2008年03月31日

防衛大学校卒業式 来賓祝辞(北岡伸一氏)

防衛大1平成19年度防衛大学校卒業式 来賓祝辞

 卒業生の皆さん、ご家族ならびに関係者の皆さま方、本日はまことにおめでとうございます。
 卒業生の皆さんは、これまでの勉学の日々を懐かしく回顧しつつ、これからの責任の重さについて覚悟を新たにしつつ、この日を迎えられたと思います。国の安全を担う皆さんの出発に立ちあう機会を与えられたことは、私にとって、この上ない喜びであります。

 しかるに、現在の日本には、閉塞感、無力感が漂っています。少子化の進行で人口は減り始めました。日本はもはや第一級の経済大国ではないという見方も広がっています。
 日本の周辺では、北朝鮮の動きが依然として不透明です。日本の最も重要なパートナーである米国の力に陰りが見られます。そして中国は、目覚ましい発展の中に、大きな不安を抱えています。

 皆さんの周囲を見渡せば、防衛省と自衛隊に、考えられないようなミスや不祥事が起こっています。まことに残念なことです。
 しかしこういう時にこそ、日本人はその歴史を振り返り、また広く世界を見渡してほしいと思うのです。

 私はかつて国連大使としてニューヨークで勤務して参りましたが、200近い国連加盟国の中で、日本は特別の位置にある国です。

 すなわち日本は、19世紀の半ば、西洋中心の国際社会に編入されて以来、さまざまな苦労を重ね、わずか50年で大国とみなされるようになりました。この間、250年続いた幕府中心の体制を変革し、次いで維新の主役である薩摩長州を含む藩を廃止し、さらに、武士身分そのものを廃止するという大変革をなし遂げました。

 その後、方針を誤り、戦争に敗れましたが、焦土から再び立ち上がり、経済大国となりました。
 日本の民主主義も、途中で挫折はしたものの、議会開設から118年、自由民権運動から数えればさらに長い歴史を持っています。非西洋諸国の中ではまったく例外的なものです。
 このように発展した日本は、世界の多くの国々にとって、まぶしいような存在なのです。多くの国々が、いつか日本のようになりたいと切望しています。その日本が、現在程度の停滞で元気をなくしてどうするのかと、私は思うのであります。

 こうした世界史の中におけるユニークな位置ゆえに、日本は世界の事柄に広く、深く関与すべきだと考えます。経済のみならず、政治や安全保障においても、そうすべきだと思うのです。
 
 実際、現代の世界で安全を維持するためには、自国とその周辺だけに視野を限るわけにはいきません。テロとの戦いから感染症に至るまで、広く世界との関与が必要です。
 世界各地における地域紛争や国内紛争についても、日本は積極的な役割を果たすべきです。しかし、遺憾なことに、国連の平和維持活動に対する日本の参加は、参加人員の数でみる限り極めて低調で、主要国の中で最下位です。
 こうした平和維持活動は、それ自身、日本にとって有意義なものです。それによって、現地の政府や民衆との交流を深め、他の参加国とも交流を深め、さらに重要なことに、演習では得られない多くの貴重な経験をすることができます。
 
 そして、こうした世界の平和と安定に貢献する姿が、日本が地域で重きをなす所以であります。アジアにおける日本の比較優位は、自由、人権、民主主義といった普遍的価値にコミットしていることです。これらが普遍的な価値である限り、日本は世界中の自由と人権と民主主義に、さまざまな方法で、積極的に貢献すべきです。いわゆる国際貢献は、その意味でも、決して自衛隊の付随的な任務ではなく、まさに日本の安全保障政策の中核的な部分であります。

 にもかかわらず、安全保障における日本の国際貢献が低調なのはなぜか。それは、戦後日本の防衛政策が、第二次大戦への反省と、冷戦への対応という、二つを基礎として作られ、そのまま変化していないところにあると考えます。

 日本は自衛隊を国外に出さず、米軍との密接な関係の下で自国の防衛に専念し、それによって西側の一員として責任を果たしてきました。それは、当時にあっては適切な選択でした。しかしこの間作られた制度や政策の中には、すでに時代に合わなくなっているものが少なくありません。

 昨年の防衛省における不祥事も、つまるところ、過度の対米依存と過度の国内重視と、無関係ではありません。

 日本の安全保障政策は、今後とも平和愛好的なものであるべきですし、日米同盟も断固堅持すべきです。しかし、もう少し世界に目を広げた、もう少し自立的な安全保障政策が必要です。そうした方向への変化こそ、グローバル・プレイヤーとして日本に必要であり、また日米の信頼関係をかえって強化するものであると信じます。

 軍事の本質は予測不可能性です。戦争において、人は相手の裏をかこうとするものです。したがって、いかなる事態にも想像力をもって柔軟に対応する能力が肝要なのですが、日本の安全保障政策の中には、硬直した惰性的な思考と行動が、色濃く残っているといわざるをえません。

 もちろん諸君は政府の方針に忠実に行動するのであり、それを超えた柔軟性というのはありえないものです。しかし、将来のいかなる事態にも対応できるよう、歴史を紐解いて教訓を求め、また世界情勢に対する研究を怠らず、絶えず研鑽を続けてほしいのです。その基礎を、この防衛大学校は諸君に提供してくれたものと信じます。

 この困難な時代に、国家のもっとも重要な任務に就かれる諸君に、あらためて心からの敬意を表して、私の祝辞といたします。

平成20年3月23日

東京大学法学部教授  北 岡 伸 一


shige_tamura at 17:01│Comments(0)TrackBack(0)clip!安保・防衛政策 

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