2011年07月14日

「政治と安全保障」講演録(田村重信・12)

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 1997年4月14日(月)「防衛庁防衛研究所一般課程研究員研修(防衛庁防衛研究所・東京)」で講演したものです。


◇沖縄問題と駐留軍用地特別措置法の改正

 次に、特措法の改正問題の動きについての話をする。

 今度の駐留軍用地特措法という法案は、どういう意味合いのものであるのかというと、それは、わが国が日米安保条約の当事国として当然に果たさなければならない義務の履行に万全を期し、もって、国際社会における信用を維持するうえで是非とも必要なものである、ということである。

 この法案というのは、現に駐留米軍の用に供している基地等の使用期限を更新するために政府が最大限の努力を尽くしてもなお、その使用期限までに収用委員会での審議その他、必要な権利を取得するための手続きが完了しない場合には、収用委員会の裁決により使用の権利が確保されるまでの間に限り暫定的にその土地等の継続使用ができるようにすることである。
 そして、合わせてこの土地及び、これにより土地所有者等が受ける損失について、適正な保障を確保するということが内容である。

 だから、あくまでも公正中立な立場にある収用委員会が審議を尽くして、裁決をするまでの間のいわばつなぎの措置を定めるものであって、収用委員会の権限を狭くしたり、その審議手続きに制限を加えたりするものではない、という内容である。

 この特措法の動きは、国内政局の大問題となったわけで、これによって日米安保はどうなるのか、それから沖縄の心はどうなるのか等々、いろいろ言われたわけである。
 まさに日米安保共同宣言によって日米安保体制、日米同盟の重要性という事が再確認されたわけである。
 それは、沖縄の少女暴行事件によって日米安保がかなり揺らいだということも影響してた。さらに、特措法問題と言うわけである。

 また、特措法の改正問題で一つクローズアップされたのが、沖縄の海兵隊削減問題であった。
 特措法問題をうまく処理するために、海兵隊を含む米軍兵力のあり方を議論するという問題を日米間で事前に合意する、ということであった。
 兵力のあり方を議論するという言葉については、日米安保共同宣言の中にすでに入っていた。
 にも関わらず、特措法改正案を成立させるために、海兵隊の削減問題を新たになんとかできないかという沖縄県の要望に応える形で、日本政府の一部にこうした動きがあったわけである。
 それが、米国側の反発を受けて、「海兵隊の削減は求めない」ということになったわけである。

 これは当然の話であり、わが国の周辺情勢、とくに北朝鮮の食糧事情の悪化などもあり、朝鮮半島の情勢がかなり厳しくなっている事から、現時点で海兵隊を云々すること自体が、北東アジアの安全保障を考える上では大きなマイナスであったわけだ。

 日米安保共同宣言、沖縄米軍基地問題のことを考えた場合に、一番大きな問題は普天間飛行場の返還問題だった。
 この問題が非常に象徴的だった。
 この問題がうまくいったからこそ、橋本首相の国民世論の支持率が一気に上がったわけである。
 そこで、政府部内の一部には今回も普天間飛行場の返還のようなクリーン・ヒットがあれば、いいのではないか!というふうに考えていた節があった。

 しかし、実際はそうはならなかった。
 まさに、今回はそれで良かったんだと思う。
 やはり安全保障を考えるということは、わが国の周辺情勢がどうなっているのかということを、まずきちんと把握しておくこと、そのことが何と言っても重要なわけである。
 そこのところを踏まえないで、ただ海兵隊削減ということだと、外部に対してそういう問題をにおわせるようなことで、不適切で、誤ったシグナルを発信する結果になり、日本が不安定な状況を作り出すことになるわけである。

 特措法改正について、新聞報道とかマスコミ報道を見ていると、本当にどうなるだろうかと心配になる。
 しかし、私は最初からこの問題については、楽観していた。
 どうして楽観していたかと言うと、この法律の正式な名前は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第六条に基づく施設および区域ならびに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法の一部を改正する法律案」という名前にあるように、まさにこの法律というのは、日米安保体制というのをしっかり守るということなのである。
 日米関係というのは、これからも重要なものであり、その点が一番のポイントになっている。

 そうすると、新進党の小沢党首はこの法案に反対できないだろうと、基本的には思われるわけだ。
 というのは、日本の安全保障を考えた時に、日米安保体制と日米の協力関係は重視しなければいけないわけだから、今回の改正案よりも国の権限を強くした特別立法的な法律を作るにしても、現実問題を考えると今、急には特別立法を成立させることはできない。
 したがって、理想論を言っていれば現実は改善されないわけであり、現状の日米安保体制がおかしくなってもいいのか、ということになってしまうわけである。
 だから、そういう意味では最終的には「日米安保体制及び日米関係が重要」と言うことなり、その結果、小沢党首をはじめとした新進党なども賛成に回ることが予想される。
 その結果、それなりの賛成多数が見込まれて、特措法改正案は国会を通るのではないだろうかと、私は思ったわけである。

 政治部の記者さん達と議論すると、今回の特措法などの政策問題でも、どうしても政局でものごとを判断する関係で、政治的に見れば、自民党の中に「保・保」の動きがあるとか、「自社さ」連立政権の中で実権を握っている人とのせめぎあいがあるとか、というように見るわけである。
 すると、政策を政局で読もうとするため余計にわからなくなってしまうわけである。
 こうしたマスコミ報道によって、政策問題が分かりにくくなり、さらにややこしくしている、というわけである。だから、国民もよく分からないわけだ。

 それから、例えば沖縄の心というような感情的な話をするが、土地を持っている人のほとんどが米軍基地にその土地を了解して貸しているわけである。
 これは数で言えば、沖縄の米軍基地には約三万二千人の地主がいる。
 その地主の約九〇%にあたる二万九千人の大部分は既に、二〇一二年までに賃貸契約を結んでいて、なんら問題はないわけである。

 ところが、五月一四日に期限が切れる約三千人、これが反戦地主として賃貸契約に反対しているわけで、その地主の数というのは全地主の九・一%となる。
 面積で言えば、十万分の一となる。
 それから、これらの地主のほとんどが、一万円の入会金を払って反戦地主会に入って、四筆の土地を共有している人たちで、その半分近くが沖縄以外の本土に在住している人々である。

 それが問題になったのは、嘉手那飛行場とか普天間飛行場の滑走路などの重要地点に集中してひしめきあっている関係から、これがもしも、期限が切れてしまうと、楚辺通信所の知花さんみたいに米軍基地、今度は滑走路に立ち入ることにでもなれば非常な混乱が予測されるということになるわけだ。

 だから、例えば三月二十五日に、実は沖縄の自民党県連と、契約している沖縄の地主さん二万九千の代表者が意見交換をしている。
 そこで、地主の人たちは「特措法の改正はやむを得ない」「できるだけ継続して使用したいということであれば、契約地主たちはやはり提供していきたい」ということを言っているわけである。
 さらに「沖縄県議会が反戦地主二千九百六十名だけの権益を守るという特措法反対決議はよく理解できない。地主の大多数は、二万九千人いるわけですから、その権益はだれが守るんだ」というわけである。 沖縄の心と言われても、実は反戦地主とそうでない地主の比率がどうなっているのかと言った事実、そうした点などもよく考える必要がある。

 大田知事は革新の知事であり、米軍基地が沖縄から全てなくなることを望んでいる、といったことなどの本質がなんとなく曖昧になり具体的に論じられなくて、ただ単に沖縄の心と言った感情的なことだけが前面に出て、この問題を感情的なものとして複雑にかつ難しくしているところがある。

 特措法というのは、日米安保体制を大事にするのか、日米関係をどう考えるかという、いわば踏み絵みたいなところがあったと思う。
 だから私は、日米関係を重視する新進党は反対できないと思っていたわけである。

 自民党は野党の時に、責任野党ということで一生懸命に建設的な政策提案を行ってきた。
 例えば、自民党内で経済・景気対策の提言を作ったら、当時の橋本龍太郎政調会長と私は何度か総理官邸に行って、細川首相に直接、「これは自民党で作った考え方で、規制緩和はこうだ」と説明をした。
 そして、「受け入れてもらう用意があれば特許使用料はいらないから、どんどん政府としてやってくれて結構だ」「それが国民のためになるのだから」ということを我々は言ってきた。

 例えば、邦人救出のための自衛隊法の改正についても、政府がなかなか社会党との関係があって出せないという時には、我々の方から率先して議員立法という形で国会に出したこともあった。
 それは、結局、これからの連立政権における野党というのは、建設的な政策提案をしなければいけない、五五年体制の時のように単に批判政党・抵抗政党であってはいけない、と言うことを実践してきたわけである。

 ところが新進党は、住専処理の時には国会で座り込みをするなど、ずっと抵抗野党でやってきたわけである。
 そこで、新聞記者の人達と話している時に、「自民党は、野党の時の僕らは建設的な政策提言をやってきたよ」と教えるわけである。
 だから、「特措法の問題なんか、いち早く新進党は賛成と言っちまった方がプラスで、与党の方が逆に困っちゃうんだから」「どうせみんな最後は反対できないんだ」ということを言っていた。結局、最終的には橋本首相と小沢党首の会談によって、新進党が特措法改正案に賛成するということになったわけである。

 社民党はやはり、今までの関係から、沖縄社民党との関係を重視し、また、どうしても建て前をひきずっていたり、スローガン政党的なものがあり、言葉として「集団的自衛権」とか「有事法制」というのは駄目というスタイルがある。
 ところが、極東有事の問題が一九九六年にクローズアップされた時などは反対しなかったわけである。

 やはり、社民党という政党は「沖縄に行けば、沖縄の言っていることをそのまま中央にもってくる」。
 「北海道に行けば、北海道の言うことをそのまま持ってくる」。
 例えば、沖縄での一〇四号線県道越えの米軍の射撃訓練があり、これを本土に移設しなければならないという話がある。
 自民党は、そのために北海道に行って沖縄のために「受けてくれ」と頼むわけである。それを社民党は言わない。地元が反対と言ったら「そうだ、そうだ」と言うわけである。
 沖縄では、「基地の本土移設に賛成」と言いながら、米軍の射撃訓練が移設される北海道や山梨などで「反対」するわけだから、全体的に考えると整合性が取れないわけである。

 ところが、北海道の社会党(現在の社民党・民主党)は地元の自衛隊が削減されるということになると、「それは困る」と言うわけである。
 「それは、地元の地域経済に影響を与えるから」と言うわけである。
 結局、部分的に見れば社民党の主張は常に正しいわけであるが、しかし、国家全体から見ると、整合性が取れないところがあるわけだ。
 さらに、そこには肝心な安全保障問題が抜けている。
 今回の沖縄の県道一〇四号線越えの米軍実弾射撃訓練問題でも、こうした事が言えたわけである。

 それから、海兵隊の問題で言えば、民主党も言っているが、「有事駐留」という主張について、これは一九九七年四月八日に米国のキャンベル国防次官補代理が民主党本部で鳩山代表と菅代表に会って、「在沖縄米兵力について民主党が掲げる常時駐留なき安保政策には問題がある」、「これは紛争が起きた時の対応は二次的要素で、プレゼンスそのものが抑止になっている」と批判したということが新聞に報道さていた。
 「有事駐留」と言うなら、米軍がいなくなった後に「自衛隊を増強するのか」、ロシアや中国の保有する核兵器に対して「日本が核武装するのか」、「非武装中立で行くのか」、その時の「周辺諸国の反応は」、と言った点についても明確にする必要があるわけだ。まさに「有事駐留論」というのであれば、具体的な国の防衛政策の内容を国民に明らかにしなければならないわけである。
 その点が民主党の悩みとなって、安保論議を暫く棚上げにしたこともあった。

 これからは、そういう意味においても安保論議を、きちんとやっていく必要がある。


◇将来の世界経済はどうなるか

 今後の政治と安保問題をどう考えればいいかということだが、それにはまず、世界の経済の中で日本としてどう考えたらいいのか、そのへんについても少し工夫して見る必要がある。

 それは、経済審議会の「二十一世紀世界経済委員会報告書」というのがあって、「進むグローバリゼーションと二十一世紀の課題」というものが発表された。

 それには世界経済の長期展望ということで、世界の人口は途上国を中心に増加すると書かれている。
 二〇一〇年には中国、インド、インドネシアの三国で世界の四割の人口を占めるということである。

 次にGDPの問題では、世界全体のGDPの成長率は一九七〇年から九〇年は、年平均三・三%。それが、一九九〇年から二〇一〇年は、年平均三%に低下するということである。
 問題なのは、先進国は二・四%、日本はもっと低くて二・二%。途上国は四・九%。
 東アジア地域では、二十一世紀に入っても東アジアは七・七%。それからNIESが六から七%へ。ASEANが六から八%。それから、中国は八%台だと言うわけである。

 この結果、世界のGNPに占めるアジアの割合は上昇し、日本を含むアジアの世界経済における割合は、一九九〇年においては二五・四%であったのが、二〇一〇年に三一・〇%になると予測している。
 しかし、北米は二七・四%。EUは二九・七%から二一・六%ということで、それぞれのシェアが減るということになる。

 それから一人あたりのGDPの伸びは、アジア地域で大幅な伸びが見込まれている。ASEANは三倍、中国は四倍となっている。しかし、日本は一・五倍となっている。確かに母数は違うが、それにしても中国は四倍ということである。アジアの時代ということが、ここでもハッキリと言えるわけである。
 世界経済の中で、アジア地域の大幅上昇が見込まれている。
 NIESは先進国並になる。先進国と途上国の格差が若干縮小するけれども、途上国間の格差は拡大するようである。アフリカではむしろ、先進国との格差はさらに増大することになる。

 それでは、問題点と懸念材料は何かというと、一つは為替の問題、二つ目に高齢化の進展がある。
 それはやはり、経済の発展との関連から、それぞれの貯蓄率にも関係してきている。三つ目は、環境、エネルギー、食糧の問題が非常に大きくなる。
 世界経済の拡大というのは当然、地球環境への負荷、エネルギー、食糧の供給面での制約をもたらす可能性がある。当然、エネルギーの確保問題というのが出てくる。

 そうすると必ず、中国とか東南アジアなどの経済成長の著しい国々は、エネルギー・石油の問題が発生してくる。

 そうすると、石油をめぐって中東の問題というのをこれから考えていかなくてはならないことになる。
 今後は、中東政策を重視していく必要があるわけだ。
 各国では、この問題についてはすでに真剣に取り組んでいる。最近、日本の中東への関心はやや落ちているようであるが、これからは、そこを日本としてキチンとした対応をしなくてはならないわけである。
 もう一つこの関連では、石油の輸送が問題となる。
 当然、安全保障上のテーマはシーレーン防衛となるわけだ。

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