首相がCCTVの取材に答えているように、互利互恵の関係により発展する可能性を否定できない。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年10月14日

中国が申請した「南京事件」資料のユネスコ記憶遺産登録に関する決議(自民党)

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中国が申請した「南京事件」資料のユネスコ記憶遺産登録に関する決議

                            平成27年10月14日
                               自由民主党
                               外交部会
                               文部科学部会
                              外交・経済連携本部
                              国際情報検討委員会
               日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会


            

 今般、中国がユネスコ記憶遺産に登録申請していた「南京事件」に関する資料が登録された。
 
 日本政府は、中国側に対して申請取下げを申し入れるとともに、申請書類の共有や日本人専門家派遣の受入を要請してきたが、中国側はこれに全く応じなかったと承知している。一方的な主張に基づいて登録申請を行うという今回の中国側の行動は、ユネスコという国際機関の政治利用であり、断じて容認できない。

 また、ユネスコは、本来、メンバー国同士の問題に対しては、国際機関として中立・公平であるべきであり、今回登録された案件のように、中国側の一方的な主張に基づく申請を、関係者である我が国の意見を聞くことなく登録したことに強く抗議する。

 こうしたことを踏まえ、政府は中国に対し、ユネスコを始めとする国際機関を、これ以上政治的に利用しないよう強く要請すべきである。また、ユネスコに対しては、本「南京事件」登録を撤回するという新提案を直ちに行うこと、さらにユネスコの設立の本来の目的と趣旨に立ち戻り、関係国間の友好と相互理解を促進する役割を強く求め、記憶遺産制度の改善を働きかけ、ユネスコへの分担金・拠出金の停止、支払保留等、ユネスコとの関係を早急に見直すべきである。

 さらに、二年後の次回登録に向け、我が国主導による「南京事件」及び「慰安婦問題」に関する共同研究の立ち上げ、アジア太平洋地域ユネスコ記憶遺産委員会(MOWCAP)をはじめ関連機関に、日本人の参画を強力に推進すべきである。

 以上、決議する。


2015年10月13日

スクープ!毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた(遠藤誉氏)

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 ユネスコが「南京大虐殺」資料を世界記憶遺産に登録することを決めた。
 中国の歴史問題への逆走が止まらない。

 実は建国の父、毛沢東は「南京大虐殺」を教科書で教えることも、口にすることも嫌がった。
 なぜか―?

◆なぜ毛沢東は「南京大虐殺」に触れたくなかったのか?

 毛沢東は生きている間、「南京大虐殺」に触れることを嫌がったし、教科書にも載せようとしなかった。(日本語では「南京事件」と称するが、ここではユネスコで登録されたことと、毛沢東の「南京大虐殺」に関する見方を考察するので、中国流の「南京大虐殺」という文言を用いる。)

 なぜなら、「南京大虐殺」が起きた1937年12月13日前後、毛沢東ら中国共産党軍は、国民党軍も日本軍も攻撃にこれらないほどの山奥に逃げていたからだ。そこは陝西省延安の山岳地帯。南京の最前線で戦っていたのは蒋介石率いる国民党軍だった。

 毛沢東らはそもそも、1937年7月7日に起きた盧溝橋事件(日中戦争が本格化した事件)の第一報を受けると「これで国民党軍の力が弱まる」と喜んだと、1938年年4月4日まで延安にいた(共産党軍の)紅第四方面軍の軍事委員会主席・張国トウ(トウ:壽の下に点4つ)が『我的回憶(我が回想)』で記録している。

 中共中央文献研究室が編纂した『毛沢東年譜』を見ても、この日付の欄には、ただひとこと「南京失陥」(南京陥落)という4文字があるだけだ。その前後は1ページを割いて1937年12月9日から12月14日まで開催していた中共中央政治局拡大会議のことが書いてあり、13日に4文字あったあと、14日からはまた雑務がたくさん書いてある。

「南京大虐殺」に関しては「ひとことも!」触れていない

『毛沢東年譜』は毛沢東の全生涯にわたって全巻で9冊あり、各冊およそ700頁ほどなので、合計では6000頁以上にわたる膨大な資料だが、この全体を通して、「南京大虐殺」という文字は出てこない。1937年12月13日の欄に、わずか「南京失陥」という4文字があるのみである。

 翌年も、翌翌年も、そして他界するまで、ただの一度も「1937年12月13日」の出来事に触れたことはなく、この「南京陥落」という4文字さえ、その後、二度と出て来ない。

 毛沢東は完全に「南京大虐殺」を無視したのだ。

 そこに触れれば、中国共産党軍が日本軍とは、まともには戦わなかった事実がばれてしまうことを、恐れたからだろう。そして国民党軍の奮闘と犠牲が強調されるのを避けたかったからにちがいない。

◆中国大陸のネット空間では

 いまごろになって、中国大陸のネット空間には、「なぜ毛沢東は南京大虐殺を教えたがらなかったのだろうか?」とか「なぜ毛沢東は南京大虐殺を隠したがったのだろうか?」といった項目が数多く出てくるようになった。

 たとえば大陸の百度(baidu)で検索した場合、「毛沢東 南京大虐殺」と入れると、日によって異なるが200万項目ほどヒットする。そのほとんどは、この疑問への投げかけだ。

 中にはきちんと中国建国以来、いつまで南京大虐殺を隠し続けたかを調べた人もいる。この種の記事は多いが、信じていただくために一つだけ具体例を挙げよう。

 2014年12月31日付の西陸網(www.xilu.com)(中国軍事第一ポータルサイト)で「毛沢東時代はなぜ南京大虐殺に触れなかったのか――恐るべき真相)」というタイトルで陳中禹(う)という人がブログを書いている。 

 彼は1958年版の『中学歴史教師指導要領』の中の「中学歴史大事年表」の1937年の欄には、ただ単に「日本軍が南京を占領し、国民政府が重慶に遷都した」とあるのみで、一文字たりとも「南京大虐殺」の文字はないと書いている。この状況は1975年版の教科書『新編中国史』の「歴史年表」まで続くという。

 ちなみに、毛沢東が逝去したのは1976年。陳氏によれば、1979年になって、ようやく中学の歴史教科書に「南京大虐殺」という文字が初めて出てくるとのことだ。

 他の情報によれば「1957年の中学教科書にはあったが、60年版では削除されていた」とのこと。実際、確認してみたが、たしかにその時期、南京大虐殺を書いた教科書が江蘇人民出版社から出たことがある。しかし、その後消えてしまっている。

 200万項目ほどヒットする関連情報の中に、「1980年代に入ると日本の歴史教科書改ざん(美化)問題があったため、中国の一般人民は初めて南京で日本人による大虐殺があったことを広く認識し始めた」というのが多い。それによれば人民日報が初めて「南京大虐殺」に関して詳細に解説したのは1982年8月で、その書き出しは「日本の文部省の歴史教科書改ざん問題」から始まっているとのこと。

 そのため大陸の多くのネットユーザーは、「中国人民は日本の右翼に感謝しないとねぇ。なんたって、彼らがこうやって歴史歪曲を始めようとしなかったら、中国人民は永遠に南京大虐殺のことを知らないまま、生きていたのかもしれないんだから」と、皮肉を込めて書いている。

 ちなみに、「南京大虐殺記念館(中国名:侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)」は、日中戦争勝利40周年記念に当たる1985年8月15日になって、ようやく建立された。

 なお、靖国神社参拝批判が80年代半ばから盛んになった背景にも、こういった毛沢東の「抗日戦争(日中戦争)観」が関わっている。

◆習近平政権になってから異常に加速する「歴史カード」

 今年8月25日付けの本コラムで「毛沢東は抗日戦勝記念を祝ったことがない」と書いたが、習近平国家主席は、9月3日の抗日戦争勝利70周年記念日に中国建国後初めて軍事パレードを挙行しただけでなく、「南京大虐殺」に関してもユネスコが世界記憶遺産に登録認定するところまで漕ぎ着けた。

 習近平政権になってから、中国共産党による日中戦争時の歴史改ざんは加速するばかりである。言葉では「世界平和のため」と言っているが、その実、「日本の戦争犯罪を世界共通の認識」へと持っていき、反日意識を全世界に広げる効果をもくろんでいる。

 なぜなら日米が中心となってTPPなどの手段で「普遍的価値観」を世界的に普及させ中国包囲網が思想的に出来上がっていくのを切り崩したいからだ。そのためには「日本の歴史認識カード」は都合の良い切り札になるのである。

 その証拠に10月10日、中国外交部の華春瑩・副報道局長は「南京大虐殺は国際社会が公認する歴史事実となった」と述べたことに注目しなければならない。

◆中国に関する日本人の「歴史認識」の危なさ

 問題はわれわれ日本人が、どれだけ正しい中国に関する「歴史認識」を持っているかだ。

 今年8月10日付の本コラム「戦後70年有識者報告書、中国関係部分は認識不足」に書いたように、日本の「有識者」は「1950年代半ばに共産党一党独裁が確立され、共産党は日本に厳しい歴史教育、いわゆる抗日教育を行うようになった」と書いている。

 日本の政治を動かす、安倍総理のための「有識者」は、こんな程度の「中国に関する歴史認識」しか持っていない。これが日本国民にどれだけの不利をもたらしていることか――。このような状態では日本を守る外交戦略さえ立てることができない。

 中国のこの、政治利用とも言える「歴史認識カード」を跳ねのけることができる唯一の道は、日中戦争時代および中国建国後の毛沢東を徹底して研究することである。それ以外に道はない。

 それにより中国共産党の真相を正しく客観的に見抜く視点を養えば、ユネスコを説得する力をも持ち得ると固く信じる。

 札束と、中共に都合よく歪曲された歴史を世界の共通認識とさせてはならない。

 日本の「有識者」が潜在的に中共のプロパガンダに洗脳されていることに気づかない日本政府の怠慢でもある。

 なお、本日のコラムに書いた内容は、来月半ばに出版する『毛沢東――日本軍と共謀した男』(新潮新書)で詳述している。出版前に企業秘密のような内容を開示してしまうのはルール違反だが、ユネスコの世界記憶遺産発表を受け、真実を明らかにせずにはいられなく、出版社の許可を得て一部を事前に公開した次第である。


 遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

shige_tamura at 08:22|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!遠藤誉 

2015年10月08日

安倍首相・内閣改造後会見(10月7日)

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 安倍首相・内閣改造後会見

【1億総活躍社会】

 本日内閣を改造致しました。この内閣は未来へ挑戦する内閣であります。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する、そして高齢者も若者も、女性も男性も、難病や障害のある方も誰もが今よりももう一歩前へ踏み出すことができる社会を創る。1億総活躍という輝かしい未来を切り拓くため、安倍内閣は新しい挑戦をはじめます。

【新三本の矢】

 戦後最大のGDP600兆円、希望出生率1・8、そして介護離職ゼロ。
 この3つの大きな目標にむかって新しい3本の矢を力強く放つ。そのための強固な体制を整えることができたと考えております。
 まずこれからも経済最優先。GDP600兆円を目指す経済政策を一層強化していかなければなりません。麻生副総理、甘利大臣には留任していただきました。引き続きアベノミクスを支える骨格として、雇用を増やし、しっかりと所得を増やす成長戦略を実行し、国民の皆さんが真に実感できる経済の好循環を回し続けてまいります。

【地方創生】

 地方創生もこれからが本番です。北は北海道から南は沖縄まで、目に見える地方創生を進めるため、今後も石破大臣に全力で取り組んで頂きます。地方活性化の要である国土交通大臣は石井大臣です。公明党で長く政審会長を務めてこられて、政策のプロであり、その手腕に多いに期待しております。

【TPP】

 TPPの大筋合意を受け、総合的な対策を進める農林水産大臣は森山大臣にお願い致しました。自民党で長年農政を引っ張ってきた方であります。
 地方の農業者の不安によりそい、まさに2人3脚でTPPをピンチではなく、チャンスとする若者が夢を持てる農業へと農業改革を大胆に進めて参ります。 

【成長戦略】

 成長戦略は一にも二にも改革あるのみであります。経済産業大臣には大ベテランである林大臣にお願い致しました。豊富な政治経験をいかして全国の中小小規模事業の皆さんを応援し、成長戦略、構造改革を果断に実行していって頂きたいと考えております。

【1億総活躍担当相】

 誰もが結婚や出産の希望が叶えられる社会を作り、現在1・4程度に低迷している出生率を1・8までに引き上げる、さらには超高齢化がすすむなかで団塊ジュニアをはじめ、働きざかりの世代が、一人も介護を理由に仕事をやめることのない社会をつくる、この大きな課題にチャレンジする、そのためには霞が関のたてわりを廃し、内閣一丸となった取り組みが不可欠です。大胆な政策を発想する、発想力と、それらを確実に実行していく、強い突破力が必要です。
 司令塔となる新設の1億総活躍担当大臣には、これまで官房副長官として官邸主導の政権運営を支えてきた加藤大臣にお願いいたしました。女性活躍や社会保障改革において 霞が関の関係省庁をたばね、強いリーダーシップを発揮してきた方であります。
 加藤大臣が中心になって自民党きっての改革派である塩崎厚生労働大臣、文部行政に精通し大胆な発想力を持つ馳文部科学大臣など、関係大臣が力を合わせる斬新かつ効果的な政策を立案し実行して参ります。1億総活躍社会に向かって、政策の実行、実行、そして実行あるのみであります。

【女性活躍】

 女性の輝く社会作りも1億総活躍社会の中核として引き続き安倍内閣にとって最大のチャレンジであります。安倍政権においては女性のみなさんにもドンドン活躍してもらう考えであります。今回党では稲田政調会長、内閣では高市総務大臣に留任して頂きました。引き続き政権運営の中核としてご活躍いただけるものと思います。そして新たに島尻大臣、丸川大臣に入閣して頂きました。それぞれの分野で女性ならではの目線を生かし、新風を巻き起こして欲しいと思います。
 そして新たに、島尻大臣、丸川大臣に入閣していただきました。それぞれの分野で、女性ならではの目線を活かし、新風を巻き起こしてほしいと思います。沖縄選出の国会議員である島尻大臣には、アジアとの架け橋である沖縄が21世紀の成長モデルとなるよう、沖縄の方々の心に寄り添った沖縄振興策を積極果敢に進めてもらいと考えています。
 沖縄の基地負担軽減についても担当大臣である菅官房長官を中心に、引き続き出来ることは全て行うとの基本姿勢のもと全力で取り組んでまいります。

【外交・安全保障政策】

 外交安全保障については、先般成立した平和安全法制の確実な施行に万全を期して参ります。安全保障の基盤を確かなものとするとともに、積極的な平和外交を力強く進めるため、岸田外務大臣、中谷防衛大臣には留任していただくことにいたしました。遠藤大臣にも引き続き、担当大臣として、東京オリンピック、パラリンピックの準備に万全を期してもらいます。

【初入閣の9人】

 自民党は人材の宝庫であります。今回9名の方が、初入閣となりました。大いにその能力を発揮してもらいたいと期待しています。大ベテランの政治家である岩城大臣には、課題山積の法務情勢?の舵取りをお願いしました。高木大臣は、党内で、長年政策を磨いてきた、政策通でもあります。国土交通副大臣などの経験を活かし、復興をますます加速していってもらいたいと思います。
 河野大臣は、大勢に迎合することなく、常に改革を強く訴えてきた情熱の持ち主であります。閣内でも改革断行の総もとじめとして、これまでの経験を活かしてあらゆる改革を一気に加速してもらいたいと期待しています。
 さらには、丸川大臣のように、若い力も加わります。環境大臣として、そのバイタリティで、地球温暖化対策、福島の除染の加速などに、チャレンジしてほしいと思います。
老壮青のバランス、まさに世代を横断的に日本の未来の姿を大胆に構想し、果敢にチャレンジしていく体制を整えることができたと思います。

【1億総活躍会議&プラン】

 GDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロ、一億総活躍社会なんて本当にできるのかという声も耳にいたします。20年近く続いたデフレによって、いかにデフレマインドが日本の隅々にまで蔓延してしまったのか。日本を覆う自信喪失の根の深さを改めて感じています。しかし、やらなければなりません。少子高齢化をこのまま放置していいわけはありません。私達の子や孫の世代に誇れる日本を引き渡すため、安倍内閣は明確な目標を掲げ、未来に向かって挑戦します。
 まず、年内のできるだけ早い時期に、近著に実施すべき対策第一弾を策定し、直ちに実行に移します。加藤大臣には、早急に一億総活躍国民会議を立ち上げ、対策をとりまとめてもらう考えです。さらには、2020年、そしてその先を見据えながら、3つの明確な目標に向かって、そして、いつまでに実現をめざし、そして、具体的にどのような政策を実行するのか、具体的なロードマップを日本一億総活躍プランとして、とりまとめてもらいます。安倍政権発足から1000日余りが経ちました。
 アベノミクスにより、雇用は100万人以上増え、給料は2年連続で上がりました。もはやデフレではないという状況を作り出すことができました。国民のみなさんの努力によって、日本は新しい朝を迎えることができました。
 やればできる、その強い自信をもって、国民のみなさんとともに少子高齢化という構造的な課題にチャレンジする一億総活躍社会という未来に向かって大いなる挑戦をはじめたいと思います。新しい安倍内閣に対しましても引き続きご理解とご支援を賜りますように、お願いを申しあげます。私からは以上であります。

【今後3年間の重要政策】

Q:きょう第3次改造内閣が発足しました。これまでも安全保障法制、農協改革、TPP、原発再稼働と大きな政治課題がありました。先月、自民党総裁選で再選を決めたことで、平成30年9月まで任期があります。今も最優先課題として「経済再生」を掲げていますが、長いスパンで来年夏の参院選後も含め、この3年間で成し遂げるべき政策は何と考えているでしょうか。また、その優先順位をお聞かせください。(幹事社・産経新聞)

総理:これからの3年間ということについてのご質問だと思いますが、この3年間、最大の課題は、なんと言っても1億総活躍社会の実現であります。GDP600兆円、そして希望出生率1.8の実現、また介護離職ゼロ。どれもが難しい課題でありますが、この大きな目標に向かってですね、全力を尽くして、その実現に全力を尽くしていきたいと思います。
 野心的な目標でありますし、最初から設計図があるような簡単な課題ではありませんが、誰もが活躍できる日本を実現するために、内閣の総力を挙げて、大胆な政策を進めていく。実行あるのみであると、こう考えております。
 またですね、外交・安全保障の面においても、積極的な平和主義の旗の下、世界の平和と繁栄に貢献をしていく。世界の中心で輝く日本を作り上げていくことも重要な課題であります。そして、また3年間というスパンで見ていきますと、日本という国の未来、私たちの国の未来を自分たち自身の手で作り上げていく。この3年間、この3年間、時代が求める憲法の姿を、国の形についても国民的な議論を深めていきたいと考えています。
 少子高齢化をはじめ、長年の懸案だった諸課題に真正面から向き合って克服する。誇りある日本を作り上げ、そして次の世代にしっかりと引き渡していく。これは今を生きる私たちの、そして政治家の大きな責任であろうと思います。
 未来をしっかりと見据えながら、国民とともに大きな、そして明確な課題に挑戦し、結果を出していく決意であります。

【1億総活躍担当相と地方創生担当相の担務の違い】
Q:今回の内閣改造で新設した1億総活躍担当相に加藤勝信副長官を起用した狙いについてお聞かせください。また石破地方創生担当相が留任しましたが、1億相活躍担当相と担当分野が重なる部分も多いように思いますがm関係閣僚との具体的な役割分担にお聞かせください。=幹事社・北海道新聞=

総理:冒頭のですね、説明と少し重なるかもしれませんが、少子高齢化は、それに伴う過疎化という課題については、地方において深刻さを増しておりますけど、これへの対応なしに地方創生を論じることはできません。今後とも、地方におけるこうした課題に石破大臣には取り組んでいただきたいと思います。
 一方で少子高齢化については、全国で最も出生率が低いのは、東京であります。必ずしも地方創生の視点だけで、少子化の問題を論じることはできない課題だろうと思います。また、教育再生や子育て支援、仕事と介護の両立、生涯現役社会の実現などですね、省庁の枠を超えた従来の発想にとらわれないアプローチで国づくりを進めていくことも、必要であります。
 そうした思いで、1億総活躍を目指し、希望出生率を1.8、介護離職ゼロなど明確かつ野心的な目標を掲げ、その実現を目指すことにしました。1億総活躍大臣は関係大臣と緊密に連携しながら、そうした野心的な目標に、目標の実現に向かってですね、内閣全体をリードしていく。そのための司令塔であると思います。
 加藤大臣は政権発足から1000日あまり官房副長官として各省庁を束ね、まぁ、官邸主導の政権運営を支えてくれました。具体的な政策でも女性活躍や社会保障改革などを担当し、強いリーダーシップを発揮をしてくれたと思います。これは、みなさんにも官房副長官時代としての仕事ぶりは評価をしていただいているのではないかと思います。
 そうした経験の下で培った省庁の縦割りを廃した広い視野、そして大胆な政策を構想する発想力、それらを確実に実行する強い突破力を存分に発揮してもらいたいと思います。1億総活躍への、いわば司令塔であり、切り込み隊長として頑張ってまいると期待をしております。

【女性活躍】
Q:今回の改造内閣では、総理が今おっしゃたように、1億総活躍の社会が大きな目標となっているが、中でも総理が最重要課題の一つとして、これまで取り組まれている女性の活躍についてお尋ねする。
 この女性の活躍の支援を目指すところは、やはり経済効果、つまり経済の再生と出生率の増加によって人口の減少を食い止め、強い経済と社会保障を維持できる国をつくるということでしょうか。
 また2年間で、女性の支援の政策がいろいろ政策がありましたが、効果が今ひとつ十分ではなく、さらなる努力が必要だと思われることがあれば、それはどのような分野で、今後の課題はどのようなものか。

総理:私は、国内だけでなくて、世界に出かけて行ってですね、アベノミクスは、ウーマノミクス、こう申し上げています。少子化による人口減少を食い止め、経済活力を維持していかなければなりません。これまで保育待機児童の解消など、女性が子育てと仕事を両立しやすい環境の整備に力を入れてきました。
 そしてまた同時に企業にも、女性役員についての情報開示を求めることによってですね、女性の登用を働きかけてまいりました。政策は一定の効果を上げまして、この2年半で、新たに100万人の女性が労働市場に参加をし、企業における女性の役員が約3割になりました。今後、さらに成果を上げるため、ワークライフバランスの追求よるですね、働き方の改革。
 先般、成立した女性活躍推進法の確実な施行による官民組織における女性の採用・登用の促進、困難を抱える家庭に対する支援を一層、強化をしていきます。
 それでもなおですね、指導的地位に占める女性の役割を3割に戻すことは、簡単ではありません。その原因の中は、そういった年代にそもそも女性が少ないことがあります。まずは女性における、採用における、女性の割合を高め、その上で、指導的立場にふさわしい、すばらしい経験を積ませ、人材のプールを拡充していく必要があるだろうと思っています。
 その意味においては、隗より始めよということで、公務員において、しっかりと将来の幹部女性を採用しはじめいるわけであります。女性が着実にキャリア積む上で、最大の壁は長時間労働を是とする働き方。限られた時間で、効率的に働くことを評価する企業文化を広げ、家事や育児を夫婦ともに担うことをですね、日本でも当たり前にしていかなえればならない、こう思っております。
 この永田町と、皆さんの世界もそうでしょうけども、我々もこうしたしっかりしたワークライフバランスが必要だと思います。そうなればですね、男性も女性も生産性の高い仕事と、豊かな生活を無理なく実現できるようになっていくんではないかと思います。
 そしてまた、あらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指していきたいと思います。それにはもちろん先ほど言った、目標に向かって進んでいきたいと思います。そういう意味においては、政治のありようはですね、大きな影響を与えると思います。その中においても、私もできる限りの努力をしていきたいと思っています。

【TPP】
Q:先日の会見で、TPPの国内対策、影響、不安がある同業者の方などを踏まえて、国内対策について考えを示されました。今の総理がご説明された一億総活躍社会に向けて、対策の第一弾を作られる考えを説明されました。こうしたものに向けて、補正予算の@を指示する考えがございますか。もしあるならば規模感を含めて、お考えを聞かせてください。

総理:甘利大臣からですね、帰国をいたしまして、本人からも直接、TPP交渉、大筋合意について報告を受けました。TPPをですね、真に我が国の経済再生や地方創生に直結するものとするためですね、全閣僚をメンバーとするTPP総合対策本部を設置し、総合的な対策を検討するよう指示をしました。
 農業は国の基であります。そして、美しい田園風景を守っていかなくてはなりませんし、これは政治の責任である、こう考えています。私の地元も農村地域を多く含むわけであります。東京の様な国際的な都市、そして個性のある地方都市、さらに美しい農村、漁村、田園風景があって初めて私は日本だろうと、こう思っています。
そのためにもですね、活力ある農村、漁村を作り出していく必要がある。まさにそれはピンチではなく、それはチャンスに変えていきたいと思います。
 今後ですね、農林水産業にどのような具体的影響が生じうるかを十分に精査して、その上でTPP締結について、国会の承認を求めるまでの間に政府全体で責任を持って、国内対策を取りまとめ、交渉で獲得した措置と合わせて、安全な措置を講じていく考えであります。国内対策にあたってですね、必要な予算については、さまざまな観点から、今後検討を進めていく考えであります。

shige_tamura at 09:25|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!安倍晋三 

2015年10月06日

安倍晋三総理・TPP会見と稲田政調会長のコメント

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【TPPは国家百年の計】

 新しいアジア太平洋の世紀、いよいよその幕開けです。日本と米国がリードして、自由民主主義、基本的人権、法の支配といった価値を共有する国々とともに、アジア太平洋に、自由と繁栄の海を築き上げる。TPP協議について、昨日大筋合意医にいたりました。
 かつてない人口8億人。世界経済の4割近くを占める広大な経済圏が生まれます。そして、その中心に日本が参加する。TPPはまさに国家100年の計であります。

【TPPが変える世界】

 TPPは私達の生活を豊かにしてくれます。それは貿易に国境がなくなり、世界のバラエティ溢れる商品を安く手にできることができるということだけではありません。海賊版、偽ものの商品を買わされて、後悔する、そのようなことはなくなっていきます。海外に旅行したときの電話代も安くなるかもしれません。サイバーの世界を飛び交うみなさんの個人情報も、しっかりとまもられるようになります。
 TPPのメリットは単に関税をなくすだけにとどまりまえせん。安かろう悪かろうは認めない。サービスから私的財産にいたるまで、幅広い分野で品質の高さが正しく評価される、公正なルールを共有し、持続可能な経済圏を作りあげる、野心的な取り組みであります。TPPは私達にチャンスをもたらします。その主役は、きらりと光る技をもつ中小小規模事業者のみなさん、個性溢れるふるさと名物をもつ地方のみなさんであります。

 10%近いメガネフレームの関税がゼロになる。福井のサバイブランドをもっと世界に広めていく絶好の機会であります。日本茶にかかる20%もの関税がゼロになる。静岡や鹿児島が世界優秀の茶所と呼ばれる日も近いかもしれません。

 国によっては30%を超える陶磁器への関税がゼロになる。岐阜の美濃焼や佐賀の有田焼、伊万里焼、日本が誇る伝統の陶磁器は海外の人たちを魅了するに違いありません。意欲溢れる地方のみなさん、若者のみなさんにはぜひ、TPPという世界の舞台で、このチャンスを最大限活かして欲しいと思います。

【新ルールの導入】

 海外の成長、著しいマーケットへと果敢に飛び込む。そうしたみなさんには投資を守る新たなルールができます。TPP参加国への投資であればその国の政府から技術移転を行って欲しいと言った不当な要求が行われることは、今後一切なくなります。
 粘り強く交渉を行った結果、我が国の主張が協定に盛り込まれました。攻めるべきは攻め、守るべきは守る。
 TPP交渉に臨んで、私は繰り返しこのように述べてきました。世界に誇るべき我が国の国民皆保険制度は今後も堅持いたします。食の安全、安心にかかる基準もしっかりと守られます。正当な規制を行うにあたって、我が国の危険は全く損なわれることはありません。

【自民党公約と農産品】

 投資家と国との紛争処理、いわゆるISDSに関して、そのことを確認する規定を盛り込みました。自由民主党がTPP交渉参加に先立って掲げた、国民のみなさまとのお約束はしっかりと守ることができた。そのことは、明確に申しあげたいと思います。中でも、聖域無き関税撤廃は認めることはできない。これは交渉参加の大前提であります。

 特に米や麦、サトウキビ、テンサイ、牛肉、豚肉、そして乳製品。日本の農業を長らく支えてきた、これらの重要品目は最後の最後までギリギリの交渉を続けました。その結果、これらについて関税撤廃の例外をしっかりと確保することができました。これらの農産品の輸入が万一、急に増えた場合には、緊急的に輸入を制限することができる新しいセーフガード措置をさらに設けることも認められました。日本が交渉を積極的にリードすることで、厳しい交渉の中で国益にかなう最善の結果を得ることができた、私はそう考えております。

【総合経済】

 それでもTPPに入ると、農業を続けていけなくなるんじゃないか。大変な不安を感じている方々が沢山いらっしゃることを私はよく承知しております。また美しい田園風景、伝統あるふるさと、助け合いの農村文化。日本が誇るこうした国柄をこれからもしっかりと守っていく。その決意は、今後も全く揺らぐことはありません。私が先頭に立って取り組んで参ります。全ての大臣をメンバーとする総合対策本部を設置します。できる限りの総合的な対策を実施してまいります。甘利大臣が帰国し、報告を受けた後、具体的な指示を出すこととしています。新たに輸入枠を設定することになる米についても、必要な措置を講じることで市場に流通する米の総量は増やさないようにするなど、農家の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、生産者が安心して再生産が、再生産に取り組むことができるように万全の対策を実施していく考えであります。

【攻めの農業への転換】

 農業こそ国の基であります。しかし戦後、1600万人を超えていた農業人口も現在200万人。この70年で3分の1、8分の1まで減り、平均年齢が66歳を超えました。TPPをピンチではなく、チャンスにしていかなければならない。若者が自らの情熱で新たな地平線を切り拓いていくことができる農業へと変えていく起爆剤としなければなりません。TPPでは多くの国で農作物にかけられていた関税がなくなります。

 北海道のメロン、大分の梨。日本には他にはないような甘くてジューシーな果物が沢山あります。新潟にはコシヒカリ、宮城にはひとめぼれ、青森には津軽ロマン、日本が誇る美味しいお米にも世界のマーケットという大きなチャンスが拡がります。

 米国では最近、とりわけ流行に敏感なニューヨーカーたちの間で霜降りの和牛ビーフが人気を集めています。しかし、26%の関税がかかり、価格がどうしても高くなる。大きな壁として立ちはだかってきました。この壁がTPPによって取り払われます。
 最大で現在の輸出実績の40倍まで関税がゼロになります。そして、将来的には全てが制限が取り払われます。米国の皆さんに日本の美味しい和牛をもっと知ってもらい、もっと食べてもらう、大きなきっかけになると私はそう確信しています。
 政府としてTPPにチャンスを見出し、世界のマーケットに挑戦しようとする、みなさんを全力で応援していたいと考えています。

【改革を恐れず、勇気を持ってチャレンジ】

 この20年近く日本経済はデフレに苦しんできました。頑張っても報われない。収入が増えない。すべては日本の隅々にまで、内向きなマインドがまん延していった。私たちが新たな挑戦を恐れてきた。その結果ではないでしょうか。少子高齢化の進展、経済のグローバル化、新興国の台頭、内外の経済情勢は変化を続けています。

 改革を恐れるのは、改革を恐れるのは、もうやめましょう。勇気を持ってチャレンジすべきです。イノベーションを起こし、オープンな世界に踏み出すべきときであります。TPPはそのスタートにすぎません。RCEP(東アジア地域包括経済連携)、さらにはFTAAP(アジア太平洋自由貿易圈)。アジアの国々とともにもっと大きな経済圏を作り挙げていく。ヨーロッパとのEPA(経済連携協定)も年内合意を目指し、加速させなければなりません。

 日本はこれからもリーダーシップを発揮する決意であります。70年前、日本は全てを失いました。しかしアジアでいち早くGATTに加盟し、貿易の自由化を始めました。自動車やエレクトロニクスといった新しい産業を果敢に興し、世界への競争に打ってでました。そして、わずか20年ほどでアメリカに次ぐ、世界第2位の経済大国に上り詰めました。先人達の血のにじむような努力によって現在の繁栄がある。

 私たちもまた力の限りを尽くして、日本をさらに成長させ、子や孫の世代に引き渡していく、大きな責任があります。その責任を果たすため、国民の皆様とともに今日、ここから新たな一歩を踏み出したい。TPPへの参加について、国民の皆様へのご理解とご支援をお願いする次第であります。私からは以上であります。

(冒頭終了)

《質疑応答》
【TPPの批准に向けた国内対策】

Q(道新):首相は2年前に国益にかなう最善の道を追求すると国民に約束した上で、TPP交渉への参加を決断され、交渉を重ねてきました。今回の大筋合意には、経済界から歓迎の声が出ている一方、農業団体からは「農産品の重要5品目などの聖域確保を優先し、確保できない場合は交渉脱退も辞さない」とした国会決議に反するとの声も上がっています。首相は今回の合意内容について、日本が守るべき聖域は守られたとお考えでしょうか。またTPP妥結によって影響を受ける国内産業に対する対策の規模や時期についての具体的なお考えをお聞かせください。

総理):平成25年4月の衆参の農林水産委員会においてTPP交渉に関し、米麦牛肉豚肉乳製品、官民支援?、作物などの農林水産物の重要品目について奇数値?再生産可能となるような除外または再協議の対象とすること、10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も認めないこと 農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが 確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものにすることなどを内容とする決意がなされた。
 TPPは包括的な高い水準の協定を目指し関税撤廃の圧力は極めて強かったわけではありますが、政府としてはこの決議をしっかり受け止め、同年7月の正式交渉参加以来、ぎりぎりの交渉を行なって参りました。その結果、米国などが近年締結しているFTAでは類例見えないようなレベルで、重要5品目を中心に関税撤廃の例外を数多く確保することができました。さらに、国会決議を後ろ盾に各国と粘り強く交渉し、重要5品目を中心に国家貿易制度を堅持するとともに 既存の関税割当品目の枠外税率を維持したことに加えまして、関税割当や政府ガードの創設、関税削減機関を長期とするなどの有効な処置を認めさせることができました。
 農業は国の基であり、美しい田園風景を守っていくことは政治の責任であります。農林水産業を意欲ある、生産者が安心して再生産に取り組むことができる、若い世代にとって夢のある分野にしていく考えであります。
 今後どのような具体的影響が生じるうるかを十分に精査していきます。その上でTPP協定の締結について、国会の承認を求めるまでの間に政府全体で責任もって国内対策をとりまとめ、交渉で獲得した措置と合わせて万全の処置を講じていく考えであります。 

【1億総活躍大臣】
Q(フジ):内閣改造についてお伺いします。今回TPP交渉が大筋合意に至ったこと、また、先般の平和安全保障法制など、内閣に担当大臣を置かれていた職務のありかたも変わると思われます。一億総活躍社会という新たなご課題についての内閣の取り組み方針、またどういったかたを登用されるかの方針についてお伺いいたします。

総理):少子高齢化社会に歯止めをかけ だれもが活躍できる1億総活躍社会を作るのは、社会作りは最初から設計図があるような簡単な課題ではありません。希望出生率1・8、介護離職ゼロなど野心的な目標実現するためには内閣一丸となって、今までの発想にとらわれない大胆な政策を立案し、実行していくことが必要であります。
 その司令塔たる、1億総活躍担当大臣に省庁の縦割りを廃した広い視野、そして大胆な政策を構想する発想力、さらにはそれを確実に実行する強い突破力が必要であろう、求められると思います。奇をてらうのではなく仕事を重視、結果第一の体制、まさに新しい体制においてしっかりと結果を出していくことのできる、そうした内閣にしていきたいと、そうした人事をおこなっていきたいと考えております。

司会:この質疑のやり取りは同時通訳されていますので、英訳ある場合、次の質問に移るまでややインターバルあると思いますがご容赦下さい。これから幹事社以外の質問に移ります。

【TPPの対中国的意義】

Q(ロイター):今年の4月にアメリカのカーター国防長官がTPP協定は空母と同じくらいの意味があるとおっしゃいました。要するに経済的なメリットだけでなく地域に対して非常に戦略的な意義が大きいと。総理は日米関係、日中関係、地域全体にとっての戦略的な意義をどうみているのか。特にTPP協定は中国に対してどういうメッセージを送るのでしょうか。

総理):TPPはアジア太平洋に自由、民主主義、基本的人権、そして法の支配といった基本的価値を共有する国々とともに自由で公正、開かれた国際経済システムを作り上げ、経済面での法の支配を抜本的に強化するものであります。
 新たな時代に適したルールをもとにこうした国々と相互依存関係を深めていくことは、そして、そのことこそ将来的に中国もそのシステムに参加すれば我が国の安全保障にとっても、またアジア太平洋地域の安定にも大きく寄与し、戦略的にも非常に大きな意義があると思います。日本と米国という世界第1位と第3位の経済大国が参加して作られるTPPは世界最大の経済圏となります。現在交渉中の日EU経済連携協定EPA交渉でも大きな弾みを与えることになるのは間違いないと思います。

 TPPによってつくられる新たな経済秩序は単にTPPだけに留まらず、その先にある東アジア地域包括経済連携カルテットやもっと大きな構想であるアジア太平洋自由貿易圏エフタープにおいて、そのルール作りのたたき台となり、21世紀の世界のスタンダードになっていくという大きな意義があると思います。

【野党のTPP批判への対応】

Q時事通信:野党内には今回のTPP交渉の経緯や情報開示を求める声があり、早期の国会審議を求める意見があります。一方で政府与党内には臨時国会を見送る考えも。総理としてはこうした野党の声にどのように応える。臨時国会の開催についても現時点での考えをお聞かせ下さい。

総理):ええ、このTPP協定によってですね、消費者が海外のより良い物をですね、便利により安く手に入れることができるようになります。同時に例えばまあ農家の方々がですね、良いものを作れば、海外でそれが高く評価されれば、今まで輸出できなかった国にも輸出できるようになるわけであります。言ってみれば付加価値がですね、正しく高くかつ評価される経済システムとなっていくと思います。アジアの新興国を中心に自動車や自動車部品など鉱工業製品に高い関税が科されていましたが、TPP協定によってこれらの関税のほとんどすべて最終的に撤廃されることになります。金融や流通などサービスや投資分野での参入規制が緩和され、地域の金融機関やコンビニなどの海外展開が容易になります。
 国有企業との公正な競争条件の確保、インフラ市場への参入拡大なども、我が国企業の海外展開の大きな助けとなることが期待されます。知的財産に関するルールの調和、海賊版、模倣品対策の強化など、日本の強みであるコンテンツや地域ブランドの海外展開が安心して進められるようになります。
 そしてまたTPPはですね、地域の中小中堅企業に大きなチャンスをもたらします。これはあまり理解されていないかもしません。大企業にしかチャンスがないのではないかと思われているかもしれませんが、地方、地域の中小小規模事業者の皆さんにも大きなチャンスをもたらすことになるのは間違いありません。
 インターネットによる取り引きのルールが整備されることで、中小中堅企業が日本にいながらにしてアジア太平洋全域にビジネスを展開していくことが可能となります。原産地のルールが整備されていくことで、中小企業が日本に生産拠点を維持しながら、海外でビジネスを展開することが容易になります。
 またTPPがもたらすメリットを中小企業が最大限活用できるよう、情報提供の強化やセミナーの開催等、中小企業によるTPP利用促進のためのさまざまな仕組みがTPP協定に組み込まれることになるわけであります。
 TPPは消費者や働く人にもメリットをもたらすわけでありますし、消費者がネット取引を通じてさまざまな製品を手軽にかつ安心して取り寄せることができるようになり、また働く人々にとっても、各国が労働基準や環境基準をしっかりと守るようなルールが盛り込まれたことで公平な競争条件が確保されたと考えております。我が国の企業がTPP協定を最大限活用し、TPP協定が真に我が国の経済再生、地方創生につながるよう、万全の施策を講じていきたいと考えております。こうしたTPPの正しい姿をですね、どのようなメリットがあるかということもしっかりとわれわれ説明していきたいとこう考えております。

(以上)


※TPP大筋合意を受けた稲田政調会長のコメント

 本日、TPP交渉が大筋合意に至った。交渉にあたった甘利大臣をはじめ、関係各位の努力に敬意を表したい。TPPはアジア太平洋地域の未来の繁栄につながる枠組みであるとともに価値観を共有する国々との間で関係を深めるという意義もあるものと認識。
 他方、農業関係者など、国内にある不安の声に対してもしっかりと応えていかなければならない。今後、真に強い農業をつくっていくことはもとより、TPPが我が国の経済再生、地方創生に役立つものとなるよう、万全の施策を講じて参りたい。
(了)


shige_tamura at 11:36|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!安倍晋三 

2015年10月05日

インドネシア高速鉄道、中国の計算(遠藤誉氏)

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 中国は高速鉄道建設に関してインドネシア政府に財政負担や債務保証を要求しない条件を提案して日本を退けた。日本政府にとっては理解しがたい条件だが、中国には綿密に計算された長期戦略があった。何が起きていたのか?

◆ジョコ大統領に目をつけた習近平国家主席

 一般に誰が考えても、相手国の財政負担はゼロで債務保証も要求しませんという慈善事業のような形でプロジェクトを請け負うことは理解しがたいことだ。

 しかし、中国はちがう。

 インドネシア政府による支出はなく、債務保証もしなくていいという、考えられないような条件を提示したのだ。本当にそんなことが実行されるのなら、飛びつかない国はないだろう。

 日本政府は「理解しがたい」と遺憾の意を表したが、中国流外交戦略は「計算」の仕方が違う。

 まず2014年10月20日、庶民派のジョコ・ウィドドが大統領に就任すると、習近平国家主席はいち早くジョコ大統領に目をつけた。

 ジョコ大統領は就任直後の同年11月4日に、「海洋国家構想」の一環として、「港湾整備や土地整備を優先するためにインフラ整備の優先順位を見直す」と発表。これぞまさに習近平政権が掲げているAIIB(アジアインフラ投資銀行)と一帯一路(陸と海のシルクロード)構想とピッタリ合致する。

 そこで2014年11月9日に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談に出席したジョコ大統領を習近平主席は手厚くもてなし、首脳会談を行なった。ジョコ大統領はすぐさまAIIBへの参加を表明した。インドネシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。一帯一路構想に関してもジョコ大統領は協力の意を表した。

 11月10日、ジョコ大統領は日本の安倍首相とも会談して海洋協力を約束し、2015年3月22日に訪日して経済協力と安全保障面の協力について話し合っているが、それに対して習近平主席は、もっと「具体的な」手段に出ている。

◆インドネシア高速鉄道プロジェクト協力に習主席がサイン

 2015年3月末、ジョコ大統を北京に招聘して、中国の国家発展改革委員会とインドネシアの国有企業省に「中国・インドネシア ジャカルタ‐バンドン間高速鉄道合作(協力)備忘録」を交換させた。

 続いて2015年4月22日、習近平国家主席自身がインドネシアを訪問し、ジョコ大統領と会談した。この際、習主席は、インドネシアの高速鉄道プロジェクトに関して話しあい、署名までしている。

 双方はまず以下の基本原則で合意した。

●中国側は実力の高い、より多くの中国企業がインドネシアのインフラ建設と運営に参加することを望んでいる。

●インドネシア側は、中国と各領域で協力することを希望し、特に中国の「21世紀、海のシルクロード」構想とインドネシアの新しい発展戦略を結合させることをきっかけとして、中国側がインドネシアのインフラ建設に多くの投資をすることを望んでいる。

 この双方の意向を受けて、中国はインドネシアに「60億ドル」の投資をすることを約束し、サインした。合意された内容に関してインドネシアの計画発展部副部長は、翌日のメディア報道で、つぎのように語っている。

「インドネシア政府は政府の財政融資を用いて、この高速鉄道プロジェクトを推進しようとは思っていない。日本の国際協力機構の試算では、このプロジェクトへの投資総額は60億ドルとなっている。投資の収益率がマイナスであった場合、民間企業だけで負債を生めることはできない。したがって理想的にはインドネシア国有企業が主導する形で、国有企業が74%出資し、政府が16%、民間企業が10%出資するということが望ましい」

 この「60億ドル」に注目していただきたい。

 習主席は、まさにこの「60億ドル」の投資をインドネシアの高速鉄道プロジェクトに投資することを、今年の4月に約束し、サインしているのである。

◆中国の提案――「デキ」レース

 ここまでの準備をした上で、中国政府は「インドネシア政府の財政負担なし。債務保証をする必要もない」という条件を、日中の高速鉄道競争の「入札」に提出したのだ。

 それも「中国の複数の鉄道関係の国有企業と、インドネシアの国有企業が合資で新しい企業を創設する」という条件も付けた。

 4月22日の会談における「インドネシアの国有企業が主導する」という形式を、「その国有企業と中国の複数の国営企業が合資により、インドネシアに新しい企業を設立させる」という着地点で実現させたのである。

 だから、日中競争の「入札」においては、予め4月22日の段階でインドネシア政府の要求を中国がすでに実現していた形だ。

 これを入札という形の競争場面においてでなく、習主席の単独訪問で済ませてあったことになる。

 この「順番」と「場」が肝心だ。

 9月になってインドネシア政府が白紙撤回を宣言したのは、日本を振り落すためだったのではないかと推測される。

 そうしておいて、中国から改めて条件が出されたような形を取った。

 これは、いうならば「デキ」レースだ。

 日本政府は4月22日の、習主席によるインドネシア訪問と、その時になされた両政府間の約束を、十分には注目していなかったのだろうか?

 あるいは、これはあくまでも中国の一帯一路構想の中の一つにすぎないと思ってしまったのだろうか?



 中国の精密に計算された戦略は、その後に佳境を迎える。

 今年8月10日、中国政府の発展改革委員会の徐紹史主任はインドネシアを訪れ、ジョコ大統領と会談し、高速鉄道プロジェクトに関して話し合いをした。

 その2日後の8月12日に、ジョコ大統領が就任後初めての内閣改造に踏み切ったのである。

 この内閣改造で解任された閣僚の中に、親日派のラフマット・ゴーベル貿易大臣がいることに注目しなければならない。

 その一方で、徐紹史主任とも会談した親中派のリニ・スマルノ(女性)国営企業省大臣は留任した。

 ここがポイントだ。

 翌8月13日、駐インドネシアの謝鋒中国大使はジャカルタで開催された「急速に発展した中国高速鉄道」展覧会で祝辞を述べたが、同日、リニ・スマルノ国営企業大臣も展覧会に出席し、中国高速鉄道を支持するコメントを出している。

 そして国有企業省の記者会見で「G2G(政府対政府)」ではなく、「B2B(企業対企業)」で高速鉄道プロジェクトを推進していきたいと強調した(と中国メディアが報道した)。

 中国は8月の入札時に「中国とインドネシアの企業が連合して合資企業を誕生させ、インドネシア企業の持ち株を60%、中国側企業が40%とする」という、インドネシア政府に有利な条件を提示している。

 これを「偶然」と解釈するのか、それとも「デキ」レースととらえるのか。

 その後の流れから行けば、「偶然」と解釈するには無理があるだろう。

 デキ過ぎている!

◆損して得獲れ

 中国がこのような条件でプロジェクトを実行することは損失ばかりで、「実行不可能だろう」と日本政府は思って(期待して?)いるかもしれない。

 しかし、数千年におよぶ「策略」の歴史を持つ中国。

 結果的に損するようなことはしない。

 中国の国有企業が儲かるようにきちんと計算してあるのと、何よりも一帯一路の足掛かりをインドネシアにつけておくことは、この後の長期的な海洋戦略で欠かせない。どんなに高額なものになっても、投資は惜しまないだろう。

 アメリカのカリフォルニア州の「ロサンゼルス‐サンディエゴ」間の鉄道敷設に関しても、中国はすでにカリフォルニア州と意向書を取り交わしている。カリフォルニアは早くから親中的な華人華僑で陣固めをしてあるので、ビジネスは西海岸から始めるのである。

 これまでODA予算などで、ひたすらインドネシアを応援してきた日本としては、裏切られたという思いが強いだろうが、国際社会は「友情」や「温情」では動かない。

 残念ながら、動くのは「戦略」だ。

 日本の劣勢は今後も世界のいたるところで展開される危険性を孕んでいる。それを避けるためには、中国の一部始終を洞察する外交戦略の眼が不可欠だろう。

(寄せ集めだらけの中国の高速鉄道技術だが、それはまた観点が異なるので別途論じることとする。)

追記:4月22日、ジョコ大統領と会った習近平主席は、爆買い観光客をインドネシアに行かせることも約束した。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年10月02日

中国「反スパイ法」、習近平のもう一つの思惑(遠藤誉氏)

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 中国外交部は日本人2名をスパイ活動容疑で逮捕したと明言した。「反スパイ法」は「外国人をも対象とする」特徴を持っているが、実は反スパイ法制定前にもう一つの重要なシグナルを発していた。習近平の思惑を読む。

 筆者は2014年11月4日付けの本コラム「日中首脳会談――今はそれどころではない習近平」で、同年11月1日に制定された「反スパイ法」の特徴の一つを、「外国スパイと中国国内の組織または個人が連携するという項目が加わり、強調されたことである」と書いた。

 それもあるが、ここではもう一つの「背後に潜んでいる習近平の深い思惑」を解明したい。

◆反スパイ法制定直前に起きた異常現象――江沢民の父親に関する情報が解禁

 反スパイ法が制定された年(2014年)の5月から10月末にかけて、中国のネット空間で最も使われている検索サイト「百度(baidu)」で、異常な現象が起きている。

 それは江沢民の祖父である「江石溪」および江沢民の父親(実父)「江世俊」に関する情報が解禁されたことだ。5月に解禁された情報の一部は削除されたが、反スパイ法が制定される前夜である10月29日および10月30日に集中的に解禁された江沢民の実父に関する情報は、今もなお残っている。

 その内容の概略は以下のようなものである。

 いくつもあるが、「蟹児(Share)」というウェブサイトでまとめている情報に基づいてご説明しよう。

●百度紹介:江世俊は(日中戦争時代の)日本の傀儡だった汪精衛(汪兆銘)政権の宣伝副部長をしており漢奸(かんかん)(売国奴)だった。彼はその息子を出世させるために(南京)中央大学に行かせた。中央大学は日本軍が高級漢奸を養成し皇民化教育を施す日本傀儡政権の最高学府であった。その息子は第4期青年幹部養成に参加している。鉄のような証拠写真が山のようにある。2014年10月31日10:48。

(筆者注:その息子の名前は、ここでは書いていない。)

●【江石溪_百度百科】これは2014年10月29日に百度で初めて現れた情報だ。皆さん、江石溪の子女たちが誰であるかを自分でしっかり確かめよう。そこに江世俊と江上青に関する情報が書いてあるのは、衝撃的なことだ。2014年 10月31日 10:15。

(筆者注:江上青は革命烈士で、江沢民が自分の出自を隠すために売国奴である実父の弟の江上青の養子になったと偽っている。)

●江世俊という名前は、何だか最近、よくネットで見られるようになった。2014年5月25日の正午ごろに一度ネット上に出現したことがある。2014年10月23日、23:04.

 一方、2014年10月16日 08:57:45には、「汪偽南京国民政府漢奸名録」(汪兆銘傀儡政権南京国民政府漢奸リスト)というタイトルのブログが新浪博客(ブログ)に現れた。このリストの中ほど辺りを見ていただきたい。そこには他と区別して目立つように「江冠千」のことが書いてある。この「江冠千」こそは江沢民の実父・江世俊の別名である。

 ブログの中にある「前zhonggong」は「前中共」のピンイン表示で、「総shuji」は「総書記」、つまり、ここまでは「全中共総書記」の隠し文字である。

「国家zhuxi」は国家主席、「江zemin」は「江沢民」のこと。

この文章の隠し文字部分を通して書けば「前中共総書記、国家主席 江沢民」となる。

「江世俊は、江沢民の実父ですよ」と書いてあるのだ。

 これらの予兆現象を中国大陸のネットユーザーが最も頻繁に使用する「百度」空間で現出させたのちに、2014年11月1日に「反スパイ法」を制定した。

 この企みは何を意味するのだろうか?

◆国家安全法と反スパイ法とは何が違うのか?

 一方、反スパイ法の制定と同時に、1993年に制定された中華人民共和国国家安全法(ここでは便宜上、これを旧国家安全法と称する)が撤廃され、2015年7月1日に新たに中華人民共和国国家安全法(これを便宜上、新国家安全法と称する)が制定された。

 なぜ旧国家安全法を撤廃し、新たに新国家安全法を制定しなければならなかったのか?

 また、国家安全法と反スパイ法では、「スパイを逮捕する」ことに関して、何が違うのかを深く分析してみよう。そうすれば、習近平国家主席の思惑が見えてくるにちがいない。

 旧国家安全法には、反政府活動をおこなった者には「国家転覆罪」といった罪名をつけて逮捕することができ、又その第四条 には「国家安全を脅かす行為とは、海外の機構、組織、個人の指図により国家安全を脅かす」場合が含まれており、そこには「スパイ組織に参加した者あるいはスパイ組織の依頼を受けて国家機密を提供した者」を含むと書いてある。ということは、これらの条文に基づき、2014年11月1日前でも、外国人をスパイ容疑で逮捕することが不可能ではなかった。事実、2014年11月1日前にも日本人を拘束している。

 しかし旧国家安全法の第三十二条には「国家安全機関のメンバーが職務怠慢したり、私情にとらわれて不正行為をしたりした場合は、刑法○○条(多いので省略)により処罰する」とあるのみだ。

 ここが肝心なのである。

 反スパイ法では、「境外(海外)」という言葉と「間諜(スパイ)」という言葉が数多く出てくるので、まずは「在中の外国人スパイ」を逮捕できるということが焦点になっていることは明確ではある。

 しかし、中国にいる誰かが「民主化を求めたりなどして、中国政府に抗議運動をした場合」、そこには特定のスパイ組織がいるとは限らない。

 スパイという行為は、たとえば日本の週刊誌の記者とかがスクープ記事を書こうと思って冒険的行動に出るといった特殊なケース以外では、基本的に何らかの組織があって、その組織に有利な情報を提供するために行う行為だ。つまり国家安全法で「反国家転覆罪」で逮捕するのとは性格が異なる。

 しかも国家機密を入手できる立場にいる人間がいないと、深いスパイ行為は成立しない。

 すなわち、反スパイ法は、実は外国人もさることながら、「中共中央あるいは中国政府の中枢」に所属している人をも対象としていることが見えてくる。

 それが江沢民の実父に関する前兆現象とリンクしていたのである。

 その証拠が新国家安全法の登場だ。

 新国家安全法の第十三条には、「国家機関のメンバーが国家安全活動の中で、職権を乱用し、職務怠慢を起こし、私情のために不正行為をした者は法により責任を追及する」とある。ここに「職権乱用」という、新たな言葉が加わった。同法第十五条には、「国家機密漏えいにより国家安全に危害を与える行為」という文言が明記してある。

 これは周永康や令計画などの「職権乱用」を具体的に指してはいるが、行きつく先は「江沢民」であることは明白だろう。

 反スパイ法はさらに、国家安全法だけではカバーできない「お家の事情」が、これでもかとばかりに盛り込んである。

◆傍証

 その傍証として、2009年から江沢民の出自を暴露し、当時の胡錦濤国家主席に直訴状を出してネットで公開した呂加平(1941年生まれ)が、2011年に逮捕され10年の懲役刑を受けていたのだが、2015年2月に釈放されたことが挙げられる。反スパイ法が発布された後の現象だ。体を病んだための釈放と入院だが、それでも中国のネット空間では「呂加平が出てきたぞ―!」という喜びの声が現れた。

 また新国家安全法が発布された今年7月1日からほどなくして(2015年7月10日に)、「なぜ江世俊のような漢奸の息子が、主席になったりできるの?」という見出しが「百度知道」に現れたのである。

 反スパイ法誕生前に、江世俊の履歴に関してはネット解禁となっていたが、その息子が「あの主席だよ」という明確な記述は避けていた。もちろん前述のピンイン表示による表現はあったが、それでも誰でもが疑問に思う「なぜ国家主席になったままでいいのか?」を、中国大陸のネット空間で発信した人はいなかった。発信してもすぐに削除された。それが今では削除されていないことに注目しなければならない。

 旧国家安全法から新国家安全法への移行過程では、江沢民の腹心であった周永康が牛耳っていた中共中央政法委員会への降格問題が重要な要素となっている。

 それは「チャイナ・ナイン」から「チャイナ・セブン」への移行の核心でもあった。胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会「9名」を習近平政権では「7名」にした最大の理由でもある。

 そのために中共中央政法系列も、習近平政権になって創設された「中央国家安全委員会」に統一され、習近平国家主席が一手に担うという、中央集権的色彩が濃厚となる結果を招いている。

 こういった流れの中での日本人の逮捕は、「中国の内部情勢に巻き込まれた」という印象を強く与える。これは一つの現象に過ぎなくて、中国で起ころうとしていることを見えなくするための「煙幕」のようなものだ。この煙幕は筆者が1948年に長春で中共軍による食糧封鎖を受けたときから直感している中国の掟だ。

 中国を外から概観せずに、内部情勢に入り込んで考察しなければ、日本の国益、ひいては日本国民を守ることさえできないと筆者が主張し続ける所以(ゆえん)でもある。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

shige_tamura at 10:42|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!自由民主党 
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