2012年06月22日

アメリカは海洋条約を批准するのか?(横江公美氏)

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へリテージ ワシントン ニュースレター No.46
横江 公美 アジア研究センター 2012年6月21日  

 アメリカは海洋条約を批准するのか?   
 

 連邦議会での、海洋条約(海洋に関する国際連合条約)に関する議論が注目を集めている。この条約は、通称LOST(Law of the Sea Treaty)と呼ばれている。

 日本、中国、ロシアなどすでに160カ国が批准しているが、アメリカは批准してこなかった。その最大の理由は、アメリカの海洋における主権が侵害される、という懸念である。

 レーガン大統領が批准に反対して以来、海洋条約の批准の議論は、忘れ去られたような位置づけになっていたが、最近、中国が海洋資源の開発に積極的になっていることと、海洋資源開発をめぐる技術開発が進んだことで、海洋条約の批准が注目を集めている。

 議会では、いつも以上に大物が公聴会に呼ばれている。

 5月23日に行われた上院外交委員会は、ヒラリー・クリントン国務長官、レオン・パネッタ国防長官、マーティン・デンプシー陸軍大将(統合参謀本部長)が、公聴会で証言した。

 公聴会のタイトルは「The U.S. National Security and Strategic Imperatives for Ratification(米国の国土安全保障と国家戦略における海洋条約の不可欠性)」であり、この公聴会は賛成派の意見を聞く機会になっていた。

 クリントン長官が主張したように条約賛成派の最大の理由は海洋資源開発への遅れへの懸念である

 そのため、最近では、資源開発に関わる産業や団体が、批准の必要性を訴える全面の新聞広告を打っている。 

 6月14日には、レーガン政権下で、批准反対をとりまとめたラムズフェルト元国防長官が登場した。

 ラムズフェルト元国防長官は、条約が特定の紛争解決などわずかな利益を与えることは考えられると認めつつ、条約批准のために十分説得力のある説明がない。これまでの体制で問題なくやってきたのに、なぜ利益が少なく害を及ぼす可能性のある条約を批准するべきなのか、と反対している。

 現在、条約批准の権限を持つ上院は、オバマ大統領率いる民主党が優位にいるので、公聴会だけ見ると、賛成派が多いように思われるが、実際は、両者の意見は均衡しているようだ。選挙を前にしてオバマ大統領は何が何でも経済を上向きにしたい。

 その1つが海洋条約の批准と見られる。
 だが、そんな状況にあっても、海洋条約を批准するかどうかの投票は、選挙以後に持ち越されるとの見方が強い。

 ヘリテージ財団は、海洋条約の批准に反対している。 

 先日も、ヘリテージ財団の姉妹組織であるヘリテージ・アクションが、ラムズフェルド元長官を先頭に海洋条約批准反対の趣意書を連邦議員に提出していた。

 ヘリテージ財団のDistinguished Fellowでレーガン政権下で司法長官を務めたエドウィン・ミース三世は、海洋条約はアメリカやその他先進国と開発途上国を同列に置くことで、ただ乗り(Free Riding)を許してしまい、結果としてアメリカの主権を脅かすので反対すべきであると主張している。

 海洋条約には、国際海底管理局(International Seabed Authority)があり、海底資源からの利益の一部を徴収して貧しい国に分配する役割を持っている。この収益がキューバなどのアメリカに敵対する国に行く可能性もあるからだ。

 またヘリテージで海洋条約の専門家でラムズフェルト元長官と同様に公聴会で証言したスティーブン・グローブス研究員は、考えられる利益よりもコストの方が大きく、この条約には致命的な欠陥があると批判している。国際海底管理局に徴収される利益の一部だけでなく、根も葉もない訴えに晒された場合のコストも含まれる、とグローブスは主張する。

 またヘリテージ財団では、多数の国が参加する国際機関の有効性に疑問を抱いている。とくに利益の徴収と分配については、これまでの他の多くの国際機関のプログラムがそうであったように、資金の使い道等に関する監視体制が弱いことを問題視している。

 海洋条約の行方は今のところ不透明である。
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キャピトルの丘

 海洋条約の議論を見ると、アメリカの連邦議員は、投票までのあいだ、「政局」に時間を費やすというより、「勉強」に時間を当てている。

 連邦議会で議論される内容、そしてどの法案をとりあげるかは、委員会の委員長が決めることが多い。

 小委員会で議論・投票、そして委員会、最後に本会議というものもあるし、委員会から始まるものもある。どこから始まるかは、議会内の阿吽の呼吸だと言われれている。

 現在、上院は民主党が優位を握り、下院は共和党が優位を握る。この構造は、委員会、小委員会の人的配置にも相関的な影響を与えているので、前者はオバマ大統領の意向にあった法案を好み、後者は反オバマ色が強い議論が行われている。

 そたのめ、海洋条約の議論では、民主党寄りの意見が公聴会で多く見受けられる節はある。

 だが、議員が、かなり長い間、真剣にひとつのテーマを勉強するというシステムは、非常に興味深い。

 ヘリテージ財団だけではなくそれぞれのシンクタンクも独自に海洋条約についての研究を行い、議員やスタッフに研究結果を提示し、議論の下支えをしている。

 法案によっては、「議員はもう少し勉強したほうがいいから、今回は法案が通らないほうがいいな」なんていう声はキャピトル周辺ではしばしば耳にする軽口である。

 日本では、「議員がもっと勉強したほうが良い」という概念がない。
 残念なことに、「議員が勉強する」という概念がないと言っても間違いではないほどだ。

 もちろん、日本の議員にお会いするとよく勉強されていると思うことは多い。
 だが、議会のシステムに「議員が勉強する」というシステムがうまく組み込まれていないのではないかと思う。

 そのため、政局に終始している印象が残ってしまう。

 消費税増税についての反対者と賛成者が大小の委員会に呼ばれ、話をする。そしてその模様はテレビやネットで生中継され、そして、文章としても議会のページに残る。

 海洋条約の議論を見ていると、議論を支える研究者や研究機関、そして、それを見せて蓄積するアーカイブ環境が日本には足りないように思われる。


横江 公美
客員上級研究員
アジア研究センター Ph.D(政策) 松下政経塾15期生、プリンストン客員研究員などを経て2011年7月からヘリテージ財団の客員上級研究員。著書に、「第五の権力 アメリカのシンクタンク(文芸春秋)」「判断力はどうすれば身につくのか(PHP)」「キャリアウーマンルールズ(K.Kベストセラーズ)」「日本にオバマは生まれるか(PHP)」などがある。

shige_tamura at 09:54│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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