2015年12月

2015年12月24日

深セン土砂崩れ遠因、党と政府側の責任者は?――浮かび上がった不正の正体(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html

 20日に起きた土砂崩れの企業側責任者に関しては昨日のコラムで書いたが、それなら事態発生の遠因に関して責任がある政府側あるいは党側の人物は誰なのか?浮かび上がったのは江沢民派の元深セン市書記・王栄らだ。

◆企業側の詳細な動きから見えてくるもの

 昨日のコラム「深セン土砂崩れの裏に緑威公司と地方政府の利権構造」で書いたように、土砂を採石場に堆積させてきた企業は「深セン市緑威物業管理有限公司」(以下、緑威公司)で、緑威公司は、その経営権を政府に無断で「深セン市益相龍投資発展有限公司」(以下、益相龍公司)に売り渡していた。

 その間の詳細な動きを見ることによって、当時の政府側、特に市のトップである中国共産党委員会書記の誰と関係しており、誰に主たる責任があるのかを分析してみよう。

 データは主として、今年12月22日付の中国政府の通信社「新華社」深センのウェブサイト「新華網‐新華視点」に基づく(この記事の内容は、2015年12月23日午前0時22分まではあったなが、23日午前6時41分に再度アクセスしたときには削除されていた!)。

 22日0時22分までに得た情報には以下のことが書いてあった。

1.2013年8月7日、緑威公司が土砂処理に関する経営権を深セン政府から落札した。

2.2013年7月23日、緑威公司と益相龍公司は土砂処理経営権に関して水面下で提携し、「合作協議」の文書に署名していた。

3. つまり、形の上では緑威公司が落札しながら、落札前にすでに経営権を益相龍公司に、こっそり譲渡していたことになる。(筆者注:その理由として、一つには経営権を売ることによって緑威公司がさらに利益を得るということと、もう一つには実は緑威公司には土砂などの廃棄物処理業務に関する資格がなく、「物業」という「ビルなどのメンテナンス」に関する営業資格しか持ってないことが考えられる。益相龍公司は廃棄物処理に関する営業資格を持っている。)

4.これは、「益相龍公司は落札結果が出る前から、このプロジェクトは必ず緑威公司が落札するということを知っていた」ことの証拠となり得る。

 これこそまさに、中国全土で花盛りである「腐敗の構造」で、どこに落札するかは、政府側あるいは党側責任者のポケットに入る金額で決まっており、ここ深セン市では、必ず緑威公司と最初から決まっているのだ。

 昨日のコラムに書いた「環球網」の報道にある通り、「毎日経済新聞」の記者が突き止めたところによれば、他の個所でも深セン市内のプロジェクトであるならば、必ず緑威公司が落札している。たとえば:

●2013年9月:深セン市宝安区新安街道財政管理所管轄下の宝民小学物業管理と非教学時の安全監理サービスに関するプロジェクトに緑威公司が99.1万元(約1883万円)で落札。

●2014年1月:深セン市宝安区福永街道塘尾万里学校の物業管理と、鳳凰小学校の物業管理などを、緑威公司が77.5万元で落札。

●2014年12月:深セン市宝安区新安街道財政管理所および福永街道事務局が申請した

学校物業管理などに関するプロジェクトを落札。

……などなどだ。

「新華網」深センはさらに、今般の土砂処理の工事は、2015年2月21日が期限だったことを突き止めている。それ以上延期して土砂を投棄すると許容限度を超えて危険が生じるため、期限が切ってあったというのだ。しかし、期限を10カ月以上も越えて土砂を捨て続けたのは、落札した経営権を他の企業に譲渡していたため責任の所在が不明確になっていたのと、政府側に「不正を受け容れる相手」がいたからということ以外の何ものでもない。

 10カ月延期したことによって儲けた金額は7500万元(約14億2500万円)という。

◆深セン市の最高責任者は誰だったのか?

 それなら、この時期の深セン市政府あるいは(および)中国共産党深セン市委員会の責任者(市長and/or党書記)は誰だったのか、ということに問題は絞られていく。

 それを考察するために、今般の土砂処理の経営権を緑威公司が落札した2013年8月のころの市長や書記が誰だったのか、何か不審な動きが見れらないかを調べてみた。

 その結果、浮かび上がってきたのは王栄という書記だ。

 王栄は1958年に江蘇省に生まれ、江蘇省無錫市や蘇州市などで中国共産党委員会の書記や市長などを務めたあと、2009年に深セン市の市長代理を兼ねながら、2010年に深セン市の中国共産党委員会書記に昇進している。

 江沢民も江蘇省の生まれで、何かと江蘇省の人間を自分の味方につけようとしていた。(一部では王栄は江沢民の妻と親戚関係にあるという噂もあるが、その真偽は別として、江沢民の息がかかっていることだけは確かだ。)

 突然(広東省)深セン市の書記になった王栄は、当時の広東省の書記・汪洋にことごとく楯突き、身分が遥か上の汪洋と公けの場で言い争ったこともあるほどだ。汪洋は江沢民とは犬猿の仲であった胡錦濤の腹心で、共青団派である。

 王栄は2015年2月9日に深セン市書記の地位を離任し、広東省政治協商会議の委員に異動となった。このとき中国内外の中文メディアは「ついに王栄が捕まる」「中央紀律検査委員会の調査を受けることになった」などと噂をしたが、王栄は結局政治協商会議の副主席に選ばれた。政治協商会議というのは名ばかりの閑職で、実権は持っていないから、「市」から「省」へと昇格したように見えるが、実際上は降格ということになる。

 おまけに深セン市書記から離れた時期が、どうも怪しすぎる。なぜなら2015年2月は、まさに今般土砂崩れを起こした土砂堆積場の許容量がオーバーし、土砂運搬期限が切れてしまった時期と一致している。2010年から汪洋が国務院副総理として広東省から去る2013年3月の期間における王栄の行動と、2013年7月以降の緑威公司の異常なまでの「落札ぶり」を知っている周辺の者が、「逃げた」というイメージを持ってもおかしくない。

 深セン市の市長に関して言うならば、2010年6月からは許勤という人物が市長になっているが、彼は専ら北京中央で科学畑や国家発展委員会におけるハイテク担当などに従事した学究肌の人間である。また2015年2月という分岐点となる時期に奇怪な移動をしていない。

 もちろん、深セン市における「非科学的土砂堆積」という現象に対して、責任がないわけではないだろう。ただ、書記はその行政区分の最高決定権を持つトップで、市長はその下の身分なので(共産党委員会が上)、王栄が利害関係を握っていれば、誰も手出しはできない。

◆今年1月に「環境報告書」が危険を警告

 実は2015年1月12日に「建設項目環境影響報告表」というものが出されていたことを「法制晩報」が深セン市光明新区政府のウェブサイトで見つけた。その環境報告書は、今般の事故があった土砂堆積場に関して、土砂崩れの危険性があることを警告している。

 これに対して深セン市の城管(都市管理)部門が今年5月に視察を行い、「問題あり」としている。さらに7月には、現場の経営権を持ち責任があるはずの緑威公司と、実際に土砂を運搬している会社が異なることに気がついた。そこで9月に、これ以上土砂をここに放棄しないように命じた。

 にもかかわらず、土砂は崩壊の前日まで放棄され続け、堆積量は膨れ上がる一方だったという。

 そこで実は前出の「新華社」深センのウェブサイト「新華網‐新華視点」には、この後、城管部門や不動産部門の責任者を取材した記録が載っていたのだが、23日朝6時40分に再度アクセスしたときには、検閲により削除されており、「この記事は時期が過ぎています」という表示があるのみだった。この記事を転載した中国共産党機関紙「人民網」やsohuなどのページも数多くあるが、すべて一斉に内容が削除されている。

 どうも、新華網にしては、ずいぶんと勇気のある真実を書くものだと感心していたのだが、まさか「新華網-深セン」の記事が削除されるとは思わなかった筆者の判断が甘かった。ダウンロードしてから作業すべきだった。この記事は、「新華網-新華視点」の某記者が追跡したスクープだったのだが、ただこの後に書いてあった基本的な情報は、どの部門に行っても「たらい回し」にされただけで、ノラリクラリと回答を交わしているというものである。そして一か所だけダウンロードしておいたのだが、2015年7月に緑威公司が、光明新区の城管局に「期限を過ぎているので、これ以上の土砂運搬をしないようにしてくれ」と要求したとあった。

 当該記事の最後の言葉が、「この事故は事件であり、背後にはもっと深い鍵が潜んでいる」と書いてあったのは確かだ。

 そこで筆者は、その「深い鍵」の追跡を重んじて、先に王栄の考察をしている内に体力の限界にきてパソコンを閉じてしまったのが迂闊だった。申し訳ない。

 現時点で関係企業の責任者はすでに拘束されているので、いずれ王栄への調査が始まることだろう。

 なお、王栄のあとに就いた深セン市の書記・馬興瑞は、習近平国家主席と李克強国務院総理から現場の陣頭指揮に当たれと直接指示を出されており、「政界の新星」と呼ばれている人物なので、王栄後の責任はまぬかれないとしても、主たる責任は王栄に行くものと思われる。特に馬興瑞は習近平の妻の友人で、石油閥の腐敗問題に関して厳しい態度に出ているので、「安全」だろうと判断される。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年12月22日

深セン土砂崩れの裏に緑威公司と地方政府の利権構造(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 20日に起きた広東省深セン市の土砂崩れ事故の背景に、案の定、企業と深セン人民政府や中国共産党深セン市委員会との間の癒着が浮かび上がった。次期国家主席の有力候補と見られている広東省書記・胡春華のへの影響は?

◆緑威公司と深セン人民政府や党委員会との癒着

 今月20日に広東省深セン市の工業団地で起きた大規模土砂崩れで、33棟の団地が一瞬で地面に埋まってしまう惨事が起きた。現時点で1人の遺体が見つかっているが、なお89人が行方不明のままだ。土砂崩れによって38万平方メートルの土地が深さ10メートルの土砂で埋まった。このとき天然ガスパイプラインも破損して爆発が起き、惨状を加速させている。

 中国政府は今のところ、土砂崩れの原因は、高さ100メートルまで積み上げられた土砂置き場の土砂で、土砂置き場として臨時に利用されていた石切り場が、工業団地の方向を向いていたことが惨事を生んだとしている。この土砂は、工場や工業団地を建築する際に生じたもので、土砂にはコンクリ―のかけらや建築廃材なども含まれており、それが不安定さを増し、崩壊の主要原因になっていたとのこと。

 そして中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球網」(環球時報のウェブサイト)は21日朝、土砂を積み上げた業者として、「深セン市緑威物業管理有限公司」(以下、緑威公司と略称する)の名前を挙げた。

 緑威公司は2001年に1001万元(現在のレートで約2兆円)の資本金で張菊如と張金華が設立した会社だ。張菊如はまた、「深セン市緑威投資発展有限公司」という会社を同じく資本金1001万元で2010年12月に設立している。

 環球網の情報源は中国の「毎日経済新聞」の記者によるが、2013年10月から今日に至るまで、緑威公司は何度も深セン市宝安区政府購入センターの落札対象となってきたという。直訳なので、もう少し表現を変えて書くと、政府の仕入れ係の窓口が推進するプロジェクトに複数の企業が入札したとき、毎回、必ず緑威公司が独占的に落札してきたということだ。

 これは中国全土のいたるところに充満している現象で、水面下で(いや、堂々と?)、企業と政府役人が癒着し賄賂を渡して特定の会社に落札させる。同時に、その管理に関しても余計な経費を掛けず、すべて「目こぼし」をしてくれるという仕組みが全国的に出来上がっている。今回も例外ではなく、天津の爆発事故同様、「人災」であることは明らかだ。

 癒着している政府役人というのは、中国では二重になっていて、一つは地方人民政府の役人で、もう一つはその地方の中国共産党委員会書記などである。

 2001年からの市長と書記の名前を列挙したいところだが、その誰が癒着に関わったのか、まだ特定することはできないし、またもしかしたら全ての人が「伝統的に」受け継いできたかもしれないので、具体的な人物に関しては必要に応じてまたの機会にしたい。

 問題は、緑威公司が、政府が落札して請け負った土砂処理(堆積?)経営権を、別の業者に譲り渡していたということだ。

 それを明らかにさせたのは22日付の「東方報業集団ウェブサイト」(東網)で、75万元(約1500万円)で「深セン市益相龍投資発展有限公司」に経営権を譲渡していたとのこと。

 政府によって落札した企業が、その経営権を袖の下を使って他の企業に譲渡する行為は、中国でも違法である。

 管理責任問題と中国の腐敗構造は、事故現場以上に泥沼化しそうだ。

◆次期国家主席有力候補、広東省の胡春華書記への影響は?

 事故の犠牲者に対する関心とともに、筆者だけでなく中国人民は次期国家主席の有力候補者とされる中国共産党広東省委員会の胡春華書記に対する影響がどうなるのだろうかということに、連鎖反応的に注意がいく。

 そこで土砂崩れ事故と胡春華の二つのキーワードを入れて中国のネット空間で検索してみた。すると、実に奇妙な現象が現れた。

 いきなり「広東省委書記胡春華看望深セン山体事故傷員」(実際はすべて簡体字)という選択項目が出てきたので、驚いてクリックした。

 ところが、どのページをクリックしても、すべて「削除されました」とか「申し訳ありません。このページは探し出せません」あるいは「not found」という表示が出てくるではないか。

 これはただ事ではない。

 知り合いの退職した中国政府の老幹部に確認したところ、どうやら「よからぬ噂」が流れていたので、このタイトルのページは検閲に引っかかり、全て削除されたのだという。

 しかし胡春華自身は北京で開かれていた中央の会議に参加していたのだが、習近平国家主席と李克強国務院総理の支持を受けて、すぐさま現場に駆け付けたそうだ。

 中国共産党新聞網によれば、「張高麗、馬凱、胡春華、楊晶、郭声●(王偏に昆)、王勇、朱小丹」などの中共中央および広東省の関係指導層に対して、緊急に救助活動に従事するよう命令を出したとのこと。

 胡春華は、広東省の書記としての責任は当然負わなければならないだろうが、直接の影響は少ないようだ。継続して事態の経緯を見守りたい。



遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年12月21日

背景に中国国内における江沢民告訴――中国で入国拒否されたミス・カナダ(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 中国海南島で開かれたミス・ワールド世界大会に出場しようとしたカナダ代表リンさんが入国を拒否された。その背景には今年5月に改正された行政訴訟法と、それに基づいて中国国内で告訴された江沢民の問題がある。

◆入国拒否されたミス・カナダのアナスタシア・リン

 中国系カナダ人のアナスタシア・リンさんは、12月19日に中国の海南島三亜市で開催されるミス・ワールド世界大会に参加するため中国に入国しようとした。ところが駐カナダの中国大使館はリンさんのビザを発給することを拒否した。そこで香港経由で中国入国を試みるため中国政府の特別行政区で入国要件が異なる香港に行った。それでも中国大陸への入国は拒否されてしまった。

 理由は、彼女が中国における人権問題に関して活動しているからだ。

 中国出身のリンさんは13歳のとき、父親と離婚した母親とともにカナダへ移住。トロント大学で演劇を学び、在学中から中国の人権問題をあつかう映画やテレビ番組に出演してきた。カナダ映画『最前線(原題:The Bleeding Edge)』で、リンさんは収監される法輪功学習者を演じている。今年7月には米議会の公聴会で、法輪功学習者に対する中国政府による迫害や臓器狩りの実態について証言したこともある。

 そこで彼女は香港で記者会見を開催し、「拷問で大半の歯を失った人権弁護士・高智晟氏が歯医者にさえいけないのはなぜか。臓器移植ドナーと死刑執行の数を合わせても数万件の移植手術件数に満たないのはなぜか。自国民に検閲のない情報を見ることを許さないのはなぜか。中国政府に聞きたい」(「大紀元」)など、中国の人権問題と言論弾圧に関心を向けるように訴えた。

◆法輪功学習者による江沢民告訴と新「行政訴訟法」

 昨年11月1日、第12回全国人民代表大会常務委員会第11次会議で決議された「中華人民共和国行政訴訟法の修改正」は、今年5月1日から「新行政訴訟法」として施行されている。

 これまでの訴訟法では、多くの人民からの訴えを訴訟として受理することが少なく、もっぱら「上訪」(サン・ファン)という陳情者の受付箱や受付窓口で処理することが多かった。処理すると言っても、陳情書を受け取るだけ受け取ってゴミ箱に捨てるか、陳情を聞くだけ聞いて無視する、あるいは追い払うという情況がほとんどだ。最近はインターネットを通して「上訪」ボックスに投稿するケースも見られる。特に法輪功学習者が訴えた場合は、それを受理しないどころか、必ず逮捕され、拷問や生きたままの(第三者への移植のための)臓器摘出などにより死に至る者が多かった。

 しかし、習近平政権は反腐敗運動を展開するに当たり、「依法治国」(法によって国を治める)を政権スローガンの一つにしている。中国政府に対する暴動やデモは、大小合わせると年間18万件に上ると清華大学の教授は計算して出しているくらいだ。これを放置すれば、反政府暴動が本格化するのは時間の問題だろう。特に悪化する一方の大気汚染は、貧富の別なく、すべての中国人民を「息ができない」現状に追い込み、環境汚染をここまで放置して利益ばかりを追及してきた党幹部への不満は限界に達している。

 そこで暴動やデモへと走らずに、「法に訴える」手段を、すべての人民に与えるという決定をして「新行政訴訟法」を発布したのである。

 同法の第3条には、「人民法院は、公民、法人およびその他の組織が起訴する権利を保障すべきで、法により受理すべき行政案件を受理しなければならない」とある。中国語では「有案必立、有訴必理」と称する。

 また司法解釈では「基礎条件を満たす場合、全ての訴訟申し立てを受理しなければならない。その場で受理可能か否かを判断できない場合は、訴状を受け取ったあと7日以内に回答しなければならない」としている。

 この瞬間、歓喜の声が人民の間に走った。一気に40万件の訴訟案件が人民法院に集まり、今年5月だけで受理数の増加率は221%に上っている。

 中でも最も俊敏にして顕著な動きを見せたのは法輪功学習者たちだ。

 江沢民元国家主席により1999年6月10日から激しい迫害を受けてきた法輪功学習者たちは、中国全土で競って江沢民を告訴する運動を起こし、いま現在、法輪功学習者の直接の被害者が原告となって中国の最高人民検察院(最高検察庁)や最高人民法院(最高裁判所)に告訴した原告の数は中国国内で20万人に達しているという。また被害者に同情して署名活動をし告発状を最高人民検察院や最高人民法院に送った数は、それぞれ38万8千人分(最高人民検察院)および32万2千人分(最高人民法院)となっているとのこと。このデータは配達証明などにより確認された数字であることを、筆者は直接、法輪功関係者から聞き取った。かれらによれば、さらに国外からの原告の人数も合わせれば、百万人に達しているという。

 中国の司法当局は、この江沢民告訴や告発に関して、7日以内に「受理せず」という通達を出していない。

 新「行政訴訟法」によれば、受理しないためのよほど正当な理由がない限り、受理しなかった責任者は責任を問われることになっているからだ。

 すでに牢獄にいる薄熙来や周永康らは、この法輪功迫害に関して協力した見返りに江沢民から多くの恩恵を受けて出世した連中だ(薄熙来と法輪功の関係に関しては『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』に、周永康と法輪功の関係に関しては『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』に詳述した)。

 法輪功学習者らの行動は、習近平政権にとって、ある意味、腐敗の頂点に立つ江沢民に一定の圧力を掛ける効果を持つ。一方では今年11月1日から施行されている「中華人民共和国刑法修正案」では、法輪功に対する処罰を、改正前よりも厳しくしている。

 つまり習近平政権にとっては、中国政府に対する国内のさまざまな不満要素のはけ口は創ってやり、法輪功学習者の告訴により江沢民を結果的に窮地に追いやりはするが、かと言って、「精神的な力」を持ち得る法輪功が幅を利かせては困るので、あくまでも邪教として徹底的に取り締るということなのである。

 カナダのアナスタシア・リンさんの入国拒否は、この線上にあったと言っていいだろう。

◆江沢民を「生かさず、殺さず」

 なんと言っても江沢民は神聖なる中国共産党の「党章(党規約)」に名前が載っている元中国共産党中央委員会総書記であり元中央軍事委員会主席であり、元国家主席だ。そのような人物を逮捕などしたら、中国共産党の権威に傷がつく。一党支配体制の正当性にも動揺をもたらす。

 おまけに習近平が現在の地位を獲得できたのは、ひとえに江沢民とその大番頭だった曽慶紅のお蔭だ。

 こうした諸々の原因があり、習近平国家主席としては、決して「江沢民逮捕」などという事態には持っていけない。

 おまけに江沢民の腹心は曽慶紅以外すべて投獄されているので、江沢民には彼のために動いてくれる部下がすでにいない。

 だから、このまま放っておけばいいのだが、まだ江沢民の息子・江綿恒が綱渡りをしながら生きている。その孫も、チャイナ・セブン(習近平政権の中共中央政治局常務委員7人)の党内序列ナンバー5の劉雲山の息子と結託しながら、まだ「商売」に励んでいる。

 油断はできない。

 そこで江沢民を「生かさず、殺さず」の状態に置きながら、プレッシャーも与えつつ、かつ法輪功が活躍する余地はもぎ取っておくというのが、習近平の魂胆だ。法輪功は何よりも「精神的力」で横につながっている。中国政府にとって、これほど好ましくない存在はない。金で心を買うことはできても、尊厳は買えないからだ。

 筆者は法輪功の運動に関しては全くの中立だ。

 しかしかつて法輪功学習者が増えたのは、中国の医療制度が充実していないために、健康を保つ目的で気功を始めたのが原因だったことは確かだとみなしている。改革開放により、それまで国家によって守られていた「揺りかごから墓場まで」の生涯保障制度は崩れ、その一方で近代国家としての医療制度の充実も進まない時期が長く続いた。気功を通して健康を保とうという動きはまたたく間に中国全土に広がった。中南海の中にも学習者がいた。問題は、気功の修練の中には「精神の安定」や「自由な精神の拠り所」を求めるという出発点があるということだ。これは中国共産党が「信仰」として強要している社会主義の核心的価値観と相いれないという要素を持っているだけでなく、「精神的に横につながると反政府運動になる危険性を持っている」という警戒心から弾圧を始めたという事実は認識しておいた方がいいだろう。

(その中には法輪功に同情的だった当時の朱鎔基首相に対する江沢民の激しい嫉妬という「中南海内の闘い」も含まれているが、話が長くなるので、ここでは省く。)


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年12月18日

米の対台湾武器売却に対する中国の猛抗議と強気(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 アメリカ政府は16日、4年ぶりに台湾に武器輸出する方針を決定。中国政府は対米猛抗議をしながらも、一方では「使い物にならない古い武器を売っているだけなので、両岸(中台)の力関係には影響せず」と強気だ。

◆まずは公式発表で激しい抗議

 アメリカ政府は台湾に対し、海軍のミサイルフリゲート艦や対戦車ミサイルなど総額18億3000万ドル(約2200億円)の武器を台湾に売却する方針を固めたとアメリカ議会に通告した。これは4年ぶりのことで、馬英九政権になってからは4回目。

 1回目は2008年、2回目は2010年、3回目が2011年と、実は民進党政権時代よりも武器売却総額が多い。

 中国共産党の機関紙「人民日報」のウェブサイト「人民網」によれば:

●2008年5月に馬英九が総統に就任して以来の7年間(来年4月までとすれば8年間)で、アメリカが台湾に武器を売却した総額は201億3000万ドルに達する。年平均にすると25億ドル(任期8年間として計算)。

●李登輝総統時代であった12年間でアメリカが台湾に売却した武器の総額は162億ドル。年平均13億5000万ドル。

●陳水扁総統時代の8年間に売却した総額は84億ドル。年平均10億5000万ドル。

 今般の武器売却に対して中国外交部の鄭沢光副部長は、駐中国のアメリカ臨時大使代理・李凱安を呼び出し、アメリカに厳しい抗議を言い渡した。いわく:

「台湾は中国の領土の不可分の一部だ。中国はアメリカが台湾に武器売却することに断固反対する。これは国際法と国際関係に照らして、著しく米中の3つのコミュニュケに違反するものであり、中国の主権と安全利益を損なうものだ。中国は、武器売却に関与した企業に対し、断固とした制裁措置を取る」

 3つのコミュニケというのは「1972年にニクソン大統領との間に交わされた上海コミュニケ」、「1978年に出された米中国交正常化共同宣言」、「1982年8月17日に発表した第3次米中コミュニケ(特に八一七コミュニケと称する)」の3つを指す。

 基本的には「一つの中国」を認め、「中国」という国家としては「中華人民共和国」しかこの世に存在せず、「中華民国」を承認してはならない、したがって「中華民国」と国交を断絶して、元の「中華民国」を中国の一地方の「台湾」あるいは「台北」と位置付ける、というものだ。

 その台湾に武器を輸出するなどということは、中国(北京政府、大陸)にとっては、絶対にあってはならないことなのである。

 しかしアメリカは、1979年まで、「中華民国」と米国の間で「米華相互防衛条約」を結んでいた。上記「3つのコミュニケ」のうち1978年の米中国交正常化共同声明により米華相互防衛条約は破棄されたものの、それに代わって「台湾関係法」というものを米議会で制定して、「台湾に対する防衛的な武器強をする」ことを定めている。

 以来、米中国交正常化をした後も、継続的にこの「台湾関係法」に基づいて、台湾に武器売却を続けてきているのだ。

◆中国政府は、本当はどう見ているか?

 台湾に武器売却を続けるアメリカに対して、中国政府は激しい抗議はしているものの、本当はどう見ているかを解説したい。主として中国の中央テレビ局CCTV軍事解説番組や中国政府高官からの直接の聞き取りに基づく。

1. アメリカが台湾に売っているのは、もうアメリカでは使えなくなった古びた武器だ。台湾の軍事力を高めることはできない。したがって両岸(中台)問題に関して、いかなる脅威も与えない。中国(大陸)の軍事力がいかに高いかは、今年おこなった軍事パレードを見れば、語るまでもないだろう。

2. アメリカが今このタイミングで台湾に武器を売るのは、大統領選があるからだ。アメリカの財団側からの支持を得て、票を集めたいと思っている。

3. アメリカが常に台湾に武器を売却するのは、米台の「親密度」を、常に台湾に見せておかなければならないからだ。アメリカはまた米台親密化と日米親密化を中国に見せようともしている。

4. 台湾が武器を購入するその金は、どこから来るのか。一つには台湾市民(国民)からの税金によるものだが、もう一つは大陸で大儲けしている台商たちのうち、親米分子がいて台湾の政府に協力している。ここが一番大きな問題で、今後も注意を払っていかなければならない。

◆「南シナ海問題への牽制」といった一時的な問題ではない

 日本では、このたびの武器売却を「南シナ海に進出する中国をけん制するため」と報道しているメディアが多いが、そのような短期的視野の問題だけではないだろう。

 台湾で2000年代前半の陳水扁政権時代に、あまりに台湾独立を叫んで北京政府と衝突したので、アメリカは台湾と中国(北京政府)との間で困惑していた。なぜならこの時期は、中国の経済・軍事急成長時代と一致していたからだ。アメリカとしては、中国ともうまくやっていきたい。

 そこで中国大陸に対して「特に独立を叫ばず、現状を維持する」とした馬英九政権の誕生は、アメリカにとってありがたかったにちがいない。その一方で、「大陸からの防衛のため」に、対台湾の武器売却を強化し、防衛の名の下に武器輸出を増加させている。

 この変化は、上述した人民網のデータに如実に表れている。

 アメリカの、この「二面性」は、ニクソン政権の中国電撃訪問以来続いているものであり、それが沖縄返還の時期と一致していることから、「尖閣諸島の領有権に関して、どちらの側にも立たない」というカメレオン型姿勢にも表れている。

 このたびの武器売却は、たしかに南シナ海における中国の進出に対する牽制という側面は否めないものの、そういった近視眼的な要素だけで動いている事象ではない。根底にある米中台問題を大きな視野で見ないと、日本にとっても、正しい戦略を練る目が歪められる危険性をもたらすのではないだろうか。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

ネット世界「地球村」で孤立する「紅い皇帝」――第二回世界インターネット大会(遠藤誉)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 16日、浙江省で開かれた世界インターネット大会で習主席は世界のネット界を「地球村」と表現したが、参加した首脳級はロシアやパキスタンら友好国のみ。
 言論弾圧をする中国に対する地球村の冷ややかな視線が際立った。

◆「紅い皇帝」習近平に冷ややかな目

 世界インターネット大会は、中国政府の呼びかけによって創設され、2014年11月19日に第一回大会が浙江省烏鎮市で開催された。中国側は、これは世界最大規模で最高レベルの世界インターネットネットのサミットだと称している。主催は中華人民共和国国家インターネット情報弁公室で、地元の浙江省人民政府も共催の形を取る。

 その第二回大会が今年11月16日から18日まで同じく浙江省烏鎮で開催された。

 しかし、「サミット」と中国側が位置づける割には、首脳級が参加したのは「ロシアのメドベージェフ首相、パキスタンのシャリーフ首相、カザフスタンのマシモフ首相、キルギスタンのサリエフ首相、タジキスタンのラスルゾダ首相…」など8つの友好国に過ぎない。これらは中国とロシアおよび中央アジア諸国によって構成される上海協力機構のメンバー国であって、とても「世界のサミット」とはほど遠い。

 それ以外はネットビジネス関係の代表者ばかりだ。

 習近平国家主席は、開幕式において基調演説をしたが、どうも「尊敬する○○総理(大統領)」といいった挨拶の言葉が長すぎて、「尊敬する○○様」が10人続いた。それからやっと「および、ご来賓の皆さま」に入るという異例の挨拶から入った。

 それは、一人一人の首脳級参加者名でも列挙しないと、誰も来ていないということが明白だからで、しかし列挙したことにより、そういう国の首脳級しか来てないことを際立たせる結果となった感は否めない。

 長いが、ここまでやったのだから、いっそ基調演説の冒頭だけを、そのまま書き写す。但し、( )内の説明は筆者が加筆。参加した証拠をご覧になりたい方は、このページをご覧いただきたい。「このページ」に載ってない内容に関しては、個別にリンクを張る。

 尊敬するフセイン総統(パキスタンの大統領)、

 尊敬するメドベージェフ総理(ロシアの首相)、

 尊敬するマシモフ総理(カザフスタンの首相)、

 尊敬するサリナフ総理(キルギスタンの首相)、

 尊敬するラスルゾダ総理(タジキスタンの首相)、

 尊敬するアチモフ第一副総理(ウズベキスタンの第一副首相)、

 尊敬するソワ・レニ副首相(タンザニアのXiao Xi Francois Lenny副首相)、

 尊敬する呉紅波副秘書長(国連の潘基文事務局長の書面を代読した副事務局長)、

 尊敬する趙厚麟秘書長(国際電信聯盟事務局長)、

 尊敬するシュワブ先生(世界経済フォーラム、ダボス会議などの創始者)

 以上、10名のトップ級参加者の名前を連ねてから、ようやく「さて、ご来賓の皆さま」に入った。こんな光景は見たことがない。列挙した名前が、「これで最高ランク」だったことは、かえって世界インターネット大会の権威のなさを浮き彫りにし、中国がいかに「世界の言論界」で孤立しているかを露呈した。

 フロアーには「シラー」とした空気が流れ、熱気が見られない。

◆各国には「ネット主権」がある――イデオロギー担当の劉雲山が司会

 それもネットビジネスに話を絞るのであれば、事態は違っただろう。中国側発表で2000人からなるという参加者は、ほとんどがビジネスマンだ。

 しかし習近平演説で最初に触れたのは「ネット主権」だった。彼は概ね、つぎのように語った:

――13億人の民を誇る中国は、6.7億人という世界最大のネット人口を擁している。国連憲章にも謳われている通り、どの国にも同等の主権原則があるが、これはネット空間においても適用される。われわれは互いに各国が自主的に推し進めるネット管理方式を尊重し、国際ネット空間における統治権を互いに認め合わなければならない。他国の内政に干渉したり、他国の国家安全に危害を与えるようなことをしてはならない。

 まるで、言論統制をしている中国に対する国際社会の批判に釘を刺すような冒頭の言葉だ。それを耳にした参加者の間には、またもや「シラー」っという音が聞こえるような「音のないさざめき」が走った。フロアーの人の眼が笑っていない。

 つぎに「われわれは法に基づいてネット空間を管理しており、現実社会同様、自由を提唱して秩序を保っている。自由は秩序の目的であり、秩序は自由の保障である」などと述べたが、そのような空々しいことを言われても、世界中の人は中国の言論弾圧を知っており、「万里防火壁(万里のファイアーウォール)」で海外からの「有害情報」を遮断しているのを知っている。

 あとは推(お)して知るべし。

 5つの原則(世界ネットインフラ建設、ネット上に文化交流プラットホーム構築、ネット経済の核心的発展、サイバーセキュリティを保障しサイバー空間の軍拡競争に反対、ネットガバナンス体系構築)などが列挙されたが、フロアーが明るく活気づくことはなかった。

 AIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(陸と海の新シルクロード)などにより世界を制覇しようとしている「紅い皇帝」の面目は丸つぶれである。

 それもそのはず。

 この大会を仕切ったのはチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)の党内序列ナンバー5の劉雲山だ。イデオロギー担当である。

 よもや、ネット空間を通して世界のイデオロギーを統治しようとまでは思ってないだろうが、少なくとも牽制しようという意図がありありだ。おそらく、次はネット社会を制する者が世界を制するという戦略から、このような世界インターネット大会なるものを創設したのだと思うが、ネットは「言論の自由」を求めるものであり、「言論弾圧」とは正反対のベクトルが支配する。その自由空間を、世界で最も言論弾圧をしている国がリードしていこうなどと考えること自体がまちがいだ。時代を分かっていない。

 チャイナ・マネーでは、世界の言論は買えないことを肝に銘じるべきだろう。

◆習近平に寄り添う馬雲

 しかし、中国国内においては事情は異なってくる。

 12月13日付の本コラム<アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係>で書いたように、アリババ集団の馬雲は、「紅い皇帝」習近平にへつらい、ペアで言論統制とネットビジネスを行なっている。民主的な傾向のある香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストを買収したことによって、香港の言論をビジネスという観点から抑圧していこうという算段である。自由にものを言うメディアは、もうアップル・デイリーくらいしか残っていない。習政権にとって馬雲は、デリケートな香港の言論空間はコントロールしてくれるし、中国のネットビジネスは飛躍的に成長させてくれるし、多少の「闇」があっても、目をつぶりたいところだろう。

 馬雲がサウスチャイナ・モーニングポストを買収したのは、この世界インターネット大会への赤絨毯であったという、「絶妙なタイミング」が、このことからも見えてくる。

 この日も、「紅い皇帝」にひざまずかんばかりの馬雲の姿がカメラに収められている。習主席の向かって右にいるのはチャイナ・セブンのイデオロギー担当であるは劉雲山。左には馬雲がかしずいている。これほど中国の今と、この大会の意味を象徴している写真はないだろう。

 馬雲が案内したのはこの日の展示場で、習主席はまずアリババの展示場に行き、馬雲の説明に聞き入った。ここに10分間も立ち止まって説明を聞いたと中国大陸のネットは書き立てている。

 それにしても、12月14日の本コラム「インド、日本の新幹線を採用――中国の反応と今後の日中バランス」で書いたように、日本がインドの新幹線を選んだことによって中国が受けた打撃は、あまりに大きい。一帯一路構想を分断されたようなものだから、習主席の表情は冴えず、「紅い皇帝」の自信も消え失せている。

 明暗を分けているのは「自由民主の国」であるか否かだ。

 インドが中国を選ばなかったのは、そこが「自由民主の国」ではないからであり、共産党政権である独裁国家、中国の軍門に降りたくはなかったからだろう。今般の世界インターネット大会サミットに集まった首脳級が中国の友好国でしかないのも、中国に言論弾圧があるからである。それは9月3日の軍事パレードのときに参加国と共通点を持っている。

 チャイナ・マネーだけでは動かない世界のメカニズムが働き始めているのを、中国はそろそろ自覚すべきではないだろうか。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

2015年12月14日

アリババが香港英字紙買収――馬雲と習近平の絶妙な関係(遠藤誉氏)

【防人の道NEXT】なぜ必要なのか?平和安全法制の真実−田村重信氏に聞く[桜H27/11/5] 僕は6分から登場します。
是非、ご覧ください。シエア、拡散お願いします!

ブログランキングに参加しています。
↓↓↓貴方の応援クリックが明日の活力になります↓↓↓

こちらをクリック

僕の本『平和安全法制の真実』(内外出版)と『運命を変える』(坂本博之、川崎タツキ、田村重信著、内外出版)が発売されました。http://www.naigai-group.co.jp/_2015/10/post-45.html


 今年6月、政府批判もしていた第一財経の株を取得したアリババが、今度はやや民主的な香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストを買収。馬雲の仲間の郭広昌は消息不明に。馬雲の目的は何か?習近平との関係は?

◆サウスチャイナ・モーニングポストの買収は何を意味するのか?

 12月11日、中国の電子商取引最大手のアリババが、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポスト(南華早報)を買収した。

 サウスチャイナ・モーニングポストはイギリス占領時代の1903年に設立された英字新聞で、創設時はまだ清王朝時代だったため、「南清早報」という中国名を号していた。1912年に「中華民国」が誕生すると「南華早報」に改名し、現在に至っている。

 中文版もあり、中英文ともウェブサイトがある。

 政治的立場としては、激しい中国政府批判はしないものの、やや民主的で、昨年の雨傘革命のときには「普通選挙」を支持する報道をしたこともある。そのため中国の国家的ネット検閲機関である「防火長城(万里のファイヤーウォール、Great Fire Wall)」により中英文ウェブサイトとも完全に遮断されて、中国大陸のネット空間では見ることができなくなった。

 解禁されたのは今年の9月になってからだ。しかしなお、「港澳台(香港、澳門、台湾)」に関する報道は大陸では封鎖されたままである。

 そのサウスチャイナ・モーニングポストをアリババが買ったのだ。

 それは何を意味するのだろうか?

 実は今年6月にも、アリババは「第一財経日報」およびその系列のウェブサイトなどに対して、30%の株を取得して発言権を獲得している。表面上は「ビッグデータ処理」など、ビジネスが目的だとしているが、実際は違う。

 第一財経のウェブサイトが発信する情報は、中国政府を客観的にではあるが、ときには堂々と批判することもあり、とても中国大陸のウェブサイトとは思えないような大胆さがあった。

 ということは、どうもアリババは「民主化的傾向のあるメディア」あるいは、ともすれば「中国政府を批判する可能性のあるメディア」を、次々と買収したり大株主になったりして、その発信内容をコントロールしようという意図があるように見える。

 特にサウスチャイナ・モーニングポストは、2013年7月に馬雲をインタビューした記事を4日連続で掲載したことがある。そのときアリババで起きた不祥事に関して責任問題を問うたとき、馬雲は「六四事件(天安門事件)のときにもトウ小平は国家最高の責任者として決断をしなければならなかった。あの決断(民主を叫ぶ若者を武力鎮圧したこと、筆者注)が正しかったように、最高責任者は毅然と決断をしなければならない」という趣旨の回答をした。この回答をサウスチャイナ・モーニングポストがウェブサイトに載せると、香港の若者たちが激しい抗議を発信し始め、またたく間に大陸のネット空間へと広がっていった。

 そのため拙著『中国人が選んだワースト中国人番付――やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』に書いたように、ネットユーザーが2013年末にネットでアンケートを収集し2014年元旦に公表した「中国人クズ番付」の1位に馬雲の名があったのである。

 その恨みもあったかもしれないが、ともかく中国政府を礼賛しないメディアの発言権をコントロールするような馬雲の動きは、どう考えても習近平と無関係とは思えない。



◆馬雲と習近平の関係

 馬雲は1964年に浙江省杭州市で生まれている。1982年に高校を卒業したが、大学受験で数学の点数が悪く(1回目の受験で1点、2回目の受験で19点)、大学受験に失敗。そこで三輪車で雑誌社の本を運ぶ仕事に就いた。その後杭州師範学院で英語と対外貿易を学び、訪米したことからインターネット・ビジネスに興味を持った。

 1999年にアリババを立ち上げるや、爆発的な成功を収め、2000年には雑誌『フォーブス』の表紙を飾るに至る。大陸にいる中国籍の中国人がフォーブスの表紙に載ったのは、中華人民共和国建国以来、初めてのできごとで、馬雲は一躍有名になった。

 2002年から2007年まで浙江省の書記をしていた習近平は、「民間企業振興」に力を注いだ。当然ながら、浙江省で成功した馬雲のアリババを重視している。2007年から上海市書記になると上海市政府の指導層を引き連れて浙江省視察に出かけ馬雲に会い、「上海市に活動の拠点を移してくれないか」と頼んだほどだ(『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』125頁参照)。

 それくらい馬雲を高く評価していた。だから、国家主席になった後の海外訪問では、馬雲を大規模な企業集家代表団の筆頭として随行させることが多い。たとえば今年7月の韓国訪問で習近平国家主席がスピーチをした時には、馬雲は代表団の第一列目に並んで「中国を代表する企業」としての存在感を見せつけている。中国の経済力によって韓国を中国側に惹きつけておきたい習近平としては、『フォーブス』の表紙を何度か飾っている馬雲は、言うならば中国経済成功のシンボルのようなものなのである。

 9月の訪米のときも、随行した企業代表団の中国ネット界三大巨頭BAT(Baidu百度, Alibabaアリババ, Tengxun騰訊)の中で、馬雲は常にトップに並んでいた。

◆危機回避が馬雲を体制寄りにさせたのか?

 では、馬雲と習近平の仲が非常に順調に行っているかというと、必ずしもそうではない。

 実は今年1月15日、習近平は中共中央紀律検査委員会第三回全体会議閉幕に当たって、「私人会所」の取締りを厳しくしろという指示を出している。「私人会所」とはどういうことかというと、党や政府の組織でなく、私人が勝手に団体を作り、富豪のクラブのようなつながりで利益を追求していく行動を指している。

 胡錦濤政権時代、中央司令塔の事務方のトップだったような令計画が「西山会」を作って暴利をむさぼり逮捕されたことは、まだ記憶に新しい(詳細は今年1月1日付けの本コラム<令計画の「西山会」――習近平が批判した「党内利権結託」の正体>)。

 このとき馬雲が浙江省杭州市に作っていた「江南会」も調査の対象になることを、馬雲は事前にキャッチしていた。この「江南会」は2006年に浙江商人8人が発起人となって作った「会所」で、入会費20万元(約400万円)。厳格な入会審査がある。この江南会も西山会同様、捜査の対象になりそうだという情報が入ってきたのだ。

 今年1月21日のダボス会議では、李克強首相に随行して、やはり李克強のスピーチの最前列に陣取っていた馬雲だったが、演台から下りた李克強は、馬雲の顔を見ず、その隣に座っていた企業家代表から握手を始め、立ち去っていった。

 3日後の1月24日、中国国家工商総局はアリババが販売するネットショップ商品の62%以上が偽商品であると発表した。あらゆるネットショップの中で、最低の評価を受けてしまう。続けざま、1月28日に国家工商総局は初めて『アリババ集団に対する行政指導状況に関する白皮書(ホワイト・リポート)』(2014年)を刊行したのである。

 窮地に追いやられ危機を感じ取った馬雲は、変わり身早く、「江南会」を「湖畔大学」に変身させ、私立の「創業者のための大学(専科)」を設立した。入学資格は3年以上創業経験があり、30人以上の規模の企業を経営していた者。今年3月からの開校で、150人が受験し、30人が合格した。学費は3年間で28万元(約500万円強)。

◆馬雲の「江南会」に「消息不明」になった郭広昌(復星集団CEO)が

 湖畔大学創設メンバーは、「江南会」創設メンバーの8人と同じだ。

 この8人の中に、12月10日から連絡が取れず「消息不明」となった復星集団のCEO郭広昌がいる。郭広昌は、今年11月に北海道上川管内占冠村にある星野リゾートトマムを買収したことで注目された人物だ。

 失踪した原因は、どうやら光明集団の元CEO王宗南と関連があるらしい。王宗南は公金横領により上海市第二中級人民法院(地方裁判所)で判決を待つ身だが、審査過程で復星集団と便宜供与などに関する不正な利害関係があったことが判明している。

 馬雲も一歩まちがえれば危なかったことになる。

 令計画が捕まり、「私人会所」が取り調べの対象となることを知った瞬間から、馬雲の機転はフル回転し始めた。

 イノベーションに国運をかける習近平政権の泣き所を突いて「湖畔大学」を設立させただけでなく、北京政府にとって頭が痛い香港の民主化運動を抑えるためのメディアを買収してしまうという戦略に出たわけだ。

 今年9月の習近平訪米のときに随行した馬雲は、経済フォーラムにおける講演の寸前に、26か所も講演原稿を修正して、「習近平国家主席を讃える文言」に変換させたと言われている。

 さすが、創業1年で『フォーブス』の表紙を飾っただけのことはある。

 消息不明になった郭広昌のような目に遭わないよう、危機を回避する身変わりの速さを心得ている。

 今年11月11日に、中国の独身者のためのネットショップフェアがあったが、大成功した馬雲に、李克強が祝電を送るという、こちらも変わり身の速さを見せている。

 馬雲はまちがいなく、危機一髪で難を逃れただけでなく、災いを「福?」に転じさせたということができよう。 

 これからは習近平政権の「新宣伝部」として目ざとく手を打っていくにちがいない。


遠藤誉 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士

ランキング一覧

人気blogランキング

人気blogランキングに参加しました。
応援よろしくお願いします。
月別アーカイブ
最新コメント