2009年03月23日

防衛大学校平成二十年度防衛大学校長 五百籏頭 眞 式辞

ぼう大防衛大学校平成二十年度卒業式 式辞

 防衛大学校本科第五十三期生四百四十五名、理工学研究科前期課程六十二名、後期課程第十名、並びに総合安全保障研究科二十名の諸君が、本日それぞれの課程を修め、ここ小原台の生活に別れを告げ飛び立つ時を迎えました。

 本校の全教職員・学生とともに、心より祝いたいと思います。おめでとう。
 諸君をこれまで育て、支え、励ましてこられた御家族の皆様には、とりわけ感慨深いものがあることと拝察し、心からなる祝意を表します。
 本日、この式典に、国務多端の中、麻生内閣総理大臣、浜田防衛大臣のご臨席を賜りましたこと、さらには小泉元内閣総理大臣、元総理大臣補佐官であり本日祝辞を賜ります岡本行夫氏をはじめ、内外多数の来賓各位にご参列いただきましたことは、誠に光栄であり、厚く御礼申し上げます。

 また、本日は、防大を昭和四十一(一九六六)年に卒業し長い任務を全うされた十期生の大先輩たち約二百三十名がご婦人を伴って、ホームカミングデーの良きしきたりにより御参集下さいました。防大十期生ご夫妻の永年の功に敬意を表するとともに、これから新たな任務につく後輩の卒業生を励まして下さることに感謝したいと思います。

 防大は創設の時より学術を重じ、今日では理系・文系双方の大学院を持つ、世界にめずらしい士官学校であります。本日九十二名の研究科生を送り出し、一人ひとりに修了証書を手渡せたことは、私どもにとって大きな喜びであります。ここで手にした知識の力が、諸君の生涯にわたる立派な行軍、航海、もしくは飛行を支えるものと期待しています。

 本日の卒業生には、世界各国からの留学生二十三名が含まれています。言葉と文化のハンディを越え、ここ小原台での勉学と訓練を全うしたことを祝いたいと思います。とりわけ、二人の留学生、タイのプラウィット・トンプーン学生とベトナムのファン・フィ・ズン学生が日本人にとっても難しい学科褒賞の栄誉に輝いたことに敬意を表します。今後の母国での御活躍とともに、ここで培った友情を大切に、母国と日本との架け橋として働くことを祈念致します。

 本日卒業を迎えた本科五十三期生は、昭和の終り、冷戦末期に生を享け、多くが9・11テロを中学時代に、イラク戦争を高校の時に目撃したことでしょう。諸君が防大に入った時、陸と空の自衛隊はイラク特措法によってイラクに派遣されており、海上自衛隊はテロ特措法によってすでに四年にわたりインド洋での給油活動を続けていました。そして卒業を迎える今日、内閣の決定により海自の艦艇がアデン湾に向かっています。諸君がもの心ついた時から、自衛隊は海外でのPKO活動を重ねており、内外での災害救助活動に自衛隊が赴くのは日常的事実となっていました。

 冷戦後の動乱と危機が相次ぐ中で、自衛隊はさまざまな危険から国と国民を守るために多様な活動を求められる時代となりました。そして陸海空の自衛隊は、命ぜられた新たな任務を立派にやり遂げて参りました。平成十九(二〇〇七)年一月の省移行と国際平和協力活動の本来任務化は、国が防衛省・自衛隊にそうした役割をしっかり担うよう求めたものといえましょう。

 しかしながら歴史は逆説に満ちています。省移行の前後から衝撃的な自衛隊関係の不祥事が頻発し、防衛省・自衛隊は厳しい社会的批判にさらされました。一方で自衛隊が有効に機能することを求められながら、他方でそのあり方に疑念がつきつけられる二律背反的な事態の中で、諸君は防大時代を送ってきました。諸君のうちにもこの状況へのとまどいがあるかもしれません。

 とまどう必要はありません。事態が錯綜すればする程、重要なことは基本を大切にすることです。失敗を糾明しそこから学びつつも、原点に立ち帰って基本的姿勢を確かにすることです。幸いにも、防大には初代校長槇先生の時代より築かれたすばらしい伝統があります。軍事専門家としての技量を築くに先立って、人としての共通の土台「広い視野、科学的思考、豊かな人間性」を培うことを槇先生は重視されました。

 学生諸君自身が作りあげた「廉恥、真勇、礼節」の綱領もまた基本姿勢を明らかにするものです。名誉を重んじ、身を高く持して国防の任務を全うする姿勢を語っています。槇先生の時代から自衛隊の変らぬ責務は、つまるところ二つです。自衛隊が安全保障を全うするため有効に機能する組織であること、そして民主主義社会の原則であるシビリアン・コントロールを自らの信念において進んで受け入れ内面化した規律正しい組織であること、の二点に集約されます。この基本を踏まえつつ、諸君は胸を張って自らの道を歩んで下さい。

 卒業後の諸君は、陸海空の幹部候補生学校に進み、そこで一般大学からの同級生とともに、それぞれ各要員の訓練を開始することになります。大切なことは、どんな職種であれ、その職種なしに日本の安全が成り立たないことを認識し、一つの場、一つの任務に全力をあげて取り組む姿勢です。「一所懸命」という言葉があります。一つの所に命を懸け、自分の持ち場を守り抜く。それへの没頭が若い士官時代を支える精神と言えましょう。

 長ずるとともに任務は拡がりを持つに至りますが、諸君がここ小原台で培った正面から立ち向かって行く「持ち場を捨てるな」の精神をもって、試練を一つひとつ超えて行くことを期待します。

 五十三期生の諸君は、防大史上はじめて百一キロ行軍をやり遂げた学年です。諸君の健闘を祈ります。

 本日ここにお集まり下さり、励まして下さる多数の方々に改めて御礼を申し上げるとともに、本日、新たな出発の途につく諸君が、二十一世紀の困難な安全保障をその全身をもって立派に担うことを確信し、式辞といたします。

平成二十一年三月二十二日    防衛大学校長  五百籏頭 眞

shige_tamura at 13:01│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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