2016年02月

2016年02月10日

習総書記「核心化」は軍事大改革のため――日本の報道に見るまちがい(遠藤誉氏)

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 習近平総書記を「核心」と称することに関して日本の多くの報道がまちがった分析をしている。
 軍事改革は旧ソ連式からアメリカのような大統領権限を総書記が持つ形にし即戦力を重視。
 結果、一極集中化が不可欠なのだ。

◆「核心」を強調し始めたのは軍事大改革のため

 今年1月2日付の本コラム「中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化」で、中国が人民解放軍に関して大規模改革を行なっていることをご紹介した。

 この改革は中国共産党の軍隊が誕生した1927年8月1日以来はじめて行なわれる抜本的な大改革で、建国以来(1949年10月1日以来)という視点でも、もちろん初めてのことである。

 中国共産党の軍隊が誕生したとき、共産党は「中華民国」という国家の中に「中華ソビエット共和国」という国家を建設していた(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。したがってこのとき誕生させた軍隊は「中国工農紅軍」と呼ばれ、「ソ連紅軍」の指揮下にあったので、これまでの中国人民解放軍は構造においても命令指揮系統においても、すべて「ソ連式」なのである。

 1991年末にソ連が崩壊した後の90年代、IT化とグローバル化の波により、科学技術も飛躍的に発展しただけでなく、世界情勢も大きく違ってきた。

 そこで中国の軍隊も、「ソ連式」から脱皮して「アメリカ式」あるいは「ヨーロッパ式」に転換すべく、今般の軍事大改革に至ったのである。

 最大の変化は、中国人民解放軍にもともとあった「総参謀部、総政治部、総装備部、総后勤部」を撤廃し、中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)をトップとした軍事委員会の下に、直接「7つの部&庁(6つの部と1つの庁)、3つの委員会、5つの直属機構」を設置して、軍事委員会そのものに軍事指揮権を与えたことだ。結果、中央軍事委員会主席(=中共中央総書記・習近平)が最高司令官になった。

 同時に即戦力を高めるため、7つの軍区を撤廃して5つの戦区(東部・南部・西部・北部・中部戦区)を設置。

「いざというとき」には、習近平・中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)が直接指令を下せば戦区と軍種(陸海空軍+ロケット軍+戦略支援部隊)が動くという形にしたため、軍人すべてが「中央軍事委員会主席(=中共中央総書記)」を「核心」的指導者として位置づけていないと軍は乱れる。特に軍事改革により、もとの軍区の司令官から外された者が既得権益にしがみついて反乱を起こさないとも限らない。なんと言っても彼らは軍を指揮していた者たちだ。

 そのため「以習近平総書記為核心的(習近平総書記を核心とした)」という枕詞が使われるようになったのである。

 この言葉を以て、日本のメディアや一部の中国研究者は、「習近平が個人崇拝を煽っている」とか「胡錦濤には“核心”という言葉を付けて称したことがない」とか、はなはだしきに至っては「集団指導体制は胡錦濤のときから始まった」など、もうあまりに現実を無視した分析を拡散させているので、まちがいを指摘し、注意を喚起したい。

◆「核心」という言葉は胡錦濤総書記(国家主席)に対しても使われていた

 たしかに、毛沢東、トウ小平、江沢民に対してそれぞれ第一世代、第二世代および第三世代指導集団の「核心」と称していた。

 これは文革が終わったあとに、国家主席にも中国共産党中央委員会(中共中央)総書記にもなったことがないトウ小平が自分の位置づけに困り、思いついた呼称である。

 毛沢東時代には文化大革命(1966年〜76年)があって、その間、毛沢東は「国家主席は必要ない」として国家主席(劉少奇)という職位を空席にしたまま、自分自身が最高指導者として君臨した。毛沢東逝去後も、改革開放が始まるまで臨時的に中共中央主席や国務院総理などを置いたりしたので、毛沢東が生きていた時代と、その後トウ小平が改革開放を進めている時代を区分するために、毛沢東時代を「第一世代指導集団」、トウ小平が君臨していた時代を「第二世代指導集団」と位置付け、その「核心的人物」を、毛沢東およびトウ小平としたのである。いや、そうするしかなかったのである。

 それは1989年6月4日に起きた天安門事件で失脚した「胡耀邦や趙紫陽の時代」を明示しないことに役だったし、また文化大革命で獄死させられた「劉少奇・国家主席時代」に触れることを避けるということにも役立った。

 ここで重要なのは、あくまでも「曖昧模糊(あいまいもこ)とさせること」が、「核心」という言葉を思いついた理由であり目的だったということである。

 江沢民が途中から中共中央総書記(1989年)になったり国家主席(1993年)になったりしたのは、これもまた天安門事件のせいだったので、江沢民に関しても「核心」という言葉を使うのは、「天安門事件を明示させないため」だったのだ。

 つまり「核心」という言葉は、中国政府にとって都合の悪い事実を「隠すため」あるいは「ごまかすため」に思いついた言葉なのである。

 しかし、これが慣わしになってしまい、正常化された胡錦濤政権時代になっても、「核心」という言葉を胡錦濤国家主席(中共中央総書記)に対して使っている。

 その証拠というか、例をお示ししよう。

 たとえば、2010年4月21日に、中国政府の通信社「新華社」の電子版「新華網」の記事「胡錦濤総書記を核心とする党中央の地震救済実録」は、まさに「胡錦濤総書記を核心とする」と明記してある。

 また、2011年06月23日の中華人民共和国工業・信息(情報)化部(MIIT)のウェブサイトは、「胡錦濤同志を核心とする指導集団(領導集体)」というタイトルの情報を報道している。中央テレビ局CCTVではかつて「以胡錦濤総書記為核心的」(胡錦濤総書記を核心とした)という言い方を慣例のように使っており、筆者の耳にも「音」として残っている。



◆集団指導体制は1927年から始まっている

 日本のメディアや一部の中国研究者は、「集団指導体制」が胡錦濤政権時代から始まったというニュアンスで書いている。

 これはひょっとしたら、筆者が『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』で、胡錦濤政権を例にとって「集団指導体制」とは何かをしつこく説明したせいかもしれないと、申し訳ないと思うと同時に、責任を感じてしまうので解説する。

 集団指導体制は、1927年4月27日から5月9日まで(湖北省の)武昌で開催された中国共産党第五回全国代表大会で中国共産党中央委員会(中共中央)政治局常務委員会が発足し、6月1日に党規約に明記されたときから始まっている。

 きっかけは同年4月12日に「四・一二反革命政変」と中共側が呼ぶ事件が起きたからだ。

 日本では一般に「上海クーデター」と呼ばれているもので、中共勢力が政権を奪取しようとしていることに気がついた蒋介石が行なった武力弾圧である。これにより惨敗した中共側は全国を統一的に統治すべく、意思決定のメカニズムを構成し、党の強化を図った。

 7月に、モスクワにあるコミンテルン執行委員会の指示により、「5人」の政治局常務委員を決定し、「多数決議決による集団指導体制」を誕生させた。

 1928年6月18日から7月11日までモスクワで開催した第六回党大会でも、やはり「5人」の政治局常務委員が選出されている。

 「5人」という奇数であったのは、多数決議決の際に意見が半々に割れるのを避けるためである。

 これは胡錦濤政権時代の「チャイナ・ナイン」(9人)と、習近平政権の「チャイナ・セブン」(7人)と同じ構造であり、同じ理由から「奇数」なのである。

 このことから見ても、いかに「集団指導体制」が1927年から重んじられていたかが、お分かりいただけるものと思う。

 ただし、毛沢東が文化大革命を発動した時には、国家主席さえ存在させなかったくらいだから、この機能は破壊されている。

 筆者が『チャイナ・ナイン』に関して反省することはまだある。

 胡錦濤政権時代、江沢民の権力への執着が強烈で激しい権力闘争が展開されていたことを描き過ぎたのかもしれない。そのため「権力闘争」という概念があまりに強く日本のジャーナリズムあるいは中国研究者の一部に植え込まれてしまったのか、習近平政権では状況が全く異なるというのに、何でも権力闘争に結び付けて解説すればいいという誤解を招いてしまっている。

 習近平自身は江沢民が推薦し、江沢民を後ろ盾として国家主席にまでのし上がった人間だ。胡錦濤政権とは中共中央政治局常務委員会における構成メンバーがまったく異なる。

 習近平政権が行っている反腐敗闘争などは、あくまでも「一党支配体制が崩壊するのを防ぐため」であり、権力闘争などをしているゆとりはないことを、ついでながら、反省を込めて書き添えたい。

 今般の「習総書記の核心化」を「個人崇拝のため」などと誤読していたら、「権力闘争という誤読」以上に日本には非常にマイナスの影響を与える。そのような国内事情ではなく、「他国との有事」に備えた(戦争はしないまでも)「戦闘準備」であることを見逃してしまうからだ。その意味で誤読は罪作りであり、日本の外交戦略を読み誤らせる。

 なお軍事大改革は、東シナ海や南シナ海問題を睨んではいるが、中国が「軍事力」に関して最も気にしているのは北朝鮮問題と台湾問題であることを忘れてはならない。
(ヤフーより)

遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

shige_tamura at 10:15|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

2016年02月09日

習近平氏による訪朝――中国に残された選択(遠藤誉氏)

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 北の暴走をとめることができず、かといって安保理の制裁決議にも二の足を踏む中国に、唯一できるのは習近平国家主席が自ら北朝鮮を訪問することくらいだ。北がさらに追い詰められて戦争へと暴走すれば、中国は滅びる。

◆打つ手をなくした中国

 2015年5月、モスクワで開かれた反ファシスト戦勝70周年記念のときに、習近平国家主席と金正恩第一書記がモスクワで会えるように中国側は手を尽くしたが、結局、金正恩は姿を現さなかった。

 2013年7月には李源朝国家副主席が訪朝したが、その年の12月には中国の窓口となっていた張成沢(チャンソンテク)が公開処刑された。中国は早くから北朝鮮に改革開放を促し、張成沢は北朝鮮の改革開放を進めるための窓口になっていた。

 2015年9月3日に北京で行われた軍事パレードに金正恩氏を招待したが、出席したのは朝鮮労働党ナンバー3の崔竜海(チェ・リョンヘ)でしかなかった。

 それでも2015年10月に中国はチャイ・ナセブン(中共中央政治局常務委員)の党内序列ナンバー5の劉雲山氏を訪朝させ、北朝鮮で行われる朝鮮労働党創建70周年の祭典に参加させている。そのときには習近平氏の親書を携え、核実験やミサイル発射などを抑制するよう要求している。

 それでも北朝鮮はそれらすべてを無視して、今年1月に水爆実験と称する核実験を行なった。

◆最後の一手は習近平氏による訪朝――国が滅ぶよりはプライドを捨てて

 こんな中、李源朝氏や劉雲山氏よりも、ずっと身分の低い武大偉・・朝鮮半島問題特別代表を訪朝させたのは、ミサイル問題でもなければ核実験問題でもなく、あくまでも六か国協議(六者会談)の担当者としての訪朝だ。

 今さら北朝鮮が六カ国協議もないだろうと誰もが思うだろうが、しかし北朝鮮をこれ以上追いつめれば、戦争にまで発展しかねないという危機感が中国にはある。

 戦争になった場合、中朝は実質的な軍事同盟があるので、中国は北朝鮮側に付かなければならない。ということは米軍と戦うということになる。軍力的に、今の中国には、とてもアメリカに勝つだけの力はない。となれば中国の一党支配体制は必ず崩壊するだろう。

 中朝間の軍事同盟を破棄して、中国がアメリカ側に付いたとしよう。

 ロシアが黙っているはずがないから、どちらに転んでも、これは第三次世界大戦に発展しかねない。

 こういう事態だけは絶対に避けたいというのが中国の思いだ。

 もちろん陸続きでお隣にいる北朝鮮は、在韓米軍からの防波堤になっているので、何度も言ってきたが「唇が滅びれば、歯が寒い」ので、唇だけは温存していたいという思惑もある。

 一方、「大国」としての中国が国連の制裁決議に賛同しないことは、国際社会においては許されない状態にあるだろう。

 そこで、最後に残った選択として、中朝首脳会談を交換条件として、せめて六者会談の座席に北朝鮮を座らせることなのだが、これまでの経緯から見て、金正恩がおめおめと北京詣でなどすることは考えにくい。

 武大偉氏が、なぜこの期に及んで訪朝などをしたのかというと、この条件交渉のためとしか考えられない。

 すると、最後に残るのは、「習近平国家主席が訪朝して中朝首脳会談を開催する」というシナリオだ。

 北朝鮮が、まるで中国をターゲットとしているとしか思えないような挑発を続けているのは、「中国を追いこんで習近平を動かす」ためだろうと思われる。武大偉氏が頭を下げてきたので、北朝鮮としてはもっと図に乗り、もっと中国を追いつめることができると踏み、中国の春節連休期間に照準を当て困らせてやった。

◆中国を通して、アメリカを動かす

 その結果、いよいよ打つ手をなくした習近平氏が訪朝すれば、金正恩氏は大いに面目を施し、先ずは目的の一つを叶えることができる。そのときに習近平氏に対して、金正恩氏はきっと「アメリカを動かすように」条件闘争をしてくるにちがいない。 

 北朝鮮が核実験やミサイル開発を行なうのは、「いざアメリカから攻撃を受けたときに自国を守る手段」としての抑止力のためというのが北朝鮮の言い分だろうが、「まだ戦争中である韓国」に米軍がいるということは、北朝鮮にとっては、朝鮮戦争(1950年〜1953年)は休戦状態にあると言っても、依然、戦争中であることを意味する。

 その韓国と中国が1992年に国交を正常化させたことは、中国が北朝鮮にとって(まだ闘っているに等しい)最大の敵国と国交を結んだということになり、中国を裏切り者と北朝鮮は激怒した。なんといってもそのとき北朝鮮は「それなら台湾と国交を結んでやる!」と叫んだのだから。

 習近平氏が訪朝したところで、北朝鮮の中国への挑発度はいくらか抑えられるだろうが、もう今となってはミサイル開発と核実験を北朝鮮がやめることは考えにくい。となれば習氏が訪朝しても大きく情勢が変わるわけではないことになるが、それでも戦争に突き進むのを抑止する効果くらいはあるだろう。

 北朝鮮が中国を追い詰める戦略は、成功していると言えるのかもしれない。

 すさんでしまった弟分をなだめるためには、もう兄貴分の方がせめて折れるしかない。まずは兄弟間で「内紛」を解決してから、国際社会に向き合うしか道が残ってないのではないだろうか。

 韓国に米軍が駐留するのを望んでいるのは韓国の方だという側面もあるわけだから、やはり決断を迫られているのは、中国だということになろう。
(ヤフーより)

遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

北朝鮮ミサイル発射――春節への冷や水を浴びた中国(遠藤誉氏)

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 7日午前、北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。
 北朝鮮を説得できない中国にとって春節への冷や水とも言える。
 北朝鮮が発射予告期間を前倒しした期間「2月7日〜14日」は、ちょうど中国の春節連休に相当していた。

◆中国では北朝鮮が「春節」に焦点を当てたとみなしている

 今年の中国の春節は西暦の2月8日だ。毎年一週間ほどの春節連休を設定しているが、今年の連休は「2月7日〜2月13日」である。

 そのため2月6日に北朝鮮が発射予定期間をそれまでの「2月8日〜2月25日」から「2月7日〜14日」と前倒ししたことに関して、中国では「北朝鮮はどうやら春節の時期に照準を当てているらしい」という見方が広がっていた。

 事実、2月6日の中国のネットは「観察者網」が「朝鮮は春節ごろに長距離弾道ミサイルを発射するらしい  王毅がめずらしく厳しい言葉」というタイトルの情報を発信したと伝えた。

「観察者網」自身のURLが見つからないので、確認したい方は、たとえば「網易軍事」や、「中国航空新聞網」などをご覧いただきたい。それらはいずれも「情報源は観察者網」と書いている。

 これは「北朝鮮が、わざわざ発射予告期間を中国で最もにぎやかに祝う春節連休にしたことに対する、王毅外相のいら立ち」を表したものだ。

 その報道の中で、中国政府通信社の「新華網」が2月5日に行われたロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相との電話会談における王毅外相の厳しい言葉を報道しているところを見れば、おそらく2月4日に北朝鮮から戻ってきた武大偉・朝鮮半島問題特別代表から、すでに発射予告期間の変更を聞いていたものと推測できる。

 王毅外相はラブロフ外相との電話会談で以下のように述べたとのこと。文中、「朝鮮」とあるのは「北朝鮮」のことで、中国では「北」を付けずに北朝鮮を指すことが多い。

――もし朝鮮がミサイル技術を用いて衛星を発射するとすれば、これは国連安保理決議に違反し、国際社会の同意を得られず、このような挑戦をすることは結果的にもっと大きな対価を支払わなければならい事態を招くだろう。しかし対話こそが朝鮮の核問題を解決する唯一の道だ。対話こそは朝鮮半島問題の唯一の正しい解決の道なのだ。対話は既に失敗に終わっているという声があるが、六カ国協議が中断したここ8年の間に情勢は悪化している。私(=王毅外相)はアメリカのケリー国務長官とも共通認識に達しており、アメリカは「制裁が目的ではなく、対話のテーブルに着くべきだ」と認めている。目下のカギを握っているのは、米朝双方の決断なのである。

◆習近平国家主席がパククネ大統領と電話会談

 観察者網はさらに、中国の外交部(外務省)が「2月6日に、習近平国家主席と韓国のパククネ大統領との間で電話会談が行われた」ことを報道したと伝えている。パククネ大統領が習近平国家主席に「安保理の北朝鮮への制裁決議を支持してほしい」と伝えたそうだ。

 1月7日付けの本コラム「北朝鮮核実験と中国のジレンマ――中国は事前に予感していた」などでも触れたが、北朝鮮が水爆実験と称する核実験をおこなった後、日米、日韓、米韓の首脳同士は電話会談しているが、中韓首脳はしていない。パククネ大統領の方から何度も習近平国家主席に電話会談を申し入れたが、反応がなかったとのことだった。

 原因は、昨年末に突如として開催された日韓外相会談で、韓国側が二度と再び国際社会において、いわゆる「慰安婦問題」を持ち出さないと約束したからだ。韓国と対日歴史共闘をしようと、中韓蜜月を演出してあげていた習近平国家主席としては、韓国側のこの誓いによりユネスコの世界記憶遺産に「慰安婦問題」を韓国と共同で登録申請しようともくろんでいたハシゴを、いきなり外された形だ。

 だから北が核実験をしようと、韓国を守るために中韓首脳間の電話会談にさえ応じないという姿勢だったのだが、北の暴走が止まらない現実に直面し、習近平国家主席側が折れた形である。

 中国の足元を見透かした北の「ならず者」のやりたい放題の暴走。

 「油と食糧の供給を遮断する」という、その暴走をとめる手段を持ちながら、防波堤を無くしてしまうことへの懸念から実行できないでいる中国のジレンマは、もう尋常ではない。



◆中国のネットユーザーのコメント

 そのことは、中国のネットユーザーのコメントにも如実に表れている。前出の「網易軍事」にあるコメントの中から拾ってみよう。

●rogerxu266(福建) 2016-02-06 16:39:48 「制裁を支持する。油を断て」

●小王1972 (上海) 2016-02-06 17:48:14 「朝鮮はいま中国に対して友好的ではない。ほぼ敵対と言っても過言ではない。われわれのそばにいる“恩知らずの人”に対して、そろそろ手を下さなければならない。」

●従此456(江蘇省) 2016-02-06 18:40:40 「糧食を断ち、油を断つべき」

●携帯から(浙江省)2016-02-06 18:14:57 「朝鮮はトラブルメーカーだ」

●(新疆自治区)2016-02-06 17:53:05「経済制裁すべきだ。油を断ち、糧食を断つべき!」

●(湖南省)2016-02-06 18:58:14「糧食を断つべき」

●(遼寧省) 2016-02-06 19:35:34 「ときどき思うのだが、朝鮮は(世界の)どの敵対勢力よりも、もっと恐ろしい」

●(広西自治区)2016-02-06 19:32:24 「たった一枚の紙<中朝友好合作互助条約(中朝友好協力相互援助条約)>が、中国を戦車の上に数十年間も縛りつけている」

(筆者注:「中朝友好協力相互援助条約」は1961年に中国と北朝鮮との間で結ばれた条約。20年ごとに更新。現在は2021年まで有効。第二条に「両締約国は、共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国または同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは、他方の締約国は直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」という「参戦条項」がある。そのため、この中朝条約を「中朝軍事同盟」と位置付けている。中国内には、次の更新のとき(2021年)には、この第二条を撤廃すべきという意見がある。人民の多くも第二条を撤廃すべきと考えており、いっそのこと2021年には更新すべきでないという意見もあるくらいだ。)

●山歌夕唱(三東省)2016-02-06 17:44:18「あなた(中国)が朝鮮に物資と糧食を提供しさえしなければ、金三(金家三代目=金正恩)がこんなに威勢よくやりたい放題のことをできると思っているのか? 供給を断てば、それですむことではないのか!」

 このように「供給を断てばいいではないか」という趣旨のコメントは数多くあり、これが人民の声の大半であるということができよう。もちろん他の角度からのコメントもあり、たとえば「韓国から米軍が出て行けば、朝鮮半島はもっと穏やかになる」とか「アメリカが朝鮮半島にちょっかいを出しているのがいけないのだ」など在韓米軍を批難したものや、「核保有国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国)以外の国は核を持ってはいけないって、不平等じゃない?」など、さまざまな意見がある。

 携帯からネットにアクセスするユーザーの数は9億になったということだから、ネットユーザーの声は中国政府にとっては、なかなかに手ごわい。

 追い詰められた中国政府は、今では矛先をアメリカに向けようとしている。

 世界のほとんどの国は、北朝鮮問題で「カギを握るのは中国」とみなしているが、中国は「なぜ我が国ばかりが?」と不満を持ち、これからは「米朝関係がカギを握る」という方向に持っていこうとする傾向にある。

 それが冒頭に述べた「観察者網」の「朝鮮は春節ごろに長距離弾道ミサイルを発射するらしい  王毅がめずらしく厳しい言葉」に書いてある王毅外相の「目下のカギを握っているのは、米朝双方の決断なのである」という言葉なのだ。

 事実上の弾道ミサイル発射を中国の春節連休に当ててくる北朝鮮に対し、もはや「切れてしまい」ながらもなお、北朝鮮を切り捨てることができないのが中国の現状と言えようか。中国は今、国連安保理による制裁決議に賛同した場合のシミュレーションを行いながら苦悩している。

 北朝鮮を追い詰め過ぎれば、もっと暴走する。そのときに北が武力を行使した時、中国は中朝軍事同盟に縛られて北朝鮮の側に付くのか。その場合はアメリカと戦うことになり、必ず敗北する。したがって、この道は選ばない。それならアメリカ側に付いて北朝鮮を滅ぼすようなことができるのか。ロシアがそれを許さないだろう。いずれにしても第三次世界大戦になる可能性を秘めている。したがって中国としては北朝鮮をそこまで追い詰めるのは危険だと思っているのである。

 シミュレーションは正解を見つけることができないまま、中朝首脳会談を交換条件として北を六か国協議の椅子に着かせるかなどを模索している模様だ。
(ヤフーより)

遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2016年02月04日

中国は北朝鮮を説得できるのか?――武大偉氏は何をしに?(遠藤誉氏)

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 北朝鮮が地球観測衛星(事実上の長距離弾道ミサイル)発射を予告した2日、中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が訪朝。国連制裁決議が強硬すぎると難色を示す中国の落としどころに関して中国政府関係者を取材した。

◆4回目の核実験に対する国連制裁決議に対する中国の本音

 北朝鮮が水爆実験と称する、4回目の核実験を行なったことに対し、中国はことのほか強い怒りを覚えていた。このことは1月7日の本コラム「北朝鮮核実験と中国のジレンマ――中国は事前に予感していた」などに書いた通りだ。本来なら中国は国連の対北朝鮮制裁決議に同調するはずだったが、アメリカは中国が想定していた内容を遥かに超える要求を出してきた。

 「金融制裁の強化」だけでなく、「北朝鮮船舶の入港を世界中で禁止すること」を始め、「北朝鮮への原油輸出禁止」「鉱物資源の輸入禁止」「北朝鮮国営の高麗航空の各国領空通過禁止」などが含まれる。

 中国が考えていた制裁は、あくまでも「核やミサイル開発を抑止させる」程度にとどめるべきというもので、それを越えて市民生活に大きなダメージを与える貿易や経済にまで影響を及ぼすものを想定してはいない。

 まずは、これに関して「中国の本音」を中国政府関係者に聞いてみた。

 すると、いつも通り「人道主義的立場から賛同できないのだ」という模範解答が戻ってきた。

「本音は違うのではないか」と筆者は詰め寄り、「本当は北朝鮮が崩壊するのを中国は恐れているのではないのですか? 北が崩壊するということは韓国が朝鮮半島を統一することになり、そうすれば中国の陸続きに韓国にいた米軍が駐在することになる。それは中国にとって非常に不快なことであり、安全保障上受け入れられないという事情があるのでは?」とストレートに聞いた。

 相手はしばらく黙ったが、不快そうに「当然だろう」と答える。

「中国は絶対に朝鮮半島全体に米軍が駐留していることなど、容認することはしない」と本音をもらす。しかし、と相手は続けた。

「しかしですね、よく考えてみて下さい。米軍は何のために韓国に駐留していると思っているんですか?」

今度は先方が筆者に詰め寄ってきた。

「それは当然、かつての朝鮮戦争を戦ったときに韓国を支援した連合軍の代表として、北から南(韓国)を守るためでしょう」

そう回答しながら、ハッとした。

すると、筆者の次の発言を待たずに先方は決定的な言葉を発したのだ。

「ということは、北が存在しなくなったのなら、『北の脅威から南(韓国)を守る』という大義名分はなくなりますよね。つまり朝鮮半島に米軍が駐留すべき正当な理由がなくなる。すなわち、アメリカは北朝鮮が崩壊すると、本当は困るんですよ!」

これはアメリカの政治ゲームさ、と投げ捨てるように語気を荒げた。

返す言葉がない。

◆武大偉氏訪朝の目的は?

「では、武大偉が、このタイミングで北朝鮮を訪問した目的は何なのでしょう? 北朝鮮に到着したその日に、金正恩は今月8日から25日の間に地球観測衛星を打ち上げると発表しましたよね。あれは長距離弾道ミサイルの発射予告と同じだと世界は解釈しています。ということは、中国は北朝鮮のミサイル発射をとめることはできないということになりますか?」

筆者が次の質問に移ると、先方は「おもしろくない」という語調で答えてきた。

「ご存じのように、李源朝(国家副主席)が訪朝しても、政治局常務委員の劉雲山が行っても、あの若造は態度を変えませんでしたよね。武大偉の職位は、李源朝や劉雲山の職位とは比較にならないほど低い。その武大偉が行って、北を抑えることができるとでも思っているのですか?」

「いえ、思っていません。武大偉は六か国協議の座長ですから、その目的で行ったとしか考えていません。でも、今さら北が六カ国会議に賛同するなどということは考えられないでしょ?」

「そう思うでしょうね。あの若造は、ふつうの良識的行動などをする人物ではない。しかし、それでも武大偉がいかなる成果もなしに戻ってくるというようなことをするために訪朝したりすると思っていますか? 中国はそういうことは絶対にしない。表に出たからには、必ずその前に水面下で緊密な外交交渉があり、何らかの見通しがあったからこそ、メディアにも分かる形で行動する。おめおめ、手ぶらで帰ってくるのを知った上で訪朝したりなどはしませんよ」

なるほど――。

ということは、中聯部(中国共産党中央委員会対外連絡部)が動いたことになる。中国では北朝鮮との関係は中国政府(国務院)系列の外交部(外務省に相当)ではなく、中国共産党が北朝鮮の労働党と交渉するという、建国以来の習わしがある。

アメリカはケリー国務長官を1月27日に訪中させて、中国政府高官と会談させた。

中国は中国共産党と朝鮮労働党が中聯部を通して接触している。

これらの接触の間に、表には出ない「交渉」が行われているということだろう。

その内容が何であったのかに関しては、中国政府関係者も言わないし、筆者も聞かない。

ここは限界であり、中国政府関係者から情報を取得する際のキーポイントだ。

聞いてはならないことは聞かない。

言ってはならないことは絶対に言わない。

だからこそ、一定程度までの情報なら取得できる、という状況が続いているのである。

中国としては、核実験もミサイル発射に関しても「あの若造は中国の言うことに耳を貸さない」ということを学習してきた。 

しかし何としても、六か国協議に関してはせめて「席に着く」というところまでは持っていきたい。席に着いてから何らかの妥協点にいたる「結論」が出るか否かに関しては、希望を持っていないだろう。

◆では、中国はどうするつもりなのか?

中国の今年の春節は2月8日で、2月7日から13日までは春節連休となる。

これを口実に、連休以降まで国連制裁決議の結論を延ばし、その間に「何らかの」譲歩を北から引き出すというのが、今の中国にできる精一杯のことなのかもしれない。

結論的に言えば、武大偉氏が、李源朝や劉雲山ができなかったことをできる、というようなことは「ない」ということだ。

また「アメリカには、北朝鮮に崩壊してもらうと朝鮮半島に米軍を駐留させる大義名分がなくなるので、北朝鮮が崩壊することをアメリカは望んでいないという事情がある」と、中国は踏んでいるということである。

これは筆者にとって新しい知見だった。今回の取材の最大の収穫であったと言っても過言ではない。

となれば、米中と中朝の間の水面下の交渉は単純なものではなく、今般取材した中国政府関係者が言うところの「アメリカの政治ゲーム」をあざ笑うかのような「あの北の若造」の暴走を抑制する困難性を一層際立たせる。

北朝鮮が崩壊することを望んでないのは、中国だけではなくアメリカも同じで、ただアメリカの場合は、崩壊寸前までは北朝鮮を、いや「中国を」追い込みたいというポーズだけは取っていなければならない国内事情があると、中国は見ているということが、今回の取材から見えてきたように思う。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

shige_tamura at 13:13|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

2016年02月01日

中国で記者が連続失踪と逮捕――背後にチョコレート少女の自殺と両会(議会)(遠藤誉氏)

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 甘粛省で記者が相次いで失踪、逮捕されている。背後にはチョコレートを万引きし自殺に追い込まれた少女の追跡取材や、年一回開催される地方両会(県議会などに相当)と全国両会(国会に相当)(北京で開催)がある。

◆チョコレート万引き少女の自殺に抗議して暴徒化した民衆――貧富の格差と政府への不満

 昨年12月28日、甘粛省金昌市永昌県の13歳になる少女が華東超市(華東スーパーマーケット)東街店でチョコレートを万引きした。少女はその日の昼、水しか飲んでいなかった。昼食のために学校から家に戻ってみると、テーブルの上にはわずかな小銭が置いてあるだけだった。華東スーパーがある広場でポップコーンを売っている父親に電話すると、その金で何か買って食べてくれという。少女は家で水だけ飲むと、その小銭で父親のためにうどんを買い、父親に届けた。お前が食べろという父親に「おなか空いてないから、いらない」と言い、その場を離れた。父親は無理やり別の小銭を少女に渡した。

 目の前には何でも売っているスーパーマーケットがある。

 少女は思わず店の中に陳列してあるチョコレートに手を伸ばしていた。

 家は貧乏で、チョコレートを買うお金などない。

 スーパーの監視カメラが少女の行動を撮っていた。

 店員に捕まり、客の前で激しい詰問が始まる。

 「名前は?」「さっさと名前を言いなさい!」「学校はどこなの?!」「親の名前は?!」「親の電話番号を言いなさい!」

 店主も出てきて、容赦なく罵声を浴びせた。

 周りの客が、「もう、その辺でいいだろ?品物も返したんだし…。学校に戻してあげたら?まだ子供なんだし…」とかばうが、店主は引かない。

 少女は屈辱のあまり何も答えられず、ようやく母親の電話番号を言った。

 母親が来ると、店側はチョコレートの10倍はする150元を出せという(1元は約18円)。払わなければ警察に通報し、学校に通知すると脅した。

 しかし母親は10元しか持っていない。

 母親は娘を店で待たせ、ポップコーンを売っている夫のところに飛んでいき事情を話した。二人合わせてかき集めた金額は95元。急いで店に戻り、店主に有り金ぜんぶを渡した。

 「だめだ! 足りない! 150元出さなければ警察に通報するぞ!」

 押し問答をしている内に娘の姿が消えていることに気がついた。

 ハッとした時には遅かった。

 少女は17階の屋上に行き、飛び降り自殺をしてしまったのである。

 翌日、千人以上の民衆が華東スーパーを囲み抗議を始めた。

 30日になると群衆の数は万を越え、暴徒化してしまう。

 警察3000人以上が出動し、それでも騒ぎは収まらずに、ついに蘭州軍区から3000人の武装警察が出動。大きな事件に発展してしまう。その様子を伝えた画像はほぼ削除されてしまって、今ではあまり見つからないが、その一部は「Yahoo香港」や「文学城」などの写真から伺われる。10人ほどが拘束された。

 貧乏なのだ。

 特に甘粛省やチベット自治区あるいはウィグル自治区などの辺境の地に行けば行くほど、貧富の格差は激しい。今回の暴動は、「貧富の格差」に対する民衆の怒りと全ての不平等に対する政府への怒りが、少女の自殺をきっかけに爆発したと言っていいだろう。

 このような暴動は全国各地で毎日数百件は起きている。2014年に清華大学の教授が計算したところによれば、年間18万件ほど起きているという。少し前までは、(その昔、筆者がいた)中国社会科学院の社会学研究所が統計を取っていたのだが、年間10万件を越える段階で統計作業を中止している。

 あまりに暴動が多いために、中国の治安維持費は軍事費を上回っているほどだ。

◆両会が始まろうとしていた

 中国には年に一回開かれる「両会」というのがある。全国レベルで言うならば、立法機関である全国人民代表大会(全人代)とその諮問機関のような役割をする政治協商会議(全国政協)の二つを指す。3月初旬に北京で開催されるが、その前に1月に入ると中国全土の行政区分レベルで開催される。

 甘粛省の場合は甘粛省政協が1月15日から19日まで、甘粛省人代が1月16日から20日まで、それぞれ蘭州で開かれることになっている。

 1月13日には中国共産党甘粛省委員会宣伝部が「両会新聞宣伝工作会議」を開催し、甘粛省の全てのメディアがこれを報道することを要求した。

 地方レベルであろうと、地方の両会から選ばれた全国両会であろうと、その期間にはいかなる「不祥事」も起きてはならない。警戒レベルは最高に達する。それが中国だ。

◆なぜ複数の新聞記者が連続失踪し逮捕されたのか?

 1月7日になると、「蘭州晨報」(朝刊)、「蘭州晩報」(夕刊)や「西部商報」などの記者が相次いで消息不明になったことがわかった。

 1月25日には、「ゆすり」や「脅し」を理由に3人が拘束されていたことが判明。

 3人に共通していたのは、「チョコレート少女」の追跡取材をしていたことである。もう一つの共通点は、「社会の負のニュースも報道する」という勇気を持っていたことだ。

 中国では、これは「勇気」ではない。「犯罪」に相当する。おまけに反骨精神を持っていた3人は、1月13日の中国共産党宣伝部の宣伝内容を報道しようとしなかったという「報道しない自由」をも使おうとしたという。これはもっと重い「犯罪」に相当すると言っていいだろう。

 しかし、これらを逮捕理由にしたのでは、また暴動を招く。

 そこで当局は「ゆすりや脅し」という理由を付けたのだが、どのような脅迫をしたのかに関して、理由が二転三転している。

 3人のうち2人は釈放され、1人は逮捕されたが、その理由の中に「反政府的な公開状をネットに載せた」というのが付いていた。

 逮捕状などに関する具体的画像を見たい方は、「観察者」というウェブサイトをご覧いただきたい。逮捕状そのものも貼り付けてある。政府を批判する公開状は、本人が書いたものではないと、所属の新聞社は言っている。

 逮捕の正当性を裏付けるために「おとり捜査」も実行したようだが、要は「報道の自由」を弾圧したというひとことに尽きる。

 習近平政権になってから、報道の自由への弾圧が一段と厳しくなってきた。

 一党支配体制を崩壊させないために反腐敗運動の強化や国家新都市化計画により2.67億人に上る農民工の福利厚生問題を解決すべく取り組んではいる。そのために経済の成長が鈍化し、人民に逆に不満が出てくるといけないので、報道の自由に対する弾圧が非常に厳しくなっている。人権派弁護士ら、民主活動家からは「改革開放以来、最大の言論弾圧が起きている」という悲鳴が筆者のもとにも届く。

 1月5日付の本コラム<香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪――国際問題化する中国の言論弾圧>にも書いたように、言論弾圧は中国本土(大陸)だけでなく香港にも及んでいる。

 しかし、このようなことをすればするほど、人民の不満は高まるばかりだろう。携帯を通してネットにアクセスする「網民」(ネット人口)は今年1月の統計で9億人に達した。

 言論弾圧は逆効果だ。自由に発信する中国型LINE「微信」は、民主活動家や勇気のある記者の逮捕という旧来の言論弾圧手法では抑えきれない勢いになっている。規制されればされるほど、人民の「知る欲求」と政府への不満は強まっていき、政府転覆へとつながりかねないだろう。

 一党支配の限界を感じさせる事件であった。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士(ヤフーより)

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