2009年01月
2009年01月30日
尾辻秀久参議院議員の代表質問全文(その1)
前回も大変好評だった尾辻秀久参議院議員の代表質問(1月30日)の全文を掲載します。
(はじめに―自殺対策)
一年前に、私は二日続けてこの壇上に立たせていただきました。
最初の日は今日と同じ代表質問でありました。次の日は山本孝史先生の哀悼演説でありました。先生が「尾辻に頼んでほしい」といっておられたとお聞きを致しましたので、お引き受けしたのでありますが、大変お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳なく存じております。
先生の一年忌の質問でもありますので、型破りではありますけれども、山本先生が大変心配をしておられたにも関わらず、今日、状況が更に悪化している問題について、まず質問をさせて頂きます。
山本先生を中心にして、私たちは自殺対策基本法を制定致しました。今日本では、年間三万人の方が自殺でなくなっておられます。
総理が、施政方針演説で述べられた通りであります。三万人といいますと東京マラソンの全出場者の数であります。この十年間で三十万人。毎日九十人もの方が、自ら命を絶たざるを得ない状況に追い込まれています。
自殺する人の数が急に増えたのが、平成十年の三月だったということを、総理に是非知っておいて頂きたいのです。つまり北海道拓殖銀行や山一證券が破綻した年の年度末・決算期に、月の自殺者の数が一・五倍に急増し、年間では八千人以上も増えたのです。
今日の状況は、平成十年より、もっと深刻であります。このことを大変心配致しております。「自殺実態白書」によりますと、自殺は平均して四つの原因が重なって起きており、そのきっかけとして一番多いのは経済的な理由です。
まず、私たちは人の命を救わなければいけません。自殺者統計の緊急公表など、万全の対策をお願い致します。
総理、ぜひ一度、自殺の多い東尋坊や秋田などで活動しているボランティアの方々の生の声をお聞き下さい。「お聞き頂けますか」というのが、最初の質問であります。お聞きになれば総理もじっとしてはおられないと存じます。
(規制改革会議)
次に、最高の自殺対策であり、今日の緊急課題である雇用問題についてお尋ねを致します。私たち参議院は、「一緒に頑張りましょう」という思いを込めて、「雇用と住居など国民生活の安定を確保する緊急決議」を行いました。この機会に、全会一致となるべく努力をされた皆さんに敬意を表します。
今、早急に解決すべきは、職を失った派遣社員の支援でありますが、雇用については、後で、お尋ねすることとして、まず、こういう派遣制度が作られてきた経緯・背景を検証してみます。
政府は、規制改革を目指して、平成六年十二月に行政改革委員会を発足させております。
それ以来、会議は名称を変えつつ継続され、数度にわたって、派遣対象業務の原則自由化など、段階的に労働者派遣法を変えてきました。私はこの間の会議の在り方に強い疑念を持っております。
発足当時から、委員として、会議に参画し、数度の取り纏めの任にあたったのは、企業の一経営者であります。
経営者の視点で規制改革が進められ、その結果、派遣の大量打ち切りとなり、多くの人を失業に追い込んだのであります。
私たちの決議が、政府にだけでなく、企業にも注文をつけている所以であります。これほどの厳しい事態を招いたことについて、規制改革会議は、少なくとも結果の責任をとらなければなりません。
更に、規制改革会議には、言っておかねばならないことがあります。それは会議が自らの主張をするのは自由ですが、その主張が己の利権につながっているという疑惑を持たれてはいけないということです。「小泉改革を利権にした」と言われてはいけません。
規制改革会議でそのことを主張した人の関係会社が、真っ先に株式会社の病院を作ったと言われています。
規制改革会議に問いたい。医療を自らのビジネスチャンスにしていませんか。
理容・美容や保育にも手を伸ばそうとしていませんか。介護の世界を(株式会社の不当な)利益追求の場として貪り、自家用ジェット機を買った会長がいたことを、忘れていませんか。
バス・タクシーの事故が増えたことに対する反省はないのですか。
今、話題になっております「かんぽの宿」についても同じ疑惑が持たれています。
鳩山総務大臣は「李下に冠を正さず」と言っておられます。ここまで申しましたことに対して、総務大臣のご所見をお聞かせ下さい。
関連して厚生労働大臣にお尋ね致します。
規制改革会議が主導して市販の薬の市場を、なし崩しに開放してきました。これがインターネット販売に及ぼうとしています。簡単に買える利点がないわけではありませんが、十分な知識のない未成年が催眠鎮静剤を大量購入し、自殺を図るなど、多くの問題が生じております。
処方の重要性が考慮されず、副作用の強い薬が個数制限なしに販売された結果であります。今後どのように対応なさるおつもりかお尋ねを致します。
経済財政諮問会議については、昨年の質問でも国会決議など無視すればいいのだと言い放ったその傲慢さに触れました。経済財政諮問会議は、新自由主義、市場原理主義を唱えて参りました。
平たく言えば日本をアメリカのような国にすればいいのだと言ってきたのであります。それが間違いであったことは、今回の世界の不況が証明をしました。
その責任は重く、私は、経済財政諮問会議と規制改革会議を廃止すべきと考えますが、総理はどのような総括をしておられるのかお尋ねを致します。
また、このように審議会を隠れ蓑にするやり方を改めて政治と政府が前面に出て責任を明確にすべきと考えますが、総理のお考えをお聞かせ下さい。
(雇用問題)
次に、雇用問題について伺います。
国内失業者数は急増しております。本日発表された厚労省の調査では、昨年十月から今年三月までの失職予定の非正規労働者は十二万五千人に及ぶ見込みであり、十一月の調査から初めて十万人を超えました。
厳しい経営環境はあるにせよ、今まで企業を支えて来た労働者を簡単に切り捨てる事は、企業の社会的責任の放棄であります。
企業には、雇用維持・確保に全力で努めるよう要請致します。特にワークシェアリングの導入を前向きに検討して頂きたい。
一方、政府は、企業に対し、雇用維持のための十分な支援を行うとともに、離職者の円滑な再就職、職業訓練の実施など必要な支援を行うべきであります。
住居の確保など生活の安定に不可欠な支援措置も講じるべきであります。
先日、経団連と連合から「雇用安定・創出に向けた労使共同宣言」がなされました。まさに労使一体の叫びであります。百年に一度の不況というなら、百年に一度の雇用対策をとるべきであります。
私は、今こそ「清水の舞台から飛び降りる」覚悟が必要と考えます。総理も施政方針演説で「異例な対応が必要です」と述べられました。
また、「日雇い派遣を原則禁止にするなど労働者派遣制度を見直す」とも言われました。
更なる雇用対策をどのようにおとりになるおつもりか、お伺い致します。
(財政)
今、「清水の舞台から飛び降りる」覚悟でと申しました。当然、「財政はどうする」という議論になります。財政について伺います。
政府は、「経済財政の中長期方針と十年展望」を閣議決定致しました。その中で「財政健全化に向けて二千十一年度までにプライマリーバランスを黒字化させるというのは困難になった。しかし、目標はそのままにする」としました。これは分かりにくいです。
はっきりと、「二千十一年の目標達成は無理になったので新たに何年を目標にして黒字化を目指す」と言うべきです。
そもそも総理は、「当面は景気対策、中期的には財政再建」と言っておられますし、「日本経済、全治三年」とも言っておられます。そうであるならば「これからの三年間は、ひたすら病を治すことに集中する。その間は、貯めていたへそくりも使うし、借金は少し増えるかもしれない。しかし、三年後病気が治ったら、ばりばり働いて稼ぐ。財政健全化はその時の話」と、めりはりをつけてお話になった方が国民にも分かりやすいですし、一体感を感じるのではないでしょうか。総理、どのようにお考えになりますか。お尋ね致します。
「骨太の方針二〇〇六」では、歳出・歳入一体改革による財政健全化を標榜しながら税の自然増収と歳出削減を柱としただけで、税制、抜本改革については具体的に述べていません。
この度の中期プログラムで、初めて、「社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しを踏まえつつ、経済状況を好転させることを前提に、消費税を含む税制抜本改革を二千十一年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、二千十年代半ばまでに持続可能な財政構造を確立する」と明記されました。
ここまで言われましたので、抜本的税制改革の中で消費税をどうなさるおつもりか伺います。
総理、野に下ることは恥ずかしいことではありません。恥ずべきは政権にあらんとして、いたずらに迎合することです。総理、毅然としてお進み下さい。ご一緒に参ります。
(社会保障費二千二百億円削減)
関連して社会保障費の二千二百億円削減について、お尋ねを致します。昨年の質問で「もはや乾いたタオルを絞っても水は出ない」と申しました。しかし、政府は来年度予算でも乾いたタオルを絞ろうとしました。挙句、やっと、二百三十億円は滴り落ちましたが、あとは出ませんでした。
「出来ませんでした」と素直に言えばいいのですが、つじつま合わせのために、訳の分からないことを言っていますので質問を致します。
その話は日本の年金が厚生年金しかなかった頃に遡ります。そのときは給付の二割を国が持つという約束になっておりました。
ところが、年金会計は積立金などを持っていて余裕があるということで、国は支払いを延ばして、借金にしてきました。
この借金が溜まりに溜まって、平成元年時点で何千億円かになっていました。ここで、政府は奇妙なことをしたのです。
一兆五千億円持ってきて「借金を今返すのではない、これは今後の利息の分も入れてあるからそのまま置いておいて、国にまた貸して欲しい。当然利息は払う。」と言ったのです。
その利息で、健康保険組合などに毎年約二百億円ずつを補助してきました。
ここで、本年度の二千二百億円削減についても理解しづらいことがあったことを指摘します。
今年度の二千二百億円削減のうちの一千億円を、財政が厳しいという理由で、二百億円の補助をしてきたその健保組合から出させることにしてあったのです。
二百億円出して、一千億円取り上げるというのは理解できません。よしよしとなでた後で、ぶん殴るのは禁じ手です。
来年度のつじつま合わせの話に戻します。今お話ししました一兆五千億円をこの際、清算することにしています。
清算すれば、一千三百七十億円出てきて、それに二百三十億円を足して一千六百億円、道路特定財源からの六百億円で、ちょうど二千二百億円になると説明しています。
ここまで、申し上げたことを、ご理解頂けた方は少ないだろうと思います。
分からないということを分かって頂くために申しました。無理なつじつま合わせはしない方がいいと思います。
総理、もう一度申し上げます。乾いたタオルを絞ってももう水は出ません。いさぎよく社会保障費の二千二百億円のシーリングはなし、と言われませんか。お尋ねを致します。
(はじめに―自殺対策)
一年前に、私は二日続けてこの壇上に立たせていただきました。
最初の日は今日と同じ代表質問でありました。次の日は山本孝史先生の哀悼演説でありました。先生が「尾辻に頼んでほしい」といっておられたとお聞きを致しましたので、お引き受けしたのでありますが、大変お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳なく存じております。
先生の一年忌の質問でもありますので、型破りではありますけれども、山本先生が大変心配をしておられたにも関わらず、今日、状況が更に悪化している問題について、まず質問をさせて頂きます。
山本先生を中心にして、私たちは自殺対策基本法を制定致しました。今日本では、年間三万人の方が自殺でなくなっておられます。
総理が、施政方針演説で述べられた通りであります。三万人といいますと東京マラソンの全出場者の数であります。この十年間で三十万人。毎日九十人もの方が、自ら命を絶たざるを得ない状況に追い込まれています。
自殺する人の数が急に増えたのが、平成十年の三月だったということを、総理に是非知っておいて頂きたいのです。つまり北海道拓殖銀行や山一證券が破綻した年の年度末・決算期に、月の自殺者の数が一・五倍に急増し、年間では八千人以上も増えたのです。
今日の状況は、平成十年より、もっと深刻であります。このことを大変心配致しております。「自殺実態白書」によりますと、自殺は平均して四つの原因が重なって起きており、そのきっかけとして一番多いのは経済的な理由です。
まず、私たちは人の命を救わなければいけません。自殺者統計の緊急公表など、万全の対策をお願い致します。
総理、ぜひ一度、自殺の多い東尋坊や秋田などで活動しているボランティアの方々の生の声をお聞き下さい。「お聞き頂けますか」というのが、最初の質問であります。お聞きになれば総理もじっとしてはおられないと存じます。
(規制改革会議)
次に、最高の自殺対策であり、今日の緊急課題である雇用問題についてお尋ねを致します。私たち参議院は、「一緒に頑張りましょう」という思いを込めて、「雇用と住居など国民生活の安定を確保する緊急決議」を行いました。この機会に、全会一致となるべく努力をされた皆さんに敬意を表します。
今、早急に解決すべきは、職を失った派遣社員の支援でありますが、雇用については、後で、お尋ねすることとして、まず、こういう派遣制度が作られてきた経緯・背景を検証してみます。
政府は、規制改革を目指して、平成六年十二月に行政改革委員会を発足させております。
それ以来、会議は名称を変えつつ継続され、数度にわたって、派遣対象業務の原則自由化など、段階的に労働者派遣法を変えてきました。私はこの間の会議の在り方に強い疑念を持っております。
発足当時から、委員として、会議に参画し、数度の取り纏めの任にあたったのは、企業の一経営者であります。
経営者の視点で規制改革が進められ、その結果、派遣の大量打ち切りとなり、多くの人を失業に追い込んだのであります。
私たちの決議が、政府にだけでなく、企業にも注文をつけている所以であります。これほどの厳しい事態を招いたことについて、規制改革会議は、少なくとも結果の責任をとらなければなりません。
更に、規制改革会議には、言っておかねばならないことがあります。それは会議が自らの主張をするのは自由ですが、その主張が己の利権につながっているという疑惑を持たれてはいけないということです。「小泉改革を利権にした」と言われてはいけません。
規制改革会議でそのことを主張した人の関係会社が、真っ先に株式会社の病院を作ったと言われています。
規制改革会議に問いたい。医療を自らのビジネスチャンスにしていませんか。
理容・美容や保育にも手を伸ばそうとしていませんか。介護の世界を(株式会社の不当な)利益追求の場として貪り、自家用ジェット機を買った会長がいたことを、忘れていませんか。
バス・タクシーの事故が増えたことに対する反省はないのですか。
今、話題になっております「かんぽの宿」についても同じ疑惑が持たれています。
鳩山総務大臣は「李下に冠を正さず」と言っておられます。ここまで申しましたことに対して、総務大臣のご所見をお聞かせ下さい。
関連して厚生労働大臣にお尋ね致します。
規制改革会議が主導して市販の薬の市場を、なし崩しに開放してきました。これがインターネット販売に及ぼうとしています。簡単に買える利点がないわけではありませんが、十分な知識のない未成年が催眠鎮静剤を大量購入し、自殺を図るなど、多くの問題が生じております。
処方の重要性が考慮されず、副作用の強い薬が個数制限なしに販売された結果であります。今後どのように対応なさるおつもりかお尋ねを致します。
経済財政諮問会議については、昨年の質問でも国会決議など無視すればいいのだと言い放ったその傲慢さに触れました。経済財政諮問会議は、新自由主義、市場原理主義を唱えて参りました。
平たく言えば日本をアメリカのような国にすればいいのだと言ってきたのであります。それが間違いであったことは、今回の世界の不況が証明をしました。
その責任は重く、私は、経済財政諮問会議と規制改革会議を廃止すべきと考えますが、総理はどのような総括をしておられるのかお尋ねを致します。
また、このように審議会を隠れ蓑にするやり方を改めて政治と政府が前面に出て責任を明確にすべきと考えますが、総理のお考えをお聞かせ下さい。
(雇用問題)
次に、雇用問題について伺います。
国内失業者数は急増しております。本日発表された厚労省の調査では、昨年十月から今年三月までの失職予定の非正規労働者は十二万五千人に及ぶ見込みであり、十一月の調査から初めて十万人を超えました。
厳しい経営環境はあるにせよ、今まで企業を支えて来た労働者を簡単に切り捨てる事は、企業の社会的責任の放棄であります。
企業には、雇用維持・確保に全力で努めるよう要請致します。特にワークシェアリングの導入を前向きに検討して頂きたい。
一方、政府は、企業に対し、雇用維持のための十分な支援を行うとともに、離職者の円滑な再就職、職業訓練の実施など必要な支援を行うべきであります。
住居の確保など生活の安定に不可欠な支援措置も講じるべきであります。
先日、経団連と連合から「雇用安定・創出に向けた労使共同宣言」がなされました。まさに労使一体の叫びであります。百年に一度の不況というなら、百年に一度の雇用対策をとるべきであります。
私は、今こそ「清水の舞台から飛び降りる」覚悟が必要と考えます。総理も施政方針演説で「異例な対応が必要です」と述べられました。
また、「日雇い派遣を原則禁止にするなど労働者派遣制度を見直す」とも言われました。
更なる雇用対策をどのようにおとりになるおつもりか、お伺い致します。
(財政)
今、「清水の舞台から飛び降りる」覚悟でと申しました。当然、「財政はどうする」という議論になります。財政について伺います。
政府は、「経済財政の中長期方針と十年展望」を閣議決定致しました。その中で「財政健全化に向けて二千十一年度までにプライマリーバランスを黒字化させるというのは困難になった。しかし、目標はそのままにする」としました。これは分かりにくいです。
はっきりと、「二千十一年の目標達成は無理になったので新たに何年を目標にして黒字化を目指す」と言うべきです。
そもそも総理は、「当面は景気対策、中期的には財政再建」と言っておられますし、「日本経済、全治三年」とも言っておられます。そうであるならば「これからの三年間は、ひたすら病を治すことに集中する。その間は、貯めていたへそくりも使うし、借金は少し増えるかもしれない。しかし、三年後病気が治ったら、ばりばり働いて稼ぐ。財政健全化はその時の話」と、めりはりをつけてお話になった方が国民にも分かりやすいですし、一体感を感じるのではないでしょうか。総理、どのようにお考えになりますか。お尋ね致します。
「骨太の方針二〇〇六」では、歳出・歳入一体改革による財政健全化を標榜しながら税の自然増収と歳出削減を柱としただけで、税制、抜本改革については具体的に述べていません。
この度の中期プログラムで、初めて、「社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しを踏まえつつ、経済状況を好転させることを前提に、消費税を含む税制抜本改革を二千十一年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、二千十年代半ばまでに持続可能な財政構造を確立する」と明記されました。
ここまで言われましたので、抜本的税制改革の中で消費税をどうなさるおつもりか伺います。
総理、野に下ることは恥ずかしいことではありません。恥ずべきは政権にあらんとして、いたずらに迎合することです。総理、毅然としてお進み下さい。ご一緒に参ります。
(社会保障費二千二百億円削減)
関連して社会保障費の二千二百億円削減について、お尋ねを致します。昨年の質問で「もはや乾いたタオルを絞っても水は出ない」と申しました。しかし、政府は来年度予算でも乾いたタオルを絞ろうとしました。挙句、やっと、二百三十億円は滴り落ちましたが、あとは出ませんでした。
「出来ませんでした」と素直に言えばいいのですが、つじつま合わせのために、訳の分からないことを言っていますので質問を致します。
その話は日本の年金が厚生年金しかなかった頃に遡ります。そのときは給付の二割を国が持つという約束になっておりました。
ところが、年金会計は積立金などを持っていて余裕があるということで、国は支払いを延ばして、借金にしてきました。
この借金が溜まりに溜まって、平成元年時点で何千億円かになっていました。ここで、政府は奇妙なことをしたのです。
一兆五千億円持ってきて「借金を今返すのではない、これは今後の利息の分も入れてあるからそのまま置いておいて、国にまた貸して欲しい。当然利息は払う。」と言ったのです。
その利息で、健康保険組合などに毎年約二百億円ずつを補助してきました。
ここで、本年度の二千二百億円削減についても理解しづらいことがあったことを指摘します。
今年度の二千二百億円削減のうちの一千億円を、財政が厳しいという理由で、二百億円の補助をしてきたその健保組合から出させることにしてあったのです。
二百億円出して、一千億円取り上げるというのは理解できません。よしよしとなでた後で、ぶん殴るのは禁じ手です。
来年度のつじつま合わせの話に戻します。今お話ししました一兆五千億円をこの際、清算することにしています。
清算すれば、一千三百七十億円出てきて、それに二百三十億円を足して一千六百億円、道路特定財源からの六百億円で、ちょうど二千二百億円になると説明しています。
ここまで、申し上げたことを、ご理解頂けた方は少ないだろうと思います。
分からないということを分かって頂くために申しました。無理なつじつま合わせはしない方がいいと思います。
総理、もう一度申し上げます。乾いたタオルを絞ってももう水は出ません。いさぎよく社会保障費の二千二百億円のシーリングはなし、と言われませんか。お尋ねを致します。
尾辻秀久参議院議員の代表質問全文(その2)
(外交問題)
次に、外交問題について伺います。
昨年末から、イスラエルによるガザ空爆・侵攻などが行われ、双方合わせて千三百名以上の犠牲者が出ております。
パレスチナ問題は、宗教や民族の問題を根源に持つだけに、その解決は極めて難しい課題であります。
当事者双方は、各々停戦表明を行っておりますが、これ以上犠牲を拡大させないために、関係各国に、より一層働きかけを強めるよう要請いたします。
今後の国際情勢については、世界の多極化が進み、中国やインド、ロシアなどが力を増していく中、米国の影響力が低下するとの見方があります。
こうした中、アメリカでは、大統領選挙で「チェンジ」を掲げたオバマ氏が、第四十四代アメリカ大統領に就任を致しました。
今後の日米関係については、まだ不透明でありますが、はっきりしていますのは、ヒラリー新国務長官が、一昨年の外交論文の中で、「二十一世紀における最も重要な二国間関係」は米中関係と、明記していることであります。
加えて、オバマ新政権には、中国重視の姿勢を示したクリントン大統領時代のメンバーが多く登用されています。
こうしたことから新政権が、中国重視の姿勢に傾くと見る向きもあります。
拉致問題など様々な問題を抱える北朝鮮を隣国にする我が国として、オバマ政権が過度に対北朝鮮融和に傾かないよう、日本の立場を理解してもらう必要もあります。
総理にオバマ新政権の米国との関係構築に向けたご所見について伺います。
また、オバマ大統領は、イラクからアフガニスタンへと兵力を移行する考えであります。我が国に対しても、アフガニスタン本土への自衛隊派遣を含む人的支援を積極的に求めてくると考えますが、この点についてのご所見を伺います。
米国の優位性が低下していく中、軍事費が二十年連続で二桁増の伸びを示し、航空母艦の建造も検討している中国の軍事拡張の動きは、大きな脅威になりかねません。中国は、昨年の日中合意にも関わらず樫ガス田の単独開発を継続するなど、東シナ海における海洋権益を拡大する姿勢も変わっておりません。
中国をはじめ近隣諸国と友好な関係の維持・発展に努めることは重要でありますが、自由や民主主義といった価値観を共有するインドなどとの関係強化も同時に図っていかねばならないと考えます。外務大臣時代、「自由と繁栄の弧」という極めて戦略的な外交方針を示された麻生総理の外交手腕に期待しております。
総理に対アジア外交の基本方針を伺います。
(吉田訓示)
私はかつて防衛大学校に籍をおきました。大江健三郎氏に防大生は日本の若い世代の恥辱だと言われた頃であります。その時に初代校長、槇校長は武士の道として服従の誇りを説きました。「校長は軍人ではなく、民間人から選ぶ」という時の吉田茂首相の方針で任命された校長でした。
その吉田首相は、卒業式で「諸君は自衛隊在職中、決して国民から感謝されることも、歓迎されることもなく、自衛隊を去ることになるかも知れない。あるいは非難と誹謗ばかりの一生かもしれない。御苦労なことだと思う。
しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されての国家存亡の時や、災害派遣の時など、国民が困窮し国家が混乱に直面する時だけである。
言葉をかえれば、君達が日陰者である時の方が、国民や日本が幸せなのだ。耐えてもらいたい。
自衛隊の将来は君達の双肩にかかっている。しっかり頼むよ」と訓示をされました。
田母神論文が物議を醸し、シビリアン・コントロールの在り方について、改めて議論がなされる今日、吉田首相のお孫さんである総理が、今、防大生に訓示をなされるとすれば、どのような訓示をされるか、是非お聞きをしてみたいと存じます。
(ソマリア海賊対策)
次に、ソマリア海賊対策について伺います。
昨年のソマリア沖における海賊事件は、百十一件起きており、前年比約二・五倍と急増しています。
現在、二十近くの国・機関が、軍艦等を派遣して哨戒活動・護衛を実施しておりますが、国際社会に責任を有する我が国として、また自国の船を守るためにも、手を拱いているわけには参りません。
海上警備行動は本来、海上保安庁が対処できない危機の際に、海上自衛隊に出動を命じる措置であります。
海上警備行動が発令された場合、自衛官の武器の使用は、警察官職務執行法の範囲内で行うとされています。
人に危害を与えることが許される武器使用については、「正当防衛」が求められるのですが、それで対応できるか心配をします。
海賊は自動小銃、機関銃、ロケット砲で重武装し、複数の高速艇で襲いかかっております。
そこに「行け」というのであれば、国際基準に則った適切な武器使用を認めるべきではないでしょうか。そうでなければ、「国際社会の一員として、他国と連携して頑張ってこい」とは言えませんし、派遣される隊員の安全も確保されません。総理の御所見を伺います。
併せて、集団的自衛権の行使について、これを禁じている内閣法制局の憲法解釈をこの際見直すお考えはないか、お尋ね致します。
(年金担当大臣)
来年度社会保障関係費は約二十四兆八千三百億円で、一般歳出の約半分を占めます。
これだけ巨額の予算を差配する大臣は厚生労働大臣一人です。
ここ数年、国民に多大な不安を与えている年金問題に加え、昨年からは経済不況もあり深刻な雇用問題が発生し、難問山積の中、社会保障全般に関する諸問題に対応するのには、無理が生じています。
国民の皆さんの生活不安を払拭するためにも、年金担当大臣を別に置かれたら如何でしょうか。総理のお考えを伺います。
この際、社会保障番号に対する総理のお考えもお聞かせ下さい。番号があれば、年金問題の幾つかは、発生しなかったと思いますので、お尋ねを致します。
(国民負担率)
中期プログラムで、「中福祉・中負担」の社会を目指すとされました。
この中福祉・中負担の具体的な姿をどう描いておられるのですか。
総理は「国民に必要な負担を求めます」と断言されました。現在の我が国は中福祉なのか。中負担の国民負担率を、総理は、何パーセントとお考えなのかお答え下さい。
(やねだん)
総理は「やねだん」と申し上げて、すぐお分かりになりますか。
おととし、「あしたのまち・くらしづくり活動、内閣総理大臣賞」を受賞していますので、ご存知かもしれませんが、あらためて紹介したいと思います。
「やねだん」とは私の故郷、鹿児島県柳谷にある小さな集落の通称ですが、十年ほど前までは、人口三百人、その四割が六十五歳以上という高齢化、過疎化した集落でした。
しかし新しい自治公民館長が就任したのを契機に、集落総出のサツマイモの栽培、土着菌を使った土作り、オリジナル焼酎造りなど、地元の特産品の開発を成功させました。
その結果、平成十八年には、全世帯に一万円のボーナスを支給できました。
また、空き家を整備してアーティストを募集し、定住してもらうなど様々な取り組みを成功させてきました。
地域再生を文化活動にまで高めた結果、Uターンする人も出てきました。また赤ちゃんも生まれました。まさに故郷を再生させたのであります。
ここまで住民を動かした原動力は、中心になった方の強烈な自立意識であります。数々の感動的な言葉を述べておられます。
「財源を外に頼っていたのでは、特に補助金を頼っていたのでは感動もありません。集落民の企画能力を発揮する場がなくなる」
「過疎地だから、高齢者の集落だから、とあきらめるなんて野暮だよね。生きている以上、魂を使わなきゃ。」
暗い話ばかりが聞かれる昨今、勇気をもらう気持ちが致します。総理、一度、「やねだん」に来られませんか。これはお誘いであります。
総理は、我が国の新たな成長戦略の一つに「魅力ある地域」の策定を挙げられました。地域活性化に向けてのご所見を伺います。
(大久保利通)
昨年の質問で、私はNHKの大河ドラマ「篤姫」について触れました。
篤姫の中でも登場します大久保利通は、参議に就任を致します時に、「此の難を逃げ候こと、本懐にあらず」としたためました。
国家の為に命を投げ出すことを覚悟したのであります。
そして、明治十一年、殺害の予告を受けていながらいつもの道を護衛もつけずに従者だけを連れて通り、紀尾井町で果てました。西郷からの手紙を懐にした覚悟の最後であったと言われています。
明治の志士達の、国の為には、金も名誉も要らない、命も要らない、というひたむきな情熱に感動を覚えます。
この大久保の血を引いておられる総理の日本国に懸ける思いをお聞きして、私の質問を終わります。
次に、外交問題について伺います。
昨年末から、イスラエルによるガザ空爆・侵攻などが行われ、双方合わせて千三百名以上の犠牲者が出ております。
パレスチナ問題は、宗教や民族の問題を根源に持つだけに、その解決は極めて難しい課題であります。
当事者双方は、各々停戦表明を行っておりますが、これ以上犠牲を拡大させないために、関係各国に、より一層働きかけを強めるよう要請いたします。
今後の国際情勢については、世界の多極化が進み、中国やインド、ロシアなどが力を増していく中、米国の影響力が低下するとの見方があります。
こうした中、アメリカでは、大統領選挙で「チェンジ」を掲げたオバマ氏が、第四十四代アメリカ大統領に就任を致しました。
今後の日米関係については、まだ不透明でありますが、はっきりしていますのは、ヒラリー新国務長官が、一昨年の外交論文の中で、「二十一世紀における最も重要な二国間関係」は米中関係と、明記していることであります。
加えて、オバマ新政権には、中国重視の姿勢を示したクリントン大統領時代のメンバーが多く登用されています。
こうしたことから新政権が、中国重視の姿勢に傾くと見る向きもあります。
拉致問題など様々な問題を抱える北朝鮮を隣国にする我が国として、オバマ政権が過度に対北朝鮮融和に傾かないよう、日本の立場を理解してもらう必要もあります。
総理にオバマ新政権の米国との関係構築に向けたご所見について伺います。
また、オバマ大統領は、イラクからアフガニスタンへと兵力を移行する考えであります。我が国に対しても、アフガニスタン本土への自衛隊派遣を含む人的支援を積極的に求めてくると考えますが、この点についてのご所見を伺います。
米国の優位性が低下していく中、軍事費が二十年連続で二桁増の伸びを示し、航空母艦の建造も検討している中国の軍事拡張の動きは、大きな脅威になりかねません。中国は、昨年の日中合意にも関わらず樫ガス田の単独開発を継続するなど、東シナ海における海洋権益を拡大する姿勢も変わっておりません。
中国をはじめ近隣諸国と友好な関係の維持・発展に努めることは重要でありますが、自由や民主主義といった価値観を共有するインドなどとの関係強化も同時に図っていかねばならないと考えます。外務大臣時代、「自由と繁栄の弧」という極めて戦略的な外交方針を示された麻生総理の外交手腕に期待しております。
総理に対アジア外交の基本方針を伺います。
(吉田訓示)
私はかつて防衛大学校に籍をおきました。大江健三郎氏に防大生は日本の若い世代の恥辱だと言われた頃であります。その時に初代校長、槇校長は武士の道として服従の誇りを説きました。「校長は軍人ではなく、民間人から選ぶ」という時の吉田茂首相の方針で任命された校長でした。
その吉田首相は、卒業式で「諸君は自衛隊在職中、決して国民から感謝されることも、歓迎されることもなく、自衛隊を去ることになるかも知れない。あるいは非難と誹謗ばかりの一生かもしれない。御苦労なことだと思う。
しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されての国家存亡の時や、災害派遣の時など、国民が困窮し国家が混乱に直面する時だけである。
言葉をかえれば、君達が日陰者である時の方が、国民や日本が幸せなのだ。耐えてもらいたい。
自衛隊の将来は君達の双肩にかかっている。しっかり頼むよ」と訓示をされました。
田母神論文が物議を醸し、シビリアン・コントロールの在り方について、改めて議論がなされる今日、吉田首相のお孫さんである総理が、今、防大生に訓示をなされるとすれば、どのような訓示をされるか、是非お聞きをしてみたいと存じます。
(ソマリア海賊対策)
次に、ソマリア海賊対策について伺います。
昨年のソマリア沖における海賊事件は、百十一件起きており、前年比約二・五倍と急増しています。
現在、二十近くの国・機関が、軍艦等を派遣して哨戒活動・護衛を実施しておりますが、国際社会に責任を有する我が国として、また自国の船を守るためにも、手を拱いているわけには参りません。
海上警備行動は本来、海上保安庁が対処できない危機の際に、海上自衛隊に出動を命じる措置であります。
海上警備行動が発令された場合、自衛官の武器の使用は、警察官職務執行法の範囲内で行うとされています。
人に危害を与えることが許される武器使用については、「正当防衛」が求められるのですが、それで対応できるか心配をします。
海賊は自動小銃、機関銃、ロケット砲で重武装し、複数の高速艇で襲いかかっております。
そこに「行け」というのであれば、国際基準に則った適切な武器使用を認めるべきではないでしょうか。そうでなければ、「国際社会の一員として、他国と連携して頑張ってこい」とは言えませんし、派遣される隊員の安全も確保されません。総理の御所見を伺います。
併せて、集団的自衛権の行使について、これを禁じている内閣法制局の憲法解釈をこの際見直すお考えはないか、お尋ね致します。
(年金担当大臣)
来年度社会保障関係費は約二十四兆八千三百億円で、一般歳出の約半分を占めます。
これだけ巨額の予算を差配する大臣は厚生労働大臣一人です。
ここ数年、国民に多大な不安を与えている年金問題に加え、昨年からは経済不況もあり深刻な雇用問題が発生し、難問山積の中、社会保障全般に関する諸問題に対応するのには、無理が生じています。
国民の皆さんの生活不安を払拭するためにも、年金担当大臣を別に置かれたら如何でしょうか。総理のお考えを伺います。
この際、社会保障番号に対する総理のお考えもお聞かせ下さい。番号があれば、年金問題の幾つかは、発生しなかったと思いますので、お尋ねを致します。
(国民負担率)
中期プログラムで、「中福祉・中負担」の社会を目指すとされました。
この中福祉・中負担の具体的な姿をどう描いておられるのですか。
総理は「国民に必要な負担を求めます」と断言されました。現在の我が国は中福祉なのか。中負担の国民負担率を、総理は、何パーセントとお考えなのかお答え下さい。
(やねだん)
総理は「やねだん」と申し上げて、すぐお分かりになりますか。
おととし、「あしたのまち・くらしづくり活動、内閣総理大臣賞」を受賞していますので、ご存知かもしれませんが、あらためて紹介したいと思います。
「やねだん」とは私の故郷、鹿児島県柳谷にある小さな集落の通称ですが、十年ほど前までは、人口三百人、その四割が六十五歳以上という高齢化、過疎化した集落でした。
しかし新しい自治公民館長が就任したのを契機に、集落総出のサツマイモの栽培、土着菌を使った土作り、オリジナル焼酎造りなど、地元の特産品の開発を成功させました。
その結果、平成十八年には、全世帯に一万円のボーナスを支給できました。
また、空き家を整備してアーティストを募集し、定住してもらうなど様々な取り組みを成功させてきました。
地域再生を文化活動にまで高めた結果、Uターンする人も出てきました。また赤ちゃんも生まれました。まさに故郷を再生させたのであります。
ここまで住民を動かした原動力は、中心になった方の強烈な自立意識であります。数々の感動的な言葉を述べておられます。
「財源を外に頼っていたのでは、特に補助金を頼っていたのでは感動もありません。集落民の企画能力を発揮する場がなくなる」
「過疎地だから、高齢者の集落だから、とあきらめるなんて野暮だよね。生きている以上、魂を使わなきゃ。」
暗い話ばかりが聞かれる昨今、勇気をもらう気持ちが致します。総理、一度、「やねだん」に来られませんか。これはお誘いであります。
総理は、我が国の新たな成長戦略の一つに「魅力ある地域」の策定を挙げられました。地域活性化に向けてのご所見を伺います。
(大久保利通)
昨年の質問で、私はNHKの大河ドラマ「篤姫」について触れました。
篤姫の中でも登場します大久保利通は、参議に就任を致します時に、「此の難を逃げ候こと、本懐にあらず」としたためました。
国家の為に命を投げ出すことを覚悟したのであります。
そして、明治十一年、殺害の予告を受けていながらいつもの道を護衛もつけずに従者だけを連れて通り、紀尾井町で果てました。西郷からの手紙を懐にした覚悟の最後であったと言われています。
明治の志士達の、国の為には、金も名誉も要らない、命も要らない、というひたむきな情熱に感動を覚えます。
この大久保の血を引いておられる総理の日本国に懸ける思いをお聞きして、私の質問を終わります。
加藤良三氏(日本プロ野球コミッショナー、前駐米大使)の講演、その9
昨年11月29日、第43回日本論語研究会での日本プロ野球コミッショナー・加藤良三先生の素晴らしい講演「日米関係―アメリカについて感じたこと―その9」をお届けします。
9.歴代大統領にみる二軸
1861年、リンカーンの大統領、ちょうど日本の明治維新の前夜です。その直前にペリー来航、咸臨丸なんかがあって、その時に迎えたのがブキャナン民主党大統領。ブキャナン大統領は、日本からの使節を大歓迎します。ホイットマンが歓迎する詩も作る。
ブキャナン大統領、なぜあれだけ日本の使節を歓迎したか。アメリカの歴史の本には、それはブキャナンの人気があんまり悪かったんで、人気挽回策の一つとして、取るものも取りあえず、極東からの使節を歓迎することでアメリカ国民の目をそらそうとしたとあります。奴隷解放問題については何の決断も出来ず、共和党にこれまでの42代の大統領のアンケートを取ると、大抵最下位にくる大統領。
その人に日本は暖かく迎えられて、日米関係はとてもいいスタートを切りました。歴史っていうのは、得てしてそういうものだと思います。
リンカーンは、史上稀な強権を発動し、南北戦争に勝ち、連邦の統一を守り、奴隷を解放した稀有の大統領である。
アメリカ42代、今43代、その大統領の中で、アメリカの歴史家の多くが、大大統領、真の大大統領として挙げるのは、初代ジョージ・ワシントン、3代トーマス・ジェファーソン、16代リンカーン、それから31代フランクリン・ルーズベルト、それに足すべき名前があるとすれば、レーガンと言う人はかなりいます。
ちなみに今、私が挙げた名前の中にケネディは入っておりません。ケネディはキューバ危機の頃の英雄であったということ。初のカトリックの大統領、アメリカの中でホワイトハウスの編成一つにしても、新しいスタイルを切り開いた。そのオーラが今日まで続いていること、これは事実。
しかし、ケネディの業績ということになると、そもそもキューバ危機だって、ケネディが最初にフルシチョフになめられたから起きたんだという議論もあった。ベトナム戦争の処理も不十分極だったという人もあれば、シビル・ライツ(civil-rights)――公民権法案などでも、後任のリンドン・ジョンソンのほうがずっとちゃんとやったということを言う人もいる。
その辺、私にはよく分からないところがありますが、ただ一つケネディについて言えるのは、野球の例えでいえば、規定打数不足、規定投球回数不足なんです(会場笑)。上院議院も大統領も2年弱しかやってない。そういうことで、大大統領の列には入らないと、こういうことになるわけです。
いずれにしても、農業立国の時のアメリカと工業立国の時のアメリカでは、イシューが違うわけですね。
リンカーンの共和党は1861年から大ざっぱにいえば、フランクリン・ルーズベルトの1932年ですか、まで続くわけであります。間にウイルソンの時代がありますが、このウイルソンという人も、決して大大統領としての評価をされている人ではありません。
われわれが学校で習う国際連盟の創始者というようなイメージとは違って露骨なまでの人種差別主義者であった、間違って大統領になったという人さえいるくらいで、ウィルソンの8年間の民主党時代ってのは、取りあえずわきへ置くと、リンカーンの1861年からフランクリン・ルーズベルトの32年までが、共和党の時代であります。
ところが共和党の中でも、だんだん連邦政府との間で、緊張関係が高まります。大企業がモンスター化し、又、民主党は新たに、都市労働者層に支持基盤を求めます。共和党は大企業と中小企業いづれの側に付くべきなのかといった問題が生まれてくるわけであります。
そして大恐慌の時代がくるわけです。恐慌を共和党はさばき切れなかった。それに第二次大戦の重さが重なるわけです。そういうことで共和党が瓦解して、フランクリン・ルーズベルトの時代になります。
もっともそうなる前に、先ほどの日露戦争の終結に当たって貢献大であり、ノーベル平和賞を授与されたセオドア・ルーズベルト、日本でも人気の高い大統領だと思いますし、アメリカでも人気の高い大統領ですが、彼はまさにそういう共和党の行き方に危機感を持ち、こんなに大企業寄りでいいのかと、共和党はアメリカの将来を見据えた党に変革しなければいけないのではないかということを考え続けた大統領でした。
彼はタフトなら自分の自分の意志を受け継いでくれるだろうと思って後事を託したところ、タフトは期待を裏切って、大企業側に付いてしまった。こういうことがあって、共和党は自らに降りかかってきた時代の要請を処理しきれないまま、フランクリン・ルーズベルトに政権の座を譲るわけであります。
フランクリン・ルーズベルトの政権というのは、大連立政権です。あらゆるものが全部入っている。もちろんニューディールで知られていますから、大恐慌への対応としてそういう政策を投入した。
大きな政府の典型である。労働者、軍人(GI)にはもとよりよかった。しかし同時にあの人、大企業の人にも決して悪くなかったんです。あらゆる人にそれなりに良かった。大恐慌を克服し、第二次大戦に勝つ。
ちなみに、当時の非常に大事なポストである海軍長官、陸軍長官のポストに、フランクリン・ルーズベルトは共和党を登用しているんです。そうやってできたフランクリン・ルーズベルト、途中で亡くなってトルーマンに繋がりますが、大連合政権、大連立政権であるがゆえに、アメリカが第二次大戦に勝って世界一の超大国になると、アメリカの中で分裂が起きてまいります。
大体、使用者と労働者両方にいいという状態はいつまでも続けられるものではありません。人種の解放みたいなのが進む一方で、南部のプアーホワイトを含む白人層との間の軋轢が表面化するのは明らかだし、それからアメリカの中に昔からある二つのタイプ――
一つは非常にきちっとした、あのー、学生でもスーツがきちっと似合って、ブレザーがきちっと似合って、ネクタイもきちっと締めて、髪もきちっとしてる、そういう折目正しいタイプのアメリカ人。
本当は心はあったかいところはあるんだけれども、挙措動作がしまらなくて、行儀の悪いヒッピーみたいなアメリカ人のそりが合わないのは明らかです。農民や都市労働者も、ヒッピー、ビートニック、パシフィストといった人間のことは概して嫌いなのです。こうした対立が逐次明らかになって来る。
その処理に苦労した政権が、続きます。ニクソンが勝った時には、南部戦略と称して、南部で不満を鬱積させている白人層に着目する政策を採用しましたですね。再び時間を飛ばして、レーガンの時代にこうした問題にある種の整理がついて、レーガン流の保守主義が確立されたと申し上げておきます。
彼は、保守主義の基本の一つは、有名な言葉ですけれども、「政府は問題を解決しない。否、政府そのものが問題である」と言いました。前に述べたとおり、同じ共和党初代大統領のリンカーンとは随分違うでしょう?その後、ブッシュ41代になり、クリントンになり、ジョージ・ブッシュ43代になり、今度バラック・オバマが44代大統領になると、こういうことだろうと思います。
その時代のメジャーイシューに二つの党、なぜかあらゆる問題を二人で分けて担当しなければならないその二つの党が、どういう立場を取るかということで、政権、議会、これらの勢力が決まっていく。アメリカの歴史学者が一寸前に書いていたことですが、レストランに入って、メニューAとBがあったとします。
それで、奥さんが、私Aでいいわ、だけどこのメインディッシュのとこだけBの肉にしてちょうだい、ようございます。旦那さんは、おれメニューBでいいけども、最初のスープのところAのサラダにしてくれないかなあと。デザート、ちょっと取っ替えてくれないかな。はい、ようございますと。
こういうことが続いている間に、ある日行ったら、AとBのメニューが逆になっていたということが起こるのがアメリカであります。従って、極右とか、極左とかいうのは別にしまして、大多数のアメリカを見るとき、共和党と民主党ってのは、そんなに明確な仕切り線がひかれていると思わないほうがいいと思います。
共和党政権内にいる人間とどれぐらい人脈があるか、共和党の現役議会メンバーとどれぐらい人脈があるか、民主党の現役議会メンバーとどれぐらい繋がりがあるか、これは意味を成す質問しょうけれども、共和党にしか人脈がないのじゃないか、民主党との間に人脈がないんじゃないかということになると、これは、私に言わせればお笑いであります。両方ともありますよ。
アーミテージっていう有名な人がおりますけれども、アーミテージは真ん中の人ですね。あの人は民主党の人とも、とっても仲良く付き合っています。共和党のタカ派のように思われてますけど、全然違う。
ネオコンという言葉を聞かれたことがあると思いますが、ネオコンってのは、私、最後まで本当の定義が分かりませんでした。ただ乱暴に言えば、ネオコンというのは、国内政策はばらまき、国際政策タカ派、これがネオコンですね。ネオコンの根っこは民主党であります。
チェイニーを「ネオコン」という、とんでもない間違いをどこかで見たことが有りますけれども、チェイニーはネオがつかないコン、パレオコン(paleo con)ですね。彼は根っからの保守である。財政面でも、社会問題の面でも、安全保障面でも、タカ派だと思いますが、分類するときは注意深く見る必要があると思っています。
アメリカはそういう意味で2軸型の国家であると、1軸収斂はしないと、そういう国だと思いました。
9.歴代大統領にみる二軸
1861年、リンカーンの大統領、ちょうど日本の明治維新の前夜です。その直前にペリー来航、咸臨丸なんかがあって、その時に迎えたのがブキャナン民主党大統領。ブキャナン大統領は、日本からの使節を大歓迎します。ホイットマンが歓迎する詩も作る。
ブキャナン大統領、なぜあれだけ日本の使節を歓迎したか。アメリカの歴史の本には、それはブキャナンの人気があんまり悪かったんで、人気挽回策の一つとして、取るものも取りあえず、極東からの使節を歓迎することでアメリカ国民の目をそらそうとしたとあります。奴隷解放問題については何の決断も出来ず、共和党にこれまでの42代の大統領のアンケートを取ると、大抵最下位にくる大統領。
その人に日本は暖かく迎えられて、日米関係はとてもいいスタートを切りました。歴史っていうのは、得てしてそういうものだと思います。
リンカーンは、史上稀な強権を発動し、南北戦争に勝ち、連邦の統一を守り、奴隷を解放した稀有の大統領である。
アメリカ42代、今43代、その大統領の中で、アメリカの歴史家の多くが、大大統領、真の大大統領として挙げるのは、初代ジョージ・ワシントン、3代トーマス・ジェファーソン、16代リンカーン、それから31代フランクリン・ルーズベルト、それに足すべき名前があるとすれば、レーガンと言う人はかなりいます。
ちなみに今、私が挙げた名前の中にケネディは入っておりません。ケネディはキューバ危機の頃の英雄であったということ。初のカトリックの大統領、アメリカの中でホワイトハウスの編成一つにしても、新しいスタイルを切り開いた。そのオーラが今日まで続いていること、これは事実。
しかし、ケネディの業績ということになると、そもそもキューバ危機だって、ケネディが最初にフルシチョフになめられたから起きたんだという議論もあった。ベトナム戦争の処理も不十分極だったという人もあれば、シビル・ライツ(civil-rights)――公民権法案などでも、後任のリンドン・ジョンソンのほうがずっとちゃんとやったということを言う人もいる。
その辺、私にはよく分からないところがありますが、ただ一つケネディについて言えるのは、野球の例えでいえば、規定打数不足、規定投球回数不足なんです(会場笑)。上院議院も大統領も2年弱しかやってない。そういうことで、大大統領の列には入らないと、こういうことになるわけです。
いずれにしても、農業立国の時のアメリカと工業立国の時のアメリカでは、イシューが違うわけですね。
リンカーンの共和党は1861年から大ざっぱにいえば、フランクリン・ルーズベルトの1932年ですか、まで続くわけであります。間にウイルソンの時代がありますが、このウイルソンという人も、決して大大統領としての評価をされている人ではありません。
われわれが学校で習う国際連盟の創始者というようなイメージとは違って露骨なまでの人種差別主義者であった、間違って大統領になったという人さえいるくらいで、ウィルソンの8年間の民主党時代ってのは、取りあえずわきへ置くと、リンカーンの1861年からフランクリン・ルーズベルトの32年までが、共和党の時代であります。
ところが共和党の中でも、だんだん連邦政府との間で、緊張関係が高まります。大企業がモンスター化し、又、民主党は新たに、都市労働者層に支持基盤を求めます。共和党は大企業と中小企業いづれの側に付くべきなのかといった問題が生まれてくるわけであります。
そして大恐慌の時代がくるわけです。恐慌を共和党はさばき切れなかった。それに第二次大戦の重さが重なるわけです。そういうことで共和党が瓦解して、フランクリン・ルーズベルトの時代になります。
もっともそうなる前に、先ほどの日露戦争の終結に当たって貢献大であり、ノーベル平和賞を授与されたセオドア・ルーズベルト、日本でも人気の高い大統領だと思いますし、アメリカでも人気の高い大統領ですが、彼はまさにそういう共和党の行き方に危機感を持ち、こんなに大企業寄りでいいのかと、共和党はアメリカの将来を見据えた党に変革しなければいけないのではないかということを考え続けた大統領でした。
彼はタフトなら自分の自分の意志を受け継いでくれるだろうと思って後事を託したところ、タフトは期待を裏切って、大企業側に付いてしまった。こういうことがあって、共和党は自らに降りかかってきた時代の要請を処理しきれないまま、フランクリン・ルーズベルトに政権の座を譲るわけであります。
フランクリン・ルーズベルトの政権というのは、大連立政権です。あらゆるものが全部入っている。もちろんニューディールで知られていますから、大恐慌への対応としてそういう政策を投入した。
大きな政府の典型である。労働者、軍人(GI)にはもとよりよかった。しかし同時にあの人、大企業の人にも決して悪くなかったんです。あらゆる人にそれなりに良かった。大恐慌を克服し、第二次大戦に勝つ。
ちなみに、当時の非常に大事なポストである海軍長官、陸軍長官のポストに、フランクリン・ルーズベルトは共和党を登用しているんです。そうやってできたフランクリン・ルーズベルト、途中で亡くなってトルーマンに繋がりますが、大連合政権、大連立政権であるがゆえに、アメリカが第二次大戦に勝って世界一の超大国になると、アメリカの中で分裂が起きてまいります。
大体、使用者と労働者両方にいいという状態はいつまでも続けられるものではありません。人種の解放みたいなのが進む一方で、南部のプアーホワイトを含む白人層との間の軋轢が表面化するのは明らかだし、それからアメリカの中に昔からある二つのタイプ――
一つは非常にきちっとした、あのー、学生でもスーツがきちっと似合って、ブレザーがきちっと似合って、ネクタイもきちっと締めて、髪もきちっとしてる、そういう折目正しいタイプのアメリカ人。
本当は心はあったかいところはあるんだけれども、挙措動作がしまらなくて、行儀の悪いヒッピーみたいなアメリカ人のそりが合わないのは明らかです。農民や都市労働者も、ヒッピー、ビートニック、パシフィストといった人間のことは概して嫌いなのです。こうした対立が逐次明らかになって来る。
その処理に苦労した政権が、続きます。ニクソンが勝った時には、南部戦略と称して、南部で不満を鬱積させている白人層に着目する政策を採用しましたですね。再び時間を飛ばして、レーガンの時代にこうした問題にある種の整理がついて、レーガン流の保守主義が確立されたと申し上げておきます。
彼は、保守主義の基本の一つは、有名な言葉ですけれども、「政府は問題を解決しない。否、政府そのものが問題である」と言いました。前に述べたとおり、同じ共和党初代大統領のリンカーンとは随分違うでしょう?その後、ブッシュ41代になり、クリントンになり、ジョージ・ブッシュ43代になり、今度バラック・オバマが44代大統領になると、こういうことだろうと思います。
その時代のメジャーイシューに二つの党、なぜかあらゆる問題を二人で分けて担当しなければならないその二つの党が、どういう立場を取るかということで、政権、議会、これらの勢力が決まっていく。アメリカの歴史学者が一寸前に書いていたことですが、レストランに入って、メニューAとBがあったとします。
それで、奥さんが、私Aでいいわ、だけどこのメインディッシュのとこだけBの肉にしてちょうだい、ようございます。旦那さんは、おれメニューBでいいけども、最初のスープのところAのサラダにしてくれないかなあと。デザート、ちょっと取っ替えてくれないかな。はい、ようございますと。
こういうことが続いている間に、ある日行ったら、AとBのメニューが逆になっていたということが起こるのがアメリカであります。従って、極右とか、極左とかいうのは別にしまして、大多数のアメリカを見るとき、共和党と民主党ってのは、そんなに明確な仕切り線がひかれていると思わないほうがいいと思います。
共和党政権内にいる人間とどれぐらい人脈があるか、共和党の現役議会メンバーとどれぐらい人脈があるか、民主党の現役議会メンバーとどれぐらい繋がりがあるか、これは意味を成す質問しょうけれども、共和党にしか人脈がないのじゃないか、民主党との間に人脈がないんじゃないかということになると、これは、私に言わせればお笑いであります。両方ともありますよ。
アーミテージっていう有名な人がおりますけれども、アーミテージは真ん中の人ですね。あの人は民主党の人とも、とっても仲良く付き合っています。共和党のタカ派のように思われてますけど、全然違う。
ネオコンという言葉を聞かれたことがあると思いますが、ネオコンってのは、私、最後まで本当の定義が分かりませんでした。ただ乱暴に言えば、ネオコンというのは、国内政策はばらまき、国際政策タカ派、これがネオコンですね。ネオコンの根っこは民主党であります。
チェイニーを「ネオコン」という、とんでもない間違いをどこかで見たことが有りますけれども、チェイニーはネオがつかないコン、パレオコン(paleo con)ですね。彼は根っからの保守である。財政面でも、社会問題の面でも、安全保障面でも、タカ派だと思いますが、分類するときは注意深く見る必要があると思っています。
アメリカはそういう意味で2軸型の国家であると、1軸収斂はしないと、そういう国だと思いました。
2009年01月29日
加藤良三氏(日本プロ野球コミッショナー、前駐米大使)の講演、その8
昨年11月29日、第43回日本論語研究会での日本プロ野球コミッショナー・加藤良三先生の素晴らしい講演「日米関係―アメリカについて感じたこと―その8」をお届けします。
8.アメリカをなす二つの軸
第二の特色は、アメリカがバイナリー(binary)つまり、複合型、二軸型―― 地震でいえばエピセンターが二つある国だということ。
巨大で複雑な国ですが、物事が二つに収斂(しゅうれん)して、二つで整理されるんです。たとえば政党の場合、共和党と民主党です。
南と北、ペプシコーラにコカコーラ、アメリカンリーグ、ナショナルリーグ。あれだけの多様性、複雑性を持ったアメリカで、あの規模のアメリカなら、イタリア以上の政党の乱立、200ぐらい政党が出来ても不思議はないと思うんですが、なぜか二つです。
アメリカが一軸だったのはジョージ・ワシントンの8年ぐらいで、あとはずっと二軸型国家ですね。日本は違うと思います。ヨーロッパの主要国も、多くの国がそうじゃなくて、やっぱりこう、ピラミット型の秩序っていうのがきちんとできていることによって、安定感、安心感を持つという感じだと思いますが、アメリカは逆に、軸が二つないと心配な国だという印象があるんです。
それで、日本ではですね、共和党と民主党について、「在米大使館は、共和党の人脈はあるかもしれないけど、民主党との人脈はあるかね」と、こういう質問を受けるんですけれども、それはありますよ。しかし、「そもそも共和党と民主党を、皆さんどう区別してるんですか」と聞きたくなる時があるんです。
リンカーンの時代をちょっと思い出していただきたいんですけれどもね、この後、なるべく分かりよく説明はするつもりでおりますが・・・あるアメリカの歴史家が言ったことをまとめると、こういうことなんですね。
その昔、リンカーンのころを思い浮かべてください。その昔アメリカに、強い中央政府、大きな中央政府、高い税金、意欲的で果断な公共事業、これをやるべきだということを言った政党がいた。この政党はアメリカのニューイングランドの大学のキャンパスで人気があり、アフリカ系アメリカ人の圧倒的支持を受けていた。その党の名は、共和党である。この共和党は、もう一つの政党に対抗するものとしてスタートした政党であった。
その相手の党とは、税金は低くあるべし、制限された小さい政府であるべし、ということで、東のエリートに対しては大変懐疑的で、中央政府は個人の私有財産なんかのことに首突っ込むなというふうに言い続けた党であった。その党の名は、民主党である。一見今と逆ですよね。イリノイから出たバラック・オバマはイリノイで政治家のスタートを切ったリンカーンを強く意識していると思います。
そして、共和党初代16代大統領リンカーンと、民主党44代アメリカ大統領バラック・オバマの政策には似通ったところがあって、その間、共和党と民主党の中身は転換している。ロバがゾウになり、ゾウがロバになっているということがあるわけであります。
レーガン大統領という――共和党の名大統領と評価される人ですが、レーガンの共和党というのは、リンカーンの共和党と逆ですよね。今日か、昨日の、ワシントンポストに出ている記事の中に、オバマの外交政策ドクトリンは恐らくブッシュ41代と似たものになるだろうとあります。
アドバイザーも共通している。ブレント・スコウクロフトとかロバート・ゲイツ。一番話を聞く人がそういう人たちである。ブッシュ41代共和党政権に仕えた人たちである。そういうことなんですよね。共和党は保守、民主党はリベラル、これもそれほど簡単ではない。そもそも保守って何ですか。保守というときに、アメリカには三つぐらい保守があるんですよ。軍事安全保障面での保守、社会問題での保守、経済財政政策での保守、これみんな保守、一つにからげて、皆共和党というわけには、とってもいきません。
要するに、アメリカは、森羅万象あまたある問題を、とにか二つの政党で表現してしまおうとするところがあるんですね。
あらゆる問題を二党で背負い込むわけです。そして、時代とともに何が一番大事なイシューかというのは変わるんですね。
例えば、アメリカの第3代大統領、今からいえば民主党の祖といえるんでしょうね、トーマス・ジェファーソン。民主党の大統領の代表格といわれますけど、彼のころ民主党という党は、実は存在していなくて、民主共和党という名前だったんです。デモクラティック・リパブリカンなんです。
あの頃、アメリカはイギリスからの独立ということがまずあって、その上で州のゆるやかな連合がいいか、きちんとした中央政府・中央銀行を持つべきかがイシューでした。トーマス・ジェファーソンはその意味ではリベラルで、場合によってはアメリカ独自の王政だっていいと言っていたハミルトンとは違います。ジェファーソンは小さな政府志向ですのでその点は今の共和党と似てるわけです。
しかしその頃のアメリカは農業立国なんです。そしてその中心は綿花ですから、コットン・ジンみたいな機械が発明されて、綿花を取り出す能力が増えると、それを処理する労働力も必然的に必要になってきて、だから、奴隷に対する需要が高かったということがあります。だからジェファーソンは、奴隷制の擁護者であり、奴隷は広範に存在するわけです。
一方、そういうジェファーソンの下で、戦争を通じ、あるいは経済的やりとりを通じて、アメリカの領土はどんどん広がっていくんです。1801年に彼が大統領になってから、1861年にリンカーンが現れるまで、いわゆる民主党の天下なんです。その60年の間、11代でしたかね、ポーク大統領の時、アメリカの領土はカリフォルニアまで達します。そうなると、必然的に、工業化が興ってきますね。グラハム・ベルとかエジソンとか、フルトンとか、それからロックフェラーとか、カーネギーとか、ハインツとか、ハーシーとかキャンベルとかああいうものがですね、そのころに集中して興るわけです。
農業立国だったアメリカに、初めて消費社会ができてくる。従ってあの、大陸横断鉄道とかですね、土地を開発するためのホームステッド・アクト(Homestead Act)とか色々出て来ます。そして、工業化でいこうという新しい州(准州を含めて)では、奴隷の需要は従来州に比べて高くないわけですよね。
むしろ、神話のふるさとなき歴史というものしか持たなかったアメリカの中にあっては、逆に自分の国の結束を保つために人権という理念についての敏感さ、思い入れは強烈になりますし、それが今日まで続いています。そういう時代背景の下、アメリカ人の目に、奴隷制というものは良く映らない。そこに登場したのが、リンカーンであった。
リンカーンは、連邦を割らないという使命を帯びた大統領です。アメリカは、憲法が出来る前から連邦だったのです。南北戦争が起きます。あれは今でもアメリカで一番たくさん死者を出した戦争です。60万人、今の時代に直したら800万人ぐらい死んでるわけです。
そのリンカーンが、奴隷問題を――まあ、アメリカの人がこういうことを言うと、リンカーンに対して失礼であるとして私を批判すると思うんですが、奴隷問題を政治的に大きなイシューに仕上げて、奴隷問題でごたごたして方針を打ち出せなかった民主党を崩すわけであります。
8.アメリカをなす二つの軸
第二の特色は、アメリカがバイナリー(binary)つまり、複合型、二軸型―― 地震でいえばエピセンターが二つある国だということ。
巨大で複雑な国ですが、物事が二つに収斂(しゅうれん)して、二つで整理されるんです。たとえば政党の場合、共和党と民主党です。
南と北、ペプシコーラにコカコーラ、アメリカンリーグ、ナショナルリーグ。あれだけの多様性、複雑性を持ったアメリカで、あの規模のアメリカなら、イタリア以上の政党の乱立、200ぐらい政党が出来ても不思議はないと思うんですが、なぜか二つです。
アメリカが一軸だったのはジョージ・ワシントンの8年ぐらいで、あとはずっと二軸型国家ですね。日本は違うと思います。ヨーロッパの主要国も、多くの国がそうじゃなくて、やっぱりこう、ピラミット型の秩序っていうのがきちんとできていることによって、安定感、安心感を持つという感じだと思いますが、アメリカは逆に、軸が二つないと心配な国だという印象があるんです。
それで、日本ではですね、共和党と民主党について、「在米大使館は、共和党の人脈はあるかもしれないけど、民主党との人脈はあるかね」と、こういう質問を受けるんですけれども、それはありますよ。しかし、「そもそも共和党と民主党を、皆さんどう区別してるんですか」と聞きたくなる時があるんです。
リンカーンの時代をちょっと思い出していただきたいんですけれどもね、この後、なるべく分かりよく説明はするつもりでおりますが・・・あるアメリカの歴史家が言ったことをまとめると、こういうことなんですね。
その昔、リンカーンのころを思い浮かべてください。その昔アメリカに、強い中央政府、大きな中央政府、高い税金、意欲的で果断な公共事業、これをやるべきだということを言った政党がいた。この政党はアメリカのニューイングランドの大学のキャンパスで人気があり、アフリカ系アメリカ人の圧倒的支持を受けていた。その党の名は、共和党である。この共和党は、もう一つの政党に対抗するものとしてスタートした政党であった。
その相手の党とは、税金は低くあるべし、制限された小さい政府であるべし、ということで、東のエリートに対しては大変懐疑的で、中央政府は個人の私有財産なんかのことに首突っ込むなというふうに言い続けた党であった。その党の名は、民主党である。一見今と逆ですよね。イリノイから出たバラック・オバマはイリノイで政治家のスタートを切ったリンカーンを強く意識していると思います。
そして、共和党初代16代大統領リンカーンと、民主党44代アメリカ大統領バラック・オバマの政策には似通ったところがあって、その間、共和党と民主党の中身は転換している。ロバがゾウになり、ゾウがロバになっているということがあるわけであります。
レーガン大統領という――共和党の名大統領と評価される人ですが、レーガンの共和党というのは、リンカーンの共和党と逆ですよね。今日か、昨日の、ワシントンポストに出ている記事の中に、オバマの外交政策ドクトリンは恐らくブッシュ41代と似たものになるだろうとあります。
アドバイザーも共通している。ブレント・スコウクロフトとかロバート・ゲイツ。一番話を聞く人がそういう人たちである。ブッシュ41代共和党政権に仕えた人たちである。そういうことなんですよね。共和党は保守、民主党はリベラル、これもそれほど簡単ではない。そもそも保守って何ですか。保守というときに、アメリカには三つぐらい保守があるんですよ。軍事安全保障面での保守、社会問題での保守、経済財政政策での保守、これみんな保守、一つにからげて、皆共和党というわけには、とってもいきません。
要するに、アメリカは、森羅万象あまたある問題を、とにか二つの政党で表現してしまおうとするところがあるんですね。
あらゆる問題を二党で背負い込むわけです。そして、時代とともに何が一番大事なイシューかというのは変わるんですね。
例えば、アメリカの第3代大統領、今からいえば民主党の祖といえるんでしょうね、トーマス・ジェファーソン。民主党の大統領の代表格といわれますけど、彼のころ民主党という党は、実は存在していなくて、民主共和党という名前だったんです。デモクラティック・リパブリカンなんです。
あの頃、アメリカはイギリスからの独立ということがまずあって、その上で州のゆるやかな連合がいいか、きちんとした中央政府・中央銀行を持つべきかがイシューでした。トーマス・ジェファーソンはその意味ではリベラルで、場合によってはアメリカ独自の王政だっていいと言っていたハミルトンとは違います。ジェファーソンは小さな政府志向ですのでその点は今の共和党と似てるわけです。
しかしその頃のアメリカは農業立国なんです。そしてその中心は綿花ですから、コットン・ジンみたいな機械が発明されて、綿花を取り出す能力が増えると、それを処理する労働力も必然的に必要になってきて、だから、奴隷に対する需要が高かったということがあります。だからジェファーソンは、奴隷制の擁護者であり、奴隷は広範に存在するわけです。
一方、そういうジェファーソンの下で、戦争を通じ、あるいは経済的やりとりを通じて、アメリカの領土はどんどん広がっていくんです。1801年に彼が大統領になってから、1861年にリンカーンが現れるまで、いわゆる民主党の天下なんです。その60年の間、11代でしたかね、ポーク大統領の時、アメリカの領土はカリフォルニアまで達します。そうなると、必然的に、工業化が興ってきますね。グラハム・ベルとかエジソンとか、フルトンとか、それからロックフェラーとか、カーネギーとか、ハインツとか、ハーシーとかキャンベルとかああいうものがですね、そのころに集中して興るわけです。
農業立国だったアメリカに、初めて消費社会ができてくる。従ってあの、大陸横断鉄道とかですね、土地を開発するためのホームステッド・アクト(Homestead Act)とか色々出て来ます。そして、工業化でいこうという新しい州(准州を含めて)では、奴隷の需要は従来州に比べて高くないわけですよね。
むしろ、神話のふるさとなき歴史というものしか持たなかったアメリカの中にあっては、逆に自分の国の結束を保つために人権という理念についての敏感さ、思い入れは強烈になりますし、それが今日まで続いています。そういう時代背景の下、アメリカ人の目に、奴隷制というものは良く映らない。そこに登場したのが、リンカーンであった。
リンカーンは、連邦を割らないという使命を帯びた大統領です。アメリカは、憲法が出来る前から連邦だったのです。南北戦争が起きます。あれは今でもアメリカで一番たくさん死者を出した戦争です。60万人、今の時代に直したら800万人ぐらい死んでるわけです。
そのリンカーンが、奴隷問題を――まあ、アメリカの人がこういうことを言うと、リンカーンに対して失礼であるとして私を批判すると思うんですが、奴隷問題を政治的に大きなイシューに仕上げて、奴隷問題でごたごたして方針を打ち出せなかった民主党を崩すわけであります。
2009年01月28日
海賊新法の今後の検討について(たたき台)
今日、与党・海賊対策等に関するプロジェクト・チームで、共同座長の自民党の中谷元衆議院議員と公明党の佐藤茂樹衆議院議員の両議員が、「海賊新法の今後の検討について(たたき台)」を提示されました。
今後は、これをもとに議論が進められます。
以下が、「海賊新法の今後の検討について(たたき台)」です。
与党PTは、海賊新法の早期成立を期することを前提とした当面の措置として、政府に対し、海上警備行動による海賊対処を要望する中間とりまとめを行った。この作業過程において、海上警備行動によっては、海賊対策を行うに当たり、対応や処置が限られたものになっていることを踏まえ、海賊新法において、以下の諸点について、十分な検討を行い、法案作成を検討するものとする。
1.海賊新法の基本的な考え方は、海賊行為の抑止・阻止を規定した国連海洋法条約に則したものとするべきであり、国連海洋法条約に規定する海賊行為に対し、我が国が行使しうる管轄権を十分に反映した法制となるよう検討すべきである。
2.我が国における海賊対処の主体は、第一義的には海上の法執行機関である海上保安庁であり、同庁による対処が極めて困難な場合に、自衛隊法82条の規定に基づく海上における警備行動を発令し、自衛隊が対処し、司法警察業務に関しては、海上保安庁があたる自衛隊及び海上保安庁の緊密な連携・協力の必要性が強調された現行の枠組みを基本的な考え方として検討がなされるべきである。
3.ソマリア沖・アデン湾においては、多数の国が主に軍艦を派遣し、海賊対処活動を実施している。
この状況において、我が国が海上警備行動に基づき派遣する海上自衛艦船は、保護対象として日本人の生命及び財産を基本としていることから、外国籍船等に対する海賊対処活動を行うことができず、十分な活動が行い得ない状況である。したがって、海賊新法の検討に当たっては、海上自衛艦船が外国籍船についても、海賊対処活動が行えるよう検討すべきである。
4.海上警備行動における武器使用については、ソマリア沖・アデン湾における海賊が重武装であることや、海賊行為の状況にかんがみ、武器の使用に関し議論が行われた。
結果として、海上警備行動における武器使用権限は、警察官職務執行法第7条により対処すべきこととされたものの、現行法においては、危害許容要件についての制限がつけられており、対応が限られたものとなっている。
海賊新法の検討に当たっては、海上保安庁及び自衛隊の海賊対処に必要な武器の使用について、重武装で装備した海賊に対しては、現状に応じて合理的に必要と判断することができる、現実的かつ効果的な武器の使用について検討すべきである。
5.海賊行為に対する司法警察業務の運用、国際協力について、国民の理解を得る努力、国会との関係について、それぞれとりまとめを行った。これらの諸点は、海賊新法においても重要な事項であると考える。
したがって、海賊新法の検討に当たっては、これらの事項についても十分留意した検討が行われるべきである。
今後は、これをもとに議論が進められます。
以下が、「海賊新法の今後の検討について(たたき台)」です。
与党PTは、海賊新法の早期成立を期することを前提とした当面の措置として、政府に対し、海上警備行動による海賊対処を要望する中間とりまとめを行った。この作業過程において、海上警備行動によっては、海賊対策を行うに当たり、対応や処置が限られたものになっていることを踏まえ、海賊新法において、以下の諸点について、十分な検討を行い、法案作成を検討するものとする。
1.海賊新法の基本的な考え方は、海賊行為の抑止・阻止を規定した国連海洋法条約に則したものとするべきであり、国連海洋法条約に規定する海賊行為に対し、我が国が行使しうる管轄権を十分に反映した法制となるよう検討すべきである。
2.我が国における海賊対処の主体は、第一義的には海上の法執行機関である海上保安庁であり、同庁による対処が極めて困難な場合に、自衛隊法82条の規定に基づく海上における警備行動を発令し、自衛隊が対処し、司法警察業務に関しては、海上保安庁があたる自衛隊及び海上保安庁の緊密な連携・協力の必要性が強調された現行の枠組みを基本的な考え方として検討がなされるべきである。
3.ソマリア沖・アデン湾においては、多数の国が主に軍艦を派遣し、海賊対処活動を実施している。
この状況において、我が国が海上警備行動に基づき派遣する海上自衛艦船は、保護対象として日本人の生命及び財産を基本としていることから、外国籍船等に対する海賊対処活動を行うことができず、十分な活動が行い得ない状況である。したがって、海賊新法の検討に当たっては、海上自衛艦船が外国籍船についても、海賊対処活動が行えるよう検討すべきである。
4.海上警備行動における武器使用については、ソマリア沖・アデン湾における海賊が重武装であることや、海賊行為の状況にかんがみ、武器の使用に関し議論が行われた。
結果として、海上警備行動における武器使用権限は、警察官職務執行法第7条により対処すべきこととされたものの、現行法においては、危害許容要件についての制限がつけられており、対応が限られたものとなっている。
海賊新法の検討に当たっては、海上保安庁及び自衛隊の海賊対処に必要な武器の使用について、重武装で装備した海賊に対しては、現状に応じて合理的に必要と判断することができる、現実的かつ効果的な武器の使用について検討すべきである。
5.海賊行為に対する司法警察業務の運用、国際協力について、国民の理解を得る努力、国会との関係について、それぞれとりまとめを行った。これらの諸点は、海賊新法においても重要な事項であると考える。
したがって、海賊新法の検討に当たっては、これらの事項についても十分留意した検討が行われるべきである。
新聞社説が民主党の国会運営を批判
国会が民主党などの無益な引き伸ばしによって、一日無駄にした。
これに関して、今朝の新聞各紙の社説が批判していました。
以下、掲載します。
2次補正成立 両院協を審議延ばしに使うな(1月28日付・読売社説)
両院協議会の混乱で、景気対策のための2008年度第2次補正予算の成立が遅れた。
両院協議会の場が、審議引き延ばしの手段に使われてはなるまい。
参院は26日、政府案から2兆円規模の定額給付金部分を削除する野党提出の修正案を可決した。
民主党など野党は、両院協議会で定額給付金削除などを要求し、協議は1日で決着しなかった。
結局、協議はまとまらず、予算案は衆院の議決が優越すると定めた憲法60条に基づき、政府案が成立した。
両院協議会は、衆参で議決が異なった場合に、話し合いで合意を探る場だ。委員は衆参から10人ずつ選ばれるが、成案を得るには出席委員の3分の2以上の賛成が必要と定められている。
今回の場合、委員は、衆院は定額給付金を含む政府案に賛成した与党議員ばかり、参院はそれに反対した野党議員ばかりだ。そもそも、合意が得られるような仕組みにはなっていない。
こうした現状では、民主党の狙いは審議の引き延ばしにあったと見られても、仕方があるまい。
補正予算の財源を確保するための関連法案は、民主党などの抵抗により、参院で審議すら始まっていない。これでは、補正予算が成立しても、定額給付金の支給だけではなく、多くの景気・雇用対策の執行に支障が出かねない。
実体経済の悪化は、政府の対応を上回る速度で進んでいる。あらゆる対策を、切れ目なく実行する必要がある。
与野党は、関連法案の審議を急ぐべきだ。
補正予算には、雇用情勢の悪化に対応する緊急雇用創出事業(1500億円)や、自治体の雇用対策を支援する「ふるさと雇用再生特別交付金」(2500億円)などが含まれている。
中小企業対策でも、政府系金融機関による貸し付けや緊急保証枠の拡大など資金繰り支援(4905億円)が盛り込まれた。
中小企業の資金不足は深刻さを増している。年度末を控え、支援に万全を期さねばならない。
今後は、09年度予算案の審議入りを急ぎ、今年度内に確実に成立させることも肝要だ。
麻生内閣は支持率が低迷したままだ。25日の山形県知事選では野党各党が支援した新人が当選するなど、自民党には“逆風”が続いている。政府・与党は、態勢を立て直し、09年度予算案の早期成立に全力を挙げてもらいたい。
【主張】2次補正予算 審議拒否は経済悪化招く(産経新聞・主張)
定額給付金などを盛り込んだ第2次補正予算案の成立が27日にずれ込んだ。参院では野党の反対で否決され、両院協議会でも決着しなかったのは遺憾だ。一方、補正予算の執行に必要な関連法案は参院で審議入りしていない。審議拒否といえる。参院は必要な審議を行い、速やかに結論を出すべきである。
2次補正の衆院通過からすでに2週間が経過し、麻生太郎首相の施政方針演説もこれからだ。経済対策は急務だと与野党が認め、通常国会を1月5日という異例の早い時期に召集した。
関連法案の成立遅れは、給付金だけでなく中小企業の資金繰りや雇用対策など他の政策にも影響を及ぼす。民主党は2次補正の参院採決を容認した以上、引き延ばし戦術に固執して経済対策全般を犠牲にする態度は改めるべきだ。
2次補正の関連法案には、景気・雇用対策の財源を拠出するため、財政投融資特別会計の積立金を一般会計に繰り入れる特例法案のほか、株式取得機構が銀行保有株の買い取りを再開する株式等保有制限法改正案などがある。
これらは13日に衆院から参院に送付された。与党が関連法案を衆院で再議決するためには、参院で否決されるか、衆院送付から60日を経過して否決したとみなされなければならない。野党が引き延ばそうと思えば、関連法案の成立は3月中旬となる。
民主党が本気でそれをねらっているなら、経済対策としての給付金の是非といった政策論でなく、政争の具にしているだけだ。
民主党などは、2次補正から総額2兆円の定額給付金部分を削除した修正案を出した。26日の参院本会議で、この予算案の修正案を戦後初めて可決した。給付金の意義や効果に関する国民の疑問は今も根強く、修正案可決は一院が一定の結論を出したともいえる。
しかし、衆院優越規定に基づき補正予算成立という結論が出たあとも、関連法案を人質に取り続ける対応が支持を得られるのか。
今後の審議の中でも、効果的な経済対策のあり方を論議する時間は十分ある。派遣労働など雇用対策を中心に、党派を超えて取り組める課題も多いはずだ。
消費税の増税時期を税制改正関連法案にどう書くかで、自民党内の激しい論争があったが、社会保障の安定財源についても審議を通じて国民に論点を示すべきだ。
これに関して、今朝の新聞各紙の社説が批判していました。
以下、掲載します。
2次補正成立 両院協を審議延ばしに使うな(1月28日付・読売社説)
両院協議会の混乱で、景気対策のための2008年度第2次補正予算の成立が遅れた。
両院協議会の場が、審議引き延ばしの手段に使われてはなるまい。
参院は26日、政府案から2兆円規模の定額給付金部分を削除する野党提出の修正案を可決した。
民主党など野党は、両院協議会で定額給付金削除などを要求し、協議は1日で決着しなかった。
結局、協議はまとまらず、予算案は衆院の議決が優越すると定めた憲法60条に基づき、政府案が成立した。
両院協議会は、衆参で議決が異なった場合に、話し合いで合意を探る場だ。委員は衆参から10人ずつ選ばれるが、成案を得るには出席委員の3分の2以上の賛成が必要と定められている。
今回の場合、委員は、衆院は定額給付金を含む政府案に賛成した与党議員ばかり、参院はそれに反対した野党議員ばかりだ。そもそも、合意が得られるような仕組みにはなっていない。
こうした現状では、民主党の狙いは審議の引き延ばしにあったと見られても、仕方があるまい。
補正予算の財源を確保するための関連法案は、民主党などの抵抗により、参院で審議すら始まっていない。これでは、補正予算が成立しても、定額給付金の支給だけではなく、多くの景気・雇用対策の執行に支障が出かねない。
実体経済の悪化は、政府の対応を上回る速度で進んでいる。あらゆる対策を、切れ目なく実行する必要がある。
与野党は、関連法案の審議を急ぐべきだ。
補正予算には、雇用情勢の悪化に対応する緊急雇用創出事業(1500億円)や、自治体の雇用対策を支援する「ふるさと雇用再生特別交付金」(2500億円)などが含まれている。
中小企業対策でも、政府系金融機関による貸し付けや緊急保証枠の拡大など資金繰り支援(4905億円)が盛り込まれた。
中小企業の資金不足は深刻さを増している。年度末を控え、支援に万全を期さねばならない。
今後は、09年度予算案の審議入りを急ぎ、今年度内に確実に成立させることも肝要だ。
麻生内閣は支持率が低迷したままだ。25日の山形県知事選では野党各党が支援した新人が当選するなど、自民党には“逆風”が続いている。政府・与党は、態勢を立て直し、09年度予算案の早期成立に全力を挙げてもらいたい。
【主張】2次補正予算 審議拒否は経済悪化招く(産経新聞・主張)
定額給付金などを盛り込んだ第2次補正予算案の成立が27日にずれ込んだ。参院では野党の反対で否決され、両院協議会でも決着しなかったのは遺憾だ。一方、補正予算の執行に必要な関連法案は参院で審議入りしていない。審議拒否といえる。参院は必要な審議を行い、速やかに結論を出すべきである。
2次補正の衆院通過からすでに2週間が経過し、麻生太郎首相の施政方針演説もこれからだ。経済対策は急務だと与野党が認め、通常国会を1月5日という異例の早い時期に召集した。
関連法案の成立遅れは、給付金だけでなく中小企業の資金繰りや雇用対策など他の政策にも影響を及ぼす。民主党は2次補正の参院採決を容認した以上、引き延ばし戦術に固執して経済対策全般を犠牲にする態度は改めるべきだ。
2次補正の関連法案には、景気・雇用対策の財源を拠出するため、財政投融資特別会計の積立金を一般会計に繰り入れる特例法案のほか、株式取得機構が銀行保有株の買い取りを再開する株式等保有制限法改正案などがある。
これらは13日に衆院から参院に送付された。与党が関連法案を衆院で再議決するためには、参院で否決されるか、衆院送付から60日を経過して否決したとみなされなければならない。野党が引き延ばそうと思えば、関連法案の成立は3月中旬となる。
民主党が本気でそれをねらっているなら、経済対策としての給付金の是非といった政策論でなく、政争の具にしているだけだ。
民主党などは、2次補正から総額2兆円の定額給付金部分を削除した修正案を出した。26日の参院本会議で、この予算案の修正案を戦後初めて可決した。給付金の意義や効果に関する国民の疑問は今も根強く、修正案可決は一院が一定の結論を出したともいえる。
しかし、衆院優越規定に基づき補正予算成立という結論が出たあとも、関連法案を人質に取り続ける対応が支持を得られるのか。
今後の審議の中でも、効果的な経済対策のあり方を論議する時間は十分ある。派遣労働など雇用対策を中心に、党派を超えて取り組める課題も多いはずだ。
消費税の増税時期を税制改正関連法案にどう書くかで、自民党内の激しい論争があったが、社会保障の安定財源についても審議を通じて国民に論点を示すべきだ。
政府、海自ソマリア派遣を決定 防衛相が準備指示伝達
政府、海自ソマリア派遣を決定 防衛相が準備指示伝達(1月28日11時3分配信 産経新聞より)
政府は28日午前、首相官邸で麻生太郎首相と関係閣僚らによる安全保障会議を開き、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策として、自衛隊法の海上警備行動で海上自衛隊艦艇を派遣することを決めた。これを受けて、浜田靖一防衛相は海自に準備指示を出した。
首相は安保会議終了後、防衛相に対し「与党からも海警行動でしっかりとやれという話が来ている。そこのところをしっかり考えてやってもらいたい」と要請した。
これを受け、防衛相は同日午前、防衛省に赤星慶治海上幕僚長らを招集。「ソマリア沖の海賊は日本を含む国際社会への脅威であり、早急に対応すべき課題だ。海上警備行動が発令されたときに遺漏がないようしっかりと対応してもらいたい」と述べ、派遣準備を指示した。
海自は防衛相の指示を踏まえ、ソマリア沖に派遣する護衛艦を選定し、日本と現場海域で必要な連絡を行うための通信設備の設営など必要な改修に着手する。海賊対策でノウハウを有する海上保安庁との合同訓練などを経て3月に防衛相が海警行動を発令。現場海域到着は3月末となる見通しで、4月の任務開始を目指して調整を進める。
現行法に基づく自衛隊派遣は、首相が昨年12月、防衛相に検討を急ぐよう指示していた。政府・与党は、海警行動による海自派遣を当面の応急措置と位置づけており、海賊行為全般を取り締まることができる「海賊行為対処法案」(海賊新法)の策定を急いでいる。
政府は28日午前、首相官邸で麻生太郎首相と関係閣僚らによる安全保障会議を開き、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策として、自衛隊法の海上警備行動で海上自衛隊艦艇を派遣することを決めた。これを受けて、浜田靖一防衛相は海自に準備指示を出した。
首相は安保会議終了後、防衛相に対し「与党からも海警行動でしっかりとやれという話が来ている。そこのところをしっかり考えてやってもらいたい」と要請した。
これを受け、防衛相は同日午前、防衛省に赤星慶治海上幕僚長らを招集。「ソマリア沖の海賊は日本を含む国際社会への脅威であり、早急に対応すべき課題だ。海上警備行動が発令されたときに遺漏がないようしっかりと対応してもらいたい」と述べ、派遣準備を指示した。
海自は防衛相の指示を踏まえ、ソマリア沖に派遣する護衛艦を選定し、日本と現場海域で必要な連絡を行うための通信設備の設営など必要な改修に着手する。海賊対策でノウハウを有する海上保安庁との合同訓練などを経て3月に防衛相が海警行動を発令。現場海域到着は3月末となる見通しで、4月の任務開始を目指して調整を進める。
現行法に基づく自衛隊派遣は、首相が昨年12月、防衛相に検討を急ぐよう指示していた。政府・与党は、海警行動による海自派遣を当面の応急措置と位置づけており、海賊行為全般を取り締まることができる「海賊行為対処法案」(海賊新法)の策定を急いでいる。
加藤良三氏(日本プロ野球コミッショナー、前駐米大使)の講演、その7
昨年11月29日、第43回日本論語研究会での日本プロ野球コミッショナー・加藤良三先生の素晴らしい講演「日米関係―アメリカについて感じたこと―その7」をお届けします。
7.歴史上の神話の故郷なきアメリカ
米国に戻ります。私は、15年半くらい米国に在勤しましたし、外務省の43年間の生活で、ほとんど何らかの形で米国にかかわってきました。だからといってアメリカを分かっていると申し上げるつもりはありません。
しかし直感的に感じたことをもう一つ申しあげたいと思います。
アメリカは、日本や、イギリスや、フランスや、ドイツや、中国や、インドと違って、歴史が短い、すなわち、自分が帰るべき歴史上の神話の故郷を持たないのです。
日本には神武天皇以来の神話というものがある。イギリスにも「アーサー王物語」というのがある。他の国にもいろいろあります。みんな帰るべき歴史上の故郷があります。
ところがアメリカには帰るべき歴史上の神話の故郷がない。たかだか三百年弱の国の歴史の中で、初代のジョージ・ワシントンだって、まだ現実に見えている人間なんです。神話の故郷はないのです。だから現在価値に生きるしかないのです。
1908年の段階で、アメリカを観察してその趣旨を述べた朝河(あさかわ)寛(かん)一(いち)という碩学がいます。この人は福島県の出身で、最後はイェール大学の教授で終わりました。彼は、日露戦争の時に日本の立場を強烈にアメリカに訴える上で大きな貢献をした人です。
しかし、ポーツマス条約が締結されて後の日本の方向性が、朝河さんが、日露戦争の開戦前に、日本の言い分はこうなんだとアメリカに訴えていたことと全然違う方向に行っていることに危惧をもちまして、アジア政策をめぐって、やがて米国と日本が戦争になるのではないかと1907、8年の時点で懸念し、本にしていた人です。『日本の禍機(かき)』という本で、こういう下りがあります。
ちょっと文体が古いですけどね、アメリカがどういう国かというとこで、「新国なるがゆえに、伝説いまだ、甚だ豊富ならず。且つその多からざる伝説は、多くは人知の推究しうべき歴史的事柄にして」―― つまり、自分たちのそれは歴史的な事実関係であって、「いまだ感情に純化せられている神秘犯すべからざる境遇に達せず」―― 神秘の域に達してないと。
「されば米人の国民的感情は、過去の不可思議伝説によること極めて少なくして、主として証しうべく疑いがたき自国の長所によれりと。例えば建国者の高尚なる人格、史上の重要なる功績、絶大なる富源」―― 富ですね、―― 絶大なる富源と自由なる政体とよりきたる、各人競争の機会の豊富、長足の物質的進歩、世の進歩に対する貢献の年とともに増加せることのごとき、皆これなりというべし。」―― つまり、アメリカというのは、現在価値に、その積み上げにおいて生きる国であると。
「この明白の根拠より来る愛国心が、半ばは神秘の伝説を元とせる愛国心と性質を異にすることのいかに大なるかは、問わずして明らかなるべし」と、こういうふうに言っております。
「既に新国なり。暗々裏に国民の感情を構成する伝説乏し。また民主国なり。人民自ら大統領を選みて、これに国事を委任し、かつその行為を監督、批評せざるべからざる国体なり。」「ゆえに米国の信頼するところは、実に人民の知見、見識にあり、国民の知力、反省力を統合して感情の惰性をためつつ、はじめて国の機関を運転するを得べし。これ、米人が自国を批評するの自由自在なる根本の理由なりと信ず。」―― こういう体制の下で、ジョージ・ブッシュも散々批判されて、それの尻馬に乗っかって、批判する人が世の中には何百万人も何千万人もいると、こういうことでありましょう。
そういう風なアメリカですから、アメリカの学生は、現在価値を高めるために、猛烈に勉強します。この朝河先生の時代からそうなんですが、今でも日本の大学生の比じゃない。私も同じ印象を持ちます。
しかしその結果、もちろんアメリカの嫌なところも出てくる。成績のいい人間はえてしてロイヤー(lawyer)型の人間になりまして、何でも法律、法廷技術的議論で物事を決めてしまおうとする。
人の歴史観とか、深い歴史に根ざした英知とかというものを学ぼうとせずに、この一点という争点を自ら定めて、その一点にあらゆるエネルギーや努力を結集して勝つ。そこで勝つと、全部に勝ったつもりになる。
こういう間違いをしょっちゅう犯しております。だから、チャーチルも言っています。アメリカというのは、本当に大事な時は、正しい決断をする国だ。ただし、その前にあらゆる間違った選択肢を尽くすところが問題だと。
こういう、擬似ロイヤー的発想、物事の処理の仕方をする人間が多いんで、私もうるさくなりまして、彼らに直接言いませんけど、君はおれがおれがとよく言うな、出身地はオレゴンじゃないかと(会場笑)。
そういえばアメリカの国の鳥、国鳥はワシだったなと。首都はワシントンだなと。木の中にエゴの木ってのあるけど、これアメリカの木じゃないだろうなと。ま、そういう感じがするところがあるんでありますが、しかしそういうアメリカの嫌な連中は、案外おだてに弱いわけであります。いやあ、大将偉いとか言うと、ころっと丸め込まれるところがありまして、その辺はこちらも大人の対応をすべきなんだと思いますが。
しかし、そういう、ちょっと嫌なところもあるアメリカなんですが、しかし全体としての変革意欲、自家、自浄化能力、問題をただ提起して、コメントして分析するんじゃなくて、問題を、現実に解決しようとする意欲と能力、これは世界に冠たるものがある。残念ながら国際機関には未だほとんどない、こういうことだろうと思っています。
このアメリカの問題解決能力は、先ほどのシーレーン沿いのアメリカのプレゼンスとともに、私は好むと好まざるとにかかわらず、国際公共財の一面を持っているというふうに思うわけであります。それがアメリカの第一の、特色だと私は思います。
7.歴史上の神話の故郷なきアメリカ
米国に戻ります。私は、15年半くらい米国に在勤しましたし、外務省の43年間の生活で、ほとんど何らかの形で米国にかかわってきました。だからといってアメリカを分かっていると申し上げるつもりはありません。
しかし直感的に感じたことをもう一つ申しあげたいと思います。
アメリカは、日本や、イギリスや、フランスや、ドイツや、中国や、インドと違って、歴史が短い、すなわち、自分が帰るべき歴史上の神話の故郷を持たないのです。
日本には神武天皇以来の神話というものがある。イギリスにも「アーサー王物語」というのがある。他の国にもいろいろあります。みんな帰るべき歴史上の故郷があります。
ところがアメリカには帰るべき歴史上の神話の故郷がない。たかだか三百年弱の国の歴史の中で、初代のジョージ・ワシントンだって、まだ現実に見えている人間なんです。神話の故郷はないのです。だから現在価値に生きるしかないのです。
1908年の段階で、アメリカを観察してその趣旨を述べた朝河(あさかわ)寛(かん)一(いち)という碩学がいます。この人は福島県の出身で、最後はイェール大学の教授で終わりました。彼は、日露戦争の時に日本の立場を強烈にアメリカに訴える上で大きな貢献をした人です。
しかし、ポーツマス条約が締結されて後の日本の方向性が、朝河さんが、日露戦争の開戦前に、日本の言い分はこうなんだとアメリカに訴えていたことと全然違う方向に行っていることに危惧をもちまして、アジア政策をめぐって、やがて米国と日本が戦争になるのではないかと1907、8年の時点で懸念し、本にしていた人です。『日本の禍機(かき)』という本で、こういう下りがあります。
ちょっと文体が古いですけどね、アメリカがどういう国かというとこで、「新国なるがゆえに、伝説いまだ、甚だ豊富ならず。且つその多からざる伝説は、多くは人知の推究しうべき歴史的事柄にして」―― つまり、自分たちのそれは歴史的な事実関係であって、「いまだ感情に純化せられている神秘犯すべからざる境遇に達せず」―― 神秘の域に達してないと。
「されば米人の国民的感情は、過去の不可思議伝説によること極めて少なくして、主として証しうべく疑いがたき自国の長所によれりと。例えば建国者の高尚なる人格、史上の重要なる功績、絶大なる富源」―― 富ですね、―― 絶大なる富源と自由なる政体とよりきたる、各人競争の機会の豊富、長足の物質的進歩、世の進歩に対する貢献の年とともに増加せることのごとき、皆これなりというべし。」―― つまり、アメリカというのは、現在価値に、その積み上げにおいて生きる国であると。
「この明白の根拠より来る愛国心が、半ばは神秘の伝説を元とせる愛国心と性質を異にすることのいかに大なるかは、問わずして明らかなるべし」と、こういうふうに言っております。
「既に新国なり。暗々裏に国民の感情を構成する伝説乏し。また民主国なり。人民自ら大統領を選みて、これに国事を委任し、かつその行為を監督、批評せざるべからざる国体なり。」「ゆえに米国の信頼するところは、実に人民の知見、見識にあり、国民の知力、反省力を統合して感情の惰性をためつつ、はじめて国の機関を運転するを得べし。これ、米人が自国を批評するの自由自在なる根本の理由なりと信ず。」―― こういう体制の下で、ジョージ・ブッシュも散々批判されて、それの尻馬に乗っかって、批判する人が世の中には何百万人も何千万人もいると、こういうことでありましょう。
そういう風なアメリカですから、アメリカの学生は、現在価値を高めるために、猛烈に勉強します。この朝河先生の時代からそうなんですが、今でも日本の大学生の比じゃない。私も同じ印象を持ちます。
しかしその結果、もちろんアメリカの嫌なところも出てくる。成績のいい人間はえてしてロイヤー(lawyer)型の人間になりまして、何でも法律、法廷技術的議論で物事を決めてしまおうとする。
人の歴史観とか、深い歴史に根ざした英知とかというものを学ぼうとせずに、この一点という争点を自ら定めて、その一点にあらゆるエネルギーや努力を結集して勝つ。そこで勝つと、全部に勝ったつもりになる。
こういう間違いをしょっちゅう犯しております。だから、チャーチルも言っています。アメリカというのは、本当に大事な時は、正しい決断をする国だ。ただし、その前にあらゆる間違った選択肢を尽くすところが問題だと。
こういう、擬似ロイヤー的発想、物事の処理の仕方をする人間が多いんで、私もうるさくなりまして、彼らに直接言いませんけど、君はおれがおれがとよく言うな、出身地はオレゴンじゃないかと(会場笑)。
そういえばアメリカの国の鳥、国鳥はワシだったなと。首都はワシントンだなと。木の中にエゴの木ってのあるけど、これアメリカの木じゃないだろうなと。ま、そういう感じがするところがあるんでありますが、しかしそういうアメリカの嫌な連中は、案外おだてに弱いわけであります。いやあ、大将偉いとか言うと、ころっと丸め込まれるところがありまして、その辺はこちらも大人の対応をすべきなんだと思いますが。
しかし、そういう、ちょっと嫌なところもあるアメリカなんですが、しかし全体としての変革意欲、自家、自浄化能力、問題をただ提起して、コメントして分析するんじゃなくて、問題を、現実に解決しようとする意欲と能力、これは世界に冠たるものがある。残念ながら国際機関には未だほとんどない、こういうことだろうと思っています。
このアメリカの問題解決能力は、先ほどのシーレーン沿いのアメリカのプレゼンスとともに、私は好むと好まざるとにかかわらず、国際公共財の一面を持っているというふうに思うわけであります。それがアメリカの第一の、特色だと私は思います。