2014年09月
2014年09月30日
谷垣禎一自民党幹事長衆院本会議代表質問(全文)
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平成26年9月30日(火)
自由民主党を代表して、安倍内閣総理大臣の所信に対し質問いたします。
1.災害対策
9月27日午前11時52分頃、御嶽山(おんたけさん)で噴火が発生しました。現時点で、行方不明者等の正確な人数は把握できていない状況ですが、一人でも多くの方の生存を心よりお祈り申し上げますとともに、犠牲となられた方に、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。また、危険な状況の中、今も捜索救助活動を行っている警察、消防、自衛隊その他の方々に、心より敬意を表したいと思います。
今年の夏は、全国各地で記録的な豪雨による災害が起きました。
7月の長野県南木曽町(なぎそまち)の土石流災害、8月の京都府福知山市や兵庫県丹波市の豪雨災害、そして広島市の土砂災害等があり、多くの方が犠牲となられました。謹んでご冥福をお祈り申し上げるとともに、被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
特に、広島市の土砂災害において、美しい自然に囲まれ、笑顔があふれていた家々が、一瞬にして土砂にのまれ、愛する人の命が奪われていったその光景は、筆舌に尽くしがたい惨劇でありました。避難生活も長期化しており、一日も早い復旧、生活再建のために全力を挙げることを政府に強く求めます。
今年に限らず、近年わが国では、台風、集中豪雨、竜巻、地震等の自然災害が多発しています。そして今後も「数十年に一度」や「今まで経験したことのない」というような、以前は見られなかった大規模な災害が多発する可能性もあります。こうした状況を鑑みれば、既存の法律では対応できない、災害に関する法整備が急務であることは明白です。
災害対策にはスピ−ドが不可欠でありますが、今般、総理は、災害対策基本法の改正案の提出や土砂災害対策の制度見直しを明言されました。
安倍内閣として、国民の命とくらしを守るためにどのような方策を講じ、災害防止に備えていくのか、総理のお考えを伺います。
2.震災復興
東日本大震災から3年半を迎えました。
総理が毎月のように被災地を訪問し、復興への取り組みの陣頭に立たれている姿を見る度に、安倍内閣が、どれだけ震災復興を重視しているか、を示していると感じます。
与党としても、政府に対して度々提言を行う等、政府と一体となって取り組んできたところであります。
実際、住宅再建や農地・漁港の整備、災害公営住宅の整備等は、着実に進みつつあると理解しています。
しかし、復興はこれからです。とりわけ、避難者数は25万人弱まで減少したものの、いまだ、これだけ多くの方々が避難されている状況を、我々は直視しなければなりません。
そこで、総理に、復興のスピードアップに向けた決意を伺います。
さらに、福島については、まだ復旧が始まったばかりです。福島にとっての復興とは、原子力事故災害の克服であり、それは取りも直さず日本の再生への道でもあると考えます。
先般、佐藤・福島県知事が中間貯蔵施設建設を受け入れ、大熊、双葉両町長が知事の判断を重く受け止め、地権者への説明を了承するという、関係者による苦渋の決断がなされました。政府は、この決断の重大さを踏まえ、住民の方々の声を真摯に受け止め、取り組んでいかなければなりません。
福島復興への取組みについて、総理の決意を伺います。
3.経済再生、財政
政権交代後1年9か月が経過しましたが、安倍内閣は、安定的かつ着実に政策を実行してきました。特に、アベノミクスによって、雇用の改善を果たし、賃金の上昇をもたらしつつあることは、数々の経済指標を見ても明らかであります。株価は1万6千円前後となり、行き過ぎた円高は是正され、景気の好循環が生まれ始め、経済の再生に向けて一歩ずつ前進しています。
わが国のマクロ経済の状況ですが、4月の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動等により、4月から6月の経済成長率がマイナス7.1%となりました。とはいえ、1月から6月まででならしてみれば、成長率は昨年に比べ、プラス1.3%であり、全体的にはゆるやかな回復基調が続いていると考えます。
ただ、この夏の天候不順や、急激な円安によりエネルギーや食糧といった輸入価格が上がり、企業や家計の負担が今後増えていく可能性もあり、こうした動向にも注視して経済運営を行っていかなければなりません。
そこで、総理に、経済再生と景気回復に向けた決意を伺います。
(消費税10%引き上げ)
さらに、総理は、消費税率10%への引き上げを行うかどうかの判断を年内に行うとの考えを示しています。また、総理は、7−9月の経済指標等を総合的に勘案して判断すると表明しています。
デフレ脱却と経済成長を柱とする日本経済の再生と、持続可能な社会保障制度の確立等のための財政健全化は、いずれも喫緊かつ非常に重要な課題です。
そこで、これらを踏まえた上で、消費税率引き上げに関して、改めて総理のお考えを伺います。
4.地方創生
今国会の最重要課題として、総理は「地方創生」を掲げられました。
地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する。そのために、国民が安心して働き、家庭を築き、子育てができ、将来に夢や希望を持つことができるような、魅力あふれる地方を創生し、地方への人の流れをつくる。
これこそ、まさに日本再生の中核だと言っても過言ではないでしょう。
この地方創生は3つの基本的視点に立っています。若い世代の就労・子育て等の希望の実現、東京一極集中への歯止め、地域の特性に即した地域課題の解決です。
これらを具体化するためには、地方における魅力ある就業機会の創出、出産や子育てに希望が持てる環境の整備、市町村相互間の広域的な連携協力体制の構築等が不可欠です。
総理は、「まち・ひと・しごと創生本部」の初会合で、「各省の縦割りやバラマキ型の対応を断固排除し、異次元の施策に取り組んでいただきたい」との方針も明確に示しています。地方のやる気を引き出し、各地の資源や魅力を生かした活性化への取り組みに対して、政府全体で強力に支援する姿勢をしっかりと創っていくことが必要です。
改めて、地方創生に向けた決意と今後の取り組みについて、総理に伺います。
5.女性が輝く社会と子育て支援
総理は今回の改造内閣のもう一つの課題として、女性が輝く社会の実現を掲げられました。「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上にする」との目標です。今、日本は高齢化と労働人口の減少に直面し、いかに労働生産性を上げていくかが大きな課題です。そのためにも女性の活躍に真剣に取り組んでいかなければなりません。
総理は今回の内閣改造で、女性活躍担当大臣を新設し任命されました。また安倍政権になって、16年振りの女性事務次官や女性初の総理秘書官も任命されています。さらに政府の動きに呼応して、経済界でも女性の登用が進んでいます。能力も意欲もある女性が社会の高いポジションで働いていただくことは、女性の活躍を象徴するとともに、社会や企業文化にも良い影響を与えるものと考えます。
総理は、先般、ヒラリー・クリントン・米国・前国務長官と会談し、女性の社会進出について熱心に議論されたと伺っております。ヒラリー・クリントン氏から何を受け止められ、その経験を日本にどのように活かすべきとお考えでしょうか。総理の忌憚のないご意見を伺いたいと思います。
さて、性別や家族の形態を問わず、仕事をしながら子育てを行うのは、決して容易なことではありません。
この仕事と子育ての両立のためには、家族や職場の理解と支援、さらには政府や自治体の手厚い子育て支援が不可欠です。そのためにも、これまであまり子育てに参加してこなかったと言われる男性も、企業も、そして政治も、意識改革が必要です。
さらには、労働時間自体を短くするための様々な取り組みが必要であることは言うまでもありません。その上で、多様かつ柔軟な働き方ができる経済社会を構築していく必要があります。
仕事と子育ての両立のための支援、特に働きながら子育ても担う女性をサポートしていく仕組みについて、総理のお考えを伺います。
6.外交
(地球儀を俯瞰する外交)
次に、安倍政権の国際社会における日本の地位向上と信頼の確立をめざした「地球儀俯瞰外交」について質問いたします。
安倍総理は、多忙を極める国会日程の最中(さなか)、驚異的ともいうべきペースで外遊日程をこなし、すでに49カ国を訪問されました。国内においてもオバマ米国大統領やエルドアン・トルコ首相、アキノ・フィリピン大統領、モディ・インド首相等、精力的な首脳外交を展開し、国際社会におけるわが国の存在を不動のものとするとともに、「積極的平和主義」を始めとする、わが国の主張に強い共感と支持を集めたのであります。
安倍総理の外交は、その積極性はもとより、充実した内容と意義において高く評価されるべきものであります。
総理は昨年、日本版NSCである国家安全保障会議の創設、及び国家安全保障戦略策定等、国内態勢の整備を行い、本年1月、オマーン、コートジボワール、モザンビーク、エチオピアの中東・アフリカ4カ国訪問を皮切りに、「地球儀俯瞰外交」を加速させました。
同じ1月にはスイス・ダボス会議に出席し、日本の総理大臣として初めてオープニング・セッションで基調講演を行い、アベノミクス等について参加者の幅広い理解を得ました。引き続き、インドを訪問、経済交流や女性の活躍について協力拡大の道筋をつけたのであります。
2月にはロシア・ソチオリンピック開会式に出席し、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会成功への協力をとりつけたほか、プーチン大統領との首脳会談に臨みました。
続く3月にはオランダの核セキュリティサミットに出席、オバマ大統領が「サミットの最大の成果」とする、核物質削減に関する日米共同声明を発表した他、G7首脳会合に臨み、ロシアによるクリミア併合や中国の東シナ海、南シナ海での海洋進出を念頭に、民主主義と法の支配という価値観を共有する国々のリーダーとの間で、「力を背景とした現状の変更は断じて許さない」との認識を一つにしたのであります。
さらに、4月末からのゴールデンウィーク期間には、ドイツ、英国、ポルトガル、スペイン、フランス、ベルギーを訪問、各国との首脳会談やパリでのOECD閣僚理事会出席を通じて、「地球儀俯瞰外交」の強力なパートナーである欧州各国首脳との間でわが国の経済政策や安全保障政策への理解と支援をとりつけました。
5月末に、英国の国際戦略研究所の主催により、シンガポールで開催された「アジア安全保障会議」、いわゆる「シャングリラ・ダイアローグ」において、安倍総理が行った「アジアの平和と繁栄よ、永遠(とこしえ)なれ」とする基調講演は、国際法に基づいて主張し、力や威圧を用いず、平和的に解決すべきである、との法の支配の重視を訴え、わが国の安全保障法制の再構築に関する取り組みと併せて、各国に感銘を与え、共感を呼び起こしました。
続く6月には、ベルギーとイタリア、バチカンを訪問し、ベルギーでは自由と民主主義、基本的人権、法の支配という、価値観を共有する先進諸国の首脳が集うG7サミットにおいて、「力による現状変更は許さない」との強いメッセージの表出をリードしました。
7月のニュージーランド、オーストラリア、パプア・ニューギニアの3カ国訪問では、オーストラリアのアボット首相から、「日本は今日の行動で判断されるべきだ。70年前の行動で判断されるべきではない」と、戦後、平和の道を歩み、国際貢献に努力し続けてきたわが国に対する最大級の賛辞が表明されたのであります。
7月末から8月にかけては、メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジルと、成長著しい中南米・カリブ海の5カ国を訪問、貿易・投資の一層の拡大はじめ関係強化に成果を上げました。
そしてこの9月、総理はバングラデシュとスリランカを訪問し、バングラデシュでは安保理非常任理事国選挙への立候補取り下げと、日本への支持が表明されました。また、スリランカで総理が行った、サンフランシスコ講和会議で、スリランカがわが国の主権を擁護してくれたことへの感謝を表明したスピーチは、聴衆に感銘を与え、両国の関係と絆を強固にしたのであります。
総理は先日、ニューヨークの国連総会から帰国されたばかりであります。今回の国連総会出席は、総理にとってこれまでの「地球儀俯瞰外交」を集大成する、大きな節目であったと思います。
総理がどのような思いで国連総会に臨まれ、何を訴えられたのか、「地球儀俯瞰外交」、そして「積極的平和主義」について、改めて総理の思いを伺います。
(安全保障法制整備)
政府は7月1日、新たな安全保障法制整備のための基本方針を閣議決定しました。
わが国周辺をめぐる情勢が大きく変化する中、どのような事態にあっても国民の生命と財産を守り抜くため、現行憲法下で何が許されるのか、議論を広く、丁寧に尽くしたうえでの閣議決定であり、切れ目のない安全保障法制を整備し、抑止力を強めることによってわが国の安全保障をより盤石にし、日米同盟と信頼関係をさらに強固にする、政府の強い決意を示したものと評価いたします。
ただ、新たな閣議決定については、「集団的自衛権」の言葉だけが先行し、国民の間には、戦後、平和国家としての道を一貫して歩んできたわが国が、その方向を大きく変えるのではないか、といった誤解や漠然とした不安があることも否定できません。
今回の閣議決定の柱は、第一には、離島等で武装集団の上陸があった場合や米軍部隊の武器等防護など「武力攻撃に至らない侵害への対処」、第二は、わが国による他国軍隊への支援活動や、PKOでの任務遂行やいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用、並びに在外邦人救出等における領域国の同意に基づく警察的活動の実施です。
そして、第三が、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」という内容であります。これは、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がありますが、一方、憲法上は、「あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるもの」であります。
この第三の点について、非常に厳しい歯止めがかかっており、およそ平和国家としてのわが国の性格を変えるようなものではあり得ません。にもかかわらず、こうした点も十分に国民に理解されていないのではないでしょうか。
政府は今後、関連法制の整備を進めることになります。そのためには、より国民に対する丁寧な説明が不可欠です。
新たな閣議決定と今後の関連法制の整備によって何が変わるのか、自衛隊が湾岸戦争やイラク戦争のような戦闘に参加するようなことはないのか、外国の戦争に日本が巻き込まれることはないのか、こうした国民の不安や誤解を払拭できるよう、総理の言葉による丁寧な説明を求めたいと思います。
(日米関係)
日米同盟がわが国外交の基軸であることは、改めて申し上げるまでもありません。総理の「地球儀俯瞰外交」は、日米両国が共有する価値観外交のグロ−バルな展開であり、限定的な集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の再整理は、日米同盟と信頼をより強固にする、総理の新たな日米パートナーシップ構築へのチャレンジであると思います。
いま、日本や米国、欧州の属する、自由と平等を中心とする基本的人権、民主主義、法の支配等を尊重する社会は、いくつかの国の拡張主義や、中東等におけるテロ勢力の脅威拡大といった、極めて困難な問題に直面しています。
自由や民主主義等の価値観を共有する諸国家が手を携え結束して、これらの問題に対処していくため、米国の友人として日本が果たすべき役割は大きいと思います。
今後の日米関係のあり方について、総理の見解を伺います。
(中国、韓国、ロシア)
わが国を取り巻く外交において、やはり国民や諸外国が注視するのは、中国、韓国との関係改善です。安倍総理の就任以来、総理が「対話のドアは常にオープン」と言い続けてきたにもかかわらず、これまで首脳会談の実現に至りませんでした。しかし、ようやくその実現に向けた機運が出始めています。
そもそも、総理が8年前に第1次政権を発足された時に、最初に訪問した外国は中国、韓国でありました。このことを見ても、総理が、いかに隣国との関係を重視しているかは明らかです。
今後10月のイタリアでのASEM、11月の中国でのAPEC、ミャンマーでのASEAN関連首脳会合、豪州でのG20と多国間の首脳会議が続きます。こうした機会を通じて、会談の実現に向けてお互いが努力していくことが必要でありますし、与党の議員を通じたチャンネルを活かしていくこともまた重要であります。
改めて、中国・韓国との関係改善に向けた総理の決意を伺います。
また、総理は、ロシアのプ−チン大統領とも電話で協議し、対話を続けていくことを確認していますが、今後の日ロ関係についても、総理の見解を伺います。
(北朝鮮)
北朝鮮による拉致問題について、今年5月にストックホルムで開催された日朝政府間局長級協議において、北朝鮮による拉致被害者を含む全ての日本人について調査するという約束が取り交わされました。このような交渉結果を獲得したことは、拉致問題解決へ向けた大きな一歩であり、高く評価いたします。
しかしながら、今月18日に北朝鮮側から伝えられた連絡は、我々をひどく失望させるものでしかありませんでした。「現時点では初期段階を超える説明はできない」、これは、事実上の先送りであります。我々はこうした北朝鮮の不誠実な対応に、幾度となく翻弄させられてきました。もう同じ失敗を繰り返してはなりません。我々は、こうした北朝鮮の対応に断固とした態度を取っていかねばならないのであります。
そこで、拉致問題について、総理の決意を伺います。
(普天間基地移設問題)
仲井眞・沖縄県知事が、名護市辺野古の公有水面埋め立てについて、法律に則って承認をされたことで、民主党政権で迷走した普天間基地の移設は、仲井眞知事、沖縄県民等の多くの皆様のご理解とご協力により、再び一歩前に進むこととなりました。普天間基地の危険性を一日も早く除去することを、我々は形にしていかなければなりません。
総理は今回、新たに沖縄基地負担軽減担当大臣を設け、目に見える形での負担軽減に、不退転で取り組む決意を示されました。
仲井眞知事からは、普天間基地の5年以内の運用停止と早期返還、オスプレイの本土への分散や日米地位協定の条項の追加等、4項目の要望が出されており、官房長官は普天間基地の2019年までの運用停止を目指すことを表明されております。
改めて、沖縄の基地負担軽減実現に向けた総理の決意を伺います。
7.エネルギー政策
(原発再稼働)
次に原発の再稼働について伺います。
原子力規制委員会は9月10日、九州電力川内(せんだい)原子力発電所1、2号機について、安全対策が新規制基準を満たしているとの審査書を正式に了承しました。原発再稼働に向けた安全審査の合格第1号であり、政府としても地元自治体の同意を得、一日も早く再稼働できるよう、あらゆる努力を尽くしていただきたいと思います。
わが国のエネルギーをめぐる非常に厳しい事情、さらには、年間3.6兆円に上る化石燃料の輸入増による貿易赤字の急速な拡大と、国民の富の海外への流出を1日も早く食い止めるべきこと、電力コストの上昇による国民生活や経済活動への大きな圧迫を考慮すれば、まずは原子力規制委員会の厳格な安全基準に沿った、既存原発の再稼働を着実に進めるとの総理の考えは、当然であります。
原発再稼働には反対もあります。不安に思う人もいます。現実に被災された方々が心情的に受け入れがたいのは当然です。しかし、政治は、つらい現実、厳しい現実を直視しつつも、今のわが国にとってなすべきことはなにか、時には苦渋の中で決断し、国民に正面から訴えかけていかなければなりません。
原発再稼働について、総理のご所見を伺います。
一方、総理は今年1月の年頭会見で、原発の新増設については「現在のところまったく想定していない」と明言し、まずは、既存原発の再稼働の判断に集中し、エネルギー源の多様化を図りつつ、原発依存度を可能な限り低減していくとの考えを示されました。
このためにも、代替エネルギーの開発に官民挙げて英知を振り絞ることも含め、様々な方策によって、エネルギーの安定供給確保に全力を尽くす必要があります。
同時に、第二世代の原子炉の廃炉解体や、使用済み燃料の再利用と安全な処分を長期的な視野をもって進めることも必要です。これらによって、世界最高水準の技術の開発・獲得・集積を成し遂げ、この分野においても世界に貢献していくことも期待できるのではないでしょうか。
これらの点について、総理のご所見を伺います。
8.むすび
多くの政策課題について、政府・与党内で徹底的に議論し、そのうえで最後は一つにまとまる。そして国民のために働いていく態勢を作っていくことが求められています。
政府と与党、自民党と公明党、政府与党と野党、それぞれが適度な緊張関係を保ちつつ均衡点を見いだしていくことが、政治を安定させ、政策を強力に推進していくものであると確信しています。
そのような関係をしっかりと構築し、国民から信頼される政治を進めていくことをお誓い申し上げ、私の質問を終わります。
2014年09月29日
第69回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
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平成26年9月25日
第69回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
議長、人類は、今、かつてない深刻な危機に直面しています。
議長、今こそ、我々は、国連の旗のもと、結束すべきです。共に、この危機に立ち向かおうではありませんか。
議長、日本は、国際社会と手を携えて、大きな責任を果たす決意です。
エボラ出血熱との闘いに、日本政府は能う限りの力を尽くします。アフリカの平和と、安全保障を直接左右するものとしてこの危機をとらえ、国際社会は一致して当たらなくてはなりません。その意味で、我が国は、国連安保理決議2177号が採択されたことを、共同提案国のひとつとして強く支持しています。また日本は、潘基文国連事務総長、ならびにサム・カハンバ・クテサ総会議長のイニシアチブ、エボラ緊急対策のため国連の特別チームをつくろうとする提案を、同様に支持するものです。
アフリカ開発のため昨年開いたTICAD Vにおいて、我が政府は、アフリカにおける健康問題に対処するため5億ドルを準備し、健康・医療に携わる約12万人を対象として、教育プログラムを始めることを明らかにしました。今般、エボラ出血熱の流行に際して、日本は、国際感染症に関する知見、経験の豊富な専門家を、WHOの一員として派遣しました。資金の援助は、総額にして500万ドルに達します。また、医療従事者のため、防護具を約50万着供与します。のみならず、総額で4000万ドルにのぼる追加支援を実施します。
加えて、さらなる人的貢献の可能性も含め、あらゆる施策を講じる準備があります。富山化学工業、富士フイルムが開発し、感染後の治療に効果の見込める候補薬を、提供する準備もあります。
議長、中東地域は動揺のただ中にあります。特に、国境をまたぎ、独自にカギカッコ付「国家」の樹立を宣言するISILの活動を、国際秩序に対する重大な脅威とみなします。いま重要なのは、地域の人道危機へ迅速に対応するのと同時に、過激主義が定着するのを阻止することです。
その一助として、日本は新たに5000万ドルの緊急支援を、直ちに実施します。
議長、ウクライナの安定を重視する日本は、いち早く3月、最大15億ドルの経済支援を表明し、目下実行中です。東部ウクライナ復興のため、新たな支援も準備しています。
議長、来年私達は、国連発足70周年を寿(ことほ)ぎます。国連が出来た頃、日本は一面の焦土から再起しました。以来片時として、戦争の悲惨を忘れたことはありません。自国、他国を問わず無辜の民に惨禍を及ぼした戦争の暴虐を憎み、平和への誓いを新たにするところから、日本は戦後の歩みを始めました。国連活動への、全面的な献身を自らに課す責務としました。
日本の未来は、既往70年の真っ直ぐな延長上にあります。不戦の誓いこそは、日本の国民が世々代々、受け継いでいく、育てていくものです。
紛争がその居場所を、我々の心と生き方の中から失って初めて、平和は根を下ろします。そのためにこそ、日本は、世界の草の根で働き続けようとしています。
日本とは、これまで、今、この先とも、積極的な平和の推進力である。しかも人の心から「ウォー・カルチャー」をなくそうとし、労を惜しまぬ国であると、まずはそう申し上げ、約束としましょう。
早くも1980年代半ばから、日本はガザで人材育成の協力を始めました。行政官や技術者たちで日本に渡り集中訓練を受けた人の累計は、400人を上回ります。その1人、まだ若い男性ナジャール・オサマ氏は、「ガザには資源が何もない。あるのは人だけで、それは日本も同じだ。自分が日本で学んだのは、決して諦めない精神だ」と語るエネルギー天然資源局の行政官です。
日本で1カ月の教育を受けた後、オサマさんは太陽光発電技術を故郷に持ち帰りました。自立電源が最も必要となる施設に、設備を取り付けます。ガザ地区最大の病院に彼とその仲間が導入した装置は、騒乱を耐え抜き、病院の緊急処置室に、明かりを灯し続けたのです。
ソマリアの挿話がやはり明かりにまつわるものであることは、偶然とは思えません。モガディシュの国内避難民キャンプに暮らす10歳の少女、ハミダ・ハッサンちゃんにとって何より必要なものは、夜のテントを明るくする灯でした。明かりに照らされたテントが、性暴力に対する抑止になるのです。
昼間の陽光で作った電気を貯え夜の灯火に変えるパナソニック製の小さなランタンを、日本はこの2年で2500個、ハミダちゃんら、いとけない少女を含む避難民のテントに配布しました。いまハミダちゃんは、医者になろうと夢を抱き、勉強に励んでいます。
我々は、人の心から不安や恐怖を取り除き、憎しみの芽を摘み取り続けていかねばなりません。そのため日本国と日本国民は、おのれの意欲と能力、知識と経験を、惜しまず差し出し続けます。
まずは、成長の基盤となる教育の充実を、初等教育から職業教育まで、必要とされるところでお手伝いします。目的とするところは、常に同じ、すなわち労働の喜びを、我が物としてもらうことです。働いて流す汗は、未来への投資だと実感してもらいましょう。
伸びる道路や、港、つながっていく電力網は、それらと歩みを一にして改善するガバナンスとあいまって、豊かで平和な、人権が尊ばれる社会をもたらすものなのだと、広範な支持を得たとき、人は、社会の真の意味でのオーナーになります。
こういう社会を点から線へ、線から面へと広げていくところに、日本は平和の基盤を求めてきました。対外援助の思想を託してきました。
我が政府が旗印とする「積極的平和主義」とは実に、長年「人間の安全保障」の増進、すなわち人間を中心に据えた社会の発展に骨身を惜しまなかった我々が獲得した確信と、自信の、おのずからなる発展の上に立つ旗です。
やがてそこから公平・公正で、人間を中心に据えた社会、人権を尊ぶ民主主義がふくよかな稔りを結ぶことを望みつつ、この営みに、日本は邁進してやみません。
70年前、国連は「戦争の惨害から将来の世代を救い」、「寛容を実行する」と謳いました。国連もまた、その理想を失ってはならないのです。
議長ならびに各国代表の皆様、まさしくこのような決意をもって、国連がその発足70年を祝う明年の選挙で、日本は非常任理事国として、再び安全保障理事会に加わりたいと考えています。
日本は80番目の国として国連に列した1956年以来58年の長きにわたって、国連の大義に自らを捧げて倦むことを知らず、その努力において人後に落ちない国であると確信するものです。節目となるのを機に、我々皆が、志をともにする国々の力をあわせて遂に積年の課題を解き、21世紀の現実に合った姿に国連を改革して、その中で日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担っていきたいと考えています。
皆様、昨年まさにこの討論において、私は女性に力を与えることの意義と重要性に言及し、「女性が輝く社会を創ろう」と訴えました。
日本はいま女性の社会参加を一気に増やそうと、政府、民間挙げて、山積する課題を解く努力を始めました。
子育てや介護と、仕事の両立が可能となる環境を整備しなくてはなりません。そして、女性の役割についていまだ社会に存在する偏見を取り除いていくことが、何より全ての基本です。
女性の活躍を主題とする大規模な国際会議を、あたかも東京で開いたばかりです。世界から約100人のリーダーが集まって、経済発展や、グローバルな課題の解決に向け、女性の力を存分に発揮させることが不可欠だというコミットメントを世界に向け発信しました。
女性のエンパワーメントは1年を経ずして、我が国政策を内外で牽引する主導理念になりました。
我が国は、対外援助において主眼をなすアフリカで、少女の、また母親の地位向上に注力しています。
20世紀には、ひとたび紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が、深く傷つけられた歴史がありました。
女性に生まれたというだけで、医療ケア、教育といった基本的サービスを受けることができない、ゆえに自立の機会に浴せないという忌まわしい状況が、世界のあちこちに、なお存在します。
日本は、世界中のそうした女性たちに寄り沿う国でありたい。心に大きな傷を受けた女性たちの自立を、世界中で応援し、支えていきたいと考えています。
21世紀こそ、女性に対する人権侵害のない世界にしていく。日本は、紛争下での性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立ってリードしていきます。
日本がザイナブ・バングーラ「紛争下の性的暴力担当事務総長特別代表事務所」との連携を強化したゆえんがここにあることは、いまさら多言を要しません。
教育、保健といった基本的な権利は、世界のどこでも保障されなければなりません。女性も男性と平等に学校に行ける、妊産婦の方々が安心して医療ケアを受けられる。そのために国連は、世界は、一丸となって行動していかねばなりません。
何より経済的に自立する能力を育てることこそは、女性にとって、誇りと希望あふれる生を歩むため不可欠なことではないでしょうか。女性が輝く社会を創ることに、世の中全体を変えるカギがあると信じて疑いません。
昨年、私はこの場の演説で、女性の地位向上を主眼とし、3年で30億ドルを超す支援を実施すると約束しました。これまでの1年間で既に実行した額は、半分以上の18億ドルに上ります。
また私は、「国連の女性政策を担うUN Womenの活動を尊重し、有力貢献国の1つとして誇りある存在になることを目指す」とも申し上げました。日本はこの1年で拠出金を5倍に増やしました。これからも、より多くのプロジェクトを支えていきます。加えて来年は、喜ばしいことに、UN Womenの日本事務所を東京に開きます。新事務所を拠点として、国連との連携は一層強まることでしょう。
議長ならびに各国代表の皆様、
ポスト2015年開発アジェンダの策定に、日本は今まで同様、強い関与を続けるものですが、その掲げる「包摂性」、「持続可能性」、「強靭性」の達成を真に求めるならば、人種、性別、年齢を問わず、立場の弱い人たちの保護・能力強化こそが大切であると、私は強く訴えます。
あたかも本年、日本は政府開発援助を始めて60周年の節目を迎えました。戦火による完全な荒廃からわずか9年でODAを実施しようとした先人の心意気に学び、私の政府はいま、ODAの新しい指針を打ちたてようとしています。質の高い成長、法の支配の確保、平和で安定した社会の実現などを、改めて我が国ODAの重点目標として強調したいと思っています。
60年、日本がそのODAにおいて営々と目指してきた目標はいささかも変わりません。貧困との戦いにおいて最も重要なのは、当事者に主体意識を涵養し、自助努力を促すことだとする深く根づいた思想は変わるものでなく、人間の安全保障を確かなものとする営みも不変です。しかもなお、女性の力を増すことにテコの支点を求めてこそ、目標到達がそれだけ近づくと考えるのです。
議長とご列席の皆様、日本は過去20年、延べ9700人を国連PKOの13ミッションに送ってきました。国連平和構築委員会が生まれて今年で10年、その間の日本による平和構築基金への支援は4000万ドルを超えます。今後、平和構築の分野で世界に貢献する人材を、質量とも一層育てていきたいと考えています。
日本はまた、唯一の戦争被爆国として、被爆70周年となる明年のNPT運用検討会議で、議論を主導していく覚悟です。
北朝鮮に対しては、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決のため、関係国と協調して当たります。
国連の存在によって大きく裨益してきた我が国は、これまで以上に、国連が掲げる理念の実現に向け、力を尽くしていきます。そして日本は、約束したことは、必ず実行する国です。
これで私の討論を終わります。ありがとうございました。
2014年09月26日
谷垣禎一幹事長に聞く
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一致結束し国民のため働く体制つくる
谷垣禎一幹事長に聞く
9月3日の総務会で決まった新執行部は、バランスのとれた重厚な陣容での船出となった。谷垣禎一幹事長は、役員連絡会で「一致結束して政権を支え、国民のために働く体制をつくる」と強い意欲を示した。国民の高い期待を受け再スタートした安倍政権と共に政府・与党一体となって日本再生に取り組む新執行部に、党運営、党内議論の集約、政策課題への対応などを聞いた。
政治の安定に各地方選の勝利を
地方の声を政策、党運営に反映
「課題解決に向け、与党第1党の役割を果たす」と、安倍政権を総力を挙げて支える姿勢を強調する谷垣禎一幹事長
「わが党が目指すべき方向」
――幹事長としての抱負と決意を。
谷垣禎一幹事長)3年3カ月の野党生活を経て、再び安倍晋三総裁の下で、与党に戻ることができた。
政権復帰後1年8カ月、安倍総理は地球儀俯瞰外交で諸外国を歴訪する一方、アベノミクスに代表される大胆な経済政策などを打ち出し着々と成果を挙げている。
民主党政権で意思決定の混乱が国民の失望を招いた事を念頭に、わが党は議論を尽くした上での結論を尊重し、全員で安倍政権を支える姿勢が大切である。
安倍政権を支え、多くの課題を解決するため与党第1党の役割を果たせるよう一致結束することが幹事長としての責務と受け止めている。
また、衆院の小選挙区制は「政権交代可能な制度」と言われているが、現実は「集団的自衛権」の議論などを見ると、野党のアイデンティティーが不明確で、わが党は政権を担いうる責任ある与党として益々国民の期待に応えねばならないとの気持ちを強くする。
――各種地方選挙に向けた取り組みは。
谷垣)政治の安定を図るためには国政のみならず各種地方選挙での勝利が不可欠だ。
来春の統一地方選で成果を挙げるのは至上命題だが、特に、年内に実施される福島・沖縄の両知事選は大事な選挙となる。
福島知事選では、東日本大震災に伴う原発事故などからの復興に向けて多くの方が賛同できる体制作りが必要だ。
また沖縄知事選は、「地域振興」と共に、安全保障上の「基地問題」が密接に関わる特殊事情が存在する。
厳しい選挙だが、こちらも各界・各層との幅広い連携が不可欠と考える。
――地方の声をどう政策等に反映させるか。
谷垣)総裁時代に、「地方の声を真摯に聞きたい」との思いでスタートした「ふるさと対話」が9月10日で600回に達した。
膝を接しての小人数での地方集会では「鳥獣被害」や、「産婦人科医不足」など全国共通の悩みもお聞きした。
今回の内閣改造で新たに地方創生担当大臣が誕生したが、わが党も引き続き強固な地方組織の協力を得て、地方の声を政策や党運営に反映させるため、党役員、閣僚などみんなで手分けして進めたいと考える。
――党や政治家に求められるものと当面の政策課題は。
谷垣)政府は有識者の意見を参考に、官僚機構を駆使して、政策立案・執行を図るが、日頃から国民と接する機会の多い政治家に求められるのは官僚に届かない"草の根の声"を政策として生かす事だ。
「ふるさと対話」などは、車の両輪として政府の政策を補完する党の政策に反映させる重要なツール。
また近隣諸国との関係で、風通しを良くするために党外交を展開することは必要だ。
「アベノミクス」については、その効果が全国津々浦々に及ぶよう党も注視しなければならない。
消費税は、法律で10%への道筋は定められているが、経済は生き物で、それも考慮しての判断になる。
震災復興は道半ばだが、福島県が中間貯蔵施設建設容認を安倍総理に回答するなど事態も進展するなか、被災者支援に向けたスピードアップが重要だ。
「国民の理解」を求めて
野党とも丁寧に議論
臨時国会
――臨時国会など野党とどう向き合うか。
谷垣)国会運営を進める上で、「集団的自衛権」の議論でも痛切に感じたのは、安全保障に対する「国民の理解」だった。どのような問題でも、国民が納得できる内容でなければならない。今後も、野党とは懇切丁寧に議論する一方、時には与党として毅然とした姿勢を示すことも欠かせない。
(自由民主より)
2014年09月24日
言論弾圧を強化する中国――80歳、鉄流氏拘束とウイグル族学者の無期懲役(遠藤誉氏)
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9月14日、親しくしていた鉄流氏(80歳)が拘留されたばかりだ。
23日にはまた、ウイグルの経済学者、イリハム・トフティ氏の無期懲役判決が出た。習近平はなぜここまで言論弾圧を強化するのか。
◆劉雲山を批判して拘束された鉄流氏
1935年生まれの鉄流氏は、57年の反右派運動(五七運動)で毛沢東を批判したとして逮捕され、23年間も牢獄生活を送った経験を持っている。毛沢東は56年に「百花斉放 百家争鳴」方針を打ち出し、「何でも自由自在に自分の意見を発表しなさい」と知識層に呼びかけた。
よろこんだ作家や記者あるいは各界の知識層は毛沢東を信じ、本気で自分の意見を発表した。
ところがそれを見た毛沢東は、あまりに自分に対する批判が多いことから、翌年の57年には「反右派運動」を展開して、意見を発表した者をことごとく逮捕し、労働改造所に投獄してしまった。その数、中国政府発表でも約55万人。被害者側の発表では300万人。いずれにしても生き残った者はわずかで、その数少ない生存者の中に鉄流氏がいた。
鉄流氏は80年に名誉回復されて出獄したものの、つねに公安から監視されながらの毎日だった。もともと新聞記者をしていた鉄流氏は、又もや逮捕されることを恐れて文筆を断ち、商売を始めた。
しかし正義感を抑えきれず、商売で貯めた資金を基にして2010年には「鉄流新聞基金」を設立。言論弾圧や人権侵害を受ける記者や作家の支援活動を始めた。
そのかたわら、『往事微痕』という小冊子を編纂し、定期的に刊行している。生き残った「五七老人(五七運動の犠牲となった老人)」が「往事(過ぎ去った日々)」の「傷痕」を、自分の実体験を通して書き残した記録だ。
それをどうか日本で出版してくれと筆者は頼まれているのだが、なかなか時間が取れないまま、こんにちに至っている。
鉄流氏は毛沢東を恨んでいるものの、トウ小平を擁護し、習近平に関しては非常に高く評価している。ただその中でも、チャイナ・セブン(習近平政権の中共中央政治局常務委員7名)の一人で思想や言論の統一を担当する劉雲山に関しては、かなり激しく批判している。その文章をネットで公開したために、鉄流氏は「争いや面倒を引き起こした罪」で9月13日の夜に当局に連れて行かれ、14日に拘留が決まった。
パソコンも押収されたというから、筆者との往復メールもまた、すべて当局の手に掌握されてしまったのだろう。筆者はまちがったことを書いているとは思っていないので、怖くはない。
◆習近平はなぜ言論弾圧を強化するのか?
ウイグルの経済学者イリハム・トフティ氏については、筆者は直接の交流があるわけではないので、ニュースで伝えられていることや中国語で書かれた人権団体の情報以上のことは知らない。
しかし少なくとも、穏健なイリハム・トフティ氏はウイグルの独立に賛同はしていないし、独立を煽動もしていない。人権を守ろうと、ネットでウイグル人の実情と無実を公開しただけだ。それなのに新疆ウイグル自治区ウルムチ市の中級人民法院(地裁)は、「独立を煽動した」として「国家分裂罪」で彼に無期懲役刑を言い渡した。
このことに対して国際社会は主として「中国ではウイグル情勢が厳しいので、見せしめのために無実のイリハム氏に重い判決を与えたのではないか」といった類の分析をしている。その側面はあるだろうが、筆者にはどうも納得がいかないものがある。
それならなぜ、80歳にもなる鉄流氏を拘束したりするのかという疑問に回答を与えることができないからだ。
鉄流氏もまた穏健で、いかなる挑発をしたこともなく、ましてやデモなどを呼び掛けたこともない。ただ単に、自分の考え方をネットで公開したり、「五七老人」とともに過去に経験した実体験を残したり、人権問題で不当に苦しめられている人たちに支援の手を差し伸べているだけだ。
「生き残っている」ということが闘いであり、勝利なのだと筆者に言い、よく北京の老人クラブで体を鍛えていた。
これだけで、80歳になってもなお投獄される。
習近平は何を恐れているのか?
毛沢東は「共産党政権を維持するために必要なものが二つある。それは銃口とペンだ」と言っている。
中国はいま、「銃口」は十分に強化しつつある。
しかし「ペン」の力はいまや、共産党による思想統一ではコントロールしきれない。一人の庶民が書いた情報は、インターネットを通して全世界に瞬時に広がっていくからだ。
習近平は共産党幹部のあまりの腐敗が人民の心を共産党から離反させているのを恐れて、人心を引き留めようと激しい反腐敗運動を展開している。それはたしかに人民の心を惹きつけはしたが、しかし言論の弾圧は、腐敗以上に人心を共産党から離反させていくのではないだろうか。
「銃口」は掌握できても、「ペンの力」はコントロールできない。
弾圧すればするほど、それは「見せしめ」とならず、さらなる「ペンの力」に転換していくのではないかと筆者は信じる。人は心の奴隷にだけはなれないのである。尊厳こそが最強の力だ。
遠藤誉
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
(ヤフーより)
武道団訪露(高村正彦副総裁)
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11月5日から12日まで、日本武道館を代表して日本武道代表団の団長としてロシアに行って参ります。
現代武道九道、古武道三道など、十二道の武道の専門家約75名が行くわけでありますが、これは昨年の四月に安倍首相とプーチン大統領との間で今年を武道交流年にしようということが定まっており、約四十の交流が行われているわけですが、そのトリと言いますか、最大規模のものが今度派遣される代表団ということになります。
副団長は柔道のゴールドメダリストであり、柔道連盟副会長の山下康裕さんに務めて頂きます。
日露関係色々難しい状況があるわけでありますが、武道交流を通じて少しでも両国の関係改善に寄与できればいいなと思っています。
私は一方で、日露議員連盟の会長を務めていますが、旧知の政治家もいるわけですので、時間があればそういう人達ともお会いして、少しでも日露関係が良くなるように努力して参りたいと思います。
そういう中でウクライナの問題についても率直な意見交換をして参りたいと思っています。
2014年09月19日
インド・スリランカ、日中両国の間で漁夫の利か(遠藤誉氏)
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中国の習近平主席は9月16日にスリランカを、17日にインドを訪問した。両訪問国首脳は安倍首相との会談に勝るとも劣らぬ熱烈歓迎をしている。日中、どちらが東南アジア諸国を取り込むか。陣取りゲームが始まる。
◆インドのモディ首相、日中に「いい顔」
インドのモディ首相が9月1日に訪日し、安倍首相と日印首脳会談を行った。日本は破格の厚遇でモディ首相を迎え、新幹線の輸出を始め、今後5年間で日本はインドに対して350億ドル(約3.5兆円)規模の官民投融資をすることを決めた。また安保・防衛協力に関する覚書や救難飛行艇「US−2」に関する議論も進展した。
モディ首相は「21世紀はアジアの世紀と言われているが、それがどのような世紀になるかは、日印関係によって決まると言っても過言ではない」と応じた。
両国首脳は「日印間の戦略的グローバルシップをさらに強化すること」に強い意欲を示し、防衛装備協力に向けた協議を始めることに賛同している。
インドの人口は12億5,210万人で、中国の 13億8,560万人に迫っている。
経済発展においては中国に及ばないものの、アメリカのシリコンバレーのICチップは「Indian Chinese」と呼ばれるほどインド人が多く、これからの発展を考えるとポテンシャリティも高い。
なによりも民主主義国家であり、反日を武器としていないことに将来への安心感がある。もちろん韓国のように民主主義国家であっても反日を叫ぶ国もあるが、インドの場合は、中国に進出した日本企業が反日デモで一夜にして大きな打撃を受けるというリスクはない。
したがって安倍首相のインド接近は非常に歓迎すべきだと思っていたところ、なんとモディ首相、今度は習近平に熱いラブコールを送っている。
中印関係は「龍と象の争い」(拙著『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』p.51)と揶揄されるように、領土問題に関していさかいが絶えない。しかしシン元首相の時とちがい、モディ首相は何だか習近平に低姿勢だ。
9月17日はモディ首相の誕生日であったことから、まずモディ首相生誕の地であるグジャラート州で習近平主席を歓待し、親密度をアピールした。ついで「インド独立の父」と呼ばれているマハトマ・ガンジーの旧居へと案内し、習近平主席を喜ばせた。なぜならそこで習近平主席は「植民地支配に抵抗した英雄」とガンジーを讃えることによって「中国における日本の植民地支配」を暗示し、中印連携を強調することができたからだ。
折しも9月18日は「九一八」事変(柳条湖事件、いわゆる「満州事変」)の日。中国の中央テレビ局CCTVは、あたかもこの二つをリンクさせるような形で、9月18日に、17日における習近平夫妻のガンジー旧居訪問を再び伝えた。
モディ首相は、中国から5年間で1000億ドル(約10兆7千億円)の投資を呼び込む見通しで、また高速鉄道建設に当たって中国の技術を取り入れることにも意欲的だ。日本と中国のインドに対する投資総額を比べればその差は歴然としており、インドは中国になびくだろう。また高速鉄道建設に関しても、価格競争から行けば日本は中国に負ける。技術は圧倒的に日本が高いとしても、必ずしも日本に有利とは限らない。
問題なのはインドが、本コラムの「中露接近がもたらす地殻変動――ウクライナ問題が背中を押した」で触れた「上海協力機構」にインドが加盟を申請していることだ。上海協力機構は中国やロシアを中心として中央アジア諸国の一部が加盟している安全保障機構である。
安倍首相と約束した安全保障や防衛協力に関する協力と、この上海協力機構は正反対の方向にある。上海協力機構はNATOに対峙する性格を持っており、日印防衛協力は、実質上アメリカを入れた日米印防衛協力の性格を持っている。
日本にとって頼もしい味方であるかに見えたインドは、「もう一つの顔」を中国に見せている。
◆パキスタンでは習近平主席歓迎に礼砲21発
もっと驚いたのは、9月16日にコロンボで習近平を迎えたスリランカのラージャパクサ大統領だ。盛大な歓迎式典とともに行われて閲兵式で、習近平主席に対して発した礼砲が、なんと「21発」。
9月7日にスリランカを訪問して同じくラージャパクサ大統領と会談した安倍首相に対して発した礼砲の数は「19発」だ。
わずか「2発」の差であっても、この違いは大きい。
歓迎に対する意思表示の度合いの違いだからだ。
ラージャパクサ大統領の「目の開き方」「口の開け方」「腕の動き」などから見えてくる「歓迎度」にも、明らかな違いを読み取ることができる。
安倍首相の「世界地図を俯瞰する外交」は評価すべきだ。
しかし、相手はなかなかにしたたかであることも、この「俯瞰図」の中で読み込んでおかねばなるまい。
遠藤誉
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
(ヤフーより)
2014年09月18日
「人民日報」電子版で李香蘭特集――19頁にもわたる内容は?(遠藤誉氏)
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9月15日、中国共産党機関紙「人民日報」の電子版「人民網」が、李香蘭の特集を載せた。同日、中国外交部の洪磊(こうらい)報道官は李香蘭逝去に対して哀悼の意を表した。この事実と内容から中国の心を考察してみよう。
「人民網」が載せた李香蘭特集の内容
「李香蘭去世 曾唱紅《夜來香》 芳華絶代一生坎●(●は土へんに可)」(李香蘭逝去 かつて《夜来香》が大流行 絶世の美と才能と波乱の一生)という見出しの長編記事を特集した。
オリジナルではなくて、「看看新聞網」という上海広播電視台(上海ラジオテレビ局)傘下のメディアの「総合ページ」特集を、そのまますべて転載したものだ。
冒頭には「20世紀の30年代および40年代に、上海で人気絶大だった日本国籍の歌手・李香蘭(山口淑子)が今月7日午前10時42分に逝去した。享年94歳。李香蘭は日本人だ。本名は山口淑子。中国遼寧省で生まれた。13歳のときに父親の中国におけるクラスメートで当時親日派の信用銀行総裁だった李際春に会い、その養女となる。そのため李香蘭という美しい名前を得るに至る」という趣旨の紹介文がある。
そして各ページに中国における「李香蘭時代」の写真が載っており、「満州国」の前に「偽」という文字を付けて「偽満州国」という中国の決まりは守っているものの、「満州国時代」のありのままの事実が、華麗にして妖艶な写真とともに書いてある。
7頁目には、以下のような文言もある。
――李香蘭。彼女の名前は山口淑子、日本の血が流れている。彼女の名前は李香蘭、中国人の養女だ。彼女は時代と民族の狭間に追い込まれ、やむなく偽満州国の巨星として燦然と輝いた。彼女は明らかに日本人だったが、「漢奸」(中国人の売国奴)として命を落とすところだった。しかし彼女は華麗に転身し、歴史を真正面から直視し、故国を忘れなかった。彼女は永遠に朽ちることのない夜来香だ……。
なんと言っても中国共産党のウェブサイトである「人民網」が、このような内容を載せたのだから、本当はテレサテンを通して「夜来香」(イェライシャン)という歌を好んでいた中国の庶民は、ネットの中でつぎつぎとこの記事を転載。おまけに、たとえば「新華網河北チャンネル」とか「人民網広西ウィンドウ」など、党と政府系の地方ウェブサイトも中央にならったので、「安心して」広めている。
そこに必ずあるのは「日中友好に貢献した」や「歴史を直視し」といったキーフレーズだ。つまり、ここまで「満州国時代」の写真と事実がありのままに報道されること許されているのは、この二つのキーフレーズがあるからということになろうか。
中国のネットユーザーが李香蘭に注目したのは2005年から
前回の本コラム「中国人にとっての李香蘭」でも書いたが、李香蘭の歌はすべてテレサテンの歌として中国大陸に上陸している。80年代初期、カセットテープの形を取って、「ひそかに!」大流行した。改革開放を始めたとはいえ、このような「退廃的な」歌を聴くことは、やはり「資本主義的」であるとして、「精神を汚染する対象」とされていた。
86年に一度解禁されたことがあるが、しかしテレサテンが89年の天安門事件の際に、民主を叫ぶ若者たちを応援したことから、テレサテンの歌は、また禁止になった経緯がある。
そのような中、李香蘭の名前そのものが中国のネット空間を賑わし、「夜来香」は李香蘭の歌だったことを知るにいたった事件が起きた。
それは2005年、小泉元首相の靖国神社参拝をめぐって中国で激しい反日デモが展開した際、山口淑子氏が小泉元首相の靖国神社参拝を批判し、「それは中国人の心を傷つける」と書いたことが中国で熱狂的に歓迎されたのである。
このとき筆者は中国にいて日本留学を希望する中国の若者と接しながら、一方では中国のネット空間の変化を追いかけていたが、そこには「山口淑子」が「李香蘭」であり、テレサテン(トウ麗君)が歌っていた「夜来香」は、この李香蘭の歌であったことなどが書かれていた。
李香蘭は、反日デモを擁護した人物として、戦前に関する非難は帳消しにされている。
中国外交部の洪磊報道官も、「李香蘭は戦後の日中友好事業に積極的に貢献した人で、彼女の逝去を祈る」と記者会見で述べている。
それは「李香蘭のような言動をすれば中国は歓迎する」というシグナルを送っているとも解釈できる。
筆者自身としては何とも複雑な気持ちを抱くが、11月に実現するかもしれない日中首脳会談に対する一つのシグナルであることは確かだろう。
遠藤誉
東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
(ヤフーより)
2014年09月17日
「日本論語研究会」10月4日、講師は遠藤誉氏、テーマは「最新の中国事情」
「日本論語研究会」の予定
第108回
1、日 時 10月4日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
(テーマ、「最新の中国事情」)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第109回
1、日 時 11月8日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 松元 崇(第一生命経済研究所特別顧問)
(テーマ、「日本の現状と将来」)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
* 会場は、全て慶應大学・三田キャンパスです
(港区三田2−15−45)(JR田町、地下鉄三田下車)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〇参加費 無料です。
〇新たに参加を希望される方は
お名前 :
ご住所 :
連絡先 :
お勤め先 :
以上をご記入の上、代表幹事(田村重信)までメールにてお問い合わせ頂けますようお願い申し上げます。
連絡先:stamura☆hq.jimin.or.jp(☆を@に替えて送信してください)
第108回
1、日 時 10月4日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
(テーマ、「最新の中国事情」)
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第109回
1、日 時 11月8日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 松元 崇(第一生命経済研究所特別顧問)
(テーマ、「日本の現状と将来」)
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* 会場は、全て慶應大学・三田キャンパスです
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