安保・防衛政策

2017年01月16日

ナイジェリアを「金で買った」中国――「一つの中国」原則のため(遠藤誉氏)

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中国は11日、ナイジェリアに対する400億ドルの新規投資と引き換えに、台湾との関係を格下げし北京が主張する「一つの中国」原則を遵守することを約束させた。今後もこの外交戦を強化する。トランプ発言に対抗するためだ。

◆台湾のナイジェリア代表処の改称と移転

中国の王毅外相は1月11日、訪問先のナイジェリアでオンエアマ同国外相と会談し、「台湾は中国の領土の一部であり、中国を代表する合法的政府は、唯一、中華人民共和国のみである」という「一つの中国」原則を堅持することを約束させた。会談後の共同声明に署名したと、中国政府および中国共産党のメディアが一斉に伝えた。その中には中国政府の通信社「新華網」や中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球網」あるいは中央テレビ局CCTVがあり、特にCCTVは「メディアの焦点」という特別番組でこの問題を特集した。

ナイジェリアは「中華民国」と国交を結んでいるわけではないが、しかし首都アブジャに台湾との交流窓口として「中華民国商務代表団」を置いていた。中華人民共和国(北京政府)とも国交を結んでいながら、台湾との窓口組織名に「中華民国」という名称を使っている国は少ない。CCTVの報道によれば「アフリカでは唯一の国だ」とのこと。

このたび両国は台湾との交流窓口を首都アブジャからラゴスに移し、かつ窓口の名称から「中華民国」という言葉を削除することに合意した。

王毅外相は両国関係を新たな段階に引き上げるために、「一つの中国」原則を基礎に置きながら「ナイジェリアの鉄道、高速道路、水力発電および軍事安全」など、巨大なポテンシャルを持つ領域における協力を約束した。

◆その陰には400億ドル(約4.5兆円)の新たなチャイナ・マネー

1月14日、中国大陸のウェブサイトの一つである「観察者網」は「大陸はナイジェリアに400億ドルを新たに投資 台湾驚愕」というタイトルの報道をした。

それによれば中国政府はナイジェリアに、新たに400億ドル(約4.5兆円)の投資をすることを決定したとのこと。中国はすでにナイジェリアに450億ドル(5兆円強)を投資している。

王毅外相は共同記者会見で「中国はすでにナイジェリアに220億ドルの投資を実施し終わっており、残りの230億ドルに関しては現在当該プロジェクトを実施中だ。このたびさらに、新たに400億ドルの投資を追加したということだ」と述べた。

合計850億ドルの「チャイナ・マネー」をナイジェリアに注ぐことになる。

これだけのチャイナ・マネーを注いで、「国を買う」戦術に出たと言っていい。

◆対台湾の大陸“外交戦”新モデル

観察網は大陸(中国政府、あるいは北京政府)のこのやり方を「対台湾の大陸“外交戦”新モデル」と名付けている。同時に、「中華民国」と国交はないものの、台湾との間で「代表処」などの形で非公式交流機関を設けている国を、一つ一つ落していく「新しい手」に出るだろうと分析している。

1月14日付の「環球網」はまた、王毅外相が行くところ、必ず「一つの中国」原則を認めさせるための「鉄拳」が動いていく。台湾はそれ相当のツケを払わなければならないと、警告している。

1月10日付の本コラム「米中断交さえ!? 台湾総統の米国経由外交」で、筆者は以下のように書いた。

――北京政府は、「蔡英文は必ず制裁を受けることになる。現に昨年(12月20日)、台湾と国交を結んでいたサントメ・プリンシペ国は台湾と国交を断絶し中華人民共和国と国交を結んだ(12月26日)。台湾を国家と認める国は、この地球上でわずか21カ国しかないが、それも一気に無くなっていくだろう」と環球時報に言わせていた。

同日、テレ朝の「ワイドスクランブル」という番組で、「今後中国はどう出ると思うか」といった趣旨の質問に対して、筆者はおおむね「中国は今後、台湾と国交を結んでいる国を、チャイナ・マネーを使って、つぎつぎと落していくことだろう」と回答した。

その翌日に、王毅外相がナイジェリアにおける台湾との交流窓口の名称から「中華民国」という名称を削除させて、チャイナ・マネーにモノを言わせて「一つの中国」原則を誓わせたのは、なんとも象徴的である。

◆トランプ政権と日本

現在、中華民国と国交のある国は21カ国。国交はないが(あるいは断絶したが)非公式機関を置いて経済文化交流を行っている国は60ヵ国ある。日本などがその一つで、大使館は置かない代わりに、たとえば「台北駐日経済文化代表処」といった組織が設置されている。

日本はそれ以外にも台湾との間の交流窓口として「交流協会」というものを設立していた。これは1972年9月に中華人民共和国との間で日中国交正常化に関する共同声明に調印したとき、同時に中華民国との国交を断絶したことによって同年12月に設立された日台間の交流を存続させる財団法人である。

その「交流協会」を今年1月1日から「日本台湾交流協会」と改称したのは、少なくともナイジェリアとは逆の方向で、評価していい。

これまで中国の顔色を窺っていた日本の外務省としては非常に画期的なことで、おそらくトランプ陣営の中における対中政策の傾向を感知してのことだと推測される。つまり、トランプ政権の対中政策が「一つの中国」原則にも疑義を挟む可能性を秘めている何よりの証拠だろう。

1月13日、トランプ次期大統領はアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し「もし北京が為替や貿易問題で譲歩しなければ、アメリカは“一つの中国”を見直さなければならなくなる」と語った。BBS中文網などが「トランプ:“一つの中国”原則を守るには北京の譲歩が必要」と伝えた。

昨年12月11日に米フォックス・ニュースのインタビューに対して述べた「通商を含めて色々なことについて中国と取り引きして合意しない限り、なぜ“一つの中国”政策に縛られなきゃならないのか分からない」という同氏の回答と比べると、やや強硬感が和らいだ感はある。しかし、トランプ次期米大統領はホワイトハウス内に貿易政策を担当する「国家通商会議」を新設し、トップに対中強硬派で知られるピーター・ナバロ氏を起用すると決定しているので、「一つの中国」原則に対する懐疑論は収まらないだろう。

そもそも北京政府が主張する「一つの中国」原則的概念を世界に広めてしまったのはニクソン元大統領とキッシンジャー元国務長官で、ニクソン氏が2度目の大統領選に勝とうとした個人的欲望から前のめりになった結果だ。日本の頭越しにキッシンジャー氏が訪中したことに驚いた日本が、あわててアメリカに追随した。日米が「一つの中国」を認めて(あるいは認識すると認めて)しまったことで、他の国が日米にならたったため、あたかも1972年以降(あるいは米中国交正常化が調印された1979年以降)の国際秩序を形成してしまった「不動の原則」のように見えるかもしれない。

そしてその結果、中国を強大化させてしまい、今では中国の覇権に苦しめられているというのだから、日米ともに反省しなければならないだろう。日米が強大化させてしまった中国が、それゆえに日米に脅威を与え、戦争の危険性さえ招くとすれば、本末転倒。

日本人は「中国共産党が如何にして強大化したのか」という歴史の真相を学ぼうとしないために、今もなお同じことを繰り返しているのである。思考停止が自国民に不幸をもたらすことにメスを入れたのがトランプ発言だ。いろいろ問題もあり、不確定要素も多い人物ではあるが、この発言にはアメリカ国民の感覚も込められているのではないかと、筆者には思われる。アメリカの中国研究者やシンクタンクとの接触により感じ取った実感だ。

安倍首相が地球儀を俯瞰して、東南アジアなどの関係国と経済交流などを強化するのは悪いことではない。ただ常に発展途上国に対しては日本国民の税金が膨大に使われており、おまけにほとんどの国が中国と日本に「いい顔」をして漁夫の利を得ている。安全保障に関しては当てにならない。

それよりは、「日中戦争中に毛沢東率いる中共軍が日本軍と共謀していた真相」を直視し、中国共産党がいかにして強大化したかを正視する勇気を日本が持つことの方が有効ではないだろうか。お金は一銭もかからない。真の思考力を持つ勇気を持てばいいだけのことである。

それにより中国共産党が統治の正当性を失うのである。「一つの中国」の是非を解くカギは、すべてこの事実の中にあるのだ。

この真相を直視する方が、かえって、戦争を回避できると筆者は信じている。


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2017年01月10日

防衛・憲法・外交関連の本

 来週、19日に防衛省で講演をしますが、その際の講演レジメを休暇中に作成しました。
 その中で、僕が出版した防衛・憲法・外交関連の本を整理しました。

 有事法制(武力攻撃事態対処法案など)が国会で議論されたときは、『急げ!有事法制』を作りました。これは、書店などにいくと「有事法制は危険だ、戦争になる」といった反対本しかなく、そこで、国民に正しい知識を理解してもらうために急きょ出版しました。
お蔭さまで、この本は、国会議員が参考にするなど、増刷し、結構売れました。

 その後、防衛知識普及会を作ってテロ特措法や海賊対策の必要性についても、少しでも国民に正しい知識が広まるよう努力しました。

 最近では、一昨年の7月の集団的自衛権を含む閣議決定がなされ、急きょ『安倍政権と安保法制』を出版、これは、憲法と自衛隊の関係をわかりやすく解説し、4刷になりました。

 その後、平和安全法制が国会で成立した後に、『平和安全法制の真実』を出版し、昨年は、『防衛装備庁と装備政策の解説』(共著、内外出版、2016年3月)、『日本の防衛政策 第2版』(編著、2016年9月)を出版しました。

『日本の防衛政策 第2版』は、世界中の日本大使館に送付され、日本の最新の防衛政策の虎の巻になっています。
 現在2刷ですが、今年になって、「まもなく3刷になる予定」と今年になって出版社から嬉しいお話をいただきました。 

 もし、皆様が正しい防衛知識を学びたいのであれば、僕の『安倍政権と安保法制』(内外出版、2014年7月)、『平和安全法制の真実』(内外出版、2015年10月)、『日本の防衛政策 第2版』(編著、2016年9月)をご覧ください。

 自民党の憲法改正が知りたければ、『これで納得!日本国憲法講義』(内外出版2013年8月)、『改正 日本国憲法』(講談社+a新書、2013年11月)をお読みください。

 以下が、今まで出版した僕の防衛・憲法・外交関連の本です。

 26冊になりました。

 今後も、正しい防衛知識の普及のために出版していきます。


「憲法と安全保障」(南窓社、1993年)
「日本国憲法見直し論」(KKベストセラーズ、1994年)
「日米安保と極東有事」(南窓社、1997年)
「日華断行と日中国交正常化」(共著、南窓社、2000年)
「急げ!有事法制」(朝雲新聞社、2002年)
「教科書 日本の安全保障」(共著、芙蓉書房出版、2004年)
「政治と危機管理」(共著、内外出版、2006年)
「防衛法制の解説」(共編著、内外出版、2006年)
「新憲法はこうなるー美しいこの国のかたち」(講談社、2006年)
「防衛省誕生―その意義と歴史」(編著、内外出版、2007年)
「テロ特措法 海上自衛隊の給油活動」(防衛知識普及会編、内外出版、2007年)
「新テロ対策特措法 石破防衛大臣に聞く」(防衛知識普及会編、内外出版、2007年)
「岐路に立つ日本の安全―安全保障・危機管理政策の実際と展望」
                           (共著、北星堂、2008年)
「教科書・日本の防衛政策」(佐藤正久参議院議員と共編著、芙蓉書房出版、2008年)
「日本の防衛法制」共編著、内外出版、2008年)
「防衛省改革」(防衛知識普及会編、内外出版、2008年)
「海賊対策 海上警備行動と海賊対処法案」(防衛知識普及会編、内外出版、2009年)
「漂流する日米同盟」(森本敏監修、海竜社、2010年)
「日本の防衛法制 第2版」(編著、内外出版、2012年)
「日本の防衛政策」(編著、内外出版、2012年)
「これで納得!日本国憲法講義 」(内外出版2013年8月)
「改正 日本国憲法」 (講談社+a新書、2013年11月)
「安倍政権と安保法制」(内外出版、2014年7月)4刷
「平和安全法制の真実」(内外出版、2015年10月)
「防衛装備庁と装備政策の解説」(共著、内外出版、2016年3月)
「日本の防衛政策 第2版」(編著、2016年9月)2刷 

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shige_tamura at 09:55|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

2016年12月13日

トランプ氏「一つの中国」疑問視に中国猛反発(遠藤誉氏)

防衛
この度『日本の防衛政策 第2版』(田村重信編著、内外出版)を出版しました。
増刷となりました。

 今月2日に台湾の蔡英文総統と電話会談したトランプ次期大統領は11日、「一つの中国に縛られない」旨の発言をした。これに対し中国は激しく反発。国際的に通念化している「一つの中国」論に疑義の余地はあるのか?

◆次期トランプ政権は「台湾カード」を使うのか?

 12月11日、トランプ次期大統領は、米フォックス・ニュースのインタビューで「台湾は中国(中華人民共和国)の一部分である」という「一つの中国」論に関して、以下のように発言したとBBCが伝えた。

 「私は“一つの中国”という政策がることは知っている。しかし貿易など、その他多くの取引に関して合意に達しない限り、なぜわれわれは“一つの中国”政策に縛られなければならないのか?」

 「“一つの中国”を順守するかどうかは、南シナ海問題や貿易政策などの対立する分野で、中国側が我々と取引をするかどうかにかかっている」

などだ。

 アメリカのメディアによれば、トランプ次期大統領の周りには「アメリカは中国との通商交渉で強硬姿勢を貫け」とする経済学者のピーター・ナバロ氏や徹底したタカ派のジョン・ボルトン(元国連大使)などがいて、覇権を強める中国に対して「台湾カード」を使えとアドバイスしているらしい。したがって来年1月にトランプ氏が正式に大統領に就任したあとは、「台湾カード」=「一つの中国」を外交交渉のカードとして利用する考えのようだ。

◆中国は一斉に猛反発

 中国では外交部のスポークスマンが12日の記者会見で「“一つの中国”原則は米中関係の政治的基礎だ」と深い懸念を示しただけでなく、中国政府系列の新聞やネット、あるいは中央テレビ局CCTVも12日の昼のニュースの中で特集を組むなど、猛烈な抗議を表明した。

 たとえば、外交部スポークスマンはつぎのように述べた。

●台湾問題は中国の主権と領土保全に関し、中国の核心的利益に関わる問題だ。

●“一つの中国”原則を堅持することは、中米関係発展の政治的基礎である。

●もしこの基礎が乱され破壊されるようなことがあれば、中米関係の健全な発展と両国の重要な領域における協力は、話し合うこともできなくなる。

●アメリカの次期指導者は台湾問題がいかに敏感な問題であるかを認識すべき。

 中国共産党系新聞の環球時報は、中国の厳粛なる領土主権の問題を「商売の取引に使うな」と批判。ネットユーザーのコメントには「商売人はやはり商売人」「言うことをコロコロ変えるから、次は何を言うかは分からない」といったものが目立つ。尖閣問題の時のような反日に燃え上がる激情的なものとはニュアンスが異なる。

 CCTVは、トランプ次期大統領の言動は、1979年以来築き上げてきた米中関係を破壊するものであるとした上で、彼の周りには反中右翼が多いので、その影響を受けており、実際に大統領に就任したあとも同様の政策を採るか否かは不明だとしている。もし続行するなら、戦争といった深刻な事態にもなりかねないと、評論家が警告した。

◆“一つの中国”原則はいかにして創られたのか?

 では、“一つの中国”原則は、いかにして創られたのか、少しだけ詳細に見てみよう。

 日中戦争が終わった後、蒋介石(国民党)がトップリーダーであった「中華民国」を倒そうと、毛沢東(中国共産党)が革命(反乱)を起こし、国共内戦が始まった。内戦に勝った毛沢東は、1949年10月1日に中華人民共和国誕生を宣言。蒋介石は同年、台湾に「遷都」し、台北を「中華民国」の臨時首都として、広大な大陸を含めた国土を「一つの中国」とみなす「大中国政策」を実施した。「中国を代表する国家は中華民国のみである」ことを絶対的な政治基盤としていた。

 一方、中国大陸の北京政府は、「中華民国を倒して中華人民共和国が誕生したのだから、元中華民国であった領土は、すべて中華人民共和国のもの」として「一つの中国」を主張。

 「中華民国」は第二次世界大戦で連合国側としてアメリカとともに日本と戦っているので、国連には「中国」を代表する国として加盟し、安保理常任理事国でもあった。

 ところが、泥沼化したベトナム戦争からの撤退を選挙公約にして当選した共和党のニクソン大統領(1969年~1974年)は、北ベトナムを応援し中ソ対立を抱えていた北京政府に接近し、大統領としての地位を固めようとしたのである。そのため北京政府が主張する「一つの中国」を選択し、中華人民共和国が唯一の「中国」を代表する国家として国連加盟するに至る。

 このとき、同盟国であった中華民国にも知らせず米中が接近したことを知った蒋介石はアメリカに裏切られたと激怒して、国連から脱退してしまう。日本にも知らせなかったのは、共和党の大統領としての地位を確保するため、民主党に知られ、出し抜かれたくなかったからだと追われている。

 蒋介石には、北朝鮮と韓国のように、相対立する「元ひとつの国」として、両方が国家として国連に残るという選択もあった。

 しかし日本の頭越しに米中接近が行われたことを知った日本は、あわててアメリカの後を追い、アメリカに同調して北京政府が主張する「一つの中国」を選択したので、日米に裏切られてしまったことを知った蒋介石は、屈辱に耐えることに忍びなく、国連を去ったのである。

 それ以降の日米は自国の選択がまちがっていなかったことを証明するためにも、ひたすら中国の発展に力を注ぎ、中国のこんにちの繁栄をもたらしている。

 中国の現在の覇権は、ある意味、日米が招いたものであり、言うならば自業自得だ。

 そのきっかけを創ったニクソン元大統領などは、民主党に米中接近の功績を持って行かれたくなく、ニクソン政権の長期継続を図るために、民主党全国委員会本部への不法侵入や盗聴事件(ウォーターゲート事件)により弾劾され、現役大統領として初めて辞任している。

 つまりニクソン氏は、権勢欲のために北京と接近したことになる。

 その結果、中国を経済大国にのし上げ、軍事大国にまでしてしまったのだ。中国は日米との間で勝ち取った「一つの中国」原則を、すべての国に要求したので、今ではこれが国際的な通念となっているのだ。

 そのまちがいに気づいたのがトランプ次期大統領であるとするなら、彼のこの度の発言は、「ようやく現実に気が付いたのか」という側面を持つと、筆者の目には映る。

◆“一つの中国”に疑義性の余地はあるのか?

 中米の間には「3つの共同コミュニケ」が交わされている。1972年2月の「米中共同コミュニケ」(上海コミュニケ)と1978年12月の「中華人民共和国とアメリカ合衆国の外交関係樹立に関する共同コミュニケ」および1982年8月17日の「中米共同コミュニケ」(八・一七コミュニケ)だ。

 その間の1979年1月1日、中米両国は正式に国交を正常化している。そしてこの瞬間、「中華民国」とは国交を断絶した。

 この日まで待ったのは、米国内の反対論もあったが、何よりも蒋介石が1975年4月に他界したからだろう。いくらなんでも、国交断絶を宣言するのは、国連において落ち度のなかった蒋介石に残酷すぎるという「人道」としての憐憫の情が働いたのではないだろうか。

 そして中国がいま主張する「3つの共同コミュニケ」には、明確に「一つの中国」を原則とすることが書いてある。

 その中の「中米共同コミュニケ」(八・一七コミュニケ)では、米国側は「台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはないこと、台湾に対する武器売却は質的にも量的にも米中外交関係樹立以降の数年に供与されたもののレベルを越えないこと、及び台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導くつもりであること」を表明している。

 しかしアメリカは中華民国との国交断絶とともに同時に「台湾関係法」(1979年)を制定して、事実上の米台軍事同盟を国内法で決めている。それまで存在していた米華相互防衛条約に代わるものだ(この「華」は「中華民国」の意味)。武器売却を可能にしている国内規定でもある。

 ところで、トランプ次期大統領は、何度も「台湾への武器売却を強化する」と言っている。

 一方、中国では2005年に反国家分裂法を制定し、台湾が独立を唱えれば、いざという場合には「武力鎮圧を辞さない」という姿勢である。

 「一つの中国」論への疑義は、今となっては「台湾独立」という可能性しか示唆しておらず、それは不可能ではないが、しかし中国(北京)が黙っていない。必ず「反国家分裂法」が火を噴く。そのために中国は昨年、建国後初めて抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを挙行し、「反国家分裂法」が実行された際の威力を、台湾にそしてアメリカに見せつけた。

 そんな中国に誰がした、と言いたいが、アメリカが過去における自国の選択を反省してみるのは悪いことではない。

 日本も経済繁栄のために、その結果、何を招いているかを考えてみる必要はあるだろう。

 不戦の誓いは絶対的な前提条件だが、敗戦国ゆえに「毛沢東が日本軍と共謀したことによって強大化した中共軍」「その結果、誕生した中華人民共和国」という、中国にとって不都合な事実に対して、「ものが言えない国家」を、いつまで続けるのかに関しては、一考する必要があるのではないだろうか。


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2016年11月11日

「南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更」について

防衛
この度『日本の防衛政策 第2版』(田村重信編著、内外出版)を出版しました。
増刷となりました。

 「南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更」について

 本件は、南スーダン国際平和協力業務を実施している施設部隊に、平和安全法制で新たに規定した、国際平和協力法第3条第5号ラの業務、いわゆる「駆け付け警護」及び宿営地の共同防護の任務を付与するものです。

 南スーダンの情勢について

 南スーダンでは、本年7月7日、首都ジュバでキール大統領派とマシャール第一副大統領派との間で衝突が発生しました。同月26日、ジュバから退避したマシャール前第一副大統領に代わり、タバン・デン前工業大臣が第一副大統領に就任しました。
 国連は8月12日、UNMISSマンデートを延長し、活動期限を本年12月15日までとするとともに、地域保護部隊を創設する等を決定しました。
 10月1日から11月1日かけて現地を訪問された柴山総理大臣補佐官も、現在、ジュバは比較的落ち着いている状況であり、自衛隊が安全を確保した上で、意義ある活動を行える状況とのことです。
 他方、地方においては武力衝突や一般市民の殺害行為が度々発生していることから、情勢は厳しく、楽観はできないと考えています。


 11月20日から派遣が開始される、南スーダン派遣施設隊第11要員の準備訓練について

 本年8月25日から10月26日にかけて、青森駐屯地、岩手山演習場等において、第11次要員の準備訓練を実施しました。
 実動を伴う訓練の中では、9月14日から、「駆け付け警護」や「宿営地の共同防護」に係る訓練についても実施しました。
 この訓練については、10月21日に統合幕僚長、23日に防衛大臣が視察を行い、その後陸上幕僚長から防衛大臣に対し、訓練の総括が報告されました。
 その結果、防衛省として、第11次要員の練度については、新たな任務に十分対応可能なレベルに到達しているとのことです。


 新任務付与に関する考え方と今後の方向性等について

 今般、付与する方向の任務は「駆け付け警護」と宿営地の共同防護です。
 

 「駆け付け警護」

 「駆け付け警護」は、自衛隊の施設部隊の近傍でNGO等の活動関係者が襲われ、他に対応できる国連部隊が存在しない等の極めて限定的な場面で、要請を受け、応急的かつ一時的な措置として行うものです。
 南スーダンには現在も少数ながら邦人が滞在しており、厳しい治安情勢を踏まえると、邦人に不測の事態が生じる可能性は皆無ではありません。このような状況である以上、「駆け付け警護」という任務と必要な権限を付与し、事前に十分な訓練を行う等の体制を整えることで、邦人の安全に資するのみならず、実施に際しての自衛隊のリスクの低減に資する面もあると考えられます。
 なお、PKO法上、「駆け付け警護」を実施するためには、受入れ国政府の同意が国連の活動及び自衛隊の業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められることが必要です。
 この点、関連する要素を総合的に考慮すれば、受入れ同意は安定的に維持されていると認められ、実施計画に規定されている我が国の活動期限である来年3月31日まで、切れ目なく、「駆け付け警護」を実施することが可能と考えます。
 なお、現在のUNMISSマンデートの期限は本年12月15日までですが、マンデートが延長される場合その他必要な場合には、速やかに国家安全保障会議でその評価を再確認する方針です。


 宿営地の共同防護

 南スーダンにおいては、一つの宿営地を、我が国を含む複数の国の部隊が活動拠点として使用しています。 このような状況において、他国の要員がたおれてしまえば、自衛隊員が襲撃される恐れがあり、他国の要員と自衛隊員は、いわば運命共同体であることから、共同して襲撃に対処した方が、安全を高めることができます。
 宿営地の共同防護は、情勢が厳しいからこそ実施する、自己の安全を高めるための任務です。
 これにより、自衛隊は、より円滑かつ安全な活動が実現可能となり、自衛隊に対するリスクの低減に資すると考えられます。
 なお、PKO法上、宿営地の共同防護は「自己保存のための自然権的権利」であり、実施計画の変更は不要です。

 また、ゴラン高原国際平和協力活動のように、5原則は維持されている状況にあっても、安全を確保しつつ有意義な活動が困難となった場合、我が国独自の判断で撤収するという政府の方針についても、実施計画に明記する方向です。


 本件は、稲田防衛大臣及び柴山首相補佐官も出席されて8日朝開催された国防・内閣第一・外交合同部会にて御審議の上、了承。その後、10日の政調審議会、本日の総務会でも了承、与党政策責任者会議でも了承されました。

 政府は、15日の閣議決定を経て、11月20日から派遣が開始される施設部隊の第11次要員から新任務が付与されます予定です。       



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2016年10月28日

六中全会、集団指導体制堅持を再確認――「核心」は特別の言葉ではない(遠藤誉氏)

防衛
この度『日本の防衛政策 第2版』(田村重信編著、内外出版)を出版しました。

27日、六中全会閉幕時、習近平は集団指導体制堅持を複数回強調した。コミュニケに「習近平総書記を核心とする」という言葉があることを以て一強体制とする報道は間違っている。胡錦濤も江沢民も核心と呼ばれた。

◆集団指導体制堅持を強調

10月27日、中国共産党第18回党大会第六次中央委員会全体会議(六中全会)が北京で閉幕した。閉幕に際し、習近平は中共中央委員会総書記としてスピーチをおこなった。スピーチにおいて、習近平は何度も集団指導体制を堅持することを強調した。

その多くは「民主集中制」という言葉を用いて表現したが、「集団指導体制(集体領導制)」という言葉も用いている。これまでのコラム「六中全会、党風紀是正強化――集団指導体制撤廃の可能性は?」でも書いてきたように、「民主集中制=集団指導体制」のことである。

10月27日、CCTVでは、習近平の講話を含めて解説的に六中全会の総括が報道されたが、その中で、「民主集中制」が4回、「集団指導体制」が1回出てきたので、「集団指導体制」に関して、5回も言ったことになる。

「核心」という言葉に関しては2回使われている。

このCCTVにおける報道を文字化して報道したものを探すのは、やや困難だったが、たとえばこの報道をご覧になると、(中国語を使わない)日本人でも目で見てとれる。

後半(最後の部分)には「人民日報」の解説が加わっているので、そこは無視していただきたい。

前半は習近平が六中全会でナマで言った言葉を報道したCCTVの記録(文字化したもの)である。

そこには「民主集中制」という言葉が4回出てきており、「集体領導制(集団指導体制)」という言葉が1回、出てきている。

コミュニケで、わざわざ「民主集中制」や「集団指導体制」を堅持すると言ったとは書いてないのは、それは中華人民共和国憲法で定められていることなので、当然と思ったからだろう。憲法を改正して「民主集中制」(集団指導体制)を撤廃するなどということになったら、中国共産党の一党支配は逆に崩壊する。

だというのに、日本のメディアは一斉に「コミュニケに“核心”という言葉があった」、だから「習近平の一極集中が行われる」「一強体制か」などと書き立てている。まるで「集団指導体制が撤廃された」かのような書きっぷりだ。



◆江沢民も胡錦濤も「核心」と呼ばれた

中でも、27日夜9時からのNHKのニュースでは「核心というのは特別な言葉で、毛沢東とトウ小平にしか使ってない」という趣旨のことを報道していた(録音していないので、このような趣旨の報道、という意味である)。それは全くの誤解だ。

まず江沢民に関して言うならば、「中国共産党新聞」が「江沢民を核心とした中央集団指導体制の経緯」というタイトルで、江沢民を「核心」と呼んだ経緯が詳細に書かれている。

文革後、毛沢東の遺言により華国鋒が総書記になり、すぐ辞めさせてトウ小平が全体を指揮し、胡耀邦を総書記にして改革開放を進めたが、民主的過ぎるということで失脚し、天安門事件を招いた。いびつな形で総書記になった趙紫陽もすぐさま失脚さえられ、天安門事件のあとにトウ小平は江沢民を総書記に指名したわけだ。

このときに一極集中を図って、何とか中国共産党による一党支配体制の崩壊から免れようとしたトウ小平は、江沢民に「総書記、国家主席、軍事委員会主席」の三つのトップの座を全て与えた。そして改めて「江沢民を核心とした集団指導体制」を強調したのだ。

「江沢民を核心とする」という表現に関しては、列挙しきれないほどのページがあるので、省略する。

つぎに「胡錦濤を核心とする集団指導体制」に関しては、たとえば、中国共産党新聞(→人民網)が「トウ小平が胡錦濤をずば抜けた核心的指導者としたのはなぜか」という趣旨のタイトルで、胡錦濤を「核心的指導者」と位置付けている。

この記事が発表されたのが、2015年4月18日であることは、注目に値する。つまり、習近平体制になった後にも、「胡錦濤を核心とする指導体制」を強調したかったということである。

胡錦濤時代の「胡錦濤を核心とする」という表現に関して、すべて列挙するわけにはいかないが、たとえば、2003年6月の「国際先駆導報」には「第四代指導者の核心 中国国家主席胡錦濤」というのがあり、2010年4月の「新華網」は、「胡錦濤総書記を核心とした党中央は…」といった表現が入っているタイトルの記事を公開している。

また、2011年6月には「胡錦濤同志を核心とした集団指導体制」]というタイトルの記事がある。

これも探せばキリがないが、江沢民よりもやや少ないのは、胡錦濤政権時代、メディアは、前の指導者の江沢民によって完全に牛耳られていたからである。

したがって、文革や天安門事件などの特殊な過渡期以外は、「中共中央総書記」は、常に全党員(現在は8700万人強)の頂上に立っているので、常に「核心」なのである。そういうピラミッド形式ででき上がっているヒエラルキーこそが、中国共産党の根幹だからだ。

このような中国の政治の実態を知らずに、なんとしても「習近平が集団指導体制を撤廃して一強に躍り出た!」と言いたい「権力闘争論者」に支配された日本のメディアが、「核心」という言葉を見つけて、鬼の首でも取ったように「ほらね、やっぱり(集団指導体制を撤廃して)一極集中を狙いたいんだ」と煽っているだけである。

◆日本の国益を損ね、国民をミスリードする日本メディアの罪

このような誤導をする日本のメディアは、日本の国益を損ねるだけでなく、日本国民に災いをもたらす。

なぜなら、「中国における腐敗の根がいかに深く、いかに広範で、手が付けられないほどになっているか」そのため、「中国の覇権にも、中国経済の成長にも限界が来る」という現実を見逃させるからである。

腐敗による国家財産の流出は、習近平政権誕生前では、全国家予算の半分に達する時期もあったほどだ。全世界に「チャイナ・マネーのばらまき外交」をすることによって、国際社会における中国の地位を高めようとしている中国としては、財源がなくなっていくのは大きな痛手だ。これは、日本の外交政策に影響してくる。

また、腐敗は調査すればするほど「底なしの範囲の広さ」が明瞭になってくるばかりで、腐敗を撲滅することは、このままでは困難だというが実態である。

中央紀律検査委員会書記の王岐山(チャイナ・セブン、党内序列ナンバー6)などは「100年かけても腐敗は撲滅できない」と吐露していると、香港のリベラルな雑誌『動向』は書いている。

「大虎」はまだ捕えやすいが、末端の「ハエ」となると無尽蔵にいて、また互いに利害が絡んでいるため、摘発を邪魔する傾向を持つということだ。

だから「厳しく党の統治を強化する」というのが、六中全会のテーマだったのである。

日本人にとって、最も重要なのは、「中国の腐敗が続けば、中国の経済は破綻し、それは日本経済に直接響いてくる」ということだ。

権力闘争説は、日本人の目を、この現実から背けさせるという意味で、日本国民の利益を損ねる、実に罪作りな視点なのである。

少なからぬ日本メディアに、猛省を求めたい。




shige_tamura at 11:57|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

2016年09月06日

『日本の防衛政策 第2版』(田村重信編著、内外出版)について

防衛
この度『日本の防衛政策 第2版』(田村重信編著、内外出版)を出版しました。

 平和安全法制が成立し、いよいよ防衛に関する基礎的な知識が必要となっています。
 最近、バイデン米副大統領が演説で、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏を批判して、「(日本が)核保有国になり得ないとする日本国憲法を、私たちが書いたことを彼(トランプ氏)は知らないのか。学校で習わなかったのか」といった誤った発言もあります。また、いまだに防衛費の「GNP1%」枠があると間違って思っている識者などがいます。

 自衛隊は憲法上軍隊ではなく、国際上は軍隊です。自衛隊が海外で諸外国の軍隊と同じ活動がどうしてできないのか?自衛隊は、捕虜として扱われるか?などなど、キチンと知っておく必要があります。

 こうしたことが全て本書に出ています。辞書代わりにお使いいただければ便利です。
今回、平和安全法制の成立を踏まえ『日本の防衛政策 第2版』(内外出版)として大幅改定したものです。

 本書は、「教科書 日本の安全保障」(芙蓉書房出版、2004年)、「教科書・日本の防衛政策」(芙蓉書房出版、2008年)、「日本の防衛政策」(内外出版、2012年)と改定を重ね、今回、平和安全法制の成立を踏まえ『日本の防衛政策 第2版』(内外出版)として大幅改定したものです。

 私が自民党国防部会を担当しながら、慶應義塾大学大学院法学研究科・非常勤講師として「日本の安全保障講座(15年間)」を教えている中から生まれました。

 現在、日本の大学には安全保障に関する講座が極めて少ないことは昨今の事情から考えればおかしな事です。また、安全保障講座に関する体系的な教科書もありません。そこで、防衛省・自衛隊の協力も得て、この本を出版したというわけです。

 特に今回、「冷戦後の安全保障政策の変遷」の他「我が国の防衛政策の基本」には力を入れて書いたものです。最近の憲法第9条、自衛隊、集団的自衛権などの関連が正確に理解できます。

 今、平和安全法制の成立に伴って、防衛政策についての正しい知識が必要です。ところが、キチンとした本がありません。そこで、本書が役立つわけです。

 是非とも、ご一読いただき、日本の安全保障に関する正しい知識を深めていただければ幸いです。

 また、大学の授業等でお使いいただければ幸いです。(教科書及び参考書として指定)



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shige_tamura at 09:23|PermalinkComments(1)TrackBack(0)clip!

2016年08月22日

海保の精神は「正義仁愛」――タジタジの中国政府(遠藤誉氏)


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 11日に尖閣沖で中国漁船と衝突したギリシャ貨物船は中国福建の港に寄港させられ取り調べを受けているが、それがまた中国ネットユーザーの批判を浴びている。
 一方、日本の海保の精神は「正義仁愛」。
 これでは日中韓外相会談開催を中国は嫌うだろう。


◆事故の瞬間、中国公船は接続水域にいた

 日本の報道によれば、中国漁船とギリシャ貨物船の衝突事故が起きたのは11日の5時半頃で、一方、「11日の朝方には中国公船は尖閣沖から姿を消していた」とのことだった。

 この「11日の朝方には」という「朝方の時間」によっては、何が起きたのかを分析する際に非常に異なってくる。

 事故が起きる前に中国公船がいなくなったのか、それとも事故が起きてからいなくなったのか。

 そのどちらだったとしても、なぜなのか?

 そして、なぜ中国公船は中国漁船を助けなかったのか、あるいは助けられなかったのか?

 それを紐解く前に、どうしても「中国公船がいなくなった」と報道されているその時間帯を正確に知らなければ謎が解けない。

 そこで思い切って日本の海上保安庁(以下、海保)に直撃取材をした。

 すると意外な回答が、海保から戻ってきた。

 「事故が起きた時、中国公船は尖閣の接続水域にいましたよ」

というのである。

 では、何が起きていたのか?


◆海保の精神は「正義仁愛」

 さらにしつこく食い下がると、以下のようなことを教えてくれた。

1. 8月11日05:32に、海保は国際VHF(Very High Frequency)という周波帯の無線電波を傍受した。これは国際的に決められている周波数の救難信号である。

2. 海保は巡視船および航空機をすぐさま救難信号の方向の現場海域に急行させ、06:05に事故現場に到着した。救難信号の電波を発信していたのはギリシャの貨物船だったので、貨物船から状況を聴取して衝突事故の概況を掌握。

3. 衝突した相手の中国漁船は沈没している模様で、緊急に船員の捜索に当たったところ、漂流していた中国漁船船員6名を発見し、6名の人命を救助することに成功した。

4. 人命救助の時は、ともかく「人の命を助ける」ということに全神経を集中しているので、周りの状況になど目を配るゆとりはなかった。

5. しかし6名の船員を救助した後に、ふと周りを見ると、そこには6隻の中国公船が到着していた。いつ到着したのかは定かではない。海保が事故現場に到着した時には、事故海域には中国公船の姿はなかったように思う。船名や船の正体を正確に見極めるのには相当の時間がかかり、かなり近くまで接近しないとできない。人命救助が最優先だったので、それを正確に確認するゆとりはない。

6. さらなる人命救助のために遭難者の捜索に当たった。救助した中国漁船の船員から聞いたところによれば、乗組員は全員で14名。まだ8名が見つかっていない。必死の捜索を続けたが、8名は見つからず、気が付けば中国公船も行方不明者の捜索に当たっているようだった。

7. 海上保安庁の精神は「正義仁愛」。どの保安官に聞いても、必ず間違いなく「正義仁愛の精神に基づいて行動している」と回答するだろう。

以上がおおむねの回答であった。


 6名の人命を救ったのは、まちがいなく日本側である。それはもしかしたら事故現場に到着した時間差による違いだったかもしれないが、その原因は中国側が発表しない限り突き止められない。中国自身がどのような判断をしたのかは分からないという。

「いずれにせよ、海保にあるのは『正義仁愛』のみ。ともかく目の前に人命の危険があれば、それを救うために全ての力を注ぐ。それだけです」と海保は言葉を結んだ。

 その志の高さには、深い感動を覚える。


◆ギリシャ貨物船を福建に寄港させて取り調べている中国

 その中国、8月13日の新華社福州(中国・福建省)によれば、福建海事局が、中国漁船と衝突を起こした「嫌疑」により、ギリシャ貨物船を中国海事パトロール船の監視下に置き、中国福建省沿海部の港に寄港させ、海事調査を受けるよう命じたとのこと。

 これは中国交通運輸部(日本の省に相当)海事局の指示に基づいたもので、福建省海事局は事故調査班を設置し、ギリシャ船籍貨物船を調査していると発表。

 この報道に対して、中国大陸のネットユーザーたちが、また騒いでいる。

●ほう、いったい誰が6人の船員の命を助けたのか、一文字たりとも書かないのか?

――書く勇気がないんだろ?

●いったい誰が助けたんだい? 

――日本だよ。日本の巡視船さ。俺は書く勇気を持っているぜ。

●中国の巡視船は?海警船は何してたんだい?

――さあね、救難信号が聞こえなかったんじゃないかい?お茶でも飲みに行ってたとか?

――いやいや、仕事を終えて帰宅したんじゃないのかい?

――釣魚島って、中国の古来からの島だろ? 海警船はいつもいるんじゃないのか?

●ふだん、中国の海警船は釣魚島のまわりに常駐しているよ。なのに、なんで、日本が先に(事故現場に)着いたんだい?やっぱり、実際のコントロール権に関しては、日本の方が優勢なんじゃないのかな?

●ギリシャ貨物船を中国漁船と衝突した「嫌疑」で監視下に置いたって言ってるけど、なに? 船の中に日本人がいて偽装工作をやっていたか否かを調べてるっていうわけ?

――中国は「嫌疑」をかけることしか、できないのか。

――自国の民を助けるために駆け付けることはできないくせに、他国の船を「嫌疑」の名の下に拿捕するのだけは早いんだから。

●今度は「反ギリシャ運動」でもする?ギリシャ製品不買運動とか? そういうことに注意をそらさせても無駄だよ。

●日本人は中国に対して、なんて良くしてくれるんだろう。これを「人道精神」って言うんだろうね。国籍とは無関係なんだよ。

●日本の巡視船が助けるなんて!得難いことだよ!これはどういう精神から来ているんだろう?

8月15日付け本コラム「中国衝撃、尖閣漁船衝突」にも書いたように、中国政府はネットの力に押されて8月11日の夜、ついに日本の行動を称賛する声明を発表している。

 そして今度は、その「不名誉」を埋め合わせネットユーザーの批判をかわすために、ギリシャ貨物船を「中国の力」の下で監視下に置き取り調べをしていることを公表したというのに、名誉を挽回したどころか、新たな政府批判を招いてしまった。



◆精神性の高さ

 筆者が驚いたのは、日本の海保を取材したときに初めて知った「正義仁愛」に代表される「海保の精神」という言葉と、中国のネット空間で数多く見られる「人道精神」や「これはどういう精神から来ているんだろう?」といったネットのコメントなど、「精神」という言葉がそこにあるという一致だった。

「力」ではなく「精神」が、もし最後に重要な役割を果たすのだとすれば、それは何とも心強いことだ。

この「精神性」において、このたびの件は日本の快挙であった。しかも、海保側は高い志でやるべきことをやっただけで、次の勤務に専念し尾を引いてない。

しかし中国では、その「精神性の欠如」ゆえに、いまだに尾を引き、ネットユーザーから厳しい指摘を受けていることは興味深い。

8月5日から11日にかけて急増した中国公船と漁船の尖閣沖侵入は、8月6日と9日の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典を目指して、日本に「犠牲者ぶるな」というシグナルを発するためだった。オバマ大統領の広島訪問により「日本に対する歴史カード」の効力が弱まることを懸念した威嚇だったと解釈できる。

9月4日から中国の杭州で開かれるG20で中国包囲網を作らせないようにするために慰霊のための行事を利用するなどという、その「精神性の低さ」は至るところで露呈し、中国の心あるネットユーザーにも見透かされている。

◆日中韓外相会談を嫌う中国

日本の外務省の発表によれば、今年、日本で開催することを予定している日中韓サミットに向けて、23日から行なわれることになっている日中韓外相会談に関して調整が行われているが、具体的日程に関しては発表が見送られたとのこと。21日、日中韓の外務省次官級による最終調整のための協議が都内で開催され このとき日本と中国による二国間会談も開かれた模様。日本側は中国公船による領海侵入に強く抗議したようだが、中国のネットユーザーからここまで批判されている状況では、中国としては「大きな顔」をして日本と向き合うことはできないはず。会談では中国側は、「釣魚島は中国の領土」という独自の主張を繰り返したらしいが、本心はそれどころではないにちがいない。

中国のネットユーザーが「精神性」に行きついたということに、中国政府はきっと「タジタジ」といったところだろう。

海保の「正義仁愛」という精神が、ついに外交の場で発揮され始めたと解釈することができる。日本の快挙だ。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

shige_tamura at 16:21|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

2016年08月15日

中国衝撃、尖閣漁船衝突(遠藤誉氏)


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 11日に尖閣沖で起きた中国漁船とギリシャ貨物船の衝突により、中国漁民を日本の海保が救助したのを受け、中国の海警は何をしていたのかと中国のネットが炎上。面目丸つぶれの中国政府は日本へ謝意。衝撃が走った。

◆尖閣沖で衝突事故

第11管区海上保安庁によると、11日5時頃、尖閣諸島沖の公海上で、中国漁船「○晋漁05891」(○:門構えに虫。みん)とギリシャ船籍の貨物船「ANANGEL COURAGE」が衝突した。日本の海上保安庁の巡視船は沈没した中国漁船の船員救助に尽力し、船員6人が救助され中国側に引き渡された。

11日の中国メディアは、日本のメディア報道をなぞる形で、ただ単に文字で「中国側は謝意を表したとのこと」と、他人事のように書き、炎上するネットのコメントの削除に躍起になっていた。

しかし中国政府を非難するコメントは増えるばかりで、中国大陸のネットが炎上し始めた。

すると11日の夜になって、中国外交部(外務省)の華春瑩・報道官(外交部新聞司副司長)は「日本側の協力と人道主義の精神に称賛の意を表す」と明確に口頭で表明するところに追い込まれたのである。

それまでは「関係部門が協力的な姿勢で適切に処理することを望む」としか言っていなかった中国が、なぜ「人道主義の精神に称賛の意を表す」という表現を用いるに至ったのか、ネットパワーを検証してみよう。

◆炎上する中国大陸のネット

2016年6月統計で、中国のネットユーザーの数は7.1億人に達したが、多くのユーザーが尖閣沖における中国漁船の沈没と日本による人命救助に関して、中国政府への不満をぶつけた。

11日の昼間までにネットに溢れていたコメントのうちの、いくつかの例をご紹介しよう。以下に書いてある地域名はユーザーの登録地名である。ウェブサイトによっては、書いてない場合もある。

●天津市:感謝すべきことは感謝するというのが礼儀だろう。相手(日本)は我が国の漁民を助けたのだから、感謝するのが道理だ。

●河南省:日本が今回やったことは、非常に人道的だ。感謝すべきだ。

●陝西省:ありがとう! 命を尊重してくれたことを感謝する。

●四川省:いつ、どこであろうとも、人道主義は称賛に値する。

●山東省:筋が通った強さと制度によって作られた民度の高い国民の善良さ。(筆者注:日本国民のことを指していると推測される。)

●上海市:救助する能力があるってことは、結局、制御する力も持っているってことになるんじゃないのかい?

●河南省:中国の救助船は、どこに行ってたの?

●浙江省:わが中国の海警船は何をしていたんだい?

●河南省:ねぇ、お父さんはどこに行ってしまったの? お母さんはどこに行ってしまったの? 肝心かなめの時に、わられが海警船はいったいどこに行ってしまったの?

●江蘇省:中国の公船はどこにいってしまったんだい?強盗(日本のこと。筆者注)に命を救われたなんて、もう絶句だよ!

●中国政府は、どの面ぶら下げて、こんな恥知らずな報道をしてるんだ!

●江蘇省:重要なのはさ、ギリシャは「日本に通知した」ってことだよね。ということは「国際社会は釣魚島(尖閣諸島)の管轄権は日本にある」って、認めているってことじゃない?

――いやいや、早合点しちゃいけないよ。日本の自作自演で、ギリシャの船舶に偽装していたのかもしれないよ。事故は、日本側がわざと起こしたのに決まってるじゃないか。そうじゃなきゃ、中国政府はいくらなんでも面汚しだろ?

●河北省:結局のところさ、(尖閣諸島は中国の)自分の地盤じゃないってことだよ。盛んに「我が国の領土」って言いまくってるけど、自分の家に帰ってないのと同じ(中国は管轄できてないという意味。筆者注)。そのくせ、俺の家を建て壊して地上げする時だけは手が早いんだからな。

●広東省:中国海警局の船がいったい何をしていたのかが問題だ。十隻以上、釣魚島(尖閣諸島)を警備していたんじゃないのか? 中国は普段は筋骨を見せて強がって見せてるけど、それって、上っ面だけじゃなかったのかな?いざという時に、役立たないじゃないか!もしかしたら、日本と戦争することになったら、中国はダメなんじゃないのか?

●新疆ウィグル自治区:今回は中国政府の方が、完全にメンツをつぶされた格好だ。

●上海市:中国って、結局、無力なんじゃないか? 管制ができてないってことだろ?

●湖北省:漁船の位置に関する衛星システムは何をしてるんだ?自国の船が沈んでしまったんだから、本当なら中国が一番最初にその情報をキャッチしていなければならなかったはずだろ?地上の衛星制御センターは漁船の時々刻々の位置情報を捉えていなければならないはずだ。漁船が座標から突如消失したのなら、コントロールセンターが知っているはずだが、動かなかったのか?

●ハンドルネーム「Mrhuang」:海警局の船は、ただ単なる飾り物なのさ!

●ハンドルネーム「大官人」:私は中国人だ。私は中国のやり方に、ものすごく怒っている!毎日のように釣魚島を守れとか、釣魚島は中国のものなどと叫んでいるくせに、何だ、このざまは!これで、釣魚島が中国のものだなんて言えるとでも思っているのか?釣魚島の周辺の治安さえ守れないんだとすれば、口先だけの喧嘩を(日本に)売ってないで、さっさと(日本に)あげちゃえよ!もし本当に中国の領土だと言うんなら、こんな事態にはならないはずだ!

以上、数多くあるコメントの中で、代表的なものを拾ってみた。


◆面目丸つぶれの中国政府

ほとんどのコメントは次から次へと削除されていってはいるが、中国政府としては面目丸つぶれである。

これ以上、ネットの炎上とコメントの削除の鬼ごっこをしていると、反政府運動へと広がりかねない。

「自国の民を守れない中国」

「結局、軍事力が弱い中国」

「軍事力があったとしても、制度と民度の弱い国は何もできない。それが中国だ」

「相手国が自国民を助けてくれても、潔く感謝できない中国。それが民度の低さを表している。」

こういったイメージが、爆発的に広がり始めていた。日頃から中国政府への不満を抱いているネットユーザーは、この機会を利用して、思いっきり「言論で」暴れまくろうとしていた。

そこで中国外交部は遂に観念して、日本への謝意を公けの場で口にしたものと推測される。

中国の強硬策は、必ずいつか「自滅」をもたらす。

中国の浙江省杭州市で9月4日から始まるG20(20カ国・地域)首脳会談で中国が非難されないよう、つぎの一手に中国はいま手をこまねいている。経済問題を中心に据えて、安全保障問題からは目をそらさせるつもりだった。

だから尖閣問題で日本を威嚇し、南シナ海問題に関して中国包囲網が形成されないようにG20に備えていたはずだったが、中国漁船の衝突事故で、すべては水泡に帰したと言っていいだろう。というより逆効果となってしまった。

悪いことはできないものである。

いま中国政府内には衝撃が走っている。

日本はG20で、この漁船衝突事故を大いに活用した外交戦略を練るといいだろう。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士


shige_tamura at 12:08|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!
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