2013年06月03日

小野寺防衛大臣スピーチ(全文)シャングリラ会合2013

日本本












『日本の防衛政策』(田村重信編著、内外出版)『日本の防衛法制』(田村重信他編著、内外出版)を出版。この二冊とも増刷となりました。
よろしくお願いします。

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

 シャングリラ会合2013・小野寺防衛大臣スピーチ

■2013年6月1日(土)
 第2全体セッション「国益の防衛:紛争の予防(Defending National Interests; Preventing Conflict)」


 はじめに

 チップマン所長、ご来賓の皆様、

 アジア太平洋地域で、伝統あるこのシャングリラ会合でお話しをする機会を頂いたことを、大変うれしく思います。IISS(国際戦略研究所)およびシンガポール政府の皆様に、深い感謝の意を表します。

 御承知の通り、日本では昨年12月に自民党を中心とする新政権が発足し、私が第12代の防衛大臣となりました。
 私の故郷は、2011年3月に発生した東日本大震災により壊滅的な被害を受けた、宮城県の気仙沼というところです。私の自宅も両親の家も、津波の被害を受けました。
 私も、被災地の方々と避難生活を送っておりました。震災後に皆様頂いた様々なご支援、励ましに、この場を借りて、改めて感謝を申し上げたいと思います。

 未曾有の大震災が発生してから2年以上が経ちます。
 その間、気仙沼を含む被災地の人々は、震災がもたらした被害や悲しみに決して屈することなく、復興に向けた力強い努力を続けてまいりました。

 昨年12月に誕生した新政権も、「強い日本を取り戻す」、このことを合言葉に、さまざまな取り組みを行っております。
 例えば、経済面では、大胆な金融緩和を含む「アベノミクス」と言われる政策を打ち出し、その結果、日本の経済は再び上昇気流に乗りつつあります。
 今、まさに日本は安倍総理の下で、「強い日本を取り戻」しつつあります。

1.強い日本の復活に向けて

 強い日本とは、経済の面で国際社会を牽引する役割を担うことだけではありません。
 地域の安全保障分野においても、我が国が担うべき役割を責任を持って果たし、国際社会で強力なリーダーシップを発揮することが「強い日本」に求められています。

 我が国としては、我が国の防衛力の態勢強化が地域の平和と安定の強化に不可欠であると考えます。このため、日本政府は既に2013年度予算において、11年ぶりに防衛費を増額し、8年ぶりに人員を増強致しました。

 また、厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、自衛隊の即応性を向上し、我が国の領土・領空・領海を断固として守り抜くという観点から、また日米同盟を一層強固なものにするという観点から、そして国際的な安全保障環境の改善にも一層貢献するという観点から、現防衛大綱の2013年中の見直しを現在行っております。

 さて、我が国では、現在、官邸機能を強化し、不測事態への迅速な対応とより長期的な外交・安全保障政策の立案を可能とするために、日本のNSC(国家安全保障会議)の創設に関する検討を行っております。

 また、自衛隊が国際社会における役割を果たしていく上で必要となる法制面での検討や、集団的自衛権を含めた憲法をめぐる議論も進めております。

 ご列席の皆様、近年、こうした我が国の取り組みをもって、日本の「右傾化」を指摘する声もあります。
 また、日本が「平和国家」としてのアイデンティティを捨てて、既存の国際秩序への挑戦を試みているという批判も聞きます。
 しかしながら、このような見方は全くの誤解であります。先に述べた様々な議論や取組は、我が国が地域の安定に向け、より能動的かつ創造的な貢献を行うことを目的としたものであります。
 それは、我が国の国益である、自由と民主主義、そして法の支配に基づく国際秩序の維持・強化のために行われているものであり、そうした国益を追求する上で、欠かすことのできない取組であります。
 戦後一貫して追求してきた我が国の国益は、狭義の自国利益のみならず、国際秩序の維持・強化という、国際社会全体の利益と合致するものであります。

 先日来、日本の野党の一党首、国会議員でなく、地方都市の市長でありますが、日本の過去の歴史に関し、不適切な発言を繰り返し、周辺諸国に誤解と不信を招くということがありました。

 安倍政権は、そのような発言や歴史認識に与するものではありません。安倍内閣は、先の大戦においてアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明するという、歴代内閣と同じ立場を引き継いでおり、私自身も、同様の認識であります。
 こうした認識に立った上で、未来志向の国際協調の関係各国との協力を進めて参ります。

2.ASEANとの協力

 未来志向の国際協調の具体例として、ASEANとの協力を挙げたいと思います。

 ミャンマーの例を見てわかるように、民主主義や人権、そして法の支配といった普遍的価値観は、今やASEAN諸国の中でも支持が拡がりつつあるところであります。こうしたことから、先般、安倍総理はインドネシアにおいて「対ASEAN外交5原則」を発表し、自由と民主主義、法の支配などは普遍的価値の実現と経済連携ネットワークを通じた繁栄を目指し、ASEANの対等なパートナーシップとして共に歩んでいく姿勢を鮮明にしました。また、本年は日・ASEAN友好協力40周年に当たることもあり、我が国はASEANとの関係強化に向けた更なる取組を行っております。

 ASEANとの協力に関しては、特に以下の3つの点を重視しております。

 第1に、海洋におけるルール・規範の確立・遵守です。
 我が国は、南シナ海における行動規範の策定に向けた、ASEAN諸国の努力を積極的に支持します。また、UNCLOS(国連海洋法条約)を中心とする海洋法、中でも特に「航行の自由」の大原則を維持するために、各国との協力の下、可能な限りの役割を果たしていきたいと考えております。

 さらに、ルールというものは最低限の規範であり、これを守るだけでは時に相手の意図を誤解するような事態も起こりえます。よく知られる中国の諺に、君子は「瓜田に屨を入れず、李下に冠を正さず」という言葉があります。これは、よきマナーを身につけた人は、相手に疑われたり怪しまれたりする行為を、あえて行わないという意味です。海上において誤解に基づく予期せぬ衝突や紛争を予防するために、海上の現場で、よきマナーとしての「グッドシーマンシップ」を推進してまいります。

 第2に、ASEANを中心とした制度的アーキテクチャの強化です。
 我が国は、ARF(ASEAN地域フォーラム)、ADMMプラス(拡大ASEAN国防大臣会議)といったASEANを中心とした枠組みが、地域諸国の間の協力と透明性の向上に果たしてきた役割を高く評価しており、今後とも積極的に貢献していきたいと思います。
 例えば、我が国はADMMプラスにおける防衛医学EWGの共同議長国として、今月ブルネイで開催される、ADMMプラスHADR・防衛医学合同演習の準備に主導的な役割を果たしてきました。ADMMプラスの枠組みとして初の実動演習であり、また米国や中国を始めとした地域の諸国が部隊参加をする今回の多国間演習は、ASEANを中心とした制度的枠組みが単なる「対話の場」から、具体的な「協力の枠組み」へと変化したことの証です。

 今後もこうした試みを推進することで、地域諸国間に「協力の習慣」と「共通の秩序感」を醸成していくことが必要であると考えておりますが、その基礎となるのが、お互いを理解し、予測可能性を高めるための、各国軍事力の透明性の向上、それに向けた努力であることを指摘したいと思います。

 第3に、安全保障分野での能力構築支援を挙げたいと思います。
近年我が国では、関係省庁が一体となって、ASEAN諸国の安全保障分野での能力構築支援に取り組んでおります。

 これまで外務省はODAの戦略的活用により、また海上保安庁はASEAN諸国の海上保安機関との連携訓練等を通じて、ASEAN諸国の海上保安能力の強化を図ってまいりました。防衛省は、これまでベトナムにおける潜水医学セミナーの実施やPKO分野におけるベトナム軍関係者の研修、カンボジアでの道路構築等の施設分野に関する人材育成事業、そしてインドネシアでの海洋気象業務セミナーの実施など、ASEAN諸国から高い評価を受けている活動を続けております。

 こうした試みは、ASEAN諸国の「強靱性」を向上し、ASEANの中心性と一体性を基盤としたアジア太平洋地域の安定を維持する上で、きわめて重要だと考えております。同時に、こうした協力は、我が国の強い経済力と、より機動的な安全保障政策に裏打ちされたものでなくてはなりません。

 ASEANを推進力とした域内秩序の安定にとって、強い日本の復活は決定的に重要な要素です。我が国としては、こうした取組を、同盟国や友好国と協力しながら行っていきたいと思います。

3.米国のアジア太平洋への関与と日本の国益

 御列席の皆様、自由と民主主義、そして法の支配に基づく国際秩序を維持する上で、米国は重要な役割を果たしてきました。
 米国のアジア太平洋地域における軍事プレゼンスは、地域における不測事態に対する抑止力として機能するのみならず、安定的な国際環境を作り出すことで、すべての地域諸国に対話と協調の機会をもたらしており、地域の平和と安定を確保する上で必要不可欠なものであります。

 その意味で、我々は、米国のアジア太平洋地域への「リバランス」を歓迎します。米国のリバランスにおいて、同盟国や友好国の協力は欠かせません。我が国としては、米国のプレゼンスを積極的に支え、共にアジア太平洋地域の安定に向けて努力致します。

 また、現在我が国は、今後の安全保障環境の下で、地域の平和と安定を維持するとの観点から、日米ガイドラインの見直しを始め、両国の役割分担に関する検討を進めております。

 さらに我が国は、韓国や豪州といった価値と利益を共有する国との協力を深めることで、自由と民主主義、そして法の支配に基づく国際秩序の創造に向けた取組を強化してまいります。

4.紛争の予防に向けた取組

 さて、ここで本日のテーマでもある「紛争の予防」についてお話しをしたいと思います。

 御承知のとおり、アジア太平洋では資源や領土をめぐって多くの対立が存在し、その対立の中には、軍事的衝突まで発展しかねないものもあります。我が国としては、このような対立や緊張を、制度やルールの網の目に組み込むこと、そして暴力ではなく、話し合いによって危機を回避するような秩序を作っていくことが重要だと考えております。

 例えば、現在、我が国も周辺国との間に緊張が生じております。しかしながら、我が国は事態のエスカレートを避けるため、抑制的な対応を維持しております。同時に、我が国は大局的な観点に立ち、不測事態の回避・防止を強く望んでおり、そのための努力は惜しまない覚悟です。

 具体的には、海上連絡メカニズムのような、周辺国との危機管理体制の構築に向けた早期の協力が重要だと考えています。危機時における双方の行動の予測可能性を高めることは、偶発的な事故を防ぐ効果を持っております。我が国として、一日も早い危機管理メカニズムの構築を望むところであります。そして、我が国と周辺国との建設的な努力の結実が、紛争の予防に向けた国際社会のモデルケースとして取り上げられることを願ってやみません。

 また、北朝鮮による核・ミサイル開発は、地域及び国際社会全体の平和と安定に対する重大な脅威であり、断じて容認できません。我が国は、米国や韓国を含む関係国と連携しながら、北朝鮮に対し、一連の安保理決議を誠実かつ完全に実施し、いかなる挑発行為も行わず、非核化に向けた具体的行動をとるよう引き続き求めてまいります。

 北朝鮮による拉致問題は、我が国の主権及び国民の生命と安全に関わる重大な問題であり、基本的人権の侵害という国際社会全体における普遍的問題です。この問題の完全解決に向け、各国の理解と協力をお願いしたいと思います。

おわりに

 御列席の皆様、独善的な自国の利益の追求や、他国の利益を顧みない外交・防衛政策は、必ず破綻に陥ります。そのことを、我々は先の大戦の経験から学びました。

 我が国は平和国家として、日本のみならず、国際社会全体の利益とも共鳴する国益の追求を求めてきました。そうした姿勢は、今後とも変わることはありません。

 日本が強くあることは、まさしくそうした法の支配に基づく国際秩序の維持・強化という目標を追求する上で、必要不可欠なことであります。我が国は、諸外国との協調と連携の下、引き続き国際社会に開かれた国益の追求と紛争の予防に向けて、積極的な役割を果たしていきたいと思います。

 最後に、IISS及びシンガポール政府の努力により、ここシャングリラホテルにアジアを始めとする各国の国防代表の皆さんが一同に会して率直に対話を行えることを心から喜ばしく思います。日本は、中国を始めとするアジア諸国、ヨーロッパ諸国、もちろんロシアを含めた国々と対話を通じ、アジアに調和に満ちた真の理想郷、真の「シャングリラ」を実現することを目指し、そのために努力をしていきたいと思います。

 ご清聴、ありがとうございました。

shige_tamura at 16:28│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
ランキング一覧

人気blogランキング

人気blogランキングに参加しました。
応援よろしくお願いします。
月別アーカイブ
最新コメント