安保・防衛政策

2018年09月26日

安倍晋三首相 国連総会一般討論演説

安倍晋三首相 国連総会一般討論演説 (於 ニューヨーク) 9月25日 

 議長、ご列席の皆さま、向こう3年、日本のかじ取りを続けることとなった私は、連続6度目となります本討論に、思いを新たに臨みます。

 今からの3年、私は、自由貿易体制の強化に向け、努力を惜しみません。

 北東アジアから戦後構造を取り除くために、労をいといません。

■自由貿易の旗手として立つ

 思いますに、日本国民は、自国の指導者に対し、自由貿易の旗手として立つことを切望しておりました。なぜなら日本自身、戦後、自由で開放された経済体制の申し子として、貿易の利益に浴し、めざましく成長した国だったからです。

 自由貿易体制は、アジア諸国を順次離陸させ、各国に中産階級を育てました。背後には、1980年代以降、日本からこれら諸国に向かった大規模な直接投資がありました。

 みな、国際経済システムが、ルールに基づき、自由でオープンなものだったおかげです。

 このシステムに最も恩恵を受けた国・日本が、その保全と強化のため立たずして、他の誰が立つのを待てというのでしょう。日本の責任は、重大です。

 それは、日本の歴史に根差した使命でもあります。

 日本には、近代日本の産業化を支えた石炭のほか、めぼしい資源はありませんでした。しかし戦後の日本は、貿易の恵みに身をゆだねたところ、資源が乏しくても、奇跡といわれた成長を実現できたのです。

 貿易と成長の間の、今や常識と化した法則を、最初に身をもって証明した国が日本です。日本は、貿易の恵みを、世界に及ぼす使命を負っています。

 私は、時に国内の激しい議論を乗り越えて、自由貿易の旗を振りました。

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)11が成り、日本が国会でいち早くこれを承認できたことは、私にとって無上の喜びです。また世界史に特筆される規模と範囲の、日EU(欧州連合)・EPA(経済連携協定)も成立させました。

 とはいえ、満足してなどいられません。私は自らにドライブをかけ、さらに遠方を目指します。

 WTO(世界貿易機関)へのコミットメントはもちろん、東アジアに巨大な自由貿易圏を生むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉に、私は全力を注ぎます。

 そして何よりも、米国との新貿易協議、いわゆるFFRを重んじます。

 日米両国は、長年、世界の中で自由貿易体制を引っ張ってきました。その成熟の帰結として、日本が米国に対し行ってきた直接投資は、英国に次いで多い、85万6000人の雇用を全米各州に生み出しました。

 いまや日本から米国に輸出される自動車が174万台なのに対し、米国国内で生産される日本車は、377万台です。

 それこそウィンウィン。そんな関係を、私は日米の間で続けていきたいと思っています。

 米国とだけではありません。日本は自由貿易の旗のもと、どの国、どの地域とも、互いが、互いの力になる関係を築いてまいりました。これからも、そうしていきましょう。

 アジア・太平洋からインド洋に至る広い地域に、今世紀にふさわしい自由で公正な経済のルールを広げるには、システムを作り、またそこから多大の恩恵を受けてきた国が、すなわち日本のような国こそが、これを主導しなくてはならない。私の、信念であります。

■北東アジアの戦後構造を取り除く

 私は先刻、北東アジアから積年の戦後構造を取り除くため、労をいとわないと申しました。

 私はいま、(ロシアの)ウラジーミル・プーチン大統領とともに、70年以上動かなかったこう着を動かそうとしています。

 大統領と私は今月の初め、ウラジオストクで会いました。通算22度目となる会談でした。近々、また会います。

 両国の間に横たわる領土問題を解決し、日露の間に、平和条約を結ばなくてはなりません。日露の平和条約が成ってこそ、北東アジアの平和と繁栄は、より確かな礎を得るのです。

 皆さま、昨年この場所から、拉致、核・ミサイルの解決を北朝鮮に強く促し、国連安全保障理事会決議の完全な履行を訴えた私は、北朝鮮の変化に最大の関心を抱いています。

 いまや北朝鮮は、歴史的好機を、つかめるか、否かの岐路にある。手つかずの天然資源と、大きく生産性を伸ばし得る労働力が、北朝鮮にはあります。

 拉致、核・ミサイル問題の解決の先に、不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す日本の方針は変わりません。私たちは北朝鮮がもつ潜在性を解き放つため、助力を惜しまないでしょう。

 ただし幾度でも言わなくてはなりません。すべての拉致被害者の帰国を実現する。私は、そう決意しています。

 拉致問題を解決するため、私も、北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩(朝鮮労働党)委員長と直接向き合う用意があります。いま決まっていることは、まだ何もありませんが、実施する以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならないと決意しています。

 日中関係についても一言させてください。本年始まった首脳間の往来は、来月、私が訪中し、その後には習近平国家主席を日本にお招きし、といった形で継続し、両国関係に、そしてこの地域に、決定的な安定の軸を加えていくでしょう。

■自由で開かれたインド太平洋戦略を進める

 北東アジアから対立構造を除いたとき、北極海から日本海、太平洋、インド洋へと抜ける海の回廊は、一層重みを増していきます。

 真上に位置し、広いEEZ(排他的経済水域)をもつ日本は、この海域と、またその上の空域が、安全で、平和であることを望みます。

 太平洋とインド洋、「2つの海の交わり」に、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国があります。かつて両洋を越え遠くアフリカに物産を伝えたのは、今で言う太平洋島しょ国の先達でした。

 私が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を言いますのは、まさしくこれらの国々、また米国や豪州、インドなど、思いを共有するすべての国、人々とともに、開かれた、海の恵みを守りたいからです。

 洋々たる空間を支配するのは、制度に裏打ちされた法とルールの支配でなくてはなりません。そう、固く信じるがゆえにであります。

 先日、マレーシア、フィリピン、スリランカから日本に来た留学生たちが、学位を得て誇らしげに帰国していきました。学位とは、日本でしか取れない修士号です。

 海上保安政策の修士号。目指して学ぶのは、日本の海上保安庁が送り出す学生に加え、アジア各国海上保安当局の幹部諸君で、先日卒業したのはその第3期生でした。

 海洋秩序とは、力ではなく法とルールの支配である。そんな不変の真理を学び、人生の指針とするクラスが、毎年日本から海に巣立ちます。実に頼もしい。自由でオープンなインド・太平洋の守り手の育成こそは、日本の崇高な使命なのです。

■ガザから先生を招く

 さて皆さま、本演説の準備に当たり、私はささやかな、新しいプログラムを作りました。

 来年初め、ガザ地区から約10人、小中学校の先生を日本に招きます。これを第1陣として、毎年続けます。

 日本という異なる文化、歴史に身を置く教師たちは、ガザと中東を広い視野に置き、自分たちのことを見つめ直すでしょう。それは独特の、慰藉(いしゃ)の力を彼らに及ぼすのではないでしょうか。

 平和とはもちろん、当事者双方の努力が必要なのです。それでも願わくば、私たちのこのプログラムが、ガザの教師と子供たちに、希望のよすがを与えてくれたら。

 20年たつと、訪日経験をもつ先生は200人になる。彼らに教えを受けた生徒の数は数千人に達するでしょう。その日を待望いたします。

■日本と日本人は、未来を見据える

 本日、一端を述べて参りました日本外交の目的とは、世界と地域の未来を、確実なものとすることです。

 さらにそのうえで、私が願いますのは、日本の未来を生きる若人たちが、たくましくも、チャレンジに立ち向かってくれることです。それをやりやすい環境を生み出すことが、私たち世代の務めです。

 あたかも日本にはいま、新しい風が吹こうとしています。

 来年4月末から5月初めにかけ、天皇陛下が退位され、皇太子殿下が即位されます。今上陛下のご退位に伴う御代(おだい)替わりは、実に200年ぶり。10月には、お祝いくださる賓客を世界からお迎えします。

 来年6月、日本はG20(20カ国・地域)サミットを開きます。世界経済のあり方や環境問題など、国際社会が直面する課題についての議論を、私は議長として引っ張るつもりです。

 続けて8月、われわれはTICAD(アフリカ開発会議)を開きます。1993年以来日本が孜々(しし)として続け、アフリカ各国指導者から不動の信頼を得た会議の、第7回です。例えば私自身幾度も重要性を説いてきた「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を、論じ合いましょう。

 お忘れなきよう。来年日本はラグビー・ワールドカップを開き、2020年には、東京がオリンピックとパラリンピックを開きます。私たちの目は、未来を見続けます。

 日本と日本の人々が未来に視線を据えるとき、日本は活力を増します。未来を見つめる日本人は、SDGs(持続可能な開発目標)の力強い担い手になります。そんな次世代の日本の若人は、「国連精神」の旗手として立派に働いてくれるだろう。私の確信です。

 最後に申し上げます。安保理改革が停滞する中、今世紀の世界における国連の意義は、今や厳しく問われています。

 けれどもだからこそ、日本は国連への貢献をやめません。グテレス事務総長とともに、日本は安保理改革、国連改革に邁進(まいしん)することをお約束し、私の討論を終わりにします。

 ありがとうございました。(了)

shige_tamura at 14:39|PermalinkComments(0)clip!

2018年09月03日

イージス・アショア(陸上配備型イージス・システム=陸上イージス)の導入について(Q&A)

 陸上イージス・2基の導入については、2017年12月末の閣議において決定されました。
 閣議決定後の重要な手順が陸上イージスに搭載するレーダーの機種選定でしたが、防衛省は7月30日、レーダーの機種選定結果を発表・決定したと発表しました。
 この決定により、陸上イージスの能力や価格が明らかになりましたので、陸上イージスが、我が国の防衛のために必要不可欠な装備品であることについて説明します。
 また、マスコミの一部で、米朝首脳会談などによる緊張緩和に逆行するとか、北朝鮮・中国・ロシアが反対しているとの批判があります。
 陸上イージスは高すぎるといった批判があります。
 これらについても、お答えします。

Q1、イージス・システムについて教えてくさい。

 陸上イージスを説明するためには、イージス艦に搭載され、陸上イージスにも搭載されるイージス・システムついて説明する必要があります。
 イージス・システムとは、遠距離を飛行する敵機やミサイルを正確に探知できる索敵能力に対して、迅速に状況を判断し対応できる情報処理能力、一度に多くの目標と交戦できる対空射撃能力を備えた画期的な装備品です。
 イージス・システムは当初、空母や揚陸艦などを対艦ミサイル攻撃から防護する目的で開発されました。
 特に重視された機能は、同時多目標交戦能力です。
 これは、飛来する多数のミサイルを同時に認識・追尾するとともに、脅威度に応じて優先順位をつけ、優先度が高い目標から順番に、艦対空ミサイルを発射して交戦することができるというものです。
 イージス・システムでは、従来の艦船より多くの敵ミサイルに同時に対応できる能力が向上しており、イージスの語源である、ギリシャ神話に出てくる神ゼウスが娘アテナイに与えた「悪を払いのける盾」のように、敵のミサイルを撃破します。
 その監視能力と処理能力の高さが注目されて、のちに弾道ミサイル防衛(BMD : Ballistic Missile Defense)の機能が付加され、イージスBMDが登場したのです。


Q2、我が国が導入する陸上イージスとは、どんなものですか?

 弾道ミサイル防衛の機能を備えたイージス・システムを海上ではなく、陸上で実現したのが陸上イージスです。
 イージス・システムを構成するコンピュータ―、今回機種選定された最新レーダー「LMSSR」、「Mk.41」垂直ミサイル発射装置などの機材一式を、陸上に設置し、出来上がるのが陸上イージスなのです。
 陸上イージスは、従来のイージス艦と「PAC-3」による2層の弾道ミサイル防衛体制を大幅に強化する優れた装備品です。
 特に、日本国内の重要インフラや米軍基地をターゲットとする準中距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイルなどに対する対処能力が大幅に向上します。
 次いで、ロフテッド軌道(注1)で発射された北朝鮮の弾道ミサイルに対する対処能力が大幅に向上します。
ブロック僑舛蓮現行のブロックAよりも射程が大幅に延伸しており、迎撃高度が高くなることから、ロフテッド軌道で飛翔する弾道ミサイルの迎撃がより確実になります。これを陸上イージスに搭載することで、ロフテッド軌道への対応能力が飛躍的に向上します。
 さらに、陸上イージス(LMSSRとSM3ブロックIIA)、イージス艦、PAC-3の組み合わせで、異種弾道ミサイル(注2)の多数同時発射への対応が、状況により可能となります。

(注1)ロフテッド軌道とは、弾道ミサイルの打ち上げ要領の一つで、通常よりも角度を上げて高く打ち上げる方法で、落下速度が速くなり、それだけ対処は難しくなります。
(注2)現在、様々なタイプの弾道ミサイルの多数同時飛来する場合の対処はある程度可能ですが、陸上イージスの導入により、より確実に対応できます。


Q3、陸上イージスの優れた点を教えてください。

 我が国が導入する陸上イージスは、世界最高水準の能力を有します。
 今回、導入する陸上イージスで注目すべきは、最新レーダーのLMSSRと日米が共同開発しているミサイル「SM3ブロックIIA」を採用することで生じる相乗効果です。
・最新レーダーLMSSRの探知距離は、イージス艦に搭載されている「SPY1」レーダーの探知距離よりも飛躍的に向上します。
 陸上イージスの取得価格がある程度高くなるのは、SPY1レーダーの代わりに高い能力を有するLMSSRを導入するからです。
・ミサイルの到達高度(射高)についても、現行の「SM3ブロックA」のよりも「SM3ブロックA」はより高く飛翔することができます。

 この能力差は圧倒的な差で、我が国の弾道ミサイル防衛に非常に大きな影響を与えることになります。

・この能力の高い最新レーダーLMSSRとSM3ブロックIIAが合体することにより、SM3ブロックAの能力を最大限に生かすことが可能となり、ロフテッド軌道で飛翔する弾道ミサイルの迎撃がより確実になります。この効果は絶大です。
 陸上イージスは、我が国の防衛体制の強化や日米同盟の強化に寄与できる非常に優れた装備品です。


Q4、なぜ、今、陸上イージスが必要なのですか?

 現在の弾道ミサイル防衛は、イージス艦のミサイルSM3とPAC-3ミサイルによる2層の防衛体制であり、改善すべき問題がありました。
 例えば、PAC-3は限定された地域をカバーする拠点防衛の装備品であり、狭い範囲の防衛はできるが広域の防衛はできないという点があります。
 また、イージス艦は、1日24時間365日、弾道ミサイル防衛対処のためにのみ日本海に張りつけていくわけにはいかないのです。
 東シナ海などへの対処などの任務にも就かなければいけないし、何よりも乗員の訓練、休息、艦艇の定期的な保守・整備が欠かせません。
 2017年を振り返ると、北朝鮮は多数の弾道ミサイルの発射を行ったが、海上自衛隊のイージス艦はそれへの対処のために長期間、日本海に張りつけとなりました。そのため、乗組員は休息が不十分で疲労は蓄積しました。
 陸上イージスが導入されると、海上自衛隊のイージス艦の負担が軽減され、運用を柔軟にすることができます。


Q5、陸上イージスは、2か所で日本全土をカバーできるって、ホントですか。

 日米で共同開発を進めている弾道弾迎撃ミサイルであるSM-3ブロックIIAは広いカバー領域を有し、日本国内の東西2カ所に配備すれば日本全域をカバーできます。
 この2カ所に配備された陸上イージスは、弾道ミサイル防衛の堅固な土台を構築することになるのです。
 陸上イージスが導入されると、1日24時間、1年365日の弾道ミサイル防衛の対処にあたることが可能になります。


Q6、イージス艦の負担軽減で、海上防衛力はアップするのですか。

 陸上イージスの導入で、イージス艦の負担が格段に軽減されます。
 イージス艦は、弾道ミサイル防衛だけではなく、本来の艦隊防空(航空機や対艦ミサイルを迎撃する任務)などの任務に従事することができるようになります。
 さらに、訓練の時間が確保でき、乗員の休息、艦艇の保守・整備も可能となり、我が国の海上防衛態勢が強化されることになります。
 また、米軍と互換性のある装備品を導入することで日米同盟が強化され、抑止力がさらに高まります。


Q7、陸上イージスは少人数で運用が可能、ホントですか?

 海上自衛隊のイージス護衛艦1隻当たりの乗組員は通常300〜310人必要です
 陸上イージスの場合、艦艇を動かすための乗組員を必要としないために、少人数で対応できます。
 武器システムを操作するための戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)で勤務する要員がいれば用が足ります。
 陸上型イージスは、システムを操作する最低限の人数という意味では十数名程度で動かすことができると言われており、3交替で合計数十名の要員で弾道ミサイルへの対処が可能となります。
 もちろん、システムを操作する要員だけでなく、基地施設の警備・防衛を担当する要員や、整備・食事の用意をはじめとする後方支援業務も必要になりますが、これらの要員をカウントするにしても約200人程度と考えられ、イージス・アショアの運用に必要な人数はイージス艦と比較すれば少なくなります。


Q8、米朝首脳会談後の「緊張緩和の流れ」に逆行するのではないですか?

 マスコミの一部は、米朝首脳会談で、「陸上イージス 導入ありきは許されない」「ようやく芽生えた緊張緩和の流れに逆行する」と言っています。確かに、金正恩委員長が朝鮮半島の完全な非核化への意思を示した意義は大きいものの、その認識は甘いと思います。
 なぜならば、6月12日の米朝首脳会談から数か月が経過し、一時的に緊張緩和ムードが漂いましたが、北朝鮮による非核化に向けた具体的な行動は何もありません。
本気で、北朝鮮が非核化の意思があるのか否かが、不明です。
 当然ながら弾道ミサイルも化学兵器や生物兵器も廃棄されていないのです。
 現在、北朝鮮には核兵器と弾道ミサイルは存在するのです。
 日本に直接の脅威となる短距離及び中距離弾道ミサイルを保有している状況に全く変化はなく、日本に対する脅威は厳然としてあるのです。
 米朝首脳会談以降の緊張緩和ムードに流されることなく、安全保障の鉄則である「最悪の事態に備える」という態度が、今の日本には求められているのです。


 Q9、我が国周辺の安全保障環境の中で、陸上イージスは必要ですか?

 我が国を取り巻く安全保障環境は世界の中で類を見ない厳しい環境です。
 北朝鮮は、「日本を火の海にする」「日本を沈没させる」と脅迫してきており、こうした状況で、我が国の周辺国が反対したとしても、我が国が自らの安全保障に関する決定を行うことは当然のことです。そもそも陸上イージスは、我が国に向けて発射されるミサイルに対処するものであり、我が国にミサイルを発射するつもりのない国が警戒したり反対する必要はないはずです。
 陸上イージスは、我が国の防衛体制を強化し、日米同盟を強化する非常に有効な手段であり、装備化が遅滞なく実現することが必要なことなのです。


Q10、陸上イージスは高価すぎるとの批判がありますが?

 マスコミの一部に「陸上イージスは高価すぎる」との批判がありますが、事実はどうなのかを検証してみましょう。
・陸上イージス2基と最新イージス艦「まや」型2隻の比較
 陸上イージス2基と最新イージス艦「まや」型2隻の費用を比較すると陸上イージスの方が安価であるという計算結果になります。
 防衛省が発表した「陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)の構成品選定結果について」で示された米国政府等が提案した経費ですが、

(1)陸上イージス1基の取得経費(注3)約1340億円  2基の取得経費2679億円

(注3)レーダーを含む陸上イージス構成品購入費に加え、運用開始までに必要な初度費、補用品費、技術支援費)

(2)教育訓練に係る経費(注4) 約31億円

(注4)初度要員養成費に限る。

(3)30年間の維持運用経費(注5) 約1954億円

(注5)陸上イージスの導入後、30年間の維持・運用に必要な経費。

 結論としては、2基の取得経費に教育訓練経費と30年間の維持・運用に必要な経費の合計額=(1)+(2)+(3)=約4664億円となります(注6)。

(注6)合計額については、レーダーの選定過程において判明しているものに限っており、今後、具体的な施設整備費等、必要となる経費についても順次、見通しを立てた上でライフサイクルコストを算出していくことになる。

 この30年間の合計額4664億円を公表したために、「非常に高価」だという印象を与えましたが、一方、イージス艦「まや」型2隻の経費はというと、

(1)イージス艦「まや」型1隻の取得経費 約1680億円 2隻の取得経費3360億円
(2)2隻の30年間の総経費(ライフサイクルコスト) 7000億円
 結論として30年間の総経費で比較した場合、
・陸上イージス2基で4664億円、
・イージス艦「まや」型2隻で約7000億円となり、

 陸上イージス2基の方が安価であるという結論になります。

 なお、上記のコストの中にはSM−3ミサイルの取得経費は入っていません。SM−3ミサイルはイージス艦にも陸上イージスにも搭載できるミサイルであり、相互に融通できることから、陸上イージス専用のミサイルがあるわけではなく、ミサイルの取得経費を陸上イージスのコストに含めることは妥当ではないと考えています。実際、イージス艦「まや」型の総経費である約7000億円の中にもミサイルの取得経費は含まれていません。

 また、陸上イージスは、多くの部分を米国のFMS(対外有償軍事援助)の枠組みで調達をすることになるので、価格の高騰を心配する者が多いのも事実です。
 防衛省が発表した陸上イージスの総経費は、米国政府や企業から提案された価格をあくまで示したものであり、これが確定した経費ではありません。実際、防衛省が発表した平成31年度概算要求では、陸上イージス1基あたりの取得経費は、約1237億円となっており、米国政府等が提案した価格(約1340億円)から約103億円を低減させました。
 防衛省は、引き続き、米国政府や企業と十分に調整して、FMSの問題点の是正に十分な対処をし、努めて安価に陸上イージスの取得を目指します。

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2018年08月09日

翁長沖縄県知事の死去と僕

 翁長沖縄県知事の死去した。

 僕と翁長氏とは、1998年(平成10)2月に行われた名護市長選挙を一緒に戦った同志だった。

 当時、普天間基地移設で、名護市が基地を受け入れるか否かで市民投票が行われ、比嘉鉄也名護市長が、総理官邸の橋本龍太郎総理に面会し、「海上ヘリポートの受け入れ及び市長辞任の意向」を伝え、名護市長選挙が行われることとなった。
 そのときに、当時の野中幹事長代理に「田村君、名護市長選挙のために沖縄に行ってください。今回は、先の市民投票の失敗を踏まえ、中央からの国会議員と沖縄県でも選挙区以外の国会議員にも入ってもらわないから、よろしく頼む。」と言われて、名護市長選挙を戦った。
 その時の自民党沖縄県連の幹事長が翁長氏だった。
 名護市長選挙は、全国注目となり、開票結果は、岸本氏が当選した。
 これは、新聞一面トップ、テレビもトップニュースで伝えた。

 大苦戦だった選挙が勝利となり、僕と翁長氏は抱き合って喜んだ。

 その後、沖縄県では、大田知事で、自民党は野党だったために、僕が定期的に沖縄自民党に足を運び、中央情勢を伝え、飛行機運賃や高速道路運賃の低減など、沖縄県連と一緒になって、具体的な政策を実現していった。

 その後、翁長氏が那覇市長に出馬表明し、そのときに、自民党沖縄県連の嘉数会長も出馬に意欲を見せていた。二人出たら共倒れになる。
 そこで、その調整を、故・末次一郎氏に託されて、僕が現地で調整し、それが、翁長氏一本化に役立った。

 翁長氏は、見事、那覇市長に当選した。
 翁長那覇市長とは、東京の自衛隊のイベントで、よくお会いしていた。

 それがあるとき、翁長氏が、沖縄県知事に「辺野古反対、共産党支持」で、出馬するとなった。
 そこで、僕は翁長氏側近に尋ねると、「田村さん、大丈夫。知事になったら現実志向に政策転換するから」と言うのだ。
 僕は、「共産党から応援してもらって、政策転換なんかできないよ。」と言った。

 結果は、僕の言う通りとなった。

 翁長氏は、なんとしても知事になりたかった。
 そのためには、どんな手段もいとわないと、なってしまった。

 翁長氏は、知事としての立場と本心の違いのなかで葛藤していたんだろう、と僕は思う。


 翁長さん、ゆっくりお休みください。
 お疲れ様。
 心からご冥福をお祈り申し上げます。


*詳しくは、僕の『平和安全法制の真実』(内外出版)の沖縄の部分をお読みください。  

shige_tamura at 10:44|PermalinkComments(0)clip!

2017年09月12日

第51回自衛隊高級幹部会同 安倍内閣総理大臣訓示(平成29年9月11日)

本日、我が国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するに当たり、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。
 九州北部豪雨の現場で、濁流に漬かりながら、人命救助や行方不明者の捜索に当たる諸君。豪雨が続く被災地では、避難される方々に寄り添い、心の支えとなりました。
 灼熱(しゃくねつ)のアデン湾、南スーダンで世界の平和と安全のため、黙々と汗を流す諸君。自衛隊の諸君の、高い使命感に裏打ちされた懸命な姿が、私だけでなく、多くの国民の瞼(まぶた)に浮かびます。

 北朝鮮による、我が国上空を飛び越えるミサイル発射や核実験という暴挙。
 自衛隊は、発射直後から落下まで、ミサイルの動きを、切れ目なく完全に探知・追尾していました。速やかな放射能調査により、国民の安全を確認しました。北朝鮮がミサイル発射の検討を表明した時には、即座にPAC−3部隊とイージス艦を展開させました。県民の安心につながった。迅速な対応に感謝する。島根、広島、愛媛、高知の知事からの言葉です。
 国民の負託に全力で応え、与えられた任務を全力で全うする隊員諸君。国民から信頼を勝ち得ている自衛隊員は、私の誇りであります。

 同時に、我々は、信頼に応える責任の重みを、噛(か)み締めなければならない。南スーダンの日報問題をめぐっては、国民の皆様から大きな不信を招く結果となりました。最高指揮官として、国民の皆様に、おわびを申し上げたいと思います。

 真に国民のための自衛隊たれ。自衛隊創設以来のこのすばらしい理念を、今一度、しっかりと胸に刻み、国民の負託に応えていく。最高指揮官たる私自身が、先頭に立って、皆さんと共に全力を傾けたいと思います。

 かつて、東西冷戦構造の下では、脱脅威論、すなわち、目の前の脅威に直接対抗しない、という考え方が、我が国の防衛政策の中核でありました。しかし、厳しさを増す我が国の安全保障環境を前に、我々は、目の前の現実に、真正面から向き合わねばなりません。
 安全保障政策を立て直す。この信念から、10年前、国の防衛という国家の最も基本的な権能を担う組織の、在るべき姿として、防衛省を設置しました。二次政権発足後、国益を長期的視点から見定め、我が国の安全を確保していくため、我が国初となる国家安全保障戦略を策定し、その司令塔として国家安全保障会議を設置しました。積極的平和主義の下、防衛装備移転三原則を策定し、さらに、限定的な集団的自衛権の行使を含む平和安全法制を制定、及び、新たな防衛協力ガイドラインを日米で合意しました。
 我が国を取り巻く安全保障環境の現実を直視するとき、これらの政策は、全く間違っていなかった。私はそう確信します。

 北朝鮮による、我が国上空を飛び越えるミサイル発射や核実験という暴挙。相次ぐ国籍不明機による領空接近。真正面から向き合い、こうした枠組みの下で、万全の対応をとらなければなりません。
 安全保障政策の根幹となるのは、自らが行う努力であります。自らの手で、自らを守る気概なき国を、誰も守ってくれるはずがありません。同時に、地域の平和と安定なくして、我が国の平和もあり得ません。

 我が国自身の防衛力を強化し、自らが果たし得る役割の拡大を図っていく。小野寺大臣には、防衛大綱の見直しと、次期中期防衛力整備計画の検討を指示しました。これまでの考え方を、所与のものとすることはできません。将来の在るべき防衛力の姿に思いを致し、これからの時代にも妥当性があるのかどうか、不断の検討を行っていくことが必要です。自衛隊が向き合う現実を、一番よく知るのは、今日、この場にいる諸君であります。
 現場からの忌憚(きたん)のない意見を積極的に提示してもらいたい。諸君の貢献に期待しています。

 国民の安全を守り、地域の安定を維持するためには、日米同盟の強化が不可欠です。助け合うことのできる同盟は、その絆を強くする。平和安全法制と新ガイドラインの下、日米の絆は、かつてない強固なものとなっています。北朝鮮が挑発行為を繰り返す中、その脅威を抑止しなければならない。
 今年、日本海で米空母2隻と史上初となる日米共同訓練を行いました。戦略爆撃機との共同訓練も重ねています。我々は、米国と共に防衛態勢と能力の向上を図るべく、具体的な行動をとっていかなければなりません。

 普遍的価値と戦略的利益を共有する国々との協力の強化も極めて重要です。今年、史上初めて、日本、米国、英国、フランスの4か国による共同訓練を行いました。インドと米国との3か国の共同訓練「マラバール」も、今後、恒常的に実施していきます。
 連携強化のインフラであるACSA(物品役務相互提供協定)についても、今年、豪州、英国との協定を締結し、フランスと締結交渉を開始しました。今後とも、戦略的な国際防衛協力を積極的に推進してもらいたいと思います。

 昨年、この場で、適者生存という言葉を紹介しました。生存競争において、勝ち残ることができるのは、最も力がある者ではありません。その環境に最も適応した者。すなわち、環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できた者であります。

 その一例として、自衛隊が新たな時代に適応できるかどうかの試金石は、女性活躍であると申し上げました。残念ながら、昨年、この場に女性の将官の姿はありませんでした。
今年は、近藤奈津枝さんが列席している。大変、うれしく思います。
 男性中心の働き方文化の改革。改革は、これで終わりではありません。
 新たな時代に適応する。自衛隊は、ここ数年、大きな組織改革、制度改革を積み重ねてきました。これらの真価を発揮させるには、より一層、一体的かつ機動的な組織文化へと、変革を遂げていく必要がある。

 国民目線を忘れず、全体を俯瞰(ふかん)しながら、柔軟に事に当たる。諸君の行動の一つ一つが、変革につながります。新たな組織と制度に、しっかりと魂を入れていってほしいと思います。

 そして、最高指揮官たる内閣総理大臣と、防衛省、自衛隊が、一体となって、事に当たることができるよう、常に心を砕いてほしい。そう思っています。

「只今がその時、その時が只今なり」

 江戸時代の武士、山本常朝(じょうちょう)の「葉隠(はがくれ)」に記された言葉です。常日頃から、備えを万全とするために、不断に自己を磨く。

 国際情勢は、一層複雑化し、私たちが望むと望まざるとに関わらず、激変を続けています。昨日までの平和は、明日からの平和を保障するものではありません。

 こうした状況の変化を、しっかりと見定めながら、あらゆる事態に備え、国民の命と平和な暮らしを守る。この崇高な任務に対し、いかなる困難にもひるまず、強い使命感を持って、たゆまぬ努力を続けていただきたい。

 国民の生命・財産、領土・領海・領空を断固として守り抜く。最高指揮官である私を含め、一人一人が、国民の負託に応えるため、全力を尽くしていかねばなりません。諸君と共に改めてそのことを誓いたいと思います。

 私と日本国民は、常に、諸君を始め全国25万人の自衛隊と共にあります。その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。


平成29年9月11日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣   安倍 晋三


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2017年06月29日

自衛隊に関するよくある間違い――「自衛隊は捕虜にならない」はウソ

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<文・自民党政務調査会審議役・田村重信>

 自衛隊の国際法上の位置づけ

 前回、「安倍首相の改憲発言を議論する前に押さえておきたい憲法と自衛隊の基礎知識」で、「自衛隊は憲法上、軍隊ではない」と申し上げました。

 では、「自衛隊の国際法上の位置づけ」はどうなっているのでしょうか。

 自衛隊は、憲法上、必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の厳しい制約を課せられております。通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします。〈中山太郎外務大臣答弁・衆議院本会議・平成2(1990)年10月18日〉

 この答弁にあるように国際法上は、自衛隊は軍隊として取り扱われているわけです。つまり、自衛隊は国際法上、軍隊として扱われる一方で、日本国内では、軍隊ではなく、「自衛隊」と呼称するというように、二重の扱いがなされているのです。

 だから、この自衛隊の位置付けは、憲法と安全保障政策上の問題として、憲法改正をめぐる議論のポイントになっているのです。


 国際法上、自衛隊は捕虜になれない?

 この点をみなさん、よく誤解しています。例えば、月刊『文藝春秋』(2015年11月号)の「保守は『SEALDs』に完敗です」という対談で、元SEALDsの奥田愛基氏が、「現状、自衛隊は軍隊ではありませんから、自衛官は、万が一拘束された時に国際法上の捕虜にもなれません」と発言しました。

 ジュネーブ諸条約の一つである「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーブ条約(第3条約)」には、第4条Aで次のように書かれています。

 この条約において捕虜とは、次の部類の(1)に属する者で敵の権力内に陥ったものをいう。
(1)紛争当事国の軍隊の構成員及びその軍隊の一部をなす民兵隊又は義勇隊の構成員

 自衛官は国際法上は軍隊として扱われますから、戦争で捕まれば捕虜になります。これについては次のような政府見解があります。

「自衛隊は、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、自衛権行使の要件が満たされる場合には武力を行使して我が国を防衛する組織であることから、一般にはジュネーブ諸条約上の軍隊に該当すると解される」

 以上のことから、自衛官が捕虜になった場合は、ジュネーブ諸条約上の捕虜として扱われるという結論になるわけです。


 自衛隊は「捕虜になれない」という誤解はなぜ起ったのか

 ではなぜ、奥田氏は「捕虜になれない」などと発言したのでしょうか。それはきっと、平和安全法制が国会で議論されている際に、PKOの時に自衛隊が捕まった場合にはどうなるのかとの質問に対し、外務大臣が「捕虜になりません」と答えたのを文字通り受け取ってしまったからでしょう。

 しかし、これはそもそも前提が全く違います。自衛隊は、戦争でPKOに行くわけではないので、ほとんどそのようなことは想定されておらず、捕虜にならないのは当然です。だから、外務大臣はそう言ったわけです。

 もっと詳しく言えばこういうことです。重要影響事態法及び国際平和支援法によって自衛隊が他国軍隊に対して後方支援を行う場合、我が国がそのこと自体によって紛争当事国になることはないことから、そのような場合に自衛隊員が国際人道法上の捕虜となることはない。ただしその場合であっても、国際法上、適正な活動を行っている自衛隊員の身柄が少なくとも普遍的に認められている人権に関する基準並びに国際人道法上の原則及び精神に則って取り扱われるべきことは当然である、というわけです。


 マスコミは憲法と自衛隊の関係を正しく理解して報道すべき

 このような初歩的な誤りに気付かず掲載してしまうマスコミ編集者にも問題があります。どうしてこうした誤りが生まれるのでしょうか。それは、奥田氏も編集者も、憲法と自衛隊に関する政府の公式な見解をキチンと踏まえていないからです。憲法と自衛隊の関係についての基本中の基本がみんなわかっていません。

 日本は憲法9条の建前から言えば戦力は持てない。だから日本には通常の観念で考えられる軍隊がないということになる。では日本の独立はどうやって守るのだ。自衛隊である。自衛隊は必要最小限度の実力組織だからよしとなる。

 では国際法上の評価は? 国際法上は自衛隊は軍隊として扱われる。それはすなわち捕虜としても扱われるということ。ただし、外国に行ったら軍隊だから外国の軍隊と同じように活動し、武器の使用ができるかというと、これはまた違う。「武力行使と一体化しない」というようにする等、日本国憲法の制約の中で法律を作っていくから非常に厄介な仕組みになっている。

 日本の安全保障法制を論じる場合、このような基礎知識をキチンと理解していない誤った議論が非常に多いのです。マスコミ関係者も、必要最小限度の安保法制を正しく理解しないと読者をミスリードすることになります。
 
 しかし、一番の問題は、当のマスコミ関係者や憲法学者などがこうした安全保障法制に関して、正しい政府見解を理解しようとすらしないことなのです。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)

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安倍首相の改憲発言について議論する前に押さえておきたい「憲法と自衛隊」の基礎知識

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<文・自由民主党政務調査会審議役・田村重信>

 自衛隊と憲法について論じる時の大事なポイント

 憲法改正について、安倍首相が9条1、2項を維持して「自衛隊を明記」する案について発言後、改憲議論が加速しています。これについて、与野党の政治家や憲法学者、評論家、マスコミが賛否を述べています。議論することは悪いことではありません。安倍首相はいい問題提起をされたと思います。

 私は、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わってきましたが、自衛隊と憲法の関係について議論する上で大事なポイントがあります。私は慶應義塾大学大学院法学研究科で安全保障講座の講師も15年間務め、日本の大学院生だけでなく、中国・韓国などからの留学生にも教えていました。そこでは、最初にそのポイントを学生たちに伝えていました。

「主義信条や考え方の違いはあるだろうが、好き嫌いを別にして政府の公式な考え方、解釈がどういうものなのかをきちんと押さえることが大事だ。それを勉強しないで、俺はこう思うと言ったって、それは学問ではない。まずそれぞれの事実関係と経緯を押さえておくことが必要だ」

 特に憲法と自衛隊の関係については、歴史的経緯も含め、まず政府の考え方をきちんと押さえた上で、多方面からの議論をしましょうと心がけておりました。

 中国や韓国からの留学生らも、「自分の本国で聞いている話と、田村先生がおっしゃっている話、違うよ。でも、田村先生のお話が正しいね」という具合に、だんだんと理解してくれるようになりました。事実を正しく伝えることがいかに大事なことなのか、私も教えられました。


 自衛隊は軍隊か?

 まずは自衛隊の位置付けですが、これすら国民に正しく理解されていません。日本の大学には安全保障の講座がほとんどなく、良質な専門書も少ない。だから政治家や新聞記者、テレビのコメンテーターなどもよく間違えています。

 自衛隊は軍隊かどうかという疑問を投げかけると、回答者の半数くらいは「軍隊」と答えます。しかしこれは間違いです。自衛隊は軍隊ではありません。

 憲法と自衛権の関係について考える基本は、憲法第9条がいかに解釈されているかを理解することです。日本国憲法は第9条に、「戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定」を置いている。つまり、憲法第9条第2項によれば、我が国は「陸海空軍その他の戦力」を持つことができないとされているわけです。

 政府も、「自衛隊が軍隊であるか否かは、軍隊の定義如何の問題」としながらも、「自衛隊は、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課されており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものであって、憲法第9条第2項で保持することが禁止されている『陸海空軍その他の戦力』には当たらない」としています。


 自衛隊は「必要最小限度の実力組織」

 では、自衛隊は一体何なのか。何に基づいて存在する組織なのか。このことに関する政府解釈は以下になります。

 憲法第9条第1項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められているところであると解している。
〈森清議員提出質問主意書に対する答弁書、昭和55(1980)年12月5日〉

 第9条はもとより、「我が国が独立国である以上、この規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではない」というのが政府の見解です。そして、「我が国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上禁止されているものではない」としています。

 したがって、自衛のためには、「必要最小限度の武力を行使することは認められている」ということになります。


 独立国には自衛権がある

 そうした議論の前提として、そもそも日本は独立国である――サンフランシスコ講和条約の発効によって、1952年に独立を回復した――という厳然たる事実があるわけです。

【 サンフランシスコ講和条約第5条】
連合国としては、日本国が主権国として国際連合憲章第51条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有すること及び日本国が集団的安全保障取極を自発的に締結することができることを承認する。

 この事実を踏まえると、日本は独立国で固有の自衛権を持っている、つまり自分の国を守るという権利はあるのだという理路に行き着きます。だから、自分の国を守るための必要最小限度の実力組織を持つことは、憲法に何ら反してはいない、その組織が自衛隊です、というのが先の政府解釈です。


 キーワードは「必要最小限度」

 重要なのは「必要最小限度」という言葉です。これがキーワードと言っていいでしょう。先述の森清議員提出質問主意書に対する政府の答弁書では憲法第9条第2項について、

「憲法第9条第2項は、『戦力』の保持を禁止しているが、このことは、自衛のための必要最小限度の実力を保持することまで禁止する趣旨のものではなく、これを超える実力を保持することを禁止する趣旨のものであると解している。」

 としており、これは「必要最小限度」以下の実力であれば保有が認められ、それを超えると憲法違反となるということを意味しているのです。

 つまり、自衛隊は我が国を防衛するための「必要最小限度」の実力組織であるから、憲法に違反しないというロジックなのですね。ただし、必要最小限度という範囲を超えると、憲法第9条第2項で禁止する戦力になってしまいます。

「政府は従来から、自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、憲法第9条第2項によって禁じられていないと解しているが、性能上専ら他国の国土の潰滅的破壊のためにのみ用いられる兵器については、これを保持することが許されないと考えており、たとえば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母みたいなものは保有することは許されない」と解されています。


 現実を学び、それを踏まえて活発な議論を

 その他にも、自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力行使を超える行為はことごとく禁じられており、その中には「いわゆる海外派兵(武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること)の禁止」などがあります。

 ですから、政府解釈も自衛隊が通常の観念で考えられる「軍隊になる」ことを当然ながら認めてはいません。

 この議論は古くから行われてきたものですが、佐藤栄作首相が昭和42(1967)年3月31日に「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁して以来、定着してきたものと言えます。

 なんかややこしいですけれど、これが政府の解釈なのです。

 でも、決して詭弁などではない。いうなれば、「必要最小限度」という言葉によって、時の政府はいわく言い難い「生の現実」を、何とか表現しようとしたのではないでしょうか。

 私に言わせれば、自分の国と自国民の命と財産を守るという議論において、観念論は不要です。あくまで現実に即し、現実に立脚した考え方で国と国民の安全を確保しなければなりません。その意味で政府解釈は、自国にとって常に有形無形の脅威が存在するという、リアルな現実を反映したものになっている。そう評価していいでしょう。

 誤解しないでもらいたいのですが、私は理想を語ることを否定しているわけではありません。ただ、現前の風景を直視することなく、単に「俺はこう思う」と言ってもしょうがないでしょう。現実を学び、そのことをきちんと踏まえて議論する必要があるということです。

【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)

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2017年06月28日

小学校で教えられていなかった「自衛隊の本当の役割」

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  ヤフーニュースに僕の記事が出ました。好評です。

小学校で教えられていなかった「自衛隊の本当の役割」――永田町の安全保障のエキスパートが解説


 6月20日、平成32年度以降に導入される小中学校の学習指導要領解説書の全容が判明したが、自衛隊の本来の任務について、小学校では今まで教えられていなかったという事実が明らかになった。

 解説書とは指導要領の内容を具体的に説明するもので、教科書会社の編集方針や教師が授業を行う際の手引きになる。

 実は、今まで小学校の学習指導要領と解説書には、役割どころか「自衛隊」という言葉自体どこにも出てこなかった。それでも教科書では、例えば6年生の社会科の教科書には自衛隊が登場しているが、自衛隊の任務については災害派遣やPKO活動だけしか取り上げられていなかった。

 今度の指導要領の改定で、「自衛隊」については、小学校4年生の社会で登場することになったが、災害派遣の活動にしか触れられていない。そのため解説書で、自衛隊について「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と本来の活動について明記することになったのである。

 この自衛隊の任務について、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案などに関わった、永田町きっての安全保障のエキスパートである自民党政務調査会審議役の田村重信氏に話をうかがった。

◆自衛隊の「主たる任務」とは

 私はかつて慶應義塾大学大学院の安全保障講座で教えていましたが、PKOの講義をする時に、大学院生に、「君たち、PKOって分かるか?」と質問したら、誰も分かりませんでした。事実です。法学部政治学科の学生でも習っていないのは恐るべき話です。

 また、東日本大震災が起こったとき、「自衛隊は災害派遣で一生懸命やってくれて、非常に素晴らしいと思うし、感謝もしています。だけれどこれからは憲法を改正して、戦争できるようになるんですか? そのことについては反対です」という人がいました。

 しかし、災害派遣は自衛隊の「主たる任務」ではありません。では、自衛隊の主たる任務とは何か? 自衛隊の任務は、自衛隊法第3条に明記されています。

<自衛隊法 第3条第1項>

 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。

 自衛隊の主たる任務は「我が国を防衛すること」です。その下に、「防衛出動」(第76条)、「防御施設構築の措置」(第77条の2)、「防衛出動下令前の行動関連措置」(第77条の3)等の規定が置かれています。これらの内容は、まさに国を守る措置ということにほかなりません。

 つまり、自衛隊の一番大事な任務はまさに国を守ること、端的にいえば武力の行使(いわゆる国家・国民のために戦うこと)なのです。

 きれいごとや言葉での脚色を抜きにして語れば、武力を行使して我が国を守ることこそ自衛隊の一番大事な任務だということを忘れてはなりません。

 もちろん戦争が起こらなければ一番いいわけですけれども、他の国から明らかな侵略行為を受けた場合は、自国を守るために武力によって対抗しなければなりません。その武力を行使することが、自衛隊の一番大事な任務なのだということです。

◆災害派遣は「従たる任務」

 その後に書かれている「必要に応じ、公共の秩序維持に当たる」ことは「従たる任務」です。その中に「災害派遣」「国民保護等派遣」「治安出動」「治安出動下令前に行う情報収集」「警護出動」「海上における警備行動」「海賊対処行動」「弾道ミサイル等に対する破壊措置」「地震防災派遣」「原子力災害派遣」「領空侵犯に対する措置」「機雷等の除去」「在外邦人等の保護措置」等があります。

 次に同条第2項です。

<自衛隊法 第3条第2項>

 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。

1 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動。

2 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動。

 第2項で示される「従たる任務」についてですが、これは「主たる任務の遂行に支障を生じない限度」で、「別の法律の定めるところにより自衛隊が実施することとされるもの」です。その中には「後方地域支援等」「国際緊急援助活動等」「国際平和協力業務等」があります。「後方地域支援」というのが、「重要影響事態安全確保法」に関わるものです。そして、「国際平和協力活動」が国連のPKO活動などです。

 その他にも、自衛隊にはさまざまな役割が課せられています。たとえば「土木工事等の受託」「教育訓練の受託」「運動競技会に対する協力」「南極地域観測に対する協力」「国賓等の輸送」といった付随的業務は、自衛隊法第8章(雑則)で規定され、また、「不発弾等の処理」については、自衛隊法の附則に規定されています。

 自衛隊について教育現場では、今まで冷静かつ客観的な立場から教えられてきたとは残念ながらいえません。これは戦後教育の弊害でした。今回の指導要領と解説書の改定によって、自衛隊の「主たる任務」「従たる任務」について、小学校から適切に教えられるようになればよいと思います。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】

自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)


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2017年06月27日

加速する憲法改正論議――党本部重鎮が語る自民党の青写真

憲法施行70年の節目を迎えた5月に、安倍首相が憲法改正について「2020年の改正憲法の施行」「自衛隊の憲法明記」を発言したことで、今、にわかに憲法改正論議が加速している。

 自民党憲法改正推進本部は6月6日に会合を開き、改憲項目として「自衛隊の明記」「教育の無償化」「緊急事態条項(大災害時を念頭に衆院議員の任期を延長する緊急事態条項の創設)」「参議院選挙区の合区解消」の4つを例示した。自民党は9月にも憲法改正案をまとめ、公明党などと調整の上、最終案を決定し、来年1月の通常国会で憲法審査会に提案するという。

 今後の改正論議をリードしていくと思われる自民党の真意と改正スケジュールについて、湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案などに関わった永田町きっての安全保障のエキスパートである自民党政務調査会審議役の田村重信氏に話をうかがった。


 まったく進まなかった憲法改正論議

 安倍首相はその発言の2日前、5月1日に開催された超党派の議員たちの会合でも、憲法改正について、「機は熟した。今求められているのは具体的な提案だ。理想の憲法の具体的な姿を、自信を持って国民に示すときで、しっかりと結果を出さなければならない」と述べ、「憲法改正を党是に掲げてきた自民党の歴史的な使命ではないか」と訴えています。

 今まで国会の憲法審査会では、野党の意見も聴きながら進めようとしてきましたが、まったく議論が進みませんでした。特に憲法9条の改正については、各政党の間ではどうしても賛否が分かれてしまいます。そこで、9条についてはいったん横に置いて、多くの議員の賛同を得やすいと思われる緊急事態条項などから議論していこうとしていました。

 しかし、よく考えてみれば、民進党はいまだ独自の憲法改正草案を提案できていません。また、日本国憲法の制定当時は天皇条項と9条に反対していた、かつての改憲政党の共産党は、今では憲法を一言一句変えてはいけないという姿勢であり、これではお話になりません。最初から野党の意見を聞いていたら無理です。

 「自衛隊は違憲」議論が生まれる余地をなくすべきだ

 平和安全法制が成立しましたが、最近の北朝鮮のミサイル問題や中国の動向なども考えると、「自衛隊は違憲」などと言っている場合ではなくなるでしょう。自衛隊は国内では軍隊ではありませんが、海外へ出れば国際法上、軍隊とみなされます。また、海外でPKO活動を行い、国内外で災害が起きれば活動する自衛隊を、国民の多くが評価しています。それにもかかわらず、多くの憲法学者や政党の中には、「自衛隊は違憲」とする議論が今なお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任に思います。

 安倍首相は、特に憲法9条に関して、「『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」と述べています。国家と国民のために時には命がけで活動する自衛隊に応え、憲法に「自衛隊を明記すること」は、政治の責任ではないでしょうか。憲法改正で一番大事なのは「自衛隊を明記すること」であることを明確にしたかったから、安倍首相はこの発言をされたのでしょう。


 9条2項改正ではなく自衛隊を憲法に「明記」する意味

 憲法改正は国民投票で過半数の賛成を得なければできませんが、その前にまず衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成がないと発議できません。そうすると、もちろん自民党単独では発議できず、連立与党の公明党、そして憲法改正に熱心な日本維新の会にも憲法改正論議に乗ってもらいたい。そういうことを政治的に考えれば、安倍首相のあのような発言は「アリ」だと思います。

 なぜか。それは今回の安倍首相の発言内容は、「加憲」を主張する公明党の考え方とやや似ているからです。また、安倍首相は5月3日のメッセージでもう一つ、「高等教育についてもすべての国民に真に開かれたものとしなければならない」と述べ、日本維新の会などが提案している教育無償化を盛り込むことにも前向きな考えを示しました。まずは、国会で憲法改正に賛成する勢力をきちんと固めることが大事だと考えたのではないでしょうか。

 そもそも自由民主党は昭和30(1955)年11月15日の結党以来、「憲法の自主的改正」を「党の使命」に掲げてきた政党です。しかし、今までは自民党の中でも、憲法改正を進める勢力は大きくありませんでした。その中で、第一次安倍政権下で憲法改正のための詳細なルールを定めた国民投票法が成立しました。そして、再び自民党総裁に返り咲いた安倍首相は、旗印の一つに憲法改正を掲げています。自民党は党の使命を果たすために、安倍首相が中心になって憲法改正を進めていくことになるでしょう。

 安倍首相は、自民党が2012年に公表した憲法改正草案について、「そのまま憲法審査会に提案するつもりはない。柔軟性を持って現実的な議論を行う必要がある」と述べています。今までは「9条2項改正」だったので、今回の安倍首相の「9条1項、2項を残して、自衛隊を明記する」という改正案は、自民党内からも異論が出ています。でも、別に変えてもいいのです。それについて議論すればいいのですから、安倍首相はいい問題提起をされたと思います。憲法改正を進める上で、自民党の中でまず議論し、公明党、維新の会とでコンセンサスを得るというのは、当然のことでしょう。

 憲法改正に向けて議論をはじめよ

 野党は平成2016年7月10日の第24回参議院議員通常選挙で、改憲勢力が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を取ることを阻止する方針を掲げました。しかし結果は、非改選も含め、改憲に前向きな自民党、維新の会、日本のこころを大切にする党の3党と無所属、「加憲」を掲げる公明党の合計議席が、憲法改正発議に必要な3分の2に達しました。

 私は湾岸戦争以来、すべての安保法制に関わってきましたが、安保法制はすべて公明党との協力で成立してきました。政治とはさまざまな意見をまとめることですから、それぞれの政党が妥協しなければなりません。にもかかわらず、憲法審査会はなかなか開かれませんでした。今回の安倍首相の発言は、憲法改正に向けた議論をしなければならないというメッセージにもなったのです。


 今後の憲法改正のタイムスケジュール

 憲法改正には政局の安定が必要です。現在、「安倍1強」と言われていますが、これはある意味、政局が安定しているということです。政治家は学者や評論家と違います。現実に政治を考えて、結果を出さなければなりません。

 今後の憲法改正のタイムスケジュールですが、以下が考えられます。

<2017年>
◎年内に改憲項目を絞り込み。
<2018年>
◎通常国会で憲法改正原案できる。衆参両院でそれぞれ3分の2以上の賛成で発議。
◎国民投票は発議後60〜180日の実施が規定。
◎9月、自民党総裁選。
◎12月、衆議院議員任期満了。
<2019年>
◎国民投票が行われる可能性。
<2020年>
◎改正憲法施行。

 2018年9月に自民党総裁選がありますので、安倍総裁が再選されれば、内閣改造をするでしょう。12月に衆議院議員の任期満了ですから、その前に安倍総理が解散すれば、憲法の国民投票と衆議院総選挙が同時に行われる可能性が考えられます。憲法改正と総選挙を同時に行うことで、争点が明確になり、憲法改正の可能性が一気に高まると思われます。もちろん政治は生き物ですから、あくまでも現時点での私の予測です。

 国民投票は否決されたらそう簡単にやり直せませんが、それはルールだから仕方ありません。ですから、国民の多くが納得できる案を提案していく必要があるのです。


【田村重信(たむら・しげのぶ)】
自由民主党政務調査会審議役(外交・国防・インテリジェンス等担当)。拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー。昭和28(1953)年新潟県長岡市(旧栃尾市)生まれ。拓殖大学政経学部卒業後、宏池会(大平正芳事務所)勤務を経て、自由民主党本部勤務。政調会長室長、総裁担当(橋本龍太郎)などを歴任。湾岸戦争以降のすべての安全保障・防衛政策の策定・法律の立案等に関わる。慶應義塾大学大学院で15年間、日本の安保政策及び法制に関する講師も務めた。防衛法学会理事、国家基本問題研究所客員研究員。著書に『改正・日本国憲法』(講談社+α新書)、『平和安全法制の真実』(内外出版)他多数。最新刊は『知らなきゃヤバい! 防衛政策の真実』(育鵬社)


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