2009年03月23日
防衛大学校卒業式における麻生総理大臣訓示

本日、防衛大学校卒業式が挙行されるに当たり、自衛隊の最高指揮官として、一言申し上げます。
卒業される諸君、おめでとう。
諸君のきりりと引き締まった表情、キビキビした立ち居ふるまいに接し、誠に心強く、頼もしく思います。
五百旗頭学校長をはじめ、教職員の方々に敬意を表します。あわせて、日頃から防衛大学校に、ご理解とご協力をいただいている、ご来賓の皆様に、心より感謝申し上げる次第です。
今日の国際社会は、伝統的な国家間の課題から、テロなどの新たな脅威や、多様な事態に至るまで、様々な課題に直面しています。
特に、アジア太平洋地域においては、北朝鮮の核開発・弾道ミサイルの問題などの、諸課題が存在しています。
このような環境の中、日本の平和と安定を確保するためには、日米同盟のさらなる強化とともに、日本自身の防衛努力が極めて重要であり、自衛隊への期待は、ますます高まっています。
こうした国民の期待を担う自衛隊。本日、その第一線に、勇躍しておもむこうとしている諸君に、はなむけの言葉を贈りたいと思います。
その第一は、この防衛大学校で学んだ人間教育を糧として、優れた指揮官になってほしいということです。
指揮統率の基本は、指揮官が、上官の信頼を得るとともに、部下の尊敬を受けるに足る、豊かな人間性を有していることにある。私はそう考えています。
こうした人間性を有する指揮官が率いる部隊が、いかに大きな成果をあげてきたかは、諸君の先輩が率いる部隊の活躍ぶりをみれば分かります。
例えば、災害派遣の現場で、指揮官の統率の下、危険を顧みず、救援活動にあたる自衛隊。被災地の住民のみならず、報道などを通じてその活躍を目にする、多くの国民から高い信頼を得ています。
イラクにおいても、自衛隊は、ただ一人の犠牲者も出さず、公共施設の改修、輸送支援など、多岐にわたる復興支援活動を成し遂げ、イラクの、そして各国の人々から称賛を受け、無事帰国しました。
諸君の前途には、幾多のけわしい困難と、難しい任務が、待ちかまえているでしょう。
諸君には、こうした先輩の経験に学びつつ、不断に人格を陶冶してもらいたい。そして、いざというときに、ここ防衛大学校で、そしてその後の経験を通じて、培った力を、いかんなく発揮してもらいたい。
そうした、諸君ひとりひとりの力が、日本の防衛と国際社会の平和と安定にとって、必要不可欠なものであると、私は信じています。
その第二は、「国際社会の平和と安定は、日本の平和につながっている、ということを強く認識してほしい」ということです。
私の祖父、吉田茂は、この防衛大学校設立に、深いかかわりを持っております。昭和三十二年、第一回卒業式に、元内閣総理大臣として招かれた際の祝辞の中で、吉田は、大意、次のように述べております。
「諸君は、単に自国や自国民の利益を守るというような狭い考え方」ではなく、「人間として、世界の、人類の自由までも守るという広い視野に立って、任務を遂行されたい。」
あれから五十年余りを経て、グローバル化の進んだ現代では、国際社会の平和と安定が、日本の平和と安全の確保に、より密接にかかわっていることは、言うまでもありません。
私は、国際社会の平和と安定のため、生き生きと活動する、諸君の先輩たちに接する貴重な機会を、幾度か得たことがあります。
イラクでの復興支援活動を終え、まっ黒に日焼けした顔で帰国した陸上自衛官。
砂塵舞うクウェートの地で、黙々と輸送任務に励む航空自衛官。
灼熱のインド洋における補給支援活動に献身した後、自信に満ちた顔で帰還した海上自衛官。
そして、去る十四日、海賊対策のため、遠く一万二千キロ離れた、ソマリア沖に向けて出航した海上自衛官。
自衛隊の諸官が各方面で活動する成果は、世界の人々の日本に対する意識を高め、確実に日本の国益につながっています。
まさに、自衛官は、我が国外交の重要な部分を担う「外交官」であると言っても過言ではありません。
諸君は、「日本の防衛」と「国際社会の平和と安定」は、表裏一体をなすという、グローバルな視点を常に忘れず、これからの任務に励んでもらいたいと思います。
日本の独立と平和を守る上で、国民が最後のよりどころとするのは、防衛省・自衛隊です。
諸君には、シビリアンコントロールという考えとともに、「常に国民とともにあり、国民を守り続けていく」という自衛隊の原点を忘れないでもらいたい。
そして、困難を乗り越える勇気を持って、任務を遂行し、国民の信頼と期待に応えてもらいたいと思います。
諸外国からの留学生の皆さん、防衛大学校での留学を通じて育まれた友情の絆を大切にし、祖国と国際社会のために活躍されんことを期待します。
最後に、諸君の今後の活躍を祈念し、私の訓示とします。
あらためて、諸君、卒業おめでとう。
平成二十一年三月二十二日 内閣総理大臣 麻生 太郎