2010年02月26日

基地移設にはまず軍事的視点で(帝京大学教授・志方俊之)

産経新聞【正論】帝京大学教授・志方俊之 基地移設にはまず軍事的視点で
2010.2.26

 いかなる問題を解決するにしても、本質的な検討要件の優先順位を定め、この順序に従って議論することが必須だ。普天間基地移設問題では、その手順が全く無視されている。軍事基地の問題だから移設先を考える際には、第1段階で、基地にした場合の軍事的意味(有意性)を考えねばならない。

 すべての候補地をゼロベースで見直すと言っても、この有意性のないところは選択肢とはなり得ない。論議の前にこれらを排除し、残された候補地案について次の段階に進まなければならない。第2段階では、各案について政治・経済、外交上の影響を勘案し、最終的移転先を決める、二段構えのアプローチが必要なのだ。

 ≪今の検討作業は順序が逆だ≫

 迷走の原因は、この第1の論議を意図的に避け、いきなり第2の政治・経済、外交に関する論議を始めたことにある。また、第2の論議を始めるに当たっても、普天間基地移設は日米間の外交課題だから、まずは外交的視点から論議し、しかる後に国内政治や経済の順で論議しなければならない。

 国内政治を最優先して議論を始めれば、政党間で立場は大きく異なる。5月中に決めるには、論議を正しいアプローチで再開する必要があるが、まずは検討委員会で、連立各党が提案する各移設先案の軍事的有意性について書面で提示させ、国民の前で大いに論議すべきだ。

 その後に、外交的、政治的、経済的な論議を再開させれば、むしろ、それが5月までの近道で国民にも理解しやすい。選挙目当てでゼロベースの見直しを装う政治パフォーマンスは、国民の政治不信を招き、結果として地元となる住民の感情を弄(もてあそ)ぶことになる。

 ≪明確な日米役割分担が存在≫

 さて、現在の普天間基地の軍事的有意性はどのようなところにあるのだろうか。日米安保体制における両国の軍事的役割分担から点検しよう。この際、日米安保体制は核戦力と通常戦力の両面について考えなければならない。

 核戦力について答えは明確だろう。わが国は非核政策を堅持し、米国がわが国に「核の傘」を提供している。通常戦力についても明確である。わが国の通常戦力、自衛隊は戦闘目的で海外に出ていくことをしない。その代わりに米軍の前方展開部隊は日本に駐留し、グローバルに睨(にら)みを効かしながら、日本の安全に貢献している。

 専門的にはそれを「戦力投影」というのだが、在日米軍のこの戦力投影のポテンシャル(潜在力)が、わが国と中東産油国間の長大なシーレーンの安全や、朝鮮半島や台湾海峡など周辺地域の安定に寄与しているのだ。

 この役割分担こそが両国間のギブ・アンド・テークで、これはわが国が、日米安保体制下で主体的に決めてきたことである。この関係を見直し、より対等なものを求めるのならば、わが国は米国による核の傘提供の有無について見直すとともに、自衛隊に米国の戦力投影の能力の一部を持たせることも考えねばならない。果たして、それを策定に着手する新「防衛計画の大綱」に盛り込むとでもいうのだろうか。

 ≪「近からず遠からず」の意味≫

 さて普天間問題に戻るが、在日米軍は、前方展開部隊として戦力投影の役割を担う。しかし、あまり朝鮮半島や台湾海峡に近い地域に駐留すると、航空機や艦艇が偶発的に衝突する事案が起きやすい。一方、グアム島やテニアン島など遠くに駐留すれば、緊急時に馳(は)せ参ずることが難しい。

 要するに、「近からず遠からず」の、間合いの取れる地域に駐留することが軍事的に不可欠なのだ。わが国が極東旧ソ連軍の脅威に直面していた冷戦時でさえ米軍は北海道に駐留せず、青森・三沢まで離れて間合いを取っていた。

 米海兵隊の戦力は、地上戦闘部隊、その訓練演習施設、直接支援の航空機部隊、揚陸艦艇部隊から成り立っている。緊急時に短時間でこれらを結合させるには、4つの戦力要素が地理的に200ないし300キロメートルの範囲内に展開されていなければならない。

 九州に移設する案は、地上戦闘部隊との距離が遠過ぎ、かつ十分な地積を持つ訓練演習場を近くに得られない。沖縄南方の下地島案は遠過ぎ、滑走路はあってもヘリ部隊を守る地上戦闘部隊を置くことはできない。結局、軍事的有意性を持つ移転先は、陸海空3自衛隊によってしっかりと守られている沖縄本島(県内移設)でしかないのだ。

 嘉手納空軍基地への統合案もあるが、緊急時に同基地は駆けつけてくる空軍機で満杯となり、とても海兵隊航空部隊のオペレーションをさばくことはできない。

 突き詰めると、沖縄・辺野古への移設案しか選択肢は考えられない。これには、陸上案も出ているが、陸上案は騒音公害や落下物の危険性などの問題が残る。部分的修正はあったとしても、結局、日米合意のあるV字型沖出し案を中心に置いた案こそが、国の防衛と地域住民への配慮を両立させ得るベストの案として残り得よう。

shige_tamura at 11:08│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
ランキング一覧

人気blogランキング

人気blogランキングに参加しました。
応援よろしくお願いします。
月別アーカイブ
最新コメント