2009年11月27日

野依良治 理化学研究所 理事長 講演録

 本講演録は自民党文部科学部会、宇宙・海洋開発特別委員会 合同会議(平成21年11月25日)で行われた野依博士の講演をもとに、自民党政務調査会で作成したものである。」
 以下が、事業仕分け問題で話題になった講演である。


科学技術は我が国の生命線

野依良治です。自民党の政務調査会にお招きいただいて、大変光栄です。
「科学技術は我が国の生命線」という題で、お話をさせていただきます。


衰退傾向にある我が国
OECD諸国の一人当たりの国内総生産(名目GDP)の順位
● 主要国の相対順位は大きな変化を示していないにも関わらず、我が国は2000年の3位から、2007年には19位に急落


我が国の1人当たりのGDPは、2000年には3位でしたが、2007年にはOECD加盟国中、19位に急落しています。さらに、公的債務もGDPの約2倍に達しています。
この衰退傾向を脱して、再生に転じるためには、卓越した科学技術こそ、わが国が生きる唯一の道ではないかと思います。世界水準では駄目であり、世界水準をしのぐ科学技術力なくして、わが国の存在はないと思います。これが国民目線であるべきですが、現在は、その危機意識が全くない、あまりにも希薄であると思います。


技術革新の世紀

1.電力利用、2.自動車、3.航空機、4.水の供給、5.エレクトロニクス、
6.ラジオとテレビ、7.農業の機械化、8.コンピュータ、9.電話技術、
10.空調と冷蔵、11.高速道路、12.宇宙衛星、13.インターネット、
14.画像技術、15.家庭用具、16.医療、17.石油・石油化学技術、
18.レーザーとファイバー光学、19.原子力技術、20.高機能材料


2003年にアメリカの工学アカデミーが選んだ、20世紀の20の大革新技術が示してあります。これらが、現在の文明を支えています。先生方は、これをどのようにご覧になるかということです。
これらは、いずれも基礎科学における発見、あるいは発明を源(みなもと)としています。また、技術者たちの夢に導かれて、長期にわたる壮大な統合的な研究によって、できあがったものばかりです。なお、今年のノーベル物理学賞は、インターネット社会を支える光ファイバーの発明と、デジタルカメラあるいは医療用の内視鏡技術につながったCCDの発明に与えられるということです。
しかし、われわれ科学者が良い研究をし、そして強い特許を取れば、それでイノベーションが生まれるということでは、決してありません。成果を社会的・経済的価値に結びつけるためには、国際社会を見通す国全体の強力なマネージメントが必要です。
要は、人類生存の限られた境界条件の中で、こういった技術体系にいかなる飛躍をもたらせるのか、あるいは基礎科学から、いかに骨太の新しい産業技術を作っていくのかということです。競争の激しい今世紀には、小手先の政策では、国は絶対に存続しないと私は考えています。


国際情勢の分析.1
オバマ・アメリカ大統領は、4月に全米科学アカデミーで、「科学が、我々の繁栄、安全、健康、環境、生活にとって、かつてこれ程、必要だったことはない」と演説し、低迷する現状を打破する「鍵」として、科学技術を重要視しています。
大統領就任に際し、「科学技術により経済を変革する」と宣言し、グリーンエネルギーの導入によって、経済のニューディールを実現しようとしています。財政的には、科学技術予算を10年間で倍増、そして、研究開発税控除を恒久化すると発表しています。

● グリーン(自然)エネルギーの導入による経済のニューディール(新規まき直し政策)を実現(15兆円/10年)
● NIH、NSF、DOE等の予算を10年間で倍増、研究開発税控除を恒久化。大学生奨学金・税控除(20兆円/10年)

国際情勢の分析.2
各国通貨ベースの主要国等の科学技術関係予算の推移
● 中国と韓国の著しい台頭
● 世界的な金融危機・経済不況を端に、米国やEU等は科学技術及びイノベーションに回復策を見出すべく、その傾向を一層加速
● 平成22年度は科学技術予算の大幅な減額が見込まれ、大変厳しい状況。科学技術は国力の源泉であり、政府投資の拡充が不可欠

その他の国も、アメリカ同様に、科学技術に活路を見出すために、積極的に国費を投入しています。まず、そこで、中国あるいは韓国の台頭ぶりをご覧いただきたいと思います。
一方で、わが国の科学技術への公財政支出は、欧米諸国に比べて、まことに貧困であり、情けない限りです。第3期の「科学技術基本計画」は、「5年間で25兆円の投資を目指す」となっていますが、4年目の今年度まで、投資額は、わずか17兆円余りに過ぎません。これで平成22年度に、科学技術予算が大幅に減額となれば、諸外国との格差は広がる一方で、これでは、全く戦えない状況です。


国際情勢の分析.3
米国における科学技術分野の博士号取得者の国籍
● 中国は、「世界の工場」から「世界の頭脳」へ

中国の科学技術への投資の伸びは目覚ましいものがあるのを、先程、示しましたが、さらにご注目いただききたいことは、現在、毎年、4,300人の中国人が、アメリカで博士号を取っていることです。
韓国人、インド人も1千数百名ですが、一方で、日本人はわずか220人です。これからの経済成長は、「国際競争」あるいは「国際協調」が不可欠ですが、10年後に、中国をはじめとするアジア諸国が築く巨大な国際人脈、これを想像していただきたい。これからの科学技術外交力、一体だれが担うのかということを、私は大変、懸念しています。
民主党政権では「事業仕分け」を実施していますが、国の事業について、必要性を公開で議論することは、大変、結構だと思います。
しかし、一般的な仕分け対象事業はコストですが、科学技術振興、あるいは、そのための人材育成は、将来に対する投資です。「コスト」ではなく「投資」である。コストと投資をいっしょくたに仕分けするというのは、あまりにも、私は見識を欠くものだろうと思います。


国家基幹技術

「宇宙開発」、「高速増殖炉」、「海洋地球観測探査システム」
「次世代スーパーコンピュータ」、「X線自由電子レーザー」
※「次世代スーパーコンピュータ」、「X線自由電子レーザー」は理研

上は、「国の持続的発展の基盤であって、長期的な国家戦略をもって取り組むべき重要な技術」というふうに定義された、「国家基幹技術」です。これらの事業は、オリンピック競技のように、まさに熾烈な国際競争のもとにあります。この重要性から、万難を排して、国の誇り、ナショナルプライドをかけて、絶対に勝たなければいけない技術です。
次世代スーパーコンピュータは、事業仕分けで「凍結」という評価を受けています。「見直し」という声も出ていますが、依然、予断を許さない状況です。
次世代スーパーコンピュータは、科学技術の「基盤」、あるいは「頭脳」にあたる部分です。だからこそ、アメリカも中国も、威信をかけて、熾烈な競争をしているわけです。道路あるいは宿泊施設などは、しばらく凍結しても、多少、不便はありますが、無駄になるものではないのではないかと思います。
しかし、次世代のスーパーコンピュータは、いったん凍結したら、瞬く間に、各国に追い抜かれ、その影響は、計り知れません。コンピュータ産業だけの問題ではありません。「中国あるいはアメリカから買えばいい」という不見識な人がいます。全く不見識です。次世代スーパーコンピュータは、科学技術、さらには文明社会の「頭脳部分」にあたるものですから、諸外国から買ってくれば、その国に隷属するということを意味します。
国際競争は果てしなく続く競争ですから、勝ち続けなければいけないというふうになっています。科学技術の成果が実を結び、さらにイノベーションを生み出すまで、時間は非常にたくさんかかります。ですから、拙速に成果を求めるのではなくて、将来への投資として、継続性を持って、科学技術振興を考えて頂きたいと思います。
不用意に、事業を廃止・凍結を主張する方々には、「果たして将来、歴史という法廷に立つ覚悟が出来ているのか」と私は問いたいと思っています。


21世紀の我が国のあるべき姿(国是、national vision)

最後に、科学技術は、天然資源なきわが国が、今世紀の国際競争を生き抜く唯一の術(すべ)であるばかりでなく、人類生存の諸問題を解決する国際協調の柱でもあります。そのため、政権によって大きく政策を変えるべきではなく、超党派で議論いただき、持続的に取り組んでいただきたいと思います。
さらに、必要財源の確保については、私は個人的に、「科学技術・教育目的税」の導入が不可欠ではないかと思います。
私は、未来を担う日本の子供たちが、いつでも、どこでも、「日本とは、人類生存に貢献する国だ」と誇りを持って生きて欲しいと思います。私は、「科学技術に基礎を置いて、限りある地球の枠組みのなかで、豊かな人類社会の存続に向けて貢献する国」、これをぜひ、国是として定めていただきたいと思っています。どうもありがとうございます。

shige_tamura at 16:17│Comments(1)TrackBack(0)clip!自由民主党 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by にこ   2009年11月30日 13:12
5 いまだに鳩山政権支持率が高いのはひとえにこの「事業仕分け」という見せ物が「受け」ているためのようです。自民党は問題点を大きな声で追求してください。

もちろんマスコミが絶賛している影響が大きいのですが、それ以上に国という仕組みについての「無知」が深刻です。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
ランキング一覧

人気blogランキング

人気blogランキングに参加しました。
応援よろしくお願いします。
月別アーカイブ
最新コメント