2010年10月06日

自民党総裁・谷垣禎一衆議院議員代表質問(その2)

三、経済財政運営

 次に、経済対策・補正予算についてお伺いします。
 政府・与党は、補正予算について、野党との意見交換を重視する姿勢を示されています。しかしながら、中国漁船衝突事件における検察当局への抱き付き同様に、補正予算の編成まで抱きつき、責任を野党に負わせようということであれば、拒否いたします。

 より端的に申し上げます。自民党は、中長期の財政健全化目標を盛り込んだ財政責任法を三月に提出しましたが、その具体的手段である税制抜本改革についても、我々が政府・与党であった時代に、二十三年度までに法案を提出するというスケジュールまで盛り込んだ二十一年度税制改正法附則第百四条を成立させております。

 これらの事情を前提としてわが党が主張する補正予算案の規模・財源は、いわば財政責任に裏打ちされたものと自負しております。他方、政府の方は、お得意の抱きつき戦術で「財政運営戦略」においてわが党と同様の財政健全化目標を示しはしたものの、拘束力の程度に疑問があるほか、消費税を含む税制抜本改革に対するスタンスが曖昧であるが故に、達成手段のない目標に堕している印象が否めません。

 そうした状況のままでは、仮に政府・与党が我々の提案する補正予算の内容・規模・財源を丸呑みしていただいたとしても、政府で実行される段階では財政規律に欠けたバラマキと言わざるを得ず、しかも我々がそのバラマキの片棒を担がされた格好になり、到底耐え難いことです。

 そこで我々は、補正予算の協議の大前提として、まず財政について共通の認識に立つ必要があると考えており、前国会で店晒しにされた財政責任法の速やかな成立を求めたいと思います。この点に関する菅総理の考えをお聞かせ下さい。

 次いで、二十一年度税制改正附則第百四条についてお伺いします。私が本年六月の代表質問でそのスケジュールを遵守されるか伺った際には、二十三年度末の期限ギリギリになって扱いをどうするか検討するようなことを述べられましたが、すでにこの法律の規定が政府を拘束している中、その誠実な執行の義務を負うべき内閣の総理大臣の答弁としては不適当と考えます。この規定に則って政府が対応するべきということは、わが党の財政責任法の中核的内容でもあり、今後の財政運営について協議していく際の信頼関係の大前提と考えます。改めてこの規定に則って対応するか否かを明確に答弁下さい。

 更に必要なことは、先の総選挙における民主党マニフェスト及びその後の二十二年度予算編成を始めとするこれまでの民主党の財政運営に対する総括であると考えます。
 まず、民主党にはいまだに政治主導で無駄遣いの根絶に取り組めば必要な財源が何兆円も捻出できるという幻想が存在しているようですが、民主党政権になってから一年経ったのですから、できるのであれば実行できる立場にある以上おやりになればよいし、できなければできないと認めるべきだということに尽きます。財源捻出も順調だと参院選では言っていたのに、なぜ急に財源なき場合などと言説をすり替えるのでしょうか。まずは国民に謝罪すべきでありませんか。総理の見解を求めます。

 具体的に申し上げます。
 総理の所信表明演説ではいまだに「強力に無駄の削減を徹底」などと記されていますが、民主党は、そもそも先の総選挙のマニフェストで「国の総予算二百七兆円を全面組み替え」と称して、十六.八兆円の財源を生み出す、そのうち九.一兆円は無駄遣いの根絶で生み出す、と主張されました。ところが、あの事業仕分けでさえ達成とされた歳出削減はわずかに一兆円程度であり、国の総予算二〇七兆円なるものは、二十二年度予算編成で逆に二百十五兆円に膨れ上がったのが実情です。

 こうした経験を経て、さすがの民主党の諸君も無駄遣いの根絶・総予算の組み替えといった議論の限界と現実に気付いたのではないかと期待していたのですが、先の代表選になって、小沢元幹事長が「政治主導で予算を組めば、無駄は大いに削れる」という趣旨のご主張を再びなさり、小沢元幹事長を支持する議員の多くが地元や公共の電波で同様の主張を繰り広げたことには正直驚かされ、かつ呆れました。

 そこでご提案申し上げます。
 それは、菅総理が「四百十二人内閣」とおっしゃるからには、概算要求から自ら作った二十三年度予算編成を言い訳無用のラストチャンスとして、民主党の総力を結集して挙党態勢で無駄遣いの根絶・総予算の組み替えに取り組んでいただき、そのプロセス・結果、更には結果に対する責任を全員で共有していただきたいということです。与党である民主党議員全員が財政の現実を知ることこそが、地に足が付いた議論を行うための前提となると考えます。

 ただし、チャンスが一度きりであることは申し上げるまでもありません。
 我々は、その先にあるのは民主党マニフェストの総括・撤回でしかないと思っておりますが、ここでは三点をお伺いしておくに留めたいと存じます。
 まず、今般の代表選で小沢元幹事長の陣営が主張した、無駄排除により何兆円もの財源を捻出できるという主張に対する総理の改めてのご見解と、そうした主張に与する議員が多数存在する民主党の現状について、財政に対する理解度という観点からの評価をお聞かせ下さい。例えるなら、無駄排除による財源捻出といういわば攘夷論の限界を内心悟ったと思われる菅総理は、この攘夷派の主張をいかにお考えか伺いたく存じます。

 次に、特会仕分けを始めとするこの秋の行政刷新会議の事業仕分けではどれだけの歳出削減を見込み、二十三年度予算ではトータルでどれだけの歳出削減を見込んでいるのか、現段階でのお考えをお聞かせ下さい。併せて、来年度から予定されている基礎年金の国庫負担の二分の一への引上げを先送りすることや、国の会計間の資金移転や赤字の付け替え等の邪道に頼ることなく新規公債発行額を二十二年度の四十四.三兆円以下に抑えることも、改めて約束できますでしょうか。

 最後に、私の提案のとおり、二十三年度予算編成では「四百十二人内閣」の総力を挙げて無駄排除に取り組んでいただく代わりに、二十三年度予算編成におけるその成果をもって、無駄遣いの根絶による財源捻出という民主党マニフェストのシナリオそのものに区切りを付け、実現できなかった部分があれば潔く謝罪・撤回するという作業に入っていただきたい。これは解散総選挙に値することでもありますが、そうしたプロセスを設けることを約束いただきたいのですが如何でしょうか。

 なお、代表選でマニフェストの着実な履行を求める小沢元幹事長の陣営を菅総理の陣営が打ち破ったことを契機にして、なし崩し的にマニフェストの見直し・修正が図られていくとすれば、国民との契約を破棄する際の取扱いとしてはあまりにぞんざいに過ぎます。国民との約束である以上、その総括・見直しこそ、目に見える公開のプロセスで第三者を交えて大いに議論を行う必要があると考えています。
 マニフェスト施策こそ事業仕分けや政策コンテストの対象にして、その是非を検証すべきではないでしょうか。総理の見解を伺います。

 また、これに関連して地方向けの補助金改革について伺います。
 民主党政権になって国の総予算は膨らみましたが、これを検証していくと、マニフェストでは歳出削減の主力分野とも言える補助金が、それとは逆に二十一年度の四十九.〇兆円から二十二年度の五十三.七兆円へと四.七兆円も膨れ上がっていることが目立ちます。
 小沢元幹事長は、先の代表選ではこの分野の改革を強く主張し、ひも付き補助金の一括交付金化により三割から四割の削減を期待できると言われていました。菅総理も、減額すべきとの指示を閣僚に出されたと伺っています。節約すると言ったものが逆に増えたのですから、マニフェストとの関係では元に戻す以上の削減が必要となるのでしょうが、総理としては二十三年度にどの程度削減することをお考えなのでしょうか。また、地方団体は削減の方針に必ずしも前向きではないと聞いていますが、どのように説得されていかれるのでしょうか。明確な答弁を求めます。

 最後に、所信表明演説では、公務員制度改革にも言及されております。
 民主党マニフェストでは、公務員人件費については二割削減で一.一兆円を節約とされておりましたが、相変わらず達成の道筋が見えません。菅総理は代表選で、「国家公務員人件費の二割削減に向け、人事院勧告を超えた削減を目指す」と主張され、片山総務大臣もこうした深掘りに前向きと伺っています。

 問題としたいのは、その際の地方公務員の取扱いです。わが党は、政権担当時も地方公務員の人件費の削減の方針を示し、地方財政措置への国民負担の軽減を通じて、広く国民に還元してまいりました。先の参院選で民主党に対しては、「自治労などから支援を受ける民主党では、その既得権益を一掃する行革はできない」と批判いたしました。今回の深掘りは、民主党が支援労組の意向にかかわらず、国家公務員ひいては地方公務員の人件費削減に踏み切れるかの試金石と考えます。改めて今回の国家公務員人件費の深掘りとその地方公務員人件費への反映について方針を伺います。


四、おわりに

 イタリアの政治思想家、ニコロ・マキアヴェッリはその著書「政略論」においてこう述べています。「宗教でも国家でも、それを長く維持していくには、多くの場合本来の姿に回帰することが必要である」。それは「その創設期には必ず、何か優れたところが存在したはずだからである。そのような長所があったからこそ、今日の隆盛を達成できた」と。しかしながら「時が経つにつれて、当初にはあった長所も、次第にあせてくるものである」とも述べています。

 日本が今後世界の中でどう生き抜いていくのか。その為には戦後不死鳥のごとく蘇ったわが国の原点を考える必要があるのでしょう。ひいてはわが国の長い歴史を見つめ、その根源的な長所や美徳を把握し、それを礎として裏付けられたものこそ、今後のわが国の進むべき道ではないでしょうか。

 衆参の与野党逆転が生じた今、この国を導く国会のあり方が問われています。与党・野党、お互いの果たすべき役割は何なのか。国民のために何をなすべきか。議員各位は、なぜ国会議員になったのか。自らの原点に立ち返り、その時に抱いた志に恥じることが無いよう全力で職責を果たし合う。それこそが、まさしく今国民から必要とされている国会のあり方だと考えます。
 そのためには、総理、まず、あなたが、司法や官房長官などの他の閣僚、野党に責任を押し付けるのではなく、一国の総理、官邸の主として、指導力を発揮し、真実を国民に伝えなければ協力の仕様がありません。不毛な責任転嫁や権謀術数は不要です。
 私は、正々堂々、自らの信念に殉じ、本来自らに与えられた責務を果たすことによってのみ国民の負託にこたえてまいることを誓い、質問を終わります。
(以上)

shige_tamura at 13:45│Comments(1)TrackBack(0)clip!自由民主党 

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この記事へのコメント

1. Posted by 観音寺   2010年10月07日 19:39
あ、マキャベリの部分はこちらにあったのですね。失礼いたしました。

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