2008年06月20日

マイケル・グリーン氏の講演録(その1)

グリーン去る6月11日、「日米同盟について」というテーマで、マイケル・グリーン氏・米国CSIS(戦略国際問題研究所)日本部長、元NSC上級補佐官が、自民党本部で講演した。
 以下、講義録を記載する。

 ご紹介有難うございました。
 戦略国際問題研究所のグリーンでございます。
 実は今日は国防3部会の会議に出席するのは初めてではないのですが、実はちょうど20年前に当時この前亡くなられた椎名元代議士の秘書として、この部屋で行われた国防部会に参加したのです。
 私の記憶は確か、テーマは当時は「スパイ防止法」の話でした。今は情報保全法(秘密保護法)ですか、もう少し耳ざわりのいい言葉を使いますけれども。ですから本当に、今日は20年前を思い出して懐かしくうれしい思いでございます。

 今日は、日米安保の現状、そして米国の大統領選挙、それから私はマケイン候補者のアドバイザーで、マケイン政権の対アジア外交はどうなるか、という3点ぐらいについて意見交換させていただきたいと思います。時間があれば北朝鮮問題とか中国の軍事力の強化などについても触れたいと思っています。

 日本の取材、日本の新聞、テレビを見る限りオバマ候補者はとにかく勝つという雰囲気なのですけれども、私の研究所に日経新聞の研究員が1人おりまして、その方に頼んで日本の新聞にオバマさんの名前とマケインさんの名前がどれぐらい載っているかという調査を頼んだところ、オバマさんの名前はマケインさんの2、3倍くらい新聞に出ています。なんとなくオバマブーム、名前もなんとなく日本人ぽい名前で、今オバマさんが勝ってオバマ政権になるのではないか雰囲気が、なんとなく日本にあるんじゃないかと私は思うのです。

 確かに今回の選挙で民主党が有利、民主党の強い点がいくつかありまして、特にブッシュ大統領の人気は今30%くらいですけれども、福田さんは26%ぐらいですか、もうちょっと頑張ればブッシュさんと同じくらいになるのですけれども、この30%の支持率というのは、米国の大統領にとってはちょっと低い方になります。
 それからアンケート調査によると、米国では毎年、国民を対象に「国が進んでいる方向はどうか」というアンケートが行われますが、今回初めて8割以上が「国の方向は良くない」と回答したのです。
 加えて、景気の問題や、オバマさんが予備選で今まで選挙に参加していない若い有権者の政治参加を促したため若者の投票率がものすごく高いこと、他にも共和党より珍しく民主の方がお金があることなど、いろいろな点で、歴史的、構造的に民主党の有利な点があります。確かに議会選挙では既に上院、下院とも民主党が過半数を持っていて、これからも増えるということはほとんど確実です。

 しかし、大統領選は議会選挙や日本の選挙と違って、有権者は大統領を決めるときは、候補者は核兵器のボタンに指を乗せていて、いざというとき自分の家族を本当に守る気があるか、本当に経済のために頑張ってくれるか、性格は良いか、米国の国際社会の代表というか指導者として尊敬されるか、このような点をみて投票します。

 つまり米国の有権者は、候補者の政党よりも、候補者の資質や性格で判断するのです。
 ですから最新のアンケート調査をみますと全国の支持率でマケインが46%、オバマが48%ですが、2%ぐらいの差というのはほとんど意味がないので、人と人の戦いだとほとんどタイです。ご存じのとおり米国の大統領選挙は選挙人制度です。
 ですから、全国の支持率よりも各州別に、候補者はどれだけ支持率があるかということの方が意味があるのですが、だいたい50州の中で約20いくつかの州、ほとんど南部の方が必ず共和党、北東はほとんど民主党、真ん中のペンシルベニア州とかオハイオ、ウイスコンシン、ミネソタ、フロリダ、オレゴンといった12州ぐらいがいわゆるスウィングステイト、つまり共和党も民主党も、どちらが勝ってもおかしくないのです。
 スウィングステイトの中の今のアンケート調査を見るとマケインが有利です。特にフロリダ、オハイオ、ミシガン。

 ですから今回の大統領選の結果は構造的、歴史的には民主党が有利ですが、本当に一寸先は闇、本当に見通しできないのです。
 二人とも前例のない候補者、マケインが71歳で、レーガン大統領が立候補したときより一つか二つ上、最高齢の候補者です。それからもちろんオバマさんは最初の黒人の候補者です。
 米国の有権者が最終的にどちらを支持するか、しないか、というのは政治学者は本当にわからないのです。
 そして二人とも自分の政党の非主流派の候補者、民主党だとヒラリー・クリントンが主流派、共和党だと最初はマケインが一番強いと思われていたけれど、ただ、主流派じゃないですよね。主流派の候補者はロムニー知事であったのです。
 ですから初めて両党とも非主流派の候補者が戦います。
 ですから二人とも党内にある無所属の票、共和党はだいたい3割ぐらい、民主党がだいたい3割ぐらい、この票を獲得すべく、オバマ氏もマケイン氏も目標に活動しています。

 二人とも性格が非常に尊敬されています。
 ご存じのようにマケインさんがベトナム戦争のベテランで、オバマさんも非常におもしろい経歴で、お父さんがケニアから米国に留学して、そしてその後お母さんが離婚してインドネシア人と結婚したので、子供の頃インドネシアに4年間子供のときに住んでいたとか、黒人で初めて、ハーバードロースクールの雑誌の編集局長、これはハーバード大学でとても力のあるポストなんですが、これに入ったとか、二人とも本当に性格が良く尊敬されている。

 ただ弱点もあるんですね。
 マケインの弱点はやっぱり2つあって、1つは歳の問題です。
 例えば討論会でマケイン候補者がちょっと「おじいさん」ぽく見えることがあると、すぐマスコミに批判されます。
 僕は本人に何回も会いましたが、非常に若くて元気ですよ。
 本人に会ったら60歳ぐらいというイメージなんですが、テレビではそういう風にみえないので、討論会で質問が聞こえなかったり、人の名前を忘れたり、といった老人ぽいことをしてしまうとかなり支持率が落ちるという危なさがあります。

 それからもう一つは、マケインさんは共和党ですが本当に独立した、私が昔働いていた椎名先生みたいに本当に頑固で非常に独立した、戦略性を持ち、自分の原理原則を守るようないわば小泉型というような政治家なのです。
 それで、例えば民主党のケネディ議員との移民政策法案の協力とか、民主党のリーバーマン議員との地球温暖化防止に係る法案のように超党派の法案作りの経歴がかなり多くあります。
 ただ、ブッシュ大統領はあまりにも人気が無いので、オバマさんと民主党は今一生懸命「マケイン政権になったらブッシュ政権の3期目だ」「ブッシュ、イコール、マケイン」というところを攻撃していて、やっぱりそれは弱点なのです。
(以下、次回へ)

shige_tamura at 16:57│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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