2009年01月23日

加藤良三氏(日本プロ野球コミッショナー、前駐米大使)の講演、その5

加藤 昨年11月29日、第43回日本論語研究会での日本プロ野球コミッショナー・加藤良三先生の素晴らしい講演「日米関係―アメリカについて感じたこと―その5」をお届けします。

5.インド洋での給油法(補給支援特措法)の意義

 インド洋での給油法案についても、こうした根本論が欠けている。
 戦争と絶縁しているが故に緊張感の欠如がある。日本がインド洋にテロとの戦いの文脈で、しかも軍事目的でなくて、自衛隊の艦船を派遣したとき、米国の日本をよく知る政治の要職にある人達は、こぞって、私に対し、日本は随分素晴らしい戦略的前進を遂げたと言いました。

 即ち日本は、軍事力ではなくて、経済、技術力、文化、政策の一貫性、そういうものを寄せ集めて、高い地位を保ってきているのですが、経済に於ける石油の比重はまだまだ大きい。
 二度にわたるオイルショックを経験しましたから、日本のエネルギーの節約(energy conservation)は世界に冠たる成果であると思っています。70%80%もあった石油の依存度が50%まで落ちている。それでもまだ50%です。その99%が輸入であり、92%くらいは中東から来ているわけです。

 中東から、アラビア湾、インド洋、マラッカ海峡、ロンボク海峡、南シナ海、東シナ海、台湾海峡、バシー海峡、この6千海里以上の長い長いシーレーンを通ってその石油は日本に到達するわけです。

 そのシーレーンの安定、日本の国力の根源にとって枢要であるシーレーンの安定を誰が保つのか、まだ国際社会は十分な回答を出し得ないでいます。これからもなかなか出し得ないのではないかと危惧します。

 絶対条件ではないけれども、必要不可欠な条件の一つは米国のプレゼンスだろうと思います。国際機関が十分な能力を発揮できないことが現実である今日、米国のプレゼンスは国際公共財という意味合いを持っていると思いますが、日本が何もしないで済むことを意味しない。

 テロとの戦いを契機に日本が数隻でもインド洋に給油活動のために自衛隊の艦船を送ったということを、世界中が、中国も韓国も含めて、こぞって賞賛した、誰も反対しなかった、日本のシーレーンの安定にとって不可欠のインド洋が、日本の海でもあることを世界に納得させたことは素晴らしい。

 ところがあたかも日本が悪いことでもしたかのように、引き上げると言うことになった、もし引き上げて日本がインド洋でのプレゼンスを消すという事態が長い間続いたら、その次に日本がシーレーンで自らの国益を守るということのために何かしようとして、同じように船を出そうとした場合にエキストラコストがかかるかもしれないぞ、そのときまでの状況によって文句をつける国が出て来るかもしれないぞ、との指摘を受けました。

 そういうときに東京の外務本省から訓令を受けました。日本から渡した油が一滴たりともイラクに使われていないだろうなという質問です。
 訓令だから米国政府にぶつけます。米国の戦いが正しいかどうかは別ですが、米国は現実にアフガニスタン、イラクで取り込み中なわけです。そのときに、日本の油は一滴たりともイラクにまわっていないでしょうねと夜な夜な確認を求められ、確証を提示せよとせまられると、やはり現場はくたびれてくるのです。

 日本からの油は使いにくい油だ、いつ切られるかわからない油だと、米国として本格的に依存すべき油かどうかわからない油だと、そういう声になるのです。
ブッシュ大統領の評判は現時点においては非常に芳しくなくて、むしろ私から見ると不公平なほど彼に厳しい意見が多いのですが、ブッシュさんの評価は米国の歴史、世界の歴史が将来決めるべきものだと思っています。

 しかし、ブッシュさんは、こと日本の貢献に関しては、それを非常に高く評価していて、最高の政治レベルで、日本の貢献というのは実に重要であって、国際社会の努力に必要不可欠な努力の一部だと言い続けて、全部蓋をかぶせてきたわけです。しかし、現場ではそういう不満が渦巻いていました。この辺のセンスのなさというのは戦争の絶縁というものと無縁ではないと思います。

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