2009年11月26日

日米同盟を劣化させるな(早稲田大学大学院客員教授平林博)

 友好を演出した折角の日米首脳会談にもかかわらず、日米同盟は漂流する危険がある。
 鳩山政権は、普天間基地問題についての総理自身のあいまいな態度や閣内の不一致、言わずもがなの「日米対等」発言などにより、日米同盟を緊張させた。首脳会談で鳩山総理とオバマ米大統領は、来年の日米安保条約改定50周年に向けて日米同盟を深化させること、また、普天間基地移転問題に「迅速な結論」を出すことに合意した。オバマ大統領の大人の対応もあり、首脳会談は無事に終わった。

 しかし、総理は、大統領との共同記者会見で、普天間基地問題は時間をかけると解決を困難にすると認めたにもかかわらず、シンガポールでは、オバマ大統領に反駁するかのように、閣僚級作業部会は日米合意を前提にはしないし年内決着にも固執しない考えを明らかにした。これでは、日米同盟の前途は厳しくならざるを得ない。米国の議会や有力マスコミは、すでに鳩山政権に厳しい目を向けている。日本国民の多数も、不安感や不信感を払拭できないままだ。

 普天間基地の名護市辺野古への移転、沖縄南部の米軍施設区域の返還、8000人の海兵隊のグアム移転は、沖縄県民の負担軽減と日米同盟の機能維持をバランスさせたパッケージだ。沖縄県知事も名護市長も、大局観とバランス感覚を最大限働かせて苦渋の決断を行った。政府は、名護の環境問題などのために必要な修正は、提起してよいだろう。
 しかし、具体的展望なしに県外・国外移転や嘉手納への統合に言及し決着を遅らせることは、結局は沖縄県民を幻滅させ、日米間の信頼感を損なう。鳩山政権が期待する地位協定の一部改定や接受国支援予算の見直しも、米国との信頼関係に基づいてこそ可能になるのである。

 日米首脳会談では、地球温暖化、核軍縮と不拡散などでの戦略的協力を確認した。価値観を共有する指導的主要国として当然である。問題は、オバマ大統領が最重視するアフガニスタンだ。
 鳩山政権は、インド洋での自衛艦隊の給油活動に疑問符を呈し、急遽アフガニスタンへの巨額援助(5年間で50億ドル)を決めた。大統領は、後者を一応は評価した。しかし、人的貢献の伴わない援助は、高くは評価されない。困難を押しての「汗」は、「金」よりも貴いからだ。わが国は、1991年の第1次イラク戦争で苦い経験をした。その教訓が、イラクやインド洋を含め、多くの地域への自衛隊派遣につながった。アフガニスタンについても、民生支援のために、本来なら人的貢献を大使館員や民間人任せにせず、自己完結的に対応できる組織と能力を持った自衛隊を派遣するべきだ。それができないのなら、国際的にも評価され安全度も高いインド洋での給油活動を続けるのが次善の策であろう。

 鳩山政権は国内施策については旧弊の改革やムダの削減など大胆に取り組んでおり、国民多数も評価している。しかし、北朝鮮の核・ミサイル開発と中国のあくなき軍拡などにかんがみ、日本の安全と繁栄の礎である日米同盟は、これを劣化させてはならない。
(自由民主、12月1日号より)

shige_tamura at 13:06│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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