2009年08月15日
バラマキ合戦のツケは誰が払うのか

自民・民主両党のマニフェストで共通の問題点は、両党とも有権者の気を引くことに夢中で、財源への配慮に欠けた「バラマキ」政策が展開されていることです。まさに、「天下分け目の『バラマキ合戦』」といっても過言ではありません。自民党・民主党のマニフェストから、「バラマキ」と思われる主な政策を取り上げると、次のようになります。
まず、自民党は、(1)医療保険料9割軽減措置の継続、(2)外来患者負担の月額上限を半額、(3)3〜5歳児に対する幼児教育費の無償化、(4)低所得者限定で高校・大学の授業料無償化、(5)就学援助制度・新たな給付型奨学金制度の創設、(6)省エネ住宅・エコカー減税、などを挙げています。
これに対して、民主党は、(1)中学卒業までの子ども一人当たり年額31.2万円の「子ども手当て」の創設、(2)公立高校の実質無償化と私立高校生の学費負担軽減、(3)「最低保障年金」の創設で月額7万円以上の支給、(4)後期高齢者医療制度の廃止、(5)自動車関連諸税の暫定税率廃止、(6)高速道路の原則無料化、(7)農家の戸別所得補償、などを示しています。
いずれも、国民生活に直結する教育・社会保障に関するものが中心です。
100年に1度と言われる経済危機対策として、各党とも国民生活を支援するために、政策を総動員するというのが大義名分となっています。憲法25条にも「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあり、政党がその責務を果たそうとしていると言えるのかもしれません。
それでは、自民党・民主党のどちらかが選挙に勝って、マニフェスト通りの政策を実施した場合に、どのようなことが起こるでしょうか。おそらく、生活に困った場合にはいつでも政府に助けを求める「甘え」の発想が世間に蔓延して、国民は過度の政府依存症になると思われます。一方、国会議員は、いつまでも有権者から頼られる存在でありつづけることによって、票を得ることができます。つまり、国民の自立を損なわせておくこれらの政策は、政治家にとって極めて合理的政策といえるのです。
そして、この「バラマキ合戦」で漁夫の利を得るのは、霞が関で働く官僚たちにほかなりません。自民・民主両党の政策とも、中央省庁の仕事を増やす政策ばかりだからです。小泉元首相が推進した「小さな政府」を目指した構造改革で、官僚たちは仕事を減らされると戦々恐々としたことでしょう。しかし、今回の選挙でどの政党が政権を取っても、マニフェストの政策をすべて行えば「大きな政府」になることは間違いありません。特に、民主党マニフェストの社会保障政策は、筆者の試算によれば約9.1兆円になります。わが国の社会保障関係費の約37%(平成21年度予算)にもあたる金額です。さらに、自民・民主両党のマニフェストを見ると、規制緩和についての言及は皆無です。4年前の郵政選挙と比べると、官僚にとってまさに歓迎すべき「バラマキ合戦」といえるのです。
有権者の立場からすると、「無償化・無料化」といった政策は一見得をするような感覚を持ちます。しかし、タダで公共サービスが成り立っているわけではありません。「無償化・無料化」のための財源は、必ず誰かが納めた税金で補填されるのです。つまり、「無料化・無償化」政策は単なる「錯覚」であり、実態は他人への税負担の押し付け合いにすぎません。その結果、無料・無償であるが故に、公共サービスへの需要増加から歳出規模の拡大がさらに進みます。
そして、負担の総額は知らぬ間に膨張し、将来世代の負担になっていく危険性が高いのです。タダほど怖いものはありません。
投票日までの時間、各党のマニフェストをじっくり吟味するのは当然ですが負担を強いられるのは納税者で、得をするのは政治家や霞が関官僚だけといった事態に陥らぬように、有権者は投票後も各党の政策の行方を厳しくチェックしていかなければなりません。
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この記事へのコメント
1. Posted by ツケを背負わす与野党の消費税せり市 2009年08月15日 21:07
