2012年06月
2012年06月29日
どうなるFarm Bill(米国の農業政策)ヘリテージ財団・横江公美氏
『日本の防衛法制 第2版』(内外出版)を出版しました。防衛政策を語る上での必読書です。
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ヘリテージ ワシントン ニュースレター No.47
横江 公美 アジア研究センター 2012年6月28日
「どうなるFarm Bill」
5年毎に農業政策を決定付けるFarm Billが、現在議会で議論されている。
Farm Billは1973年に始まり、その後、5年ごとに修正される。現在施行されているFarm Billは2008年に可決され、今年9月30日が期限になっている。
上院では「Agriculture Reform, Food and Jobs Act of 2012」という正式名称で既に提出されているが、共和党からかなりの修正案が出されていた。
Farm Billは一言に農業政策といっても、助成金だけでなく、農村開発、エネルギー政策、環境保護等にも関わる1000ページを大型予算案である。
2012年Farm Billでは、農家への直接支援は今後10年で198億ドル削減されることになっているが、農作物保険については51億ドルの増額が見込まれている。
ヘリテージ財団のDiane Katz研究員は、米国農務省の統計によると2012年の農家の純所得は917億ドルにのぼり、史上二番目の水準になっている、という。
2011年には過去最高の981億ドルを記録している。同時に2012年の農家の負債率は、ここ40年で最低の10.3%になる見通しである。不景気にあって、所得が上がり負債は下がっていることから、農家は他の産業に比べると好調を示している、という。Katzは、国債残高が膨らみ財政が苦しい中で、そこまで手厚い農家保護政策が必要なのか、と疑問視している。
Katzは、助成金に加えて一部の農作物保険に対する助成金についても、必要性を疑問視する。これらは、本来のリスクを隠し、より危険な地域での農業などを助長している。Katzは、大農家ほど利益を得られるような仕組みの助成になっていてることも不公平だとも指摘している。
また、ヘリテージ財団のBrian Darlingは、この法案は「フード・スタンプ拡大法案」と名前を変えるべきだと揶揄する。フード・スタンプは、低所得者層に食料の割引券や無料券を提供する扶助制度である。フード・スタンプはFarm Bill 2008が2012年に割り当てている9.7億ドルのうち、79%の7.7億ドルを占める大規模なものである。しかし、十分な資産があるにもかかわらず不正に受給したり、受け取ったフード・スタンプを売買するという問題は常に持ち上がっている。
6月12日のポリティコでは、ポップコーンに関する条項が話題に上がった。この条項では、ポップコーンを普通のコーンとは別に扱い、助成金の対象とするかを検討することを示している。ポップコーンは、最近施行され始めたコロンビアと韓国との自由貿易協定で、早くも輸出が増加している品目でもある。
6月19日の時点では、300以上の修正案がFarm Billに対して提示されていた。上院院内総務のHarry Reid議員は、全ての修正案を裁くことはできないが、多くを反映させることは可能だと話してた。共和党のMcCain上院議員は、2008年のFarm Billが10年で6,000億ドルの歳出だったの比べて、今回のFarm Billは10年で9690億ドルに拡大している、と批判した。
Farm Bill 2012の修正条項については相当時間がかかることが予想されたが、審議する修正案を73に減らし、6月21日に64−35(棄権1)で可決された。採決に際して15人の共和党議員が賛成票を投じ、1人が棄権した。また、5人の民主党員も反対票を投じている。共和党で賛成票を投じたのは、ミズーリ、ネブラスカ、カンザス、アイダホ、ワイオミングなどの農業が重要産業の州の議員たちだった。
共和党が多数を占める下院で今後審議される予定だが、更なる削減を要求するための修正を加える試みが予想される。仮に下院が相当の修正を加えて法案を通しても、Conference Committeeで折り合いがつくことは難しいだろう。現在の農業政策は9月30日に期限が来るので、それまでにFarm Bill 2012を施行しなければならないというプレッシャーもある。
アメリカの立法プロセスにはいくつかの形態がある。上院から回ってきた法案に下院が修正を加えて、可決される場合。また、上院と下院それぞれが同じ政策に関する法案を提出して、両院でほぼ同時並行で可決する場合などである。両院で可決した法案はConference Committeeにもたらされる。二つの法案が全く同じ場合はそのまま大統領の署名に行くが、異なる場合はそこで調整が行われる。
補助金は今年行われる選挙に直結する。そのため、民主党でも反対する議員もいるし、共和党でも農業地区では賛成する議員もいる。9月30日の期限までにFarm Bill2012を通過させることができるのか。どこの国でも農業と補助金の関係は根が深い。
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キャピトルの丘
日本では、消費税法案が衆議院で可決し、同時に野田首相と同じ民主党でありながら反対に転じた小沢グループの今後に焦点が集まっている。政界再編への引き金になるのかどうか気になる日本の政治である。
アメリカでは、それほど話題にはなっているわけではないが、取り上げられてはいる。
ヘリテージ財団のデレク・シザーズは、「消費税の値上げによって、今後3年間で11兆円から14兆円の歳入は見込めるが、日本の単年度赤字は45兆円に上っている」とし「社会保障の改革」が必要としている。
ワシントン・ポストでも、経済政策の議論というよりも政局の戦いであるとし、その上で消費税15%と社会保障の改革が必要というIMFの勧告を紹介していた。
日本で働いていたときには財政赤字はそれほど問題だと思わなかったが、国際機関に出向して日本の財政が逼迫していることが身にしみた、という財政専門家の声を聞いたこともある。
アメリカでは、共和党と民主党が膝詰めで予算の協議をしている。二カ国の戦いのようだと揶揄する学者もいるほど、予算についての真剣勝負が繰り広げられている。
日本の財政議論が政局戦争に使われるのではなく、真に財政議論に終始して欲しいと心から願っている。
横江 公美
客員上級研究員
アジア研究センター Ph.D(政策) 松下政経塾15期生、プリンストン客員研究員などを経て2011年7月からヘリテージ財団の客員上級研究員。著書に、「第五の権力 アメリカのシンクタンク(文芸春秋)」「判断力はどうすれば身につくのか(PHP)」「キャリアウーマンルールズ(K.Kベストセラーズ)」「日本にオバマは生まれるか(PHP)」などがある。
2012年06月28日
民主党の混乱―問題は「果たせぬ約束」 (朝日新聞・社説)
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今日は、民主党の混乱―問題は「果たせぬ約束」(朝日新聞・社説)を掲載します。
マニフェストについて民主党が非難されるべきなのは「約束を果たさなかったから」ではない。「果たせない約束をしたから」である。
分裂状態に陥った民主党で、小沢一郎元代表ら造反議員は野田政権の「公約違反」を批判する。政権交代につながった09年総選挙の公約に消費税増税はなかった。たしかに「国民に対する背信行為」のそしりは免れない。いずれ総選挙で国民の審判を仰がねばなるまい。
だが、野田首相に「約束を果たせ」と言いつのる小沢氏らは財源の裏付けのない「果たせない約束」をつくった責任をどう考えるのか。
もう一度、民主党の公約を見てみよう。
月2万6千円の子ども手当を支給する。月7万円を最低保障する新年金制度を導入する。提供するサービスははっきり書いてある。一方、財源については「むだの削減」といった、あいまいな記述にとどまる。
最低保障年金を実現するには、「10%」をはるかに上回る増税が必要になることも、それにもかかわらず多くの人の年金が減ることも書かれていない。
「負担増なしに福祉国家を実現できる」と言わんばかりの公約だった。
その公約づくりを党代表として主導したのは、ほかならぬ小沢氏だった。子ども手当の額を上積みさせ、「財源はなんぼでも出てくる」と言い続けた。
現実には、子育て支援の充実も年金財政の安定も、増税なしには困難だ。だからこそ、3代の民主党政権が苦しみ続けたのではなかったか。
小沢氏は何をしていたのか。「むだを省けば、増税なしに財源をつくれる」というなら、具体的にこのむだを省けと政権に迫ればいいではないか。増税を試みた菅政権にも野田政権にも、そんな説得の努力をしたとはついぞ聞かない。
小沢氏自身、増税なしには社会保障の維持さえできないことはわかっているはずだ。だから、細川政権時代に7%の国民福祉税を導入しようとしたのではなかったのか。
いまさら「反消費増税」の旗を振るのは、ご都合主義が過ぎる。にもかかわらず造反議員らは「反消費増税」を旗印にした新党づくりを公言している。執行部は厳しい処分で臨み、きっぱりとたもとを分かつべきだ。
「果たせない約束」を掲げて政治を空転させることを繰り返してはならない。次の総選挙に向けて、政治が国民の信頼を回復する道はそれしかない。
2012年06月27日
民主はきっぱり分裂を(毎日新聞・社説より)
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今朝の新聞各紙は、昨日の民主党の事実上分裂状況についての報道一色だ。
社説も同じだ。
その中で、毎日新聞社説が明解であり、以下転載します。
「民主はきっぱり分裂を」(毎日新聞・社説、6月27日)
大量造反で通過
民主党から大量に造反者が出る中、消費増税法案を柱とする税と社会保障の一体改革関連法案が衆院を通過した。
民主党内の亀裂は、もはや修復不能であるのは誰の目にも明らかだ。
ところが野田佳彦首相は造反者の処分について「輿石東幹事長と相談しながら厳正に対応したい」と語るのみで具体的に言及しなかった。一方、造反した小沢一郎元代表も直ちに離党はせず、「近く決断する」と述べただけだった。
もはや、きっぱりと分裂する時ではないか。
その方が有権者にも分かりやすいし、そうでなければ政党政治の根幹が揺らいでしまう。
小沢元代表に大義ない
関連8法案のうち消費増税法案に反対票を投じた民主党議員は57人に上った。
野田首相にとって大打撃になったのは間違いない。
しかし、造反者すべてが離党する意向ではないという。小沢元代表のグループとは一線を画す一方、輿石氏ら執行部が大量の造反者に除籍(除名)などの厳しい処分を下せるはずがないと見越している議員も少なくない。
小沢元代表のグループの中にも離党して新党を結成するのは処分の行方や、衆院解散・総選挙の時期を見極めてからの方がいいとの意見がある。元代表は大量造反者の「数」を盾に、野田首相を揺さぶりたいのかもしれない。このため、なおしばらく党内抗争が続く可能性がある。
こうした国民そっちのけの主導権争いに有権者はうんざりし、かつてない政治不信につながっていることになぜ気がつかないのか。
一連の法案は、党の代表として選んだ野田首相が政治生命をかけると明言し、何度も党の手続きを重ねてきた。自民、公明両党との間で修正合意した政党間の信義もある。そんな法案に造反しても処分しないというのなら政党の体をなさない。
今回の小沢元代表らの行動に大義は乏しい。
元代表のグループは「増税する前にすることがある」「マニフェストを守れ」という。だが、予算の無駄遣いをなくすなどして最終的に16・8兆円の財源を捻出すると約束して政権交代を果たしてからもう3年近くになる。この間、元代表らはどれだけ無駄の削減に努力したというのだろう。
そもそも前回衆院選のマニフェスト作りを主導し、「政権交代すれば財源はいくらでも出てくる」とばかりに財源論を放置したのは小沢元代表と鳩山由紀夫元首相だ。しかも鳩山首相時代の09年末、マニフェストの柱の一つだった「ガソリン税の暫定税率廃止」をあっさり撤回させたのは小沢元代表だ。
これでは、ご都合主義といわれても仕方がない。
小沢元代表らが今後、新党を結成するにせよ、民主党内で再び主導権争いをする道を選ぶにせよ、どうすれば増税をせずに社会保障制度を維持していけるのか、具体的に提示するのが最低限の責任だ。
それができなければ「国民の生活が第一」どころか、「自分の選挙が第一」、つまり「ともかく増税に反対すれば選挙で有利になるかもしれない」というのが造反の理由だったことになる。
93年に自民党を離党して以来、小沢元代表は新党を作っては壊してきた。03年秋、元代表率いる自由党が民主党と合併した後も、民主党内では「小沢対反小沢」の対立が繰り返されてきた。
私たちは政策論争より権力闘争が優先される政治から一刻も早く決別したいと思う。
信を問い直す時期
その点、一連の法案が民主党議員の造反がありながらも自民党と公明党などの賛成を得て衆院を通過し、参院でも可決・成立する見通しとなったのは、与野党の足の引っ張り合いから脱却し、「決める政治」への一歩となったと改めて評価したい。
元々、与党は参院では半数を割っている。首相は当面、他の法案も含め自、公両党の協力を求める「部分連合」を探っていくほかない。
もちろん、消費増税に対する国民の理解は進んでいない。一体改革といいながら、年金など肝心の社会保障の具体論はほとんど棚上げされ、増税ばかりが先行しているのも事実だ。低所得者対策として有効と思われる軽減税率導入などは今後の検討対象とはなったが、これもまた結論を得ていない。参院での審議では、法案の賛否だけでなく、これらの点に関しても議論を進めるべきだ。
首相は一連の法案が成立した後に国民の信を問うと語ってきた。
衆院解散・総選挙に臨む覚悟も求められる時だ。ところが首相らが造反者への処分をためらうのは造反組と野党が共闘して内閣不信任案が可決される事態を避けたいためではないか。解散を恐れていては「増税は国民のために必要」「将来世代にツケを残さない」という信念は伝わらない。
いずれ、あと1年余で衆院議員は任期満了となるというのに、衆院小選挙区の「1票の格差」是正議論は進んでいない。再三指摘してきたように定数削減と1票の格差是正を同時決着させるのは困難だ。まずは小選挙区の「0増5減」に向けた立法措置を講じることを優先すべきだ。
既に民主党は分裂状態で、有権者が選択した政権の姿は大きく変容している。可能な限り早急に国民の信を問い直すべきだと考える。
日本論語研究会の御案内、講師・安岡定子、坂本博之など。
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「日本論語研究会」の予定
*会場は、全て慶應大学・三田キャンパスです
(港区三田2−15−45)(JR田町、地下鉄三田下車)
第83回
1、日 時 6月30日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 安岡定子(安岡活学塾 講師)
(テーマ、「論語が拓く未来」)
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第84回
1、日 時 7月7日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 坂本博之(元日本・東洋太平洋チャンピオン)
(テーマ、「ボクシング人生」)
第85回
1、日 時 9月29日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 ( 第1校舎1階 111番教室 )
3、講 師 高橋 大輔(日本論語研究会幹事)
(テーマ、「日本論語研究会について〜私の場合〜」)
増田和夫(防衛省大臣官房企画評価課長)
(テーマ、「最後の海軍大将 井上成美と私」)
第86回
1、日 時 10月13日(土)16時30分〜18時
2、場 所 慶應義塾大学 (第1校舎1階 109番教室 )
3、講 師 岩越豊雄(社・国民文化研究会理事、寺小屋・「石塾」主宰)
(テーマ、「日本の教育を考える」)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〇参加費 無料です。
参加申し込みは、日本論語研究会のホームページにしたがって行ってください。
〇問い合せ先 田村重信(代表幹事)
Eメールstamura@hq.jimin.or.jp へ連絡下さい。電話―3581−6211(職場)
日本論語研究会事務局〒105−0002 港区三田2−15−45
慶大・南館20510 小林節研究室 気付
(参考)日本論語研究会の日程と研究会の内容は、日本論語研究会のホームページhttp://www.rongoken.jp/index.htmlに掲載しています。
2012年06月26日
民主党事実上の分裂状態、消費税法案、民主党57名が反対
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税と社会保障の一体改革関連8法案は26日午後の衆院本会議で、民主、自民、公明3党などの賛成多数により可決され、衆院を通過した。
消費増税法案の採決結果は賛成363票、反対96票。
民主党から小沢一郎元代表や鳩山由紀夫元首相ら57人が反対に回った。
これで、野田・民主党は反対した議員をどう処分するかが焦点となる。
民主党から、57名が離党すると54を上回ってしまい、少数与党に転落する。
民主党は事実上、分裂状態となった。
今後、与党抜きで、与党がバラバラのままでは、政府と野党が協力して法案を成立することはできない。
このまま、民主党が反対者を処分をしないと参院での審議に影響が出る。
今回の問題で、民主党の未熟さと欠点がさらけ出された。
民主党は、右の自由党(小沢党首)と民主党(菅代表)が合流して大きくなったが、政策の協議は行われず、いまだに綱領もなく、憲法や安全保障政策は詰めた議論を避けている。それは、議論してもまとまらないからだ。
憲法については、僕の先のブログで紹介した西修氏の論文をみれば、バラバラであることが分かる。
今回の消費税法案は、マニフェストになかったことだと小沢氏や鳩山氏が反発したのも理解できる。
が、野田政権になって、消費税をあげないと大変なことになると考えたことも理解できる。
民主党には、この二つの違った考えを収斂していく方法がなく、議論を長くやったということだけで、合意することができなかった。
いまや、民主党は政権政党としての体をなしていない。
一刻も早く解散・総選挙するしかないが、
民主党は、この党内分裂状態をだらだらと引きずることだろう。
2012年06月25日
民主党内の憲法論議はバラバラ
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民主党内の憲法論議はバラバラである。
この点を駒沢大学名誉教授・西修氏が「憲法で対立さらすおそまつ与党」とのタイトルで今日の(6.25)『産経新聞』[正論]に記している。以下掲載する。
国会が延長されたのに伴い、衆参両院で開かれている憲法審査会も続行されそうだ。各憲法審査会は実質審議に入っているが、全体を通じてインパクトのないこと甚だしい。
最大の理由は、政権与党たる民主党に十分な意識と準備が欠如していることに起因する。
≪要点欠落の民主『憲法提言』≫
同党が依拠する文書は、平成17年に取りまとめた『憲法提言』である。新しい憲法が目指す基本原則として、(1)国民主権社会の構築(2)新しい権利の確立(3)平和創造国家の再構築(4)分権国家の創出(5)重層的な共同体的価値意識の形成−の5つが掲げられているが、前文で日本国の特性をいかに表現しようとするのか、国民の生命・身体・財産を守るため自衛権をいかなる形で行使すべきかなど、本来、憲法論議で重大とされるべきポイントが完全に抜け落ちている。
日本国の歴史を紡いできた中心に、天皇の存在がある。日本国憲法は「天皇」を第1章に据え、第1条で、天皇が「日本国及び日本国民統合の象徴」であることをうたっている。この第1条をどうすべきかは、憲法改正をめぐる重要な論点である。自民党の『憲法改正草案』は、天皇を「日本国の元首」と規定し、「みんなの党」の『憲法改正の基本的考え方』も、「たちあがれ日本」の『自主憲法大綱案』も、天皇を「国家元首」にすると明示している。
しかしながら、『憲法提言』に「天皇」の章に関する記述は皆無である
5月24日に開かれた衆院の憲法審査会の冒頭で、民主党を代表して山花郁夫氏の口から出てきた言葉は、次のようなものであった。
「1章の各条項については現在、民主党としてまとまった意見はない」。現行憲法の天皇の「象徴」規定をどう評価するのか、天皇の法的地位を「国家元首」にするのか、天皇の国事行為条項を見直すのか。山花氏からはフリーディスカッションを含めて、こうした点に対する言及は一切なかった。
≪緊急事態条項で耳疑う発言≫
『憲法提言』は第9条に関連して、厳格な「制約された自衛権」を明確にする旨を明記している。だが、この「制約された自衛権」が、自衛のための軍隊の保持を認めるものなのかどうかは、示されていない。
果たせるかな、憲法審査会で、篠原孝氏が「自衛のための軍隊は持てると憲法に明記すべきである」と発言したのに対し、近藤昭一氏は「第9条を国際平和の先陣とすべきである」と述べ、改正に否定的な考えを示した。
また、集団的自衛権について、小沢鋭仁氏がその行使を明らかにするための憲法改正を支持するとの意見を表明したのに対し、辻元清美氏や辻恵氏らは、真っ向から反対意見を述べるというありさまである。
国の安全を憲法上いかにして保持するかは、最重要課題である。
この課題の解決は本来、党内で処理しておくべきであろう。各党の代表委員の集まりである憲法審査会で、党内対立を露呈させるという実にみっともない姿をさらけだしてしまったのである。
筆者は、5月16日、「大震災と国家緊急権」をテーマにした参院憲法審査会において、参考人として意見陳述する機会を得た。この審査会で、民主党の今野東氏から耳を疑う発言が飛び出した。
「震災に便乗して憲法に緊急事態条項を入れるべきだとする意見は、警戒すべきであると思う」
緊急事態条項は、すでに昭和39年に公表された内閣憲法調査会の報告書に、「導入すべしとする見解が多数である」とはっきり書かれている。平成17年に提出された衆院憲法調査会の報告書にも、「憲法に規定すべきであるとする意見が多く述べられた」と記されている。『憲法提言』にも「国家緊急権を憲法上に明示し、非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが侵されることなく、その憲法秩序が確保されるよう、その仕組みを明確にしておく」とされているではないか。
≪不勉強な党は総選挙で退場を≫
国家が、外国からの武力攻撃、政府中枢機関などに対するテロ攻撃、あるいは大規模自然災害などによって、平時の統治機構では対処できない事態に陥ったとき、国家の存立と秩序維持のために憲法上、いかなる措置を講じるべきかは、先人たちによって、真摯(しんし)に論じられてきた課題なのである。
その後の参院の憲法審査会で、民主党の前川清成氏が「火事場泥棒的である」と発言した。「便乗」だの「火事場泥棒的」だのと、不勉強のそしりは免れないだろう。
憲法審査会の議論はまだ続く。
民主党としていかなる態度で臨もうとするのだろうか。
党憲法調査会長の中野寛成氏は、社会保障と税の一体改革に関する衆院特別委員会委員長も兼務する。憲法問題での司令塔不在の状況である。
衆院の解散・総選挙の観測がしきりである。
国民新党も、国政への進出を目指している大阪維新の会も、憲法改正を明言している。
いずれ行われる総選挙では、憲法改正問題を争点の一つにし、具体的な論点に明確な立場を提示できない政党には退場していただくのが、最善の方策といえそうだ。(にし おさむ)
自民党・日本国憲法改正草案(2)国際標準の安全保障へ
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ここがポイント
日本国憲法改正草案(2)
第二章 安全保障
国際標準の安全保障へ
解説
参議院議員 党憲法改正推進本部 起草委員会事務局長
礒崎 陽輔
日本人が日本を守る意思示す
◇改正のポイント
わが党が4月に発表した日本国憲法改正草案の「安全保障」では、現行憲法の三大原則の一つ「平和主義」を堅持した上で、自衛隊を「国防軍」との名称で軍隊として位置付け、自衛権の行使や国際平和活動など、世界各国の軍隊と同等の活動を可能としました。
軍事面以外でも、国民と協力して領土や領海、領空を守るという国の義務が盛り込まれ、日本国は日本人の手で守るという意思を打ち出しました。
平和主義を堅持し 自衛権明確に示す
◇平和主義
第九条 (省略)国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2項 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
現行憲法の第九条の「戦争放棄」はパリ不戦条約を翻案しています。党内論議で「表現が分かりにくい」との指摘がありましたが、現行憲法の「平和主義」を堅持する意思を明確に示すため基本的に変えませんでした。
現行憲法より意味が分かりやすいように工夫しました。「放棄する」のは「戦争」であり、国の手段としての戦争を放棄することを誓っています。また、戦争に至らない段階では、「国際紛争を解決する手段」として侵略的意図を持つ「武力による威嚇及び武力の行使」を否定しています。
現行憲法でも自衛権があることは明らかですが、あえて2項で「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と明文化し、1項を自衛権の解釈と切り離しました。
これで自衛権の解釈に憲法上の制限がなくなり、国連憲章が認める個別的自衛権と集団的自衛権が認められ、現在の政府見解のように「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という理解しがたい解釈をする必要がなくなります。
なお、集団的安全保障の違反国に対する制裁は侵略的意図がないので、1項には抵触しません。
無論、憲法上の制限がなくなったからといって、政府が何でもできるようになるわけではありません。憲法の下で国家の安全保障を定める根拠法を制定して、自衛権を行使する要件を具体的に規定する必要があります。
自衛隊は「国防軍」活動は法律で規制
◇国防軍
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
自衛隊を「国防軍」という名称の軍隊とする規定を置きました。一部の国民は「軍隊の存在=戦争」という印象を持ち続けていますが、戦争の抑止力として国が軍隊を持つのは当然のことです。世界でも一定の規模以上の人口を有する国で軍隊を保持していないのは日本だけです。
党内論議では軍隊の名称で意見が分かれました。「自衛軍」「国防軍」「防衛軍」「陸海空軍」の4案のなかから、「国防軍」に決定しました。「日本を守る」という強い意思が支持を集めたのだと思います。
3項で「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」と規定したことにより国防軍は軍隊であるので、国際平和活動の中で武力の行使も可能となります。
さらに、同項では「公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」とし、国防軍による治安維持や海外での邦人救出や国民保護などの活動ができるようになります。
ただし、国防軍の活動は2・3項ともに「法律の定めるところにより」と規定し、要件を具体的に定めた根拠法の制限を受けます。
4・5項は国防軍の機密保持に目を向けています。5項は軍事上の行為に関する裁判は機密を保護する必要があるため、いわゆる「軍法会議」である軍事審判所の規定を置きました。なお、被告人は裁判所へ上訴する権利が保障されています。
国は国民と協力して領土を守る
◇領土等の保全等
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
国が自国を守るのは当然ですが、領土問題での民主党政権の不適切な対応を踏まえ、国の領土保全義務を定めました。
国防は軍事面だけではなく、国民が高い意識を持つことが重要です。党内論議で「国民の国防義務を書き込むべき」との意見がありましたが、そう規定すると、「徴兵制を採るのか」と問われます。わが党は平和主義に徹し徴兵制は採らないので、「(国が)国民と協力して」と表現したところです。
また、「保全」には、国境付近の離島での避難港や灯台などの公共施設の整備、海洋での資源探査などが含まれます。
『自由民主』より
2012年06月22日
アメリカは海洋条約を批准するのか?(横江公美氏)
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へリテージ ワシントン ニュースレター No.46
横江 公美 アジア研究センター 2012年6月21日
アメリカは海洋条約を批准するのか?
連邦議会での、海洋条約(海洋に関する国際連合条約)に関する議論が注目を集めている。この条約は、通称LOST(Law of the Sea Treaty)と呼ばれている。
日本、中国、ロシアなどすでに160カ国が批准しているが、アメリカは批准してこなかった。その最大の理由は、アメリカの海洋における主権が侵害される、という懸念である。
レーガン大統領が批准に反対して以来、海洋条約の批准の議論は、忘れ去られたような位置づけになっていたが、最近、中国が海洋資源の開発に積極的になっていることと、海洋資源開発をめぐる技術開発が進んだことで、海洋条約の批准が注目を集めている。
議会では、いつも以上に大物が公聴会に呼ばれている。
5月23日に行われた上院外交委員会は、ヒラリー・クリントン国務長官、レオン・パネッタ国防長官、マーティン・デンプシー陸軍大将(統合参謀本部長)が、公聴会で証言した。
公聴会のタイトルは「The U.S. National Security and Strategic Imperatives for Ratification(米国の国土安全保障と国家戦略における海洋条約の不可欠性)」であり、この公聴会は賛成派の意見を聞く機会になっていた。
クリントン長官が主張したように条約賛成派の最大の理由は海洋資源開発への遅れへの懸念である
そのため、最近では、資源開発に関わる産業や団体が、批准の必要性を訴える全面の新聞広告を打っている。
6月14日には、レーガン政権下で、批准反対をとりまとめたラムズフェルト元国防長官が登場した。
ラムズフェルト元国防長官は、条約が特定の紛争解決などわずかな利益を与えることは考えられると認めつつ、条約批准のために十分説得力のある説明がない。これまでの体制で問題なくやってきたのに、なぜ利益が少なく害を及ぼす可能性のある条約を批准するべきなのか、と反対している。
現在、条約批准の権限を持つ上院は、オバマ大統領率いる民主党が優位にいるので、公聴会だけ見ると、賛成派が多いように思われるが、実際は、両者の意見は均衡しているようだ。選挙を前にしてオバマ大統領は何が何でも経済を上向きにしたい。
その1つが海洋条約の批准と見られる。
だが、そんな状況にあっても、海洋条約を批准するかどうかの投票は、選挙以後に持ち越されるとの見方が強い。
ヘリテージ財団は、海洋条約の批准に反対している。
先日も、ヘリテージ財団の姉妹組織であるヘリテージ・アクションが、ラムズフェルド元長官を先頭に海洋条約批准反対の趣意書を連邦議員に提出していた。
ヘリテージ財団のDistinguished Fellowでレーガン政権下で司法長官を務めたエドウィン・ミース三世は、海洋条約はアメリカやその他先進国と開発途上国を同列に置くことで、ただ乗り(Free Riding)を許してしまい、結果としてアメリカの主権を脅かすので反対すべきであると主張している。
海洋条約には、国際海底管理局(International Seabed Authority)があり、海底資源からの利益の一部を徴収して貧しい国に分配する役割を持っている。この収益がキューバなどのアメリカに敵対する国に行く可能性もあるからだ。
またヘリテージで海洋条約の専門家でラムズフェルト元長官と同様に公聴会で証言したスティーブン・グローブス研究員は、考えられる利益よりもコストの方が大きく、この条約には致命的な欠陥があると批判している。国際海底管理局に徴収される利益の一部だけでなく、根も葉もない訴えに晒された場合のコストも含まれる、とグローブスは主張する。
またヘリテージ財団では、多数の国が参加する国際機関の有効性に疑問を抱いている。とくに利益の徴収と分配については、これまでの他の多くの国際機関のプログラムがそうであったように、資金の使い道等に関する監視体制が弱いことを問題視している。
海洋条約の行方は今のところ不透明である。
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キャピトルの丘
海洋条約の議論を見ると、アメリカの連邦議員は、投票までのあいだ、「政局」に時間を費やすというより、「勉強」に時間を当てている。
連邦議会で議論される内容、そしてどの法案をとりあげるかは、委員会の委員長が決めることが多い。
小委員会で議論・投票、そして委員会、最後に本会議というものもあるし、委員会から始まるものもある。どこから始まるかは、議会内の阿吽の呼吸だと言われれている。
現在、上院は民主党が優位を握り、下院は共和党が優位を握る。この構造は、委員会、小委員会の人的配置にも相関的な影響を与えているので、前者はオバマ大統領の意向にあった法案を好み、後者は反オバマ色が強い議論が行われている。
そたのめ、海洋条約の議論では、民主党寄りの意見が公聴会で多く見受けられる節はある。
だが、議員が、かなり長い間、真剣にひとつのテーマを勉強するというシステムは、非常に興味深い。
ヘリテージ財団だけではなくそれぞれのシンクタンクも独自に海洋条約についての研究を行い、議員やスタッフに研究結果を提示し、議論の下支えをしている。
法案によっては、「議員はもう少し勉強したほうがいいから、今回は法案が通らないほうがいいな」なんていう声はキャピトル周辺ではしばしば耳にする軽口である。
日本では、「議員がもっと勉強したほうが良い」という概念がない。
残念なことに、「議員が勉強する」という概念がないと言っても間違いではないほどだ。
もちろん、日本の議員にお会いするとよく勉強されていると思うことは多い。
だが、議会のシステムに「議員が勉強する」というシステムがうまく組み込まれていないのではないかと思う。
そのため、政局に終始している印象が残ってしまう。
消費税増税についての反対者と賛成者が大小の委員会に呼ばれ、話をする。そしてその模様はテレビやネットで生中継され、そして、文章としても議会のページに残る。
海洋条約の議論を見ていると、議論を支える研究者や研究機関、そして、それを見せて蓄積するアーカイブ環境が日本には足りないように思われる。
横江 公美
客員上級研究員
アジア研究センター Ph.D(政策) 松下政経塾15期生、プリンストン客員研究員などを経て2011年7月からヘリテージ財団の客員上級研究員。著書に、「第五の権力 アメリカのシンクタンク(文芸春秋)」「判断力はどうすれば身につくのか(PHP)」「キャリアウーマンルールズ(K.Kベストセラーズ)」「日本にオバマは生まれるか(PHP)」などがある。